ミャンガンボー・サランダワー氏はモンゴル国立大学経営学部を卒業しました。ワールド・ビジョン・モンゴルプロジェクトコーディネーター、オルホン県・ボルガン県商工会議所会頭、モンゴル商工会議所会頭、Power Solution社社長を歴任しました。

J(ジャルガルサイハン): こんにちは。あなたはエルデネト市出身で研究活動もされており、ここ4年間はモンゴル商工会議所に務めてきました。特に、モンゴル商工会議所ではそれまでのご自身の経験に基づいて、民間セクターが直面する主な問題に関して、様々な解決策を提案し、積極的に取り組んできました。今日はモンゴルの民間セクターが現在、直面している問題について話し合いたいと思います。あなたの考えでは、最初に解決すべき問題というのは何ですか?

M.サランダワー: こんにちは。番組に招待して頂きありがとうございます。私はモンゴル商工会議所でこの5年間、その前には、地方の商工会議所で5年以上会頭を務めました。商工会議所及びビジネス界で10年間務めてきたことになります。特に、ビジネスを応援する、起業家の声を政府に届け、彼らを応援するために尽力してきました。恒久的に、ビジネスが直面する最大の問題は“安定性”です。安定した政策、安定したビジネス環境です。

J: 政府政策の安定性、経済政策の安定性ですね?

M.サランダワー: そうです。起業家が真っ先に直面する問題が、政策の安定性です。第一に、1998年以降に800以上の法令が制定されました。法務省は10年毎に、これらの法令等の実施状況についての査定を行います。査定では、法律の実施がとても不十分であることが分かりました。法律の実施を図るために出される政令、省令等の実施はさらに不十分でした。第二に、開発政策及び計画に関する法律という法律が制定されました。この法律の制定後、60以上の政策文書が出されました。これらの政策文書の質を査定した結果、法令の実施率はたった25%だという結果が出ました。つまりこの30年間、ビジネスを行ってきた事業家、中小企業、外資企業は、平均寿命が1.6年の政府の下、常にルール変更される上、実施率が25%にとどまる法令に従ってきたことになります。どれほど緻密に計画を立てても、先の読めない環境、規制の中で事業を営んでいます。ですから、兎にも角にも政策の安定性が求められています。政策が良いものか、悪いものかはその次に問題です。

J: あなたの考えでは、なぜモンゴルはこれほどまでに不安定で、まるで皿の上の卵のような状況になっているのでしょうか?

M.サランダワー: とても簡潔に答えるならば、モンゴルのビジネス環境はメカニズムがなく、ツールのないままやってきたからです。

J: 安定性を保つためのツールがなかったと?

M.サランダワー: 法令が実施され、一定の結果を出し、出た結果が評価され、改善策を議論するといったメカニズムは今までの政策立案段階ではありませんでした。あなたも覚えていると思いますが、国会は法令に関する法律を2017年1月から施行されることで制定しました。しかし、今日までのこの法律の実施はとても不十分です。私が提案するものは、政府機関と民間企業の間に連絡メカニズムを構築し、政府の政策及びその実施、そこから結果を出すまでのプロセスにビジネス界だけでなく、その政策決定において利害関係を有する人々の参加を募ることです。この官民対話というやり方は、私たちがモデルにしているジョージア、エストニアなどの発展国で20年以上も前に採択されています。これについては、歴代の商工会議所のトップが政府に対して要望してきました。私も直近3代の内閣と仕事をしてきて言えることは、内閣は表向き協力することの重要性を説きますが、具体的な入り口や出口を整えた仕組みのメカニズムの話をすると、急に理解できなくなります。とはいうものの、一つ良い点を挙げておきたいと思います。現国会議長ザンダンシャタルが、内閣官房長官時代に官民協議会を初めて設立しました。2018年の半ばくらいだったと思います。まぁ結局は政府が主導権を握り、民間企業も立場が弱いので、あまり良い結果は残せませんでしたが。

J: あなたはとても重要な問題に触れました。例えば、あなたと私が互いに協力するためには、まず話し合うべきです。そして理解し合って、初めてお互いを信頼することができます。信頼し合って初めて協力し合うことができますね。しかし、協力するどころか、話し合いがろくにできない状況なのですね。

M.サランダワー: 情報を収集する能力に明らかな差が出てきています。

J: 官民で対話ができないことの背景には、例えば、大臣との対話が始まると、およそ1年半で新たな大臣に代わってしまい、それまでの話を白紙にして自分のやり方を押し進めるということもあると思います。モンゴルは4年に一度、総選挙が行われます。2年ごとに行われるものではありません。しかし、4年に一度の総選挙の間に2〜3回も内閣が変わります。あなたはその原因が何だと考えますか? 

