ヨハン・キャスパー・ファーマン氏は、ビーレフェルト大学政治学部を卒業し、ロンドン・スクール・オブ・エコノミクス・アンド・ポリティカル・サイエンス(LSE)で国際関係の修士号を取得しました。英語、フランス語、ロシア語、ドイツ語を話します。コンラート・アデナウアー財団(KAS)のヨーロッパ、北アメリカチームメンバー、KASのモスクワ局研究員、ドイツ連邦議会、外務省国務長官ワーキンググループのリーダー、ドイツキリスト教民主同盟の経済評議会議長を歴任しました。2018年からコンラート・アデナウアー財団モンゴル事務所代表を務めています。

ジャルガルサイハン: こんにちは。あなたは現在帰国しており、ベルリンにいながらコンラート・アデナウアー財団(KAS)モンゴル事務所代表の職務を続けていると聞きました。私たちはこの3年間協力してきましたが、視聴者に対してKASの歴史、モンゴルとの協力関係、世界中での活躍を紹介してください。

ヨハン・キャスパー・ファーマン: こんにちは。コンラート・アデナウアー財団は、モンゴルでの活動を開始してから30年近くが経ちます。モンゴルで事務所を置く国際組織の中でも最も古い組織の一つです。私たちは民主主義へ移行したばかりのモンゴル政府の招待を受けて、ドイツの政党制度を基にモンゴルでの民主主義の確立を支援するためにやってきました。この30年間、私たちは政党との協力を促進してきました。また、政治に限らず他の分野でもプロジェクトを実施してきました。特に質の高いジャーナリズムを維持することに積極的に取り組んでいます。さらに、若い女性のリーダーシップを広げるプログラムを多数実施しました。モンゴルでの民主主義発展のために様々なNGOやメディアと協力してきました。

KASは世界中に120ほどの事務所を置いています。その理由は、ドイツはヨーロッパ諸国の中でも強力な国ですが、人口は8600万人しかいません。ドイツがこれからも重要な役割を果たし続けるためには、世界中に仲間が必要です。ですから、ドイツにとってはモンゴルに安定した民主主義が確立されることが重要です。そのため私たちはその手助けをしてきました。もちろん、ドイツの制度が世界一だとは言いませんが、できる限り支援したいと考えています。私たちの最初の民主主義の試みであったワイマール共和国が失敗し、ナチズムの暗い時代を迎えました。ですから、ドイツの制度が一番優れているから真似すべきだとは全く思わず、民主主義の実現には失敗もあり、それがどれほど痛ましい現象を起こすことになるかを経験から伝えていきたいと考えています。

ジャルガルサイハン: KASが実施する各プログラムについては後ほど詳しく触れたいと思いますが、まずは財団の資金調達について聞かせてください。与党の一政党が運営するものですか?

ヨハン・キャスパー・ファーマン: KASはドイツが経済協力関係の一環として特にラテンアメリカへの融資をきっかけに始めました。国際協力の一環として、ドイツはラテンアメリカでインフラ整備や道路建設などに融資をしてきました。しかし、それらの国が軍事政権の国となり、融資が非民主主義のリーダー達に贈られることになってしまいました。ですから、ドイツ国際協力公社(GIZ)は、インフラ整備だけでなく民主主義に基づいた政治的安定性も必要であることが分かり、最初のプログラムが行われました。そのような理由もあって、KASの資金はドイツ連邦経済協力開発省から調達されることになりました。あなたが言った通り、KASはアンゲラ・メルケルが党首を務める与党ドイツキリスト教民主同盟(CDU)に近い組織です。しかし、KASはCDUの一部ではありません。独立しています。ドイツの特徴かもしれません。KASはドイツに15ヶ所の事務所を置いており、国民の政治教育向上にも努めています。ですから、KASを政府から独立させておく必要があります。私たちは正式に非政府組織であり、ドイツキリスト教民主同盟の一部ではありません。

ジャルガルサイハン: 同じ価値観を共有する国に対して、その国の政治安定性を援助し、政治的及び経済的協力を促進するというドイツ政府の方針であると考えても良いですか。資金は国家予算から調達されますか?

ヨハン・キャスパー・ファーマン: 国家予算からです。ドイツ連邦経済協力開発省から調達されます。しかし、その金額はCDUの選挙結果とも関連しています。

ジャルガルサイハン: その他の政党はKASと似たような財団を有していますか。その資金調達はどうなっていますか?

