バヤルマグナイ・ダシドンドグ氏は、通信教育センターをテレビ修理専攻で卒業しました。彼は国境警備隊の「ヒルチン」バンドで歌手、モンゴル国営放送(MNB)でサウンド&ビデオディレクターを務めました。その後、ダシドンドグ氏はモンゴル初のレコーディングスタジオである「ソノル」を立ち上げ、「フフテンゲル」、「ハルチョノ」などのバンドの500以上のアルバムを制作しました。さらに、「ダシカ」スタジオを作り、生徒を育成し、バンドThe Huを結成し、そのプロデューサーを務めています。

ジャルガルサイハン: こんにちは。あなたは、モンゴルのロックバンド“The HU”(ザ・フー)を世界的に有名なバンドに仕立て上げました。今日はバンドの今の状況、これからの予定についてお話しできたらと思い、番組に招待しました。お越し頂きありがとうございます。

B.ダシドンドグ: 番組に招待して頂き、ありがとうございます。

 

ジャルガルサイハン: まずはThe HUがいつ、どのように結成されたのかを教えてください。

B.ダシドンドグ: 私のスタジオ、「ナチュルサウンド」スタジオと「ダシカ」スタジオを立ち上げてからは、バンドでそれなりの数のレコーディングをしました。The HUを結成する前の9年間は、スタジオの活動は停止に近い状態でした。

ジャルガルサイハン: それはいつごろですか?

B.ダシドンドグ: ほぼ11年前です。当時、仕事があまり無かったので色々と試行錯誤していました。その中でも、ずっと前から父に一つ良い曲を送りたいという考えがありました。父はホブド県のチャンドマニ郡出身です。父の故郷に行って、ジャルガラント山、アルタイ山脈を眺めていた際に一つ思いつきました。ホーミー(喉歌)の産地に生まれたのに、なぜそれを組み込んだ音楽を作らないのかと。それが始まりでした。父に曲を送りたかったのがきっかけで、ホーミー(喉歌)に合わせたギターの楽曲を作り、それを弾く方法論も研究し、開発しました。ホーミーを組み合わせた演奏法を確立した後、徐々に曲を増やしていきました。こういった楽曲について様々なことを考えさせられ、仲間同士で民族音楽の歴史について議論をしたりしました。そこで多くの刺激を受け、それを曲にする作業に進みました。これが8〜9年間続いたわけです。The HUがデビューしてから2年弱が経ちます。まず、2、3曲が出来上がっていました。その曲を弾いて歌う人を見つけなくてはなりませんでした。最初に、モリンホール(馬頭琴)を弾くガルバドラフを見つけ、1曲をレコーディングしてみました。それがとても良い出来でした。そして他のバンドメンバーも集めるべきだと思いました。人数は4人が適切だと思いました。モリンホールのエンクシュ、口琴、ツォールのジャヤが加わりました。それから、トプショールを弾く人はギターを上手に弾ける人でないとなりませんでした。以前からの作曲をテムカと一緒にしていたので、テムカにトプショールをお願いし、バンドを結成し、作曲が始まりました。ライブが近づくとバックバンドが必要になりました。ドラムはオドコで、ベースはバトフーでしたが今はダワーに変わっています。ギターのジャンバルドルジにパーカッションのオノがいます。全員で8人です。8人のバンドは、給料を始め経費が高くなります。しかし、音楽の幅、範囲を考えると8人でないといけませんでした。こうして正式にバンドが結成されました。

ジャルガルサイハン: 最初の曲を公開した時の反響はどんなものでしたか?

B.ダシドンドグ: 最初の曲はフェイスブックで公開しました。Yuve Yuve Yuのミュージックビデオはモンゴル西部の県で撮影しました。バンドメンバーそれぞれが熱い砂漠、針葉樹林、氷河、河川の4つの異なる場所で演奏するように作ったのです。動画は、火、水、風、雷の4つの力をそれぞれ表します。

ジャルガルサイハン: これらは全てあなた一人でこなしたことですか?