M.サランダワー: 正直にいうと、個人的な利益、利害関係です。

J: モンゴルの内閣には、利害が対立する人たちが集まっているということですね。

M.サランダワー: そうです。それから、政府機関を今日では政党の機関にしてしまっています。これは行き過ぎた政治化といえます。幼稚園の保安員から、配管工、政府の要職まで、人事がシステム化された異常な状態になっています。上に立つ者の物事を決める基準は、自分にどのような利益があるかです。あらゆる事柄においてそうなっています。言えることは、人的要因によってこのような状況が発生し、良くない結果を招いてしまっているということです。

J: その通りですね。政府機関の代わりに政党機関ができてしまい、政党機関の内部は独自の封建的な構造になっています。なぜ幼稚園の保安員までもが政治化しているのか。その根本にある原因は、個人的な利益の有無だとおっしゃいました。では、これをどう変えればいいですか。どこから手を付ければいいのでしょうか?

M.サランダワー: まず、上から始まるべきです。今日までの結果、原因を考えてみると、モンゴルの遊牧民、富を創造している業界、そこで働く電気技師やエンジニアなどは、このシステムには何の関係もありません。問題なのは、その上にいて、意思決定をし、選択をしている人たちであって、その彼らの大きな影響力です。

J: では、選択について話しましょう。民主主義において、政治権力は個人にではなく、政党という組織に与えられます。なぜ組織に与えられるかというと、理論的には組織は個人に依存することなく、人が休んでいるか働いているかに関係なく機能するからです。モンゴルには、この機能が働いていないのはなぜですか。つまり、今から話をしようとしているテーマは“政党”ですね。

M.サランダワー: 今日まで私たちが築いてきたシステム、組織というのは、国家という単位で見てみると、独立が非常に貧弱です。さらに、オリガルヒの台頭や独裁が顕著になっています。政党の仕事に幼稚園の保安員やエンジニアは必要ですか。政党がその思想を形成するのに、配管工やエンジニアは必要ではないのです。

J: 国民に嘘の公約をし、選挙で自分を選んでもらうことをポピュリストと言います。例えば、「あなたに空を飛ぶ全ての鳥を捕まえてあげます」などできもしないことを言っても、人々はそれを信じてしまいます。この原因というのは何ですか。このようなポピュリスト政党に投票をする人が愚かなのか、貧困なのか、それとも手段を選ばず手に入れたいモノがあるのか。なぜわずか2万トゥグルグで投票をしてしまうのでしょうか。これについてはどうですか?

M.サランダワー: 先ほどのあなたの質問への回答に一つ追加すると、今日では政党に自浄作用が働き、内部から変化する可能性は非常に低いです。彼らは組織という概念、システムという仕組みを知らないのです。どこからともなく出てきた金持ちが政党を好きなように操れる、組織としての理念ではなく、その誰か1人の価値観が優先されます。こういう状態では、政党が内部から変わるとはとても考えられません。そのため、外からのプレッシャーが必要です。より早く政党を生まれ変わらせるためには、今日の若者たちが団結し、声を挙げていくべきだと思います。次に、普通に働いて生活している人にとっての政治の影響は、発展途上国では最大20%くらいしかないと言われます。基本的には10%程度にとどまっています。しかし、モンゴルの場合、それが80%にもなっているとのことです。これほどまでに政治依存度が高くなる制度である上、国民の価値をその将来と合わせて2万〜3万トゥグルグで評価しているというのですから、悲惨な状態といえるでしょう。

