ゴンゴル・グンジドマー氏は、社会学者、社会科学専門の教員であり、経営学修士を取得し、ジャーナリズムディプロマコースを卒業しました。2001 年〜2018年にモンゴル報道研究所で研究員、主任研究員、情報調査部長、副所長を務めました。2014年〜2017年にモンゴルで初のメディア自主規制機関である報道評議会を立ち上げ、メディアの能力を向上させる仕事に関わりました。2018年から報道評議会議長を務めています。

J(ジャルガルサイハン): こんにちは。今日は大統領選挙が近づいてきたことと関連して、選挙時に報道機関がどういう役割を果たすのか、不正確な情報を拡散した場合どういう責任を負うのか、法規制はどうなのかをオンライン形式で詳細に話していきたいと思います。

まず、報道評議会について分からない人も多いかと思います。まずは、報道評議会がなぜ、いつ出来て、何をしているのかを教えてください。

G. グンジドマー: 報道評議会は、国民の知る権利を保護することを目的に設立されました。どのように知る権利の保護を図るかというと、倫理及び質の高いジャーナリズムを応援することによってです。国民が、ある報道機関が倫理に違反していると思った場合、報道評議会に対して苦情を出します。これは国民参加型の制御システムです。裁判所や警察などの機関と違ってソフトな規制となっています。苦情を受けた報道機関が倫理原則を厳守しているか否かを判断し、結果を苦情を提出した人に知らせます。倫理原則に違反した場合、報道機関が同じ誤ちを犯すことを予防します。このメカニズムが継続的に機能することによって、倫理及び質の高いジャーナリズムを育成することになります。報道評議会は2015年に設立され、2021年3月の時点で400件以上の嘆願書と苦情を受け付け、その結果を公表しています。

J: 400件の苦情の年別の内訳はどうですか?

G. グンジドマー: 2015年には15件、2019年には106件、2020年に52件、2021年が始まってから20件以上の苦情を受け付けました。

J: どういう内容の苦情ですか。またどのように解決しますか? 

G. グンジドマー: ほとんどは人権侵害です。個人の権利を侵害した、侮辱した、虚偽情報を拡散したというものです。2021年に入り、中央広場での焼身自殺、身近な人によって命を奪われるなどの痛ましい事件が起こりました。これらの事件を報道する際、報道機関は倫理原則に違反しているという内容の苦情がありました。例えば、自殺の映像を直接ライブ放送することは視聴者に心理的負担をかけます。また、心理的に不安定な人がそれを真似する可能性もあります。ですから、報道機関は倫理原則に従って報道するようにという内容の苦情を受理しました。

J: それはどのように解決されるのですか。倫理原則に違反するということを誰が判断しますか。

G. グンジドマー: 報道評議会は、メディア業界で活動している報道機関の所有者、ジャーナリストの代表者から構成されます。代表者は出版、オンライン、放送、ローカルメディアから選ばれます。それから、少人数の一般代表もいます。代表者は6年間の任期で選ばれ、3つの部に別れて活動します。45人のうち15人は取締役会、30人は2つの倫理委員会に分かれます。ラジオ・テレビ倫理委員会と、新聞・雑誌・ウェブサイト倫理委員会の2つです。45人の活動を相互に関連づけるためのワーキンググループがあります。私はこのワーキンググループのリーダーを務めています。ワーキンググループは、オンライン及び用紙での苦情を受け付けます。苦情を申し立てる人は、その報道が報道評議会のウェブサイトに載っている報道倫理原則のどの条項に違反しているかを示します。例えば、名誉を毀損したとします。これを受けて、報道機関に知らせ、答弁を受けます。そして、提出された苦情及び答弁に基づき、倫理委員会の15人が話し合って結論を出します。結論は報道倫理原則に違反する、あるいは違反しないというものになります。

J: 報道倫理原則に違反した場合はどうなりますか?

G. グンジドマー: 報道倫理原則に違反した場合、当該報道機関に謝罪、訂正をすることを命令します。ですが、苦情を受けてすぐに謝罪し、訂正する場合があります。また、報道評議会倫理委員会の決定を受けて、謝罪をする場合もあります。報道機関がどのような形で謝罪し、訂正するかは、報道機関に委ねられています。事例としては少ないですが、報道機関が沈黙することもあります。

J: 名誉毀損を理由に苦情を申し立てたとします。ある人は自己の名誉を何千万トゥグルグだと評価します。それよりも低く評価する人もいます。名誉毀損を根拠に報道評議会に対して苦情を申し立て、報道評議会が名誉毀損と判断した場合、法律が許す限り、損害の賠償としていくらまで支払われるのですか?

