バトウルジー・バトエルデネ氏は、1999年にウランバートル大学を歴史研究、韓国語翻訳・通訳の専門で卒業しました。2010年にウランバートル大学で歴史教育の修士号を取得しました。2003年にシルクロード株式会社を創業、2007年まで同社社長、2007年にエアチケット株式会社を創業、2010年まで社長を務めました。2012年〜2015年まで社会民主主義モンゴル青年協会事務局長、2015年〜2016年まで政府専門検査機関副長、2018年〜2019年まで内閣官房副長官、2020年8月から現職(公正競争・消費者保護庁長官)を務めています。

ジャルガルサイハン: こんにちは。まずは公正競争・消費者保護庁について教えてください。いつ設立されましたか?

B. バトエルデネ: 公正競争・消費者保護庁は、不公正な競争当局という名前で2004年に設立されました。2008年には消費者保護協会と合併し、公正競争・消費者保護庁として設置されました。

ジャルガルサイハン: 消費者保護協会とは政府機関でしたか。それとも公共機関だったのですか?

B. バトエルデネ: 消費者保護協会は非政府組織NGOでした。

ジャルガルサイハン: 政府機関とNGOが合併して公正競争の維持、消費者の保護、独占禁止を監視するようになったのですね。あなたは昨年、同庁の長官として任命されました。あなたの任務において、モンゴルで最初にやらなければならないことは何ですか?

B. バトエルデネ: 公正競争・消費者保護庁は、事業者に対して競争を規制し、消費者に対してはその権利を保護するという二つの役割を同時に担う特徴があります。世界の国々では、公正競争機関が独立している場合もあれば、我が国同様、消費者保護協会と合併している場合もあります。私は2020年8月19日に長官に任命されました。それ以降、特に実現したいと心得ていることは、この機関がその使命を遂行できるようにしたいということです。なぜなら、2004年の設立当時、競争法の実施に伴い独占禁止機関として機能していました。しかし、2008年に消費者保護協会と合併したことにより、競争法及び消費者保護法という2つの法律の実施を担当することになりました。しかし、これが2021年には8つの法律となりました。選挙法、広告法、社団法人法、公共調達法、モンゴル国違反法などです。モンゴル語に関する法律まであります。コロナウイルス(COVID-19)感染症の社会的及び経済的疾患の予防、闘争および軽減についての法律、2021年1月29日の法改正により質屋まで取り締まることとなりました。しかし今後、公正競争・消費者保護庁は、その本来の使命を果たすようにしたいと考えています。

ジャルガルサイハン: 現在の職員数は何人ですか?

B. バトエルデネ: 25人の国家検査官を含む36人の公務員が勤めています。

ジャルガルサイハン: 日常生活において重要な法律の実施を担当されているのですね。2つに分けて話をしたいと思います。まずは競争法、そのうち金融界及びフィンテックの話を聞かせてください。フィンテックは新しく、世界中がその規制に苦労しています。以前は紙幣が通貨でしたが、今はスマホでデジタル通貨を使って決済されます。最近は暗号通貨(cryptocurrency)というものも誕生しました。これを規制するためのサンドボックス規制規定が承認され、モンゴル銀行は仮想資産に関する法案を作成しました。このように、消費者保護の観点からも規制の試みがなされています。しかし、それに対する苦情もありました。紙幣を無くした「非接触」決済(contactless)、キャッシュレス社会(cashless society)を構築しようとする会社が、モンゴルでは20社近く生まれ、その一部の企業が集結しフィンテック協会を立ち上げました。だが、例えばスマホアプリで1日3回まで、1 回の取引は 100 万トゥグルグ以下でなければならず、取引者は口座に 5000 万以上のトゥグルグを保有してはならないと定められています。Monpayなど登録されていない顧客は 1日 20000 トゥグルグを超える取引はできず、口座残高は 10 万トゥグルグを超えてはいけないとなっています。政府の規制は、まるで 10 車線の道路を建設 しておいて 、1 車線しか利用できないようにしているわけです。公正競争・消費者保護庁はこれをどうみていますか。苦情もあったかと思われますが?

