ジャルガルサイハン: セルダラム氏は14年間で120万本の苗木をモンゴル国内に植樹しました。そして何千人もの若者をこの活動にボランティアとして参加する機会をつくりました。今日はボランティア活動、環境教育について、これを実現してきた14年間の経験を伺いたいと思います。
D. セルダラム: こんにちは。番組にご招待していただき、ありがとうございます。
ジャルガルサイハン: 気候変動、地球温暖化が激しく進み、その影響でモンゴルが少し暖かい国になるのかと思ったら、夏場は異常に暑く、逆に冬場は異常に寒いという気候になってしまいました。モンゴルに限らず、世界中が同じように異常気象に見舞われています。このような状況の中、人々にとって環境教育を義務教育並みに広める必要が出てきています。あなたは数年前から環境活動を続けてきました。まず、“My Club”が今日まで何をしてきたかを簡単に紹介してください。
D. セルダラム: 今回、私があなたの番組に招かれたのはこれで2回目になります。今から5、6年前、12月5日の世界ボランティアデーに初めて番組に出演しました。それ以降、モンゴル経済フォーラムなどでお会いして話をしました。私が以前から同じことを申し上げてきましたが、時間が経つにつれ、我々の生活は環境に左右されていることが証明されています。モンゴル経済フォーラムでも申し上げましたが、あらゆる分野においてモンゴルの最適な季節は夏なのです。サマータイム制への移行に触れると、人々は健康、経済の問題を挙げていましたが、今はサマータイム制に移るしかありません。時間が経つにつれて環境が人々を同じ体制、同じスタイルに留めておくことの1つの例です。例えば、あなたと私は5年前に対面しましたが、今は気候変動、地球温暖化の影響、環境に対する人の姿勢などの原因でオンライン形式で話をせざるを得なくなっています。さらに5年後はまた違った形式で、違う環境で話をするのかもしれません。
ジャルガルサイハン: その通り、環境教育は重要ですね。続けて、今日までに何本の木をどのように植えたか、なぜ夏に若者がボランティアとして大勢参加するのか、誰が活動の中心なのかを教えてください。
D. セルダラム: 毎回この説明をするのですが、インターネットでMy Clubで検索しても分かりますが、My Clubは2006年に設立されました。多くの若者が活動に参加してくれています。Green Asia NGO、Eternal Ecotrass Movement NGOなどは植樹活動をしていますが、そういった活動で人手不足の場所へ手伝いに行く人を募るオンラインコミュニティです。私たちはモンゴル国内の16ヶ所で、ボランティアで120万本の木を植えました。4月〜10月にかけて、オンラインでMy Clubを通して繋がり、毎週土曜日に木を植えます。活動資金は自分たちで調達し、何らの報酬も受け取らず、純粋にボランティアで活動します。実際には植樹だけでなく、それにまつわる活動全般に関する活動もします。ボランティア活動というのには重要な意味があります。ボランティア活動は若い人にとって、いわゆるチャレンジです。人はボランティア活動を通して、他人を思いやる気持ち、自分の時間を有効に使える能力を身につけ、人から何ももらわずに人に与えることができるようになります。My Clubが継続してこられた理由は、私たちを応援する方々、ボランティアの方々がいらっしゃるからです。15年間、8期にわたり学生が卒業までボランティア活動に参加してくれています。私は彼らから多くのことを学びます。彼らはそれぞれできることで活動に参加してくれています。内容としては、環境に関するボランティア活動であるということです。
ジャルガルサイハン: 活動資金は自分たちで調達すると言われましたが、若者や学生、というより若者に限らず活動に興味のある人はいくら支払って、どこに行って参加するのですか、活動の参加に何時間かかるのですか、今My Clubはどこを中心に活動しているのかを教えてください。
D. セルダラム: My Clubの活動を15年間応援してきた方々が大勢います。彼らは自身の収入から寄付をします。6、7年前に卒業した学生たちが初めての給料から、また定期的に寄付を送るというものもあります。My Clubの昨年の財務諸表では、15年間の間で3億6500万トゥグルグの資金を調達していました。国際機関など合計1203の法人、個人による寄付です。高額のもので3600万トゥグルグの寄付がありました。3600万トゥグルグの寄付は、三菱商事の社会活動を応援するプロジェクトに参加し、そこで選ばれて3年間、寄付を受けました。最も高額の寄付がそれでした。ボランティアの参加者は、参加費を払いません。My Clubというフェイスブックページやグループがあります。そこをチエックすると、何人でどこへ行くかという情報を載せています。行き先はいつも行っている場所がいくつかあります。トゥブ県ツォンジンボルドグ、バヤンツォグト群、アルガラント群、ベルフ別荘地などです。しかし、コロナウイルス感染症拡大防止のため、ウランバートル市から郊外に出る時、PCR検査及びワクチン接種を受けていなければならないので、今年はウランバートル市の外に出ることができず、ウランバートル市内で活動しました。活動の計画は前から決まっています。何時にどこでどのような服装で集合するかを事前に知らせます。感染症拡大防止の対策も十分に行います。15年間のノウハウから、全て予定通りに進みます。
ジャルガルサイハン: この話を聞く人の中から一人でもボランティアが増えるようにということでお聞きしますが、ボランティアとして参加する人に何らかのお金の負担はありますか?