J: 話題は貧困ということになりました。人々は貧困の原因は「政府」だと言います。あなたは経済学者です。研究もされています。経済学では、貧困の原因は労働生産性が低いからだと言います。なぜなら、労働生産性によって給与が決まるからです。しかし、政府はこの労働生産性を見ずに、ただ給与を上げると言います。それが結局は、その人が買うパンの値段を上げてしまいます。輸出関連でいうと、モンゴルの輸出の40%を石炭が占めています。輸出石炭65トンを一つのコンテナに積み、1トンを100ドルで売るとします。1コンテナで6500ドルの輸出額になります。実際には比較にはなりませんが、例えば日本からの1コンテナにはシャープや日立の製品がいくつも積まれています。何台入るかは分かりませんが、一つの小さな製品でも200ドルです。こうして比較してみると、私たちの6500ドルは少なすぎます。なぜ日本の労働生産性がこんなにも高いのか。どうすれば国の労働生産性を上げることができるのか。どう思いますか。何が大事なのでしょうか?

M.サランダワー: 2つの言葉で言うと、知識と能力です。物を作る材料は全く同じです。資源もあります。しかし、そこに注ぎ込んでいる技術、能力に差があります。一つの研究成果を見た覚えがあります。韓国からドイツに輸出している40トンの一つの容器の値段が2万〜3万ドルです。一方、ドイツから韓国に輸出している一つの容器の値段が20万ドルを超えています。ここからも分かるように、それぞれの国の知識と能力、技術に差があるわけです。

J: では、モンゴルの子供たちは様々な教育系のオリンピックで優秀な成績を収めています。考える力はあるわけです。それを知識に変えるというプロセス、つまり教育の問題があります。能力や技術の修得にも課題が残ります。こういった問題を既に知っているにも関わらず、改善しようとしないことの原因は何なのですか?

M.サランダワー: とても悲観的な回答になりそうです。モンゴル国を発展させない、人々が幸せに暮らせるようにしないという策があるなら別ですが、その原因というのは見当が付きません。誰もがより良い方向を向いて歩こうとしています。

J: 誰も苦労して生活したいと考えませんからね。

M.サランダワー: そうです。一つだけ言うと、回りを従わせている人たちの判断要素が自己に利益があるかどうかということである限り、常にその人たちの利害が最優先事項になるわけです。

J: その人たちの利益が満たされるのを待つよりも、労働生産性を上げる唯一の方法が既にあるわけです。それは自由競争です。もし、あなたと私が競争していると仮定すれば、誰かを雇う際、まず一番優秀な人材を採用します。二番目に優秀な人材は、採用されるために一番目と同じくらい知識を付ける必要があります。なぜなら、あなたと私は知識や能力で競争しているからです。しかし、モンゴルでは知識や能力でなく、私が大臣のところに行ってロビー活動をし、低金利の借金をしてあなたを倒すという仕組みになっています。自由競争は今のモンゴルにはなく、コネの世界ということには賛成ですか?

M.サランダワー: 100%賛成です。

J: では、政治家は自由競争のない状態を保ちたいと望みます。もっといえば、その政治家が大臣だった場合、民間企業はどうやって大臣が所有する会社と競争できるのですかとなります。大臣はあらゆる情報に一番近くにいる役職です。中小企業を支援するための融資を最初に受けることができます。あなたはとても相手になりません。人々はこれを知らないのか、それとも知っていてその人を選ぶのか? 

M.サランダワー: これはビジネスだけにとどまらず、モンゴルではあらゆる場面で“知り合い”がものを言います。警察、病院、政治家、教師、政党の知り合い、周りにそういった知り合いがいない人はただ無力なだけです。問題は、こういう社会に私たちはすっかり慣れてしまったことです。

J: 末端までこの状況に慣れないと生きていけないことになりますね。人類が自由競争というものを考え出しているにも関わらず、モンゴルは30年前に自由市場に移行することを宣言し、そして道半ばで自由競争を無くしてしまいました。自由競争は民主主義についてくるものなのです。そして、今日では自ら自由競争を無くしておいて、民主主義が無いと嘆きます。自由競争を放棄したから今日の問題が起きていて、今ではもはや民主主義どころではなく、ロシアや中国のような政治体制にしようと訴えています。

ここからはマクロ経済の話になります。簡単に言うと、私たちがより良い生活を送る上で何が邪魔になっているのかについて話したいと思います。まず価格について話したいと思います。自由競争が成り立つためには、市場価格がなければならないことは人類の歴史から見ても疑いようがありません。しかし政治家は、市場価格にするとガゾリン代も上がるし、物価も上昇するなどと言います。市場価格についてのあなたの意見はどうですか?