B.ダシドンドグ: 全て自分で考えやりました。動画撮影では、ホヤガーという専門家がいます。私は彼と相談しながらやっていきました。

ジャルガルサイハン: モンゴル西部の県でミュージックビデオを撮影するには、どれくらいの時間がかかりましたか?

B.ダシドンドグ: 15〜16日間かかりました。それから撮影した映像を編集してフェイスブックで公開しましたが、あまり人々の注目を集めませんでした。ですから次にユーチューブで新しくチャンネルを作って公開すべきだと思いました。新しくユーチューブチャンネルを作った時には、Wolf Totemという曲の動画も完成していました。そこでユーチューブチャンネルを作り、この2曲を公開しました。

ジャルガルサイハン: Yuve Yuve YuとWolf Totemですね。

B.ダシドンドグ: そうです。この2曲をヨーロッパ諸国など海外の視聴者が聞いて、視聴者たちが自らのチャンネルやネットワークでシェアし始めました。彼らの意思で広げてくれました。

ジャルガルサイハン: 現在、フェイスブックにはどれくらいのフォロワーがいますか?

B.ダシドンドグ: フェイスブックで4〜5万人、ユーチューブでは100万人以上となっています。

ジャルガルサイハン: モンゴル伝統の音楽を取り込み、「ロックとはこれを言う」など、何千人ものポジティブなコメントがありました。これを世界的なスタイルの一つにするための組織や人々とどのようにしてコネクションを広げていきましたか?

B.ダシドンドグ: ユーチューブで動画を配信してから、それを見て私たちと協力したいと提案したプロダクションが数多くありました。とても多かったので、その中から選ばないといけませんでした。私たちは最高のプロダクションを選ぶ知識が十分ではありませんでした。そこで、アメリカ在住のトガー氏が協力してくれました。彼は今、The HUのマネージャーとして活躍しています。これに続き、The HUのアメリカ側のマネージャーとなったロックバンドのプロデューサーであるブレンドン・フライゼン氏が加わりました。彼と共同でThe HU Music Inc.をアメリカで立ち上げ、レーベルと連絡を取り始めました。

ジャルガルサイハン: レーベルとは何ですか?

B.ダシドンドグ: レーベルとは、新しく誕生した見込みのあるロックバンドを選び、世界的スターに育て上げ、コンサートの開催、CDの販売など全てのイベントをプロモートする企業のことです。

ジャルガルサイハン: 専門のプロデューサーなのですね。ロックだったらロックバンドレーベルの会社があるのですね。

B.ダシドンドグ: そうですね。ロックバンドレーベルだったらロックバンド専門です。R&B専門のレーベルなど、ジャンルごとに色々あります。

ジャルガルサイハン: このレーベルとブレンドン・フライゼン氏とはどういう関係があるのですか?

B.ダシドンドグ: ブレンドン・フライゼン氏は、The HUがどのレーベルと契約することが良いのかが分かる人物です。

ジャルガルサイハン: その分野のプロなのですね。

B.ダシドンドグ: アメリカで著名なプロデューサーです。彼にはその分野に広い人脈、ネットワークがあります。どのレーベルと協力することが良いのか、どのように協力した方が良いのかがわかる人物です。ですから、どのレーベルを選ぶかということに関しては、主に彼が活躍してくれました。

ジャルガルサイハン: その活動は何年から始まったのですか?

B.ダシドンドグ: 2年前からです。

ジャルガルサイハン: 2019年ですね。

B.ダシドンドグ: そうです。彼は現在、私たちが協力しているBetter Noise Musicというレーベルを見つけてきてくれました。ブレンドンは、そのレーベルが私たちのことをまだ知らなかったにもかかわらず、彼自身がレーベルにバンドを紹介し、契約を取ってきてくれました。

ジャルガルサイハン: 何年、何月にアメリカに行きましたか?

B.ダシドンドグ: 最初は私たちが行くのではなく、代理人が全ての手続きをしてくれました。The HU Music Inc.には、顧問契約している弁護士、税理士がおり、アメリカの法律に従って事業を行なっています。ですから、彼らが代理で全ての契約を締結し、準備をしてくれました。

ジャルガルサイハン: 海外での演奏にはいつ行きましたか?