D. セルダラム: ボランティアにはお金の負担はありません。天候に合わせた服装をして来るだけです。
ジャルガルサイハン: 日帰りですか?
D. セルダラム: そうです。
ジャルガルサイハン: 120万本の木を植えたということですが、モンゴルでは木を育てることと種を蒔くことの違いが良くあります。その原因は種を蒔いたことを忘れることにあります。木を植えることと植えた木を育てることとの関係はどうでしょうか?
D. セルダラム: Green AsiaというNGOがあります。韓国とモンゴルの市民社会組織が協力して設立しました。両国政府が協力して、砂漠化を止めるためのプロジェクトとして「エコトラスプロジェクト」が実施されました。Green Asia NGO、Eternal Ecotrass Movement NGOによる植樹プロジェクトは、外国から来た最も良いプロジェクトです。今も活動を続けています。Green Asia NGOは10ヶ所に木を植えています。私たちはその活動維持のために、水やり、柵建て、木を植えるための穴掘りなど、多くの人手を必要とする仕事の助けをします。私たちの行き先、仕事の内容が明らかなので、今まで問題なく続いてきました。さらに、苗を植えます。今はちょうど苗の売れる時期です。松、カラマツ、ニレの木、黄色いアカシアの木などの苗を植える個人や企業があります。その活動も助けます。以前は植えた苗木の数、場所を数えてきませんでした。1年に数万本の木が私たちの植えた苗から育ちます。2006年にMy Clubを設立した当時の目標は、100万本の苗木をモンゴルで植えることでした。苗を植えることによって木の数は想像したよりも多くなっていきました。去年からはボグド山にカラマツの木の苗を植える運動を始めました。今年は5月8日〜6月12日の間に、ウランバートル市の周辺に1万3千本の木を植えました。
ジャルガルサイハン: 内モンゴルの包頭市にも植樹していますね。
D. セルダラム: そうです。
ジャルガルサイハン: 包頭市は工場の街ですが、工場が見えないほどの木々があります。昔は何もない荒野でした。モンゴルの地方でもこのように木を植えることはできないでしょうか。教育は木を植える文化を発信する基盤を成すと思います。牧草地の砂漠化の問題を解決するためには、何をすべきですか。あなたは長年この問題に取り組んできました。あなたの考えを聞かせてください。
D. セルダラム: モンゴルは木を植える日を法律で定めた48番目の国です。今はこのような国が60近くあります。中国、日本、韓国には昔から木を植える文化があります。モンゴルでは社会主義時代に初めて木を植える文化が入ってきました。私は社会主義時代を生きた人間で、その活動に加わっていました。モンゴルではあまり良くないことがいくつかあります。まず、対価がなければ何もしないという考え方です。どの仕事に対してもお金を払えばやると考えることは良くありません。中国や北朝鮮は特にここ数年間、数多くの植樹で人気を集めています。独裁主義国だからそれができているのだという見方もありますが、木を植える状況を作ることが重要です。だからといって政府が植えた木の本数によって現金を支給するというやり方も良くありません。また、1本の木を植えると今世の善、2本の木を植えると来世の善という考え方も良くありません。借りがあるからやるというような姿勢ですね。こういう古い考え方は木を植える文化が定着することを邪魔します。
ジャルガルサイハン: 他人のためというのではなく、自分のためにとする考え方ですね。