M.サランダワー: 私は比較的若く、また民主主義社会で生まれ育ってきました。ですから、自由競争、自由市場の原則は厳守したいと考えます。価格を自由にすると人々の生活が成り立たなくなるというのは、言い換えると、国家は大きくなければならない。国家が大きくなりあらゆることに関与しないと国民は生きていけないというメッセージです。ですがこれだと民間企業、中所得者層がなくなり、富を創造する人たちを理解せず評価もしない。需要と供給によって価格が決まらないという状況になります。給料を大きな台車に乗せて運んでいる人たちが世界中にいます。ジンバブエやベネズエラしかり、フィリピンも困難な状況です。つまり、労働が含まれない富を与えられることには大きな疑問が伴います。

J: 国家が国民にお金を配ると言います。しかし、その原資は紙幣を印刷するか、もしくは借金するかで作られます。借金をすると更に貧困になります。では紙幣を印刷すると、その後は台車で紙幣を運ぶくらいのお金でパン一斤も買えないことになるわけです。市場価格は恐ろしく見えるかもしれませんが、一旦上がったら、それをまた下げる機能の付いたものです。ガソリン価格を市場価格にした方がいいと私が言うと、ロシアからしか輸入していないのに何を言っているのかと言われます。これについてどう思いますか。ガソリン価格を制限することなく、自由にしたらどうなりますか?

M.サランダワー: そうすべきですね。そうすることで、初めて自由競争が成り立つし、公平な機会ができ、モンゴルがモンゴルだけでなく、世界と繋がることになります。モンゴルが他国と競争するわけです。そのために外国から技術を取り入れ、彼らと協力して知識を集約し、それで競争することができるわけです。

J: 市場価格は自由経済の鍵です。もしモンゴル企業がガソリン価格を自由に設定できるようになったら、彼らは低価格で競争します。彼らは同じ元売からガソリンを購入していますから、コストで競争します。彼らがコストで競争したことは、モンゴルの歴史上ありません。コストで競争すると、3人を雇うよりも1人を雇うようになります。新しい技術を導入します。なぜなら、安くしないと相手に勝てないからです。今日、石油を輸入する30〜40社の企業があります。良くも悪くも輸入を続けています。なぜなら、安定して高値で売れるからです。市場価格にして、価格が上がったとしても、ピークを迎えまた必ず下がるということです。もう一つ、電力です。電力会社は自然独占というとてもきれいな言葉を使います。電気代を一定価格に保つことで国民への愛を表すつもりだったようです。結果どうなったかというと、電力料金を低い価格に保ち続けた末、発電所は借金まみれになり石炭の購入代金さえ払えなくなりました。石炭を採掘する企業は販売した代金を払ってもらえず、こちらも事業が進まなくなりました。こういったことが続くと、最後には電気がなくなります。現代社会では電気無しでは1時間も生活できないでしょう。人々が払う電気代は、電話会社に払うよりも何倍も低いのです。病院では、手術中に電気がなくなることが懸念されています。政治家は20年前から第5発電所を建設するといい、 10回も起工式を行い、最終的に建設しないと決めました。電力についてはどう思いますか?

M.サランダワー:  電力料金については、例えば、モンゴルは淡水資源のある国ですし、国内生産で清浄水を賄えています。しかし、モンゴルの1リットル水の値段は、淡水資源のないシンガポールが輸入している1リットルの水の値段よりも高価です。こういう差があるということを言っています。

J: 安いと言われるけど、シンガポールよりは高いということですね。最後の質問です。あなたはエルデネト市出身です。ずっとそこで生活し、働いてきました。エルデネト鉱業の株式49%を一部の人々が、政治家が用意した公金で購入しました。エルデネト鉱業の株式49%をロシアから買ったことは正解ですが、公金で買っておいてその株は私のものだと言っていることについてどう思いますか?

M.サランダワー: エルデネトは昔から政治家、政党の大きな資金源でした。しかし、そこには10万人が生活しています。エルデネト鉱業は地方自治体も関与している株式会社です。私はみんなの会社であるべきという立場です。

J: 今日はご出演頂きありがとうございました。

M.サランダワー: ありがとうございました。

サランダワー * ジャルガルサイハン