B.ダシドンドグ: 2018年の3、4月頃です。最初はヨーロッパに行きました。23回のコンサートを開きました。ドイツ、イギリス、フランス、ポーランド、チェコ、 スウェーデンなど、21〜22カ国を訪れました。2019年の7月にはアメリカツアーが始まりました。アメリカツアーでは64〜65回のコンサートがありました。チケットは私たちが行く1ヶ月前に売り切れていました。カナダでも2、3回のコンサートを行いました。チケットもソールドアウトでした。

ジャルガルサイハン: 毎日コンサートがありましたか?

B.ダシドンドグ: ほぼ毎日です。

ジャルガルサイハン: 飛行機で移動しながらコンサートを行うのですか?

B.ダシドンドグ: ヨーロッパツアー、アメリカツアーでは、ほぼバスでの移動でした。飛行機は2、3回のみでした。

ジャルガルサイハン: 演奏用の機材はバスで運ぶのですか?

B.ダシドンドグ: 機材はコンサートを開催する場所にほぼ全て揃っています。バンド専属のステージマネージャー、ツアーマネージャーなど全員で移動します。

ジャルガルサイハン: 1回のコンサートでは何時間くらい演奏するのですか?

B.ダシドンドグ: 1時間半くらいです。2018年はサポートバンド無しでThe HUだけで演奏をしていました。2019年からはサポートバンドが付くようになりました。

ジャルガルサイハン: サポートバンドとは何ですか?

B.ダシドンドグ: The HUが演奏する前に、他のバンドによる45分間のパーフォマンスがあります。人気上昇中のまだ無名なアメリカ、ヨーロッパの若いバンドです。2019年のツアーでは2、3のサポートバンドを交代で付けました。

ジャルガルサイハン: ツアーで同行するわけですね。

B.ダシドンドグ: そうです。若いバンド側がサポートバンドとして同行したいという提案を出してきます。そこで、レーベルが検討して決めます。

ジャルガルサイハン: 一番広いスタジアムはどこでしたか?

B.ダシドンドグ: ドイツで開催されたロック・アム・リング、ロック・イム・パルクという音楽フェスティバルに出演しました。2ヶ所の舞台で、10万人以上の観客が集まります。

ジャルガルサイハン: そこでモンゴルのバンドが演奏した時の感想はどうですか?

B.ダシドンドグ: ヨーロッパ諸国では、コンサートを楽しむ観客文化が成熟しており、舞台で自由に演奏をしたくなる気持ちにさせてくれます。ロック・アム・リングは、私たちにとって初めての大舞台でした。10万人以上の観客の前で演奏しました。午前11時に演奏することになりました。なぜなら、フェスティバルは新しく出て来た若いバンドを最初の方に出演させます。有名なバンドは夜の時間に演奏します。そういう決まりです。The HUは一番若いバンドだったので、11時に演奏しました。しかし、早い時間だったにも関わらず5、6万人の観客が集まっていました。フェスティバルを開催していた人たちが言うには、ここ10年間、朝の11時にこれほどの人数を集めたことはなかった、10年ぶりの大人数だということでした。

ジャルガルサイハン: あなたは先ほどモンゴルの自然である火、水、風、雷の4つについて話しました。ロックは人々の心の中に火が付いてこそ演奏できますよね。それが外国での演奏ではどうでしたか?

B.ダシドンドグ: 外国で演奏すると、ステージでの設備、機材がモンゴルのそれとは全く桁違いのレベルの高いものです。演奏中のバンドをモニターで見ることができるのですが、それもレコーディングされたもののようにきれいに聞こえます。The HUのトーンマスターは6000ものコンサートでトーンの調整をしてきた人だったので、とてもきれいに聞こえました。

ジャルガルサイハン: ツアーの中では夜の演奏もありましたか?