B. バトエルデネ: ちょうど今、この問題に金融規制委員会と協同で取り組んでいます。金融規制委員会のバヤルサイハン委員長と面会しました。特にアルドコイン関連の問題、あなたが今言った1 日の取引は 100 万トゥグルグ以下、1日の取引 300 万トゥグルグ以下、口座に5000 万以上のトゥグルグを保有してはならないという制限を撤廃して欲しいという要請、自由市場への政府介入を辞めて欲しいという苦情を受け付けました。金融規制委員会は、国家機密に関する事柄についての情報公開を好まない傾向にあります。金融規制委員会の会長との面会において、必要な法整備、競争法の改正などに関する話し合いをしました。しかし、正直に申し上げて結論は出せていません。金融規制委員会によると、現行法の規定に不備があることは承知しており、対策を実施するとのことでした。なぜこの話をするかというと、金融業界、特に銀行に関する銀行法、中央銀行法の規定を利用して公正競争・消費者保護庁の役割を妨害し、情報を提供してくれないことがあります。商業銀行に情報公開を請求しても、中央銀行法の規定により商業銀行に対する監督権は中央銀行にあるという説明を受けます。これは競争法の実施を阻害しているわけです。ですから、今私たちは公正競争・消費者保護庁の法的地位、法規制の改正に重点を置いて活動しています。

ジャルガルサイハン: 例えば、中国は2012年から取り組んできましたが、今日中国のどこでもWeChat、Alipayを持っていなければお金を持っていないのと同然になっています。ホームレスでさえWeChat IDを書いて、お金を恵んでもらおうとします。もう日常生活の一部となりました。モンゴルは国際市場に参加するなどと大きなことを言いますが、現実はまだまだです。その理由は何なのでしょうか。出来ないことが原因なのか、わざとのんびり動いているのか。例えば、フィンテック協会は取引金額制限があまりにも低く、残高5000万以上のトゥグルグを払い戻そうと思っても1日3回の取引を17日間続ける必要が生じてきます。しかも中央銀行の総裁がこの規制について知らないと言います。取引制限金額を高くして欲しいというと、「それをしたいのなら、銀行を作れ」と言われます。また、政府は電子マネーと暗号通貨(無形資産)の分離を決定しました。その結果、以前は一つのアプリで操作できていたものを、今では2つのアプリを使わなくてはならなくなりました。成長を遅らせるという意図としか見えません。これらについて中央銀行と話し合いましたか?

B. バトエルデネ: あなたが今仰ったことは、私も同感です。ARDファイナンシャルグループからも問い合わせを受けたことがあります。内容はあなたが今言ったことでした。4月1日以降、ARDアプリで扱っていた機能を二つに分けて、新たにDAXというアプリを使わなければならなくなり、そこで金融取引をしたとしてもそれを現金に変換する際はまたARDアプリを使わなければならないという問題の報告を受けました。私たちもこのことに関して中央銀行と話し合いをしました。しかし、ここで一つ問題を指摘しておきたいと思います。中央銀行の総裁は国家大会議から任命されます。公正競争・消費者保護庁は、内閣調整エージェンシーであり、副首相の管轄にあります。この二つを見るとき、法的に国家大会議機関が内閣機関より上位にあるという慣習法があります。こういったことが我々の業務遂行に困難をもたらすことがあります。公正競争担当政府機関といえば、例えばロシアの連邦独占禁止庁(Federal Antimonopoly Service, FAS)は、公正競争を維持するために大統領、国会、政府機関を直接監視できます。競争法も法律の順位で上位に属しています。

ジャルガルサイハン: モンゴルでは牙を抜かれたライオンのようになっていますね。

B. バトエルデネ: 法律はあります。競争法は1992年に元首相R.アマルジャルガルがその立案に立ち合い、全ての法的関係における競争法の位置、概念を確立させています。しかし、その実施において特別法間の優先順位の問題があります。ですから中央銀行、金融規制委員会、市中銀行との関係において、国家大会議機関が内閣機関に優先するというルールが適用されているわけです。

ジャルガルサイハン: モンゴルでは、国家大会議と内閣がそれぞれ別の国であるかのように振る舞っており、それが原因で消費者に不便をかけ、ビジネスの事業運営を阻害しています。もう一つお聞きしたいことがあります。お酒やビールの生産においてAPU社(モンゴルの酒類飲料企業の最大手)とスピルトバルボラム社が合併しました。これによって、国内産業の何割となりましたか。何割となった場合に独占となるのですか。独占となった場合にどうなるのですか?

