V.ガンゾリグ氏はオーストラリア、日本で経営管理とe-ビジネス・マネジメントで修士号を取得しました。モンゴル国立大学商学部、貿易開発銀行(TDB)、ハス銀行、シュンフライグループで管理職を歴任してきました。近年では企業PR活動の仕事をしています。またモンゴルダウン症協会会長、モンゴルスペシャルオリンピックス委員会、ツァヒムウルトゥー協会の取締役を兼任しています。

J(ジャルガルサイハン): ダウン症という言葉をよく耳にするようになりました。これは社会が抱える大きな問題の1つです。モンゴルにはダウン症の人はどのくらいいますか?彼らの問題をどのように解決していますか?これについて最近の数字やデータがあれば話を聞かせて下さい。

ガンゾリグ: 私たちは10年前にダウン症協会を設立しました。当時の状況は今とは比較にならないものでした。人々の知りうる知識、機会、能力、連携、教育、一般的な情報認識などが不十分でした。世界のダウン症について統計があります。ダウン症は平均的に700出生児に1人の割合で現れると言われています。今でもダウン症、つまり染色体異常の原因は特定されていません。この原因を特定できれば、その人はノーベル賞を受賞するでしょう。モンゴルでは新生児数は年平均7〜8万人だと考えれば、700人に1人の割合ですから最低100人の子どもがダウン症で生まれている計算です。過去10年間、ダウン症の子どもの数は数千人に上ります。残念ながら今日までダウン症の人たちの正確な数やデータはありません。つい最近までダウン症についての情報や知識は限られたものでした。

J: ダウン症の子どもが生まれることに両親の健康状態は関係ありますか?染色体についてもう少し具体的に話を聞かせてください。

ガンゾリグ: 人には通常23組46本の染色体があります。そのうち21番目の染色体が2本ではなく3本になる「トリソミー」が原因であり、ダウン症の人の全体の94〜95%を占めています。このことを専門用語で「標準型21トリソミー」と呼んでいます。また3月21日は「世界ダウン症の日」と制定されています。理由は21番目の染色体トリソミーという意味を込めてのことです。この日は世界各国でダウン症の啓発を目的とした大規模なイベントが開催されています。モンゴルダウン症協会も毎年この日に啓発イベントを行っています。そのイベントでは社会にダウン症についての知識や情報を提供するために多くの活動を行います。ダウン症を生殖細胞の減数分裂時の失敗とも解釈されています。モンゴルのダウン症について、市内のスモッグが原因だと言う人がいますが、ダウン症の原因を何かと結び付けようとしても、現時点では科学的に立証されていません。原因は本当に不明です。

J: ダウン症であることを子どもが生まれてどのくらいでわかりますか?ダウン症かどうかを診断するために何をしていますか?

ガンゾリグ: 西欧諸国では、女性が妊娠した時に必ず受ける検査がいくつかあります。これにはダウン症の検査が含まれます。検査は無料で受けることができます。モンゴルの場合はこのシステムがまだ導入されていません。色々な検査方法があります。例えば、血液検査があります。血液検査は妊婦にも胎児にも最もリスクが低いものですが、精度は高くありません。基本的には50〜60%です。最も精度が高い検査は羊水検査です。これは妊婦の腹部に注射器を刺し子宮から羊水を採取し、その中にある胎児の細胞から染色体異常があるかを調べます。しかし、羊水検査が原因で流産に至る確率が高くなります。西欧諸国ではこの2つの検査方法のどちらも受けることができます。もし、夫婦がリスクを覚悟の上で希望する場合は、羊水検査を受けます。モンゴルでは羊水検査についてあまり知られていません。血液検査に関しては国立病院でも私立病院でもできるようになりました。何週間か前にギャルス病院が最先端の検査機器を導入しました。検査はモンゴルでもできるようになりましたが、検査料金に関しては西欧諸国のように健康保険でカバーできていません。また、専門医の不足という問題にも直面しています。

J: ダウン症の子どもが生まれた時に注意すべきことは何ですか?その子どもをどのように受け入れなければならないですか?ダウン症は完治できますか?これらについて話してください。

ガンゾリグ: 私は2つの側面で説明したいと思います。まず1つは、モンゴルダウン症協会の最終目標は「モンゴルの全てのダウン症の人が納税者になる」ことです。たしかにこの目標は達成困難で、一部の人からみれば不可能な目標かもしれません。しかし、これは哲学的に大きな目標です。税金を払うということは仕事をするということです。仕事をするためにはまず専門教育を受けていなければなりません。教育を受けた次には健康でなければなりません。言い換えれば、モンゴルダウン症協会は教育、保健、労働の3つを柱として、その上に戦略的目標を設定して取り組んでいます。実際はこの3本柱はNGOより政府が取り組むべきことだと思います。近年では政権が頻繁に変わり、その度に新しくやってきた人たちに情報を提供するため大半の時間を割いています。しかしその間にも様々な技術が進化しているので、私たちは遅れないように努力しています。

J: モンゴルダウン症協会に子どもは何人いますか?

ガンゾリグ: 現在、約200人の子どもが登録されています。しかし、登録されているだけであり、私たちは地方へ行ってそこにいる子どもたちに十分な取り組みをしていません。今年後半から同協会の保護者と一緒に地方に行き、研修や新規登録などをする予定です。

J: ダウン症の子どもたちは知的には問題ないですか?