B.ダシドンドグ: ありました。殆どが500人〜1000人収容のホールでした。フェスティバルはスタジアムで開催されます。例えば、アメリカでは3万人〜4万人収容のスタジアムで開催されました。

ジャルガルサイハン: アメリカで一番観客が多く、印象に残ったステージはどこでしたか?

B.ダシドンドグ: 私が見た中では、シカゴで開催されたフェスティバルがとても良かったです。

ジャルガルサイハン: 観客数は何人でしたか?

B.ダシドンドグ: 3〜4万人でした。

ジャルガルサイハン: スタジアムですか?

B.ダシドンドグ: 公園のような感じの場所でした。

ジャルガルサイハン: あなたは、「自分がいた中では」と言いましたが、あなたのいないコンサートもあるのですか?

B.ダシドンドグ: 私は常にツアーに同行するわけではありません。次のアルバムの作曲や計画など、ツアー以外の仕事が多くあります。ですから、時々バンドに同行する場合があります。

ジャルガルサイハン: バスでの移動にいつも付いていくわけではないのですね。大変だと思いますが。

B.ダシドンドグ: そうです。大変です。移動のバスの中で睡眠を取ります。The HUのメンバーは若いから我慢できていると思いますが、私には一週間が限界でした。

ジャルガルサイハン: モンゴルの伝統音楽、独自のスタイル、エネルギーが合わさってロックの新境地が開かれました。これからの予定はどうですか。毎年、一つの楽曲を作っていくのですか?

B.ダシドンドグ: レーベルとの契約期間は5年間です。5年間、毎年一つのアルバムを制作するという約束となっています。

ジャルガルサイハン: ファーストアルバムはリリースされました。

B.ダシドンドグ: そうです。ちょうど今、セカンド・アルバムを制作中です。

ジャルガルサイハン: 一つのアルバムには何曲含めないといけないのですか?

B.ダシドンドグ: 基本的に11曲で、ボーナストラックを含めて13、14曲です。

ジャルガルサイハン: ということは、1ヶ月に1曲のペースで作らないといけないということですね。

B.ダシドンドグ: そういうことになります。しかしながら、今まで温めてきて、作り始めていた楽曲もあるので、それを改善していっています。

ジャルガルサイハン: 「ソノル」スタジオを作った時からのものがあるでしょうね。

B.ダシドンドグ: もちろんです。長年務めてきた経験があるので、この経験がバンド結成にも多く役立ちます。

ジャルガルサイハン: 具体的な計画もあり、作業していかなければならないのですね。契約に違反してはダメですからね。契約では、コンサートからの収入等から、あなたたちに与えられるのはどれくらいですか。契約の秘密もあると思いますが。

B.ダシドンドグ: 先ほど言った通り、500人〜1000人収容のホールでコンサートを開催しますが、ツアーマネージャー、移動の経費、ホテルの経費、交通費、人件費などの費用がかかります。ただ、これからは1万人〜6万人収容のスタジアムで演奏するように頑張っていきたいと思っています。大きなスタジアムで演奏できるようになって、初めてお金を稼ぐことができるようになります。

ジャルガルサイハン: ロックにモンゴルの伝統的な楽器を取り入れました。モンゴルのアートはどうしたらあなたたちのように世界中の注目を集められますか。何が観客の心を引くのかについて調査して分かったことなどありますか?

B.ダシドンドグ: まずは、世界のスタイル、趣味が何かということを考えるべきだと思います。ロック、ポップス、R&Bを聞きます。そして私たちに何があるかを考えます。すでにある彼らのスタイルをコピーすることではありません。私たちには伝統文化があります。これは他のどこにもないオリジナルなものです。ですから、これらをうまく融合する形を考えるべきです。伝統文化をどのようにして近代のスタイルに合わせるかを考えるべきです。

ジャルガルサイハン: 伝統文化を情報通信の海に正しく発信することができたら良いのですね。

B.ダシドンドグ: そうです。衣装と化粧を正しく施して舞台に上がらせることも大事です。

ジャルガルサイハン: あなたとThe HUと関係者の皆様にお礼を申し上げます。ありがとうございました。

B.ダシドンドグ * ジャルガルサイハン