D. セルダラム: その通りです。そうすると、人はただ活動に参加しているという外見を重視します。ローマ帝国では快楽主義(hedonism)という考え方がありました。あらゆる行為の感覚的な快楽を幸福と考え、快楽を生み出す行為を正しいと判断する考えです。私は木を植える日をつくったエルベグドルジ元大統領から受賞したことがあります。その際に、私は彼に木を植える日をつくる命令を出したということで、モンゴルの歴史に残りたいという考えで、社会主義時代に強制的に木を植えていたのと同じ日にするのではなく、ボランティアで思いやりの気持ちで参加する祝福の日にすべきだということを伝えました。そのためには、対価無しに木を植えるようにすべきです。これを政府は応援しません。現在の大統領が前の大統領のやったことを否定するような社会ですから、木を植える日も無くなりました。しかし、モンゴルのような気候では木を植えざるを得なくなっています。この国の全ての環境問題は、緑が少ないことに起因するからです。一つ付け加えますが、昨年の世界経済フォーラムで、ジェフ・ベゾス氏が木を植える活動に10億ドルを寄付すると言いました。ですから、資金は国内だけでなく、外国からも調達できるわけです。大富豪は発展途上国の政府というよりも活動に寄付したいと考えます。ジェフ・ベゾス基金は国際機構、NGO、市民社会組織による植樹活動を応援する資金のプラットフォームなのです。ここから資金を調達することを政府が応援すべきです。
ジャルガルサイハン: その点に関してですが、東南アジア諸国、中国、韓国、日本、アメリカ西海岸にモンゴルから『イエローダスト』と呼ばれる黄砂が飛来したという報道がされました。モンゴルのゴビ砂漠の砂漠化による砂が遠くまで飛ばされ、モンゴルの緑化を進めるべきだということが言われています。あなたが言った通り、モンゴルを緑にするプロジェクトを実施すれば、世界的に活動しているボランティア機構、ジェフ・ベゾス基金をモンゴルに呼び込むチャンスがあると見ていますね。
D. セルダラム: そうです。私は10年前に韓国の昌原市で開かれた国連の4大サミットの一つであるCOP:国連気候変動枠組条約締約国会議に参加しました。昨年イギリスで開催される予定でしたが、COVID-19により中止されました。モンゴル政府、環境省、環境大臣は、COPをモンゴルで開催するということを目標にすべきです。砂漠化を食い止めるための植樹に関する大きな会議が4つくらいあります。政府首脳会議、NGOの会議、短期間で砂漠で効率的に木を植えるためのイノベーション会議などです。これをモンゴルで開催すべきです。ASEMなどという象徴的な会議ではなく、モンゴルに最も必要な会議を開催すべきです。
ジャルガルサイハン: あなたは以前からそのようなことを主張しています。政府は様々な会議に出席していますが、何も変化はありませんか?
D. セルダラム: 政府の会議に参加したこともありますが、ほぼ絶望しました。若い人と仕事をした方が創造的です。私は歳をとったのでエゴが無いからか分かりませんが、若い人から学ぶことが多すぎます。もっと若い人と協力して、仕事をしていきたいです。
ジャルガルサイハン: 民主主義の特徴がそれですね。上が仕事をしなければ下から要請して仕事をさせるというようなことです。今回も政府ができていない仕事を代わりに行い、何と120万本の木を植えたあなたから話を聞き、政府がこれを見習うようにして欲しいと思います。環境教育を向上し、木を植える文化を確立させるための政府機関、非政府組織の協力関係をどのようにして作れば良いのでしょうか?