G. グンジドマー: 法律によって異なります。例えば、刑法第13条14項では、虚偽情報を広めることによって個人の名誉を毀損した場合、刑事責任を問うことを定めています。40万トゥグルグの罰金、3ヶ月間の移動制限措置、社会奉仕活動に従事させるなどです。モンゴル国違反法では、虚偽情報を広めることによって社会秩序を乱した場合、個人に対して50万トゥグルグの罰金、法人に対して500万トゥグルグの罰金が課されることを定めています。さらに、選挙法第14条8項1号では、選挙期間中に虚偽情報を広めた場合、刑法によって刑事責任を課されると定めています。この条項によって報道機関が刑事責任を負った場合、ほぼ2億トゥグルグの罰金を課されます。罰金の金額は法律によって異なります。

J: 選挙時に虚偽情報を広めたことを根拠に報道機関が刑事責任を問われたケースはありますか?

G. グンジドマー: あります。2017年〜2018年では、モンゴル国違反法によって、誹謗中傷をした場合、個人に対して200万トゥグルグの罰金、法人に対して2000万トゥグルグの罰金が課されました。いくつかの報道機関、ジャーナリストが罰金を課されました。個人もです。これは報道の自由を制限し、経済的制裁を与えているとの批判を受けて、モンゴル国違反法からは誹謗中傷の条項が削除されました。2020年には、刑法にこの規定を定め、罰金を40万トゥグルグに引き下げました。しかし、これは刑事責任であることになります。情報の真偽を確認せずに広めた場合、ジャーナリストであっても、個人であっても罰金という刑事責任を課されるということになります。

J: 刑事責任は裁判によって課されます。モンゴル国違反法、選挙法違反は誰が決定するのですか?

G. グンジドマー: 刑法第13条14項の虚偽情報の拡散を理由とする場合、警察に対して訴状を提出します。警察がこれを調べて、検察官が捜査を行い、裁判所に送致します。選挙法14条8項1号に定める候補者について虚偽情報を拡散したことに関する申し立ては、モンゴル中央情報機関がこれを受け付けます。警察や裁判所による検閲は、表現の自由を制約し、萎縮効果をもたらします。個人が問題を提起し、他人に対して意見を表明することを制限することになります。これは黙って何も言わなくなる人も増え、民主主義の確立に悪影響を及ぼします。このような萎縮効果を及ぼさずに、個人の名誉を保護し、侵害された権利の回復を図る機会を与え、問題を解決するためにもメディアの自治機関である報道評議会が存在します。選挙時に候補者及び個人に関する苦情を申し立てたいと考えた場合、警察、裁判所、中央情報機関ではなく報道評議会を選ぶようにお願いしたいです。

J: 一つのケースを挙げたいと思います。2017年の大統領選挙の際にメディアが虚偽情報を拡散したという苦情はありましたか?

G. グンジドマー: 2020年の総選挙の際、報道評議会は報道倫理原則に改正を加えて、記者会見も開き、短い期間に問題を解決することを目標として活動しました。その際、報道評議会に対して全国労働党から苦情がありました。他の政党、例えば民主党から連絡はありましたが、18日間の選挙期間では虚偽情報の報道はあったとしても、選挙活動中に苦情を申し立てる時間などないとのことでした。候補者自身が誹謗中傷に対する訴えを裁判所に起こしていたことを後に検察官の統計情報から知りました。2020年の1月から10月末までに、虚偽情報を拡散したことを理由とする206件の訴訟を検察官が調べていました。206件のうち、188件の訴訟はフェイスブックを使って個人について虚偽情報を広めたという私人同士の問題でした。そのうち8%にあたる18件が報道機関に関連するものでした。虚偽情報の拡散といえば報道機関を想像することが多いと思いますが、実際は9割が報道機関でない個人によるものです。これからはソーシャルネットワーキングサービスの利用者本人が、自分が手にする情報の正確性に注意を払い、情報教育を高めなければ刑事責任を問われることを知ってもらう必要があります。

J: 報道機関ではない個人がフェイスブックを使って虚偽の情報を広め、誹謗中傷をすることはあるのですか。そうした場合の取り締まりはどのように行われますか?