B. バトエルデネ: APU社を含む、酒類の生産に関する市場調査が現在、実施されています。企業合併は競争法により公正競争・消費者保護庁の承認を受けてからなされます。2015年末の企業合併は、当時長官を務めていた現国家大会議員アユルサイハンによって承認されませんでした。しかし、その後アユルサイハン長官の後を継いだ長官は、この合併を認めました。

ジャルガルサイハン: その時の長官は誰でしたか? 

B. バトエルデネ: ムンフトルでした。 私はまだ2020年に任命されたばかりですが、現在把握している情報ではそうなっています。アルコール市場の市場調査がちょうど今行われていますが、33.3%以上のアルコール市場を占め、販売量が33.3%以上となっている場合、競争法の規定により支配的企業と認定されます。支配的企業が競争法第7条に規定している通り、支配的地位を利用し、独占事業を行ったことが確定されたらこれを分割するプロセスが行われます。

ジャルガルサイハン: 今日のAPU社のビール市場における生産量はどれくらいですか?

B. バトエルデネ: 市場調査が途中なので数字は言えません。

ジャルガルサイハン: 消費者が懸念しているのは商品の値上げ等の非公正な競争です。 

B. バトエルデネ: 支配的地位を利用して行われる独占事業の中には商品の値上げも含まれています。

ジャルガルサイハン: 市場調査が終わった後には、より明確なことを教えて頂けますよね。

B. バトエルデネ: もちろん詳細は公表します。また、公正競争・消費者保護庁は委員会の会議を開き、その決議をもって問題を解決し、その決定をホームページで公開します。

ジャルガルサイハン: いつまで経っても解決しないままではなく、またはその長官が変わることによって全てが左右されるようなことはあってはならないと思います。次はカシミア産業です。ゴビ社とゴヨ社が合併しました。これに関してどういう問題がありましたか?

B. バトエルデネ: ゴビ社とゴヨ社が合併し、公正競争・消費者保護庁から支配的企業と認定されました。市場調査では、この2社が合併することによって市場の6割以上を占めることになり、市場が独占されることが分かりました。支配的企業を分割するプロセスは、2回以上独占事業を行ったことが認められた場合、当該企業を分割するプロセスを公正競争・消費者保護庁が行います。現在、独占事業を行ったかどうかの市場調査が行われています。特に、2021年2月からは3つの市場調査を開始しました。アルコール生産、カシミア生産、IP放送とOTT(オーバー・ザ・トップ)の問題の3つです。OTTサービスをマルチチャネル伝送サービスであるかどうかに関して通信規制委員会の結論を待っています。4月26日に通信規制委員会が会議を開き、このことを決断したら、こちらで済んでいる調査と一緒に4月29日の公正競争・消費者保護庁委員会の会議でこの問題を取り上げます。アルコール生産とカシミア生産の問題は5月、6月の会議で審査されます。

ジャルガルサイハン: OTTでは何が問題とされているのですか?

B. バトエルデネ: マルチチャネル伝送サービスであるかどうかに関する結論が必要です。

ジャルガルサイハン: ユニビジョン、サンサルなどですか?

B. バトエルデネ: OTTとはLookTv、Ddishなどです。マルチチャネル伝送サービスであるかどうかを判定することによって市場割合が異なってきます。

ジャルガルサイハン: つまり、配信サービスとテレビ局との商業関係に関する問題ですね。 

B. バトエルデネ: マルチチャネル伝送サービスであるとされた場合は、2019年12月12日に制定され、2020年7月に施工された放送法の対象とされます。

ジャルガルサイハン: コンテンツを配信する際、それを作ったテレビ局、ケーブルテレビに料金を支払うとされているのではありませんか? 

B. バトエルデネ: 放送法とその関連規制では、収入の15%までを支払うということが定められています。放送法では15%までをモンゴルテレビ協会に支払うということが決められています。ただし、16のテレビ放送局に関しては、OTTサービスはマルチチャネル伝送サービスであるかどうかは通信規制委員会に判定してもらうように申請しています。

ジャルガルサイハン: 消費者が独占と見ているもう一つの分野があります。飛行機の燃料です。唯一つの企業が飛行機燃料を提供しています。これをどう見ていますか?