ヨハン・キャスパー・ファーマン: モンゴルではKAS以外に二つの財団が活動しています。フリードリヒ・エーベルト財団とハンスザイデル財団の二つです。発展途上国で活動している財団は基本的に同じ目的を持っています。協力パートナーが異なるだけです。例えば、KASの主要なパートナーは民主党でした。フリードリヒ・エーベルト財団のパートナーは人民党、特に若者でした。ハンスザイデル財団は専ら法整備に関する活動をしています。

ジャルガルサイハン: モンゴルで活動している財団をその活動開始から見てきた者として、これらの財団がモンゴルでの政治文化、政治教育の充実にとても重要な役割を果たしてきたと思います。特にKASは、元々複数の政党の連立だった民主党の成長に貢献してきました。ですが、まだまだ未熟であることは見ての通りです。しかし、これも民主主義のプロセスなのかもしれません。民主党は大統領選挙を前にして困難な状況を迎えています。続けて、あなたがモンゴルで行った業績についてお聞きしたいと思います。今後は北京の事務所で代表をされると聞きました。あなたはモンゴルでメデイア関連の大学院プログラムを実施しました。なぜこのプログラムを実施したのか、今はどういう状況にあり、これから何を期待しているかを教えてください。

ヨハン・キャスパー・ファーマン: 私たちはモンゴル国立大学と協力し、政治学とジャーナリズムを合わせた大学院プログラムを作りました。あなたはモンゴルで政治を最も良く見るジャーナリストの一人です。しかし、あなたのように政治を理解し、知識を得ながらジャーナリストを務めることはそう簡単なものではありません。例えば、ドイツでは政治学は必須科目の一つです。しかし、モンゴルではそうではありません。これがジャーナリストを専攻する学生が今ひとつ成長できない要因の一つです。なぜなら、そのジャーナリストこそが政府を監視しなければならないからです。政権与党に対する抵抗勢力である民主党が党内で問題を抱えるようになっており、その役割は主にメディアが果たさなければならなくなりました。しかし、それをするためにはメディアが政治学の知識を取得していなければなりません。ですから、モンゴル国立大学政治学研究科教授のトルトグトフ氏、ジャーナリズム学科長のナランバータル氏と話し合い、この二つを合わせたプログラムを作りました。院生は政治学とジャーナリズムを同時に勉強します。このプログラムは2019年に始まり、昨年、初の修了者を輩出できました。今は5人の学生が学んでいます。

ジャルガルサイハン: 何人修了しましたか?

ヨハン・キャスパー・ファーマン: 4人です。

ジャルガルサイハン: モンゴルで独立した、質の高いジャーナリズムを成長させることが大切です。しかし、現在のモンゴルのジャーナリズムは、いくつかの危機に直面しています。その一つが賄賂です。このような状況の中で、この大学院プログラムの特徴は何でしょうか?

ヨハン・キャスパー・ファーマン: 先ほど申し上げた通り、若いジャーナリストが政府をどのように監視すべきかを知る必要があります。例えば、中小企業開発基金に関する問題では、ジャーナリストの声が非常に役に立ちました。しかし、このような例をモンゴルで定着させることはなかなか難しいです。なぜなら、マスコミやテレビ局のオーナーが誰なのか不明な場合があります。モンゴルのジャーナリズム業界の裏に政治家がいるのではないかという疑いもあります。この大学院プログラムでは解決できない一つの問題が、人材としてのジャーナリストの供給です。ドイツにも同じ問題があります。私の両親はジャーナリストでした。人々は新聞や雑誌を買うのにお金を払いましたが、今は新聞を購読する人は少なくなりました。私たちの大学院プログラムは無料で提供されています。KASが奨学金を提供することによって、優秀な学生にこの教育を受けさせたいからです。第1期修了者の多くは報道機関に務めていますが、これからモンゴルやドイツで特にSNS上で無料とされているジャーナリズムの中で、どのようにして質の高いジャーナリズムのための資金を調達するかは大きな課題となっています。

ジャルガルサイハン: モンゴルのジャーナリズムが直面している問題を的確に指摘して頂きました。供給が低いのに加え、労働時間が長いというのも一つの問題です。ジャーナリストはメディアのオーナーに対して都合の良いことを書くように圧力を受けたり、強制されたりします。また、2年くらい前に国境なき記者団が出した調査結果によると、モンゴルにある500くらいのマスコミのうち、75%が元政治家や現役の政治家がオーナーとなっています。大統領経験者2、3人は、それぞれ自身の報道機関を持っていました。このような状況で健全な競争は期待できません。良いジャーナリストを育成する以外に、ドイツの経験から、この問題を解決するために私たちに出来ることは何でしょうか?

ヨハン・キャスパー・ファーマン: ドイツには国有通信社があります。しかし、これは通信社が国の権力の下にあるという意味ではありません。政府だけでなく、国民の代表、NGOなどを入れた取締役会を設置することによって、質の高いジャーナリズムが全ての人々に届けられることを確保しています。政党や政治家、市民社会の代表も関係しています。独立していますが、資金は国家予算から調達されます。ドイツ国民一人一人が毎月一定の金額を払います。広告だけが収入源である場合、人の興味を引く為に、作られたスキャンダルやゴシップだらけになる可能性があります。そうではない、偏見を持たない、規制されたテレビ局を作りました。このようにドイツでは政治の影響を受けない独立した情報を受けることができます。ただそのためには毎月料金を払わなければなりません。このやり方は成功していると思われます。例えば、アメリカでは大手テレビ局はある政党と親しい関係にあります。常に視聴者数に拘っているからです。ドイツでは視聴者数の心配をする必要はありません。資金源が確保されているし、安定しています。お金の心配をせずに良いディベート、良いドキュメンタリーを制作することに集中できます。これは、視聴者が民放を頼るほかないような状況にはならず、バランスが取れています。ドイツの成功例といえばこれだと思います。

ジャルガルサイハン: 他の国と比べて、ドイツは少数ですが巨大なドイチェ・ヴェレなどの放送局を有しているように思われます。ドイチェ・ヴェレとイギリスのBBCはどう違うのでしょうか?