G. グンジドマー: 例えば、新型コロナウイルス感染症拡大時にフブスグル県に住む個人が知り合いから聞いた情報をフェイスブックに載せました。警察はこれを調べ、虚偽の情報であるとして50万トゥグルグの罰金を課しました。フブスグル県は新型コロナウイルス感染症拡大時にロックダウン中でしたが、警察が市民から3万トゥグルグの賄賂を受け取って県内に入れているという噂を聞いて、それをフェイスブックに投稿したのです。警察がこれを調べて、虚偽情報であるとして罰金を課しました。こういったことは誰にでも起こりうることです。特に選挙期間中は気をつけた方が良いです。

J: 報道機関、専門のジャーナリスト以外の一般の個人がこの法規定に該当するということですか?

G. グンジドマー: 該当します。刑法は全ての国民が適用対象になり得ます。また、新しく制定された新型コロナウイルス感染拡大防止法第13条3項、第14条2項では、公衆に誤解を与え虚偽の情報を広めた場合、モンゴル国違反法、災害防止法に定められた責任を負います。報道機関も個人も、全く同じ法律で取り締まりを受けます。しかし、一般人は法律に関する知識が十分ではありません。あるいは刑法の条項がジャーナリストにのみ適用されるとすべきなのかもしれません。しかしながら、個人でも情報を受け取り、発信するという行為にはもっと注意を払わなければならないと思います。

J: 個人が、ある情報が虚偽であることを知らずに情報を伝達した場合、情報を発信した人ではなく伝達した人が責任を負うのですか?

G. グンジドマー: 伝達した人が責任を負います。ですから、ここで一つ考慮しなければならないのが、誹謗中傷が故意によるものなのか、過失によるものかを区別することです。故意に情報をでっち上げ、「この人は賄賂を受け取った」といった場合、これは中傷になります。このような行為に対して刑事責任を追求することは刑法上可能です。しかし、多くの場合、故意にではなく知らずに、十分に確認せずに情報を拡散し、それが虚偽であることを理由に責任を負わされます。そのため、このような場合には刑事責任を追求するのではなく、倫理原則に従って対処すべきだと考えています。

J: 虚偽情報の拡散によって誹謗中傷した場合、情報を拡散した者は虚偽情報の拡散及び中傷という2つの行為に対して刑事責任を追求されるのですね。

G. グンジドマー: ここで一つ言っておくと、モンゴルでは虚偽情報とは何を指すかを具体的に定義されていません。また、その情報が虚偽であるかどうかを警察官が調べる権限を持っています。法律を悪用したり虚偽情報とは何か分からないまま誤った判断をする可能性があるわけです。ですから、虚偽情報とは何を指すかについて解釈を加えるべきだと訴えています。UNESCOは虚偽情報を3つに分類しています。Disinformation(偽情報)、misinformation(誤報)、あるいは虚偽情報でない過失によるものである場合もあります。なので、法的に、ジャーナリスト、一般人それぞれに十分に理解してもらう必要があります。

J: 偽情報と誤報は違うということですね。

G. グンジドマー: そうです。NGO団体「Globe International」が出したレポートではモンゴル語でも区別していました。

J: ソーシャルネットワーキングサービスというものがあります。それから、伝統的な新聞、テレビなどの編集部を設置する報道機関があります。最近は、新聞の購読数が増加してきました。なぜなら、新聞記事は記者以外に編集部がチェックします。この場合、一般人が新聞記事を自己のウェブサイトやフェイスブック、ツイッターに載せたとします。情報の発信者を明確に示して載せているのになぜそれを伝達した個人が責任を負うことになるのですか?

G. グンジドマー: 私は法律家ではありませんが、報道評議会で苦情を解決する際には情報の発信元である報道機関と話をします。情報の正確性を確認できるような報道機関が責任を負うべきであると考えています。しかし、仮にA編集部に関する苦情が報道評議会に対して申し立てられたとします。A編集部に問い合わせたら、B新聞から取った情報であるから、責任は問われませんという回答が来ることが多いです。しかし、報道評議会としては全ての情報に責任を持って対応すべきだという立場です。一つの新聞に出たニュースを何十ものニュースサイトに転載するわけです。これはあってはいけません。報道機関でない一般人については、新聞に書かれたことを拡散した場合、関連機関の証言をもらうなど真偽の確認方法はあると思います。