D. セルダラム: それについては以前あなたと話した際にも触れましたね。それ以降、環境大臣が4人も交代しました。1人は私の教え子でした。政府が実施している『グリーンパスポート』プログラムはよりその範囲を広くし、My Clubのメンバーも登録して欲しいとお願いしましたが、実現できませんでした。その次の環境大臣、今の環境大臣にも同じことを訴えましたが、何も回答はありません。My Clubは地位が欲しいわけではありません。ただ、4月〜10月の期間、定期的にボランティア活動をする学生には何の報酬もありません。これについて親が不満を言う場合もあります。親が望んで子供を参加させる場合もあります。シャベルの使い方でも習って欲しいと考える親もいます。それを応援するための取り組みを認証されることが大切です。これは学生が発案しました。春から秋にかけて30〜40くらいのイベントを開催します。イベント開催のために6〜7時間働くとしたら、働いた時間単位で金、銀、銅の認証を取得するということです。学生にとってなぜ証明書が必要かというと、外国へ留学する時、最低50時間のボランティア活動をしていることを要求されます。私は個人でその証明書を出しますが、そうすると外国の大学がこのボランティア活動の認証化を勧めてきます。また、企業は常に良い人材を求めています。継続的にボランティア活動を続けているということはメリットとなります。この2つが学生にとっては特に重要なのです。この面で民間企業と政府機関が協力すべきなのです。
ジャルガルサイハン: NGOがこういうボランティア活動を応援する制度を作り、証明書を発行するようにしたいと考えるわけですね。韓国などではお年寄りにコンピューターの使い方を教えた場合、単位として認定しています。自分のためだけでなく、他人のために行ったことを評価するシステムをつくることを訴えているのですね。
D. セルダラム: そうです。そのような覚書を作成し、MCS、モンゴル貿易開発銀行などの企業も加入しましたが、継続しませんでした。My Clubは大きなプラットフォームなのです。このプラットフォームを政府機関、民間企業ともに使っていく事でどちらも得をするのです。
ジャルガルサイハン: モンゴル国商工会議所は最も多額の税金を納めた企業を称賛します。しかし、民間企業の使命は納税ではありません。利益を上げ、その分社会に還元し、価値をつくる事です。ですから、モンゴル国商工会議所は、企業が社会的責任としていくつのボランティア活動に貢献したかにより関心を示すべきだと言いたいです。そういった気付きを与えてくれて私はあなたにとても感謝しています。あなたのこれからの目標は何ですか?
D. セルダラム: 私は現在50歳です。ですから、My Clubをこれから続けてくれる大学の教員を探しています。なぜなら、今大学生になる子は、ジェネレーションαとなりました。世代の違いがもっと激しくなります。いくら私が若者らしい思想を持ち、若者らしい行動をしたとしても、考え方の違いは避けられません。15年間続いたMy Clubを引き継ぐ人は大学の教員である必要があります。資金調達はそこまで問題ではありません。例えば、民間企業が会社設立何周年などと言って、社会的責任の一環として植樹したいと言います。企業は土日にキャンプしながら木を植えようと考えます。だから1日で木を植えようと言ってきます。しかし、木は1日で植えても、それを育てるには1000日間の世話が必要です。ボランティアで木を植えるということは、冒頭でも述べましたがチャレンジなのです。そういう考え方が必要です。
ジャルガルサイハン: 様々なアイデアを頂き、ありがとうございます。あなたは50歳になると言いましたが、人生は50歳から始まるのではないでしょうか。(笑)
D. セルダラム: (笑)そういえば、重要なことを言い忘れていました。モンゴルではゴビ砂漠や何もない大地に木を植えようとしますが、それは非常に難しいです。多額のお金が無駄になる可能性が高いです。それより無くなりかけている森に木を植えるべきです。
ジャルガルサイハン: 今日のテーマは、話せば話し切れないテーマでした。植樹活動を実際にずっと続けてきたあなたの話は非常に貴重なものです。5年後にまた今日のテーマを巡って話をしましょう。
D. セルダラム: そうしましょう。それではここに5年後、ボグド山の周辺を森林にすることを約束します。
ジャルガルサイハン: 植林地を政治家が勝手に売ったりしないことを願うばかりですね。今日はありがとうございました。
D.セルダラム * ジャルガルサイハン