2019年10月13日から18日にかけて、フランスのパリでマネーロンダリングおよびテロ資金供与防止のための国際機関である金融活動作業部会(FATF)の相互審査会議が開かれた。この会議でモンゴル、アイスランド、ジンバブエの3ヵ国を「グレーリスト」に入れたことを発表した。

FATFは各国に対して、マネーロンダリングおよびテロ資金供与対策として何をするべきかについて勧告(40の勧告)を出し、その活動結果を審査(11の審査項目)、報告書を発表している。モンゴルは5つの勧告について未実施なため、審査評価(11の審査項目のうち4つの項目)について未達成と評価された。このことについて、以前私は「グレーに染まった政府」という記事で具体的に触れた。

FATFは2つのリストを出す。1つはブラックリストと呼ばれるもので、特に警戒すべき対象国リストである。もう1つはグレーリストといい、集中監視の対象となる国のリストである。グレーリストに入った国だからといって、ただちに金融活動が禁止されることではない。だが、リスクを評価し、対象国の金融活動において何に注意すべきかを勧告する。その結果、国際的な金融取引を行う海外の金融機関や投資家は、当該国に対して警戒し、取引活動により慎重になる。

グレーリストに入った原因

Ch.フレルバートル財務大臣は、「モンゴルがグレーリスト入りした原因は、自分たちの誤った政策、誤った行動の結果だと認めることをせず、改善もしようとしなかった。最も影響したものは、恩赦法である」と話した。Ts.ニャムドルジ法務・内務大臣は「透明性に関する法案が2015年1月の国会に提出されたが、否決された。しかしその後、ナーダム祭の時に可決された」と話した。

「経済の透明性に関する法」というこの恩赦法は、2015年8月7日から2016年2月20日までの期間で施行された。この法律は、それまで申告していなかった資産(現金、不動産)について、新たに申告し税金を支払えば、刑事事件として責任を追求しない。その情報を秘匿にする。そして、支払う税金の出どころを一切問わない、というものだった。

この法律が施行された期間に、8,794人の個人、25,000社の法人、登録されていない448人の合計33兆3千億トゥグルグ、つまりモンゴルの年間GDPを上回る資産が申告された。

FATFのアジア太平洋マネーロンダリング対策グループ(APG)は、外部の独立した審査機関を設け、モンゴルに対して2017年のマネーロンダリングについて評価した。彼らは審査報告書に何を注意し、改善すべきかを具体的に提示した。しかし、モンゴル政府はそれらの提示された事項を十分に改善できなかったため、今回のグレーリスト入りに至った。

APGの報告書には、「モンゴルは、マネーロンダリングなどの犯罪危機への対策が弱い状況にある(15頁)。同国で最もリスクが高い犯罪は、詐欺、環境犯罪、脱税、腐敗である。次いで高いリスクにあるのが麻薬、商品の違法輸入、組織犯罪、銀行規制に関わる犯罪、強盗である」と指摘されている。これらの犯罪によって得た収入をモンゴル、もしくは外国で資金洗浄をしている。犯罪による収入は、モンゴル国内の不動産、自動車、機械設備、高価な商品の購入に使われている。

また、「モンゴルでは法人を通じて、とりわけ建築分野で資金洗浄が行われている。贈収賄の資金は、主にその当事者の家族名義の口座を通してやり取りされている。そして外国の銀行、オフショア口座へ資金を移動している。銀行の監視システムにより、それらの不正な資金はモンゴルに戻されることもあるが、稀である。モンゴルの最も弱い分野は銀行である。」と指摘している。

この時期に国際通貨基金が、モンゴルの商業銀行が自己資本比率を積み増す際に、違法行為があったかどうかを外部監査機関に審査させるように要求し、実施されたことは、このAPGの報告書が発表されたことと偶然一致したことではない。この審査結果については、モンゴル銀行(中央銀行)が近々公表すると思われる。

行き詰まる裁判所

モンゴルの裁判所は、資金洗浄などの金融犯罪を解決することができない。実際には数多くの金融犯罪が捜査される。高い地位に就く多くの者たちが逮捕されてきた。その中には元首相、元財務大臣、国有企業の経営者、大手銀行のオーナーなどの逮捕もあった。

モンゴルでは行政機関と司法機関による連携がされていないとFATFの報告書には記載されていた。簡単に言えば、この国には正義がなく、また正義を確立するための仕組みが機能していないということである。

賄賂対策庁が捜査を行い、数百もの事件を裁判所に起訴するように検察庁に提言している。しかし、起訴されたのはそのうちの僅か5〜10%である。不起訴になった事件がどうなったかについて、検察庁は国民に報告しない。それに起訴された事件の殆どが、何らかの理由により裁判が延期され、挙句の果てに時効になるという歪んだ慣例ができている。これはモンゴルの裁判制度の不正義と、腐敗に手を染める者たちのために機能していることを明らかに示している。モンゴルの司法制度は、犯罪者たちの思い通りになってしまうので、資金洗浄などの犯罪は拡大し、解決できない状況に陥り、国際機関はモンゴルをグレーリスト国とみなしている。

腐敗に手を染める者たちによって公共の財産が横領され、国民は貧困に苦しみ、仕方なく海外へ出稼ぎに行っている。この状況に国民はいつまで耐えなくてはならないのか?腐敗による不利益を国民が被っている。国民は次の選挙に期待を寄せるが、政治家たちは選挙法を自分たちに有利になるようにいつも改正してきた。今日、政治家たちは憲法改正について1年もかけて議論しており、裁判所が行き詰まることに対する国民の注意を引いている。そうした中で政治家たちは2020年の国政選挙の日を指折り数えて待っている。 事実は、モンゴルの司法制度がグレーリストに入ったということである。

ダムバダルジャー・ジャルガルサイハン