J: 現在500近くの報道機関、100近くのニュースサイトがあると聞きましたが、本当ですか。数を教えてください。 

G. グンジドマー: モンゴル報道研究所が出した統計では400くらいの報道機関があるとのことでした。ニュースサイトは毎年増加しており、新聞とラジオは毎年減少しています。テレビ局は100くらいあります。増加しているのがウェブサイトであり、編集部を持つウェブサイトが154になっています。

J: ニュース系ウェブサイトや報道機関の多くは、政治家によって所有されています。そして、政治家は報道機関を通して自分の名を上げ、政敵の悪口を言うような報道をします。ジャーナリストは雇い主にとって不利な情報を報道した場合、解雇されます。 これはどう見ていますか?

G. グンジドマー: 報道機関はビジネスのルールに従って活動します。モンゴル国営放送(MNB)以外は民営化されています。誰もが投資できる状態です。しかし、誰がどれくらい投資をしているかに関する情報は公開されるべきです。誰がどれくらいの株を所有しているかも公開されるべきです。これについて、国境なき記者団とモンゴル報道研究所が2016年に調査しました。40くらいの報道機関を選定し、持ち主が誰であるかを調査しました。その結果、87%が政治的関与があるということになり、比較的影響力のある報道機関を政治家が所有していることが分かりました。透明性を確保することが放送法に規定されており、報道機関の所有者に関する情報をモンゴル通信規制委員会が適時、そのウェブサイトにて公開しています。また、報道の自由に関する法律の改正では、報道機関の5%以上の株を所有している者について公開することを定めています。これを公開することは消費者の保護にもつながります。国民が誰の報道機関から情報を得ているかを知った上で、国民が選択をすべきです。例えば、TV9は人民革命党のエンフバヤル氏が所有しており、選挙時に偏った報道をしていることは明白です。なので、国民はどれを選択するかを考えて決めるべきです。

J: では、 誰が所有しているかは明白になったとして、一人を褒めて、他を悪く言っていることをどう見ているのですか。「こうあるべきです」と言っていますけど、モンゴル中に「こうあるべき」があります。

G. グンジドマー: これには編集部の独立性という問題も関わってきます。編集部と株主の間に締結される契約で、これを保護する規定を設けるべきです。モンゴルではこれが不十分です。編集部に務める者が偏った情報、誰かを中傷する情報を拡散した場合、視聴者の監査が必要になってきます。視聴者には苦情を申し立てる権利があります。なぜなら報道評議会には検閲する権限がありません。

J: 視聴者といいますが、大統領が自分のテレビ局を持っています。銀行もテレビ局を持っています。ゴロムト銀行はEagle TV、モンゴル貿易開発銀行はBloomberg TVを持っています。こういったことは視聴者全員には分かりません。視聴者が悪いと決めつけるのではなく、報道倫理に関する問題を担当する機関であるなら、報道評議会がこのことを公表すべきです。国民にこのテレビ局はこの人のものだと知らせていますか?

G. グンジドマー: 報道評議会自身が苦情を申し立てる権利はありません。裁判の前の段階で問題を解決する手段に過ぎません。そうしなければ、報道評議会が自己が好む情報、そうでないものについて差別をすることになる可能性があるからです。

J: 他の国ではどうですか? 

G. グンジドマー: 他の国では、独占禁止法に当たります。ある者が複数の報道機関を同時に所有してはならないことを定めています。あるいは、市場に影響力の強い3、4つの報道機関を同時に所有してはならないと定めています。モンゴルではまだこういう法整備はありません。こういう法律が必要だというように活動はしていますが、まだ立法化されるのは難しいようです。また、モンゴルでは独占というような状態にはまだなっていません。9つの大手企業がメディア業界のほとんどを所有しているという統計があります。一人が複数の報道機関を持っています。

J: 報道機関を政治家、政党が所有しているから、今あなたと私が話した問題は解決されずに、解決する意思もないまま時だけが過ぎています。これは政治的利益を理由にモンゴル国民を騙しているということです。これがずっと続いています。モンゴルではこれをうまく解決する方法がなく、それを政治家が自分に有利になるよう使っています。その結果、自由意志のない選挙が続きます。特に、今日のインタビューを通じて国民に知って欲しいことは、虚偽の情報を確認せずに拡散した場合、多くの法的責任を負わされることがあるということに気をつけることでした。

G.グンジドマー * ジャルガルサイハン