ヨハン・キャスパー・ファーマン: ドイチェ・ヴェレは国際的に活躍する放送事業体です。KASの協力相手でもあります。ドイチェ・ヴェレの一部のプログラムの資金は、KASと同じようにドイツ連邦経済協力開発省から調達されます。モンゴルではジャーナリストの育成に力を入れているドイチェ・ヴェレ・アカデミーが活動しています。残念なことに、ドイツ国際協力公社GIZは、モンゴルでの活動を停止しました。ということは、ドイチェ・ヴェレ・アカデミーも今後数年で活動を停止することになるでしょう。その理由は、ドイツはこれからの経済協力関係を40ヵ国に絞ることにしたからです。しかし、KASを始めとするドイツの財団はこれからもモンゴルでの活動を続けるため、ドイチェ・ヴェレ・アカデミーが実施してきたプログラムの一部を、KASが引き継いで実施していきたいと考えています。

ジャルガルサイハン: ドイチェ・ヴェレは誰が所有していますか。モンゴル国営公共放送(MNB)と比べるためにお聞きしています。

ヨハン・キャスパー・ファーマン: ドイチェ・ヴェレを誰が所有しているかは良く分かりません。ただ、ドイツ外での活動、ドイチェ・ヴェレ・アカデミーのモンゴルにおける活動は、ドイツ連邦経済協力開発省が資金を提供していることだけは確かです。

ジャルガルサイハン: 制度や組織に関する質問をします。あなたはとても興味深い仕事を担当されてきました。例えば、あなたはドイツ連邦議会、外務省国務長官ワーキンググループリーダーを務めてきました。この機関はどう運営していましたか?

ヨハン・キャスパー・ファーマン: ドイツはモンゴルと同じように、国会議員が内閣の大臣や副大臣を兼務することができます。国会議員ではないが大臣を務めることもできますし、国会議員でありながら大臣を務めることも可能です。私の元上司は外務大臣兼ドイツ連邦議会議員でした。彼女は非常に多忙でしたが興味深い日々を送っていました。二つの異なる任務を同時に履行していました。ドイツは中国に次いで多くの国会議員を有します。800人以上の国会議員がいます。国会議員の数が多すぎるという批判もあります。

ジャルガルサイハン: しかし、800人のうち15人が大臣を務めるのと、76人のうち18人が大臣を務めるのとでは違うと思います。立法府と行政府の独立、抑制と均衡とも関連します。そこで、国会議員が内閣メンバーとなれる人数を4人までと制限しました。あなたは2004年にサンクトペテルブルクのカリタス学園で勤務することによって兵役を完了しています。あなたは若いうちにこれを含む多くの勤務経験を積んできています。あなたはどのように兵役を完了しましたか。ドイツでは兵役は法律で課された義務となっていますか?

ヨハン・キャスパー・ファーマン: ドイツでは8年〜9年前まで兵役は義務でした。私の時代は、実際に軍隊に行くか、50%以上の人はNGOや老人ホームでの勤務をもって兵役を完了していました。このような社会奉仕を外国でも完了できると聞きました。

ジャルガルサイハン: 無給ですか?

ヨハン・キャスパー・ファーマン: いいえ。ドイツでは兵役及び社会奉仕をする人には給料が支払われます。高くはありませんが、毎日の暮らしには十分です。今は徴兵制度及び社会奉仕活動を廃止しました。職業軍人と志願兵による部隊に再編されました。

ジャルガルサイハン: 最後の質問です。あなたは身長が非常に高いです。おそらくモンゴルにいる外国人の中でも最も背が高いと思います。今までやってきたスポーツを今もやっていますか?

ヨハン・キャスパー・ファーマン: 私たちは同じフィットネスクラブに通っていましたからご存知だと思いますが、コロナ感染症の拡大を受けてフィットネスはできなくなりました。モンゴルにきた時よりは筋肉が減りました。ドイツでもフィットネスクラブは閉まっていますが、もうすぐ状況は改善されると思います。3年間で少し体重が増し、年齢を重ねましたが、かつての良い体形は、今では良い思い出です。

ジャルガルサイハン: あなたはほぼ全ての県を回りました。モンゴルの何を一番懐かしく思いますか?

ヨハン・キャスパー・ファーマン: モンゴルの人々はとてもおもてなしが上手く、オープンな人たちです。これが何よりも気に入りました。友達を作るのもとても簡単でした。私は21県のうち、20県を訪問しました。もともと旅行が好きなのですが、モンゴル人という国民の多様性、綺麗な自然を見て、とても感心しました。

ジャルガルサイハン: ありがとうございました。これからのご活躍をお祈りします。

ヨハン・キャスパー・ファーマン * ジャルガルサイハン