ガンゾリグ: 知的において問題がないというわけではありません。ダウン症の子どもの特徴はIQが普通の人より比較的低い傾向にあります。しかし、程度によって異なります。軽度の子どもは健常児と同じく英語を話しますし、2、3ヵ国語を習得し、さらにチベット語を勉強している子どもたちもいます。IQによって中度及び重度といった程度があります。普通の人に「この水を飲んで下さい」と言えばすぐに理解できます。しかし、中度のダウン症の子どもの場合は2回、重度の子どもの場合は5、6回も言わなければ伝わりません。全く何もわからないということではありません。ある程度は理解できます。ただ、ゆっくりと何回も伝える必要があります。また、子どもたちの中では自己表現ができる子どもがいれば、できない子どももいます。例えば、重度の子どもの場合は読み書きを覚えることはできません。また、話すことができない子どもはジェスチャーを使います。物事を良く理解できる子どももいます。このように子どもたちの特徴は何かを掴み、子ども1人1人の特徴に合った教育カリキュラムが必要です。

J: あなたはパラリンピック委員会と連携があります。皆さんはこの間オーストリアに行きました。これについて話を聞かせて下さい。

ガンゾリグ: 世界では3つの異なるオリンピック大会があります。1つは私たちが良く知っている通常のオリンピックでこれは4年に1度、冬と夏に開催されるオリンピックです。2つ目は、パラリンピックつまり身体障害者の総合的な国際スポーツ大会です。言い換えれば、知的障害がなく、身体的な障害をもっている人たちの大会です。3つ目は、私たちが良く言うスペシャルオリンピックスです。スペシャルオリンピックスは知的障害がある子どもや大人の自立や社会参加を目的とした国際的なスポーツ組織のことです。これは国際オリンピック委員会に所属しているわけではありませんが、同等なレベルで競技会を開催します。オリンピックのシンボルである五輪マークを使わず、自分たちのロゴマークがある組織です。障害のある子どもや大人の社会参加を促進するための最も可能性のある方法はスポーツです。スポーツを通じて彼らの社会参加を促すだけでなく、スポーツに取り組むことが他の健常者と同じように体を動かすことに喜びを感じさせることが重要です。これを過去50年、世界の180ヵ国が認識しこの活動に取り組んでいます。オリンピックと同じく4年ごとに開催され、約500万人の選手が登録されています。しかし、スペシャルオリンピックスはこの数字にまだ満足していません。なぜならば、世界で70億人がいるうちの10億人が何らかの障害をもっています。そのうち2億人が知的障害者です。また、知的だけではなく、他の病気や障害と重複しているケースもあります。私たちは今年3月、スペシャルオリンピックス冬季世界大会に初めて選手15人とコーチや教員合わせて20人から構成される選手団を参加させ、10個のメダルを獲得しました。スノーボード、スノーシューイング、フロアホッケーの3競技に参加しました。初参加にしては大きな成績を残せました。

J: あなたが勤務するバト・ソリューションズ社の活動について話してください。

ガンゾリグ: 当社が設立されて3年になります。モンゴルのメディア分野、特にコンテント開発、製品開発、ブランディング、広報、プロジェクト管理などといったことを専門に活動しています。当社はチームを結成し、今は10人が務めています。メディア分野と関わるようになった主旨は啓発的な活動を広げるためです。以前は、メディアはある1点からもう1つの点までという流れでした。しかし、今はある1点からオピニオンリーダーへ、つまりあるセグメントへ流れ、そのセグメントが他のセグメントに届ける、これが循環する形となっています。人々には最初にネガティブな情報、スキャンダルが届いています。その情報を信じて生活や仕事における決定をしていることがとても残念です。私たちは啓発活動を通じて人々に知識、情報を届けるために自分たちの学んだことを教え、そしてコンテント開発、伝達、普及活動を行わなければなりません。モンゴル全国のアイデンティティについてよく話します。このアイデンティティに関して「モンゴル人とは誰なのか、何を求め、どこへ行くべきなのか」という質問に答えられるようにならなければいけないと考え、そのために私たちは活動しています。

J: 私たちモンゴル人がモンゴル人たらしめているものは何ですか?

ガンゾリグ: 弊社はこの質問の答えを得るために設立されました。そして答えを得るためのソリューションは鉄道や工場を建設する様なことではなく、コンテンツを通じて人々の精神に影響を与える形で答えを求めて行きます。

J: こうやって見ると教育は4つの基本から成り立っていますね。知識、創造、人間形成、共存。モンゴルの教育制度は知識だけを与えています。先ほどあなたが話していたことを総合的に見た時、モンゴル社会全体において足りないものは何ですか?

ガンゾリグ: 1年前にハーバード大学が実施した調査があります。この調査では世界中にポピュリズムがどうして広がっているのか?その原因として日々流れている様々なメディアの中から人は自分の興味がある、好きな知識、情報のみを得るチャンネルを選択できるようになっています。また、何らかの形で自分の興味を引かないチャンネルを遮断できるようになっています。一部の人々はより肯定的な情報を受け、その情報の中から出られなくなっています。他方ではそれと全く逆のスキャンダルや悪い情報ばかりを信じる人たちもいます。この2つが合流せず、将来的に同時に2つの異なる生活が形成される恐れがあると記述されていました。モンゴルでもこの恐れがあります。この問題をどのように解決するかということをS.モロル・エルデネさんが講義で話していました。彼は、一方では暗い情報をばかりをみている過半数と、他方では、肯定的な情報をみているエリート層に分けて事例を出しながら説明していました。

ガンゾリグ * ジャルガルサイハン