B. バトエルデネ: 飛行機の燃料に関する調査を2020年9月にMIAT社を対象に行いました。その結果、燃料に関する資料は提供されませんでした。理由は国家機密法に関する事項についての資料は開示できないというものです。私たちは国家機密法第22条、第23条の定めに従い、機密へのアクセスを許可するよう諜報機関に申請しました。飛行機のチケット価格に一番影響を及ぼしているのが燃料であることをMIAT社が公表しました。しかし、未だに燃料に関する資料の提供を受けていません。

ジャルガルサイハン: 副首相は何をしているのですか。同じ政府機関から情報提供を受けずにいては、あなたたちの存在意義は一体どこにあるのですか?

B. バトエルデネ: 副首相には調査資料等の情報を送りました。政府機関同士で情報提供を受けられない事情はこれに限らず、他の分野にもあります。例えば、付加価値税奨励制度を廃止することに関する問題を取り上げたこともあります。

ジャルガルサイハン: 公正競争を保護できていない例がそれではないですか。国家機密という盾を使って、独占状態を維持し、情報提供もされない。国家機密は2000年の始めには4、5種類だったのが2015年〜2016年には500種類を超えました。国家機密という名の元で、政府関係者が公正な競争を妨げ、消費者の権利を侵害することをいつ止めるのですか。長官であるあなたが声を上げないでどうするのですか?

B. バトエルデネ: 私たちはこの問題を封じるのではなく、問題視して取り組んでいます。昨年9月には調査をし、監視を行い、それを公表しました。調査結果を副首相に提出しました。国家機密法の第22条、第23条に基づき他の政府機関から情報を提供してもらうために務めています。だがあなたの言っていることはごもっともです。

ジャルガルサイハン: 飛行機の燃料を取り上げた理由は、新空港では4つの燃料タンクがあります。4つともロシアの燃料を使うように作られています。他に選択肢が無く、ロシアの燃料を強いられることになると建設時から言われてきました。新空港では独占的にロシアの燃料が提供され、欧州の燃料は使えないとの苦情もありました。それはご存知ですか?

B. バトエルデネ: 知っています。新ウランバートル国際空港会社の問題に関して、当該企業が支配的企業であると認定し、今は裁判で審議中です。そこに燃料タンクの問題も含まれています。

ジャルガルサイハン: モンゴルの裁判所で審議されても、いつ解決されるか不明ですね。新空港の建設に10年をかけました。さらにこの問題を解決するのに10年かかり、結果的に高い燃料が原因で外国の飛行機が飛ばず、乗客が黙って独占企業に高いチケット代を払う羽目になります。事前の打ち合わせも無く質問をしていますが、回答いただきありがとうございます。モンゴル人は生活を良くしようとして市場経済を選びました。市場経済は自由競争によって価格が設定される場合が一番有益です。政府が価格を設定すればするほど、貧しい人がどんどん貧しくなり、独占企業が更に利益を積み上げます。これを変えない限り、選挙毎に時間をロスすることになります。あなたはその面で声を上げていることは分かっています。1年後にまた話をしましょう。同じ問題についてです。そこであなたの業績を見てみたいと思います。どうでしょうか?

B. バトエルデネ: 一つ言っておきたいことがあります。私たちは計画経済から市場経済へ移行したと言われています。しかし、今日までモンゴル経済はその二つの混合制度に基づいてきました。これは政府による価格設定からも分かりますし、2012年には価格安定のためのプログラムが実施されたこともあります。経済が悪化しており、価格安定プログラムを通してメーカーとサプライヤーに対して一定の価格差を支払っていたため、あまり問題視されませんでした。しかし、今はそういうものがないため特に問題となっています。価格インフレや企業同士が談合で価格を設定していることに関して、内閣、国家非常事態特別委員会から公正競争・消費者保護庁に対して命令や指導があります。公正競争・消費者保護庁はそういった命令及び指導に限らず、国連競争・消費者庁やOECDとも価格インフレの問題にどう対処すべきか協力して取り組んでいます。

ジャルガルサイハン: 一つ残っている問題がありました。ボグド山周辺の土地を環境省関連の少数の人が取得し、販売したりもしました。ボグド山は危機状態に置かれています。これに関してあなた方は何をしていますか? 

B. バトエルデネ: 何もしません。 私たちにボグド山に関する苦情は来ていませんし、管轄外の問題となります。

B. バトエルデネ * ジャルガルサイハン