医薬品及び医療機器の管理、規制のための新しい機関が設立
薬事管理システムは改善されるか
内閣が提出した医薬品及び医療機器に関する法案が国会で議論されている。法案によれば、新しく独立した機関として医薬品及び医療機器を管理、規制する庁を新設し、医薬品の価格と品質を管理できるようになる。国会での協議中、L.エンフアムガラン議員は、輸入される医薬品の3つに1つが未登録で、品質が定かではなく、他国と比べて5〜6倍高い価格となっていると発言した。以前、財務大臣も同じことを言っていた。
モンゴルではどういう問題が起きているのか。モンゴルの医薬市場は、国家による介入が少なく、民間企業に委ねている。2019年の統計によると、全国で40の製薬工場あり、医薬品を市場に提供する企業は356社ある。薬局1,541店舗のうち、591店舗が地方、残りがウランバートル市にある。登録済みの医薬品4,696種の4分の1を国内で生産している。国会議員らは、国内で生産する薬の中に、品質が良くない薬もあり、様々だと言っている。残り4分の3は、世界58カ国から輸入している。インドから一番多く、輸入量は12%を占める。他に韓国からは9%、ロシアから6.4%、ドイツから5.8%となっている。
モンゴルは2019年度、医療分野に8,230億トゥグルグを費やした。これは歳出の7.2%となっており、その14%を医薬品の購入に充てられたという。医薬品の購入に多額の資金が投じられるわけだが、その品質には問題が伴う。モンゴルでは、医薬品の品質を保健省ではなく、国家専門検査庁が管理している。国家専門検査庁は、全ての専門分野において検査を行うため、人手不足も当然に考えられる。年に400カ所の薬局、つまり全薬局の4分の1に対して検査を行っているという。2014年に行った検査では、一般的に広く使用される9種類の医薬品からサンプルを採取して分析した。その結果、基準を満たさない医薬品が地方では17%、ウランバートル市では13%確認されている。未登録の医薬品は、地方では22%、ウランバートル市では18%となっている。つまり、未登録の医薬品が地方でより多く販売されているということだ。
2004年の調査結果では、モンゴル政府が購入する医薬品の価格は、世界水準の2.4倍で、薬局で売られる時点で4倍になっていることが分かった。2012年の調査でも同様の結果だった。モンゴル人は、薬を食事のように摂っている。医薬品の価格がなぜここまで高いのか。国営病院は統合されていない入札によって、それぞれの病院が医薬品を発注している。県と区も独自の入札によって購入するが、この入札が透明性を欠く。購入する際、国際水準の価格と比べて基本価格を設定する必要があるが、そうしていない。国営病院は、統合物価指数をはじき出し、基準価格を設定しなければならない。
医薬品の管理を独立した管理機関が担うことは適切だ。例えば、アメリカでは食品医薬品局(FDA)という機関がある。FDAの許可に基づき、また、FDAの定める量、限度においてのみ医薬品を販売することができる。こうして、国民の健康を守り、調査を行い、証拠に基づいた決定を出す。また、FDAのような機関が新しく設立された場合、国同士で相互に情報交換をすることができる。最新の安い価格の医薬品を探すのにも便利だ。こういう機関を国家専門検査庁の元で設立することは出来ないので、新しくこの機関を設立しようとしているわけだ。
国民が購入する医薬品の価格が高く、人々が健康のためにかける支出の6割が医薬品の購入に使われている。価格を安くするためには、季節的や必要不可欠の薬を免税にすべきだ。国民の健康が何よりも大切だからだ。政府は、国民が病気にかかった後ではなく、予防のための政策を実施し、国民も普段から運動したり、きれいな空気を吸うために遠出したり、自転車に乗ったりすべきだ。政府もみんなが登山や散歩ができるような安全な環境を作るべきだ。インドでは、2種類の保健省がある。予防と治療の2つの専門だ。モンゴルでは、この予防を誰が担当するのかという疑問が出てくる。
2021年度の予算案が議論されている
赤字予算をどう補填するか
2021年度の予算案が国会で議論されている。予算法の規定では、11月15日までにこれを可決しなければならない。国家予算はいつも楽観的に見積もり、赤字が出る。そして、それをどう補填するかという問題が生じ、解決策もすぐに見つかる。今年の上半期は、経済が9.7%減少した。輸出は28%、輸入は15%減った。これが第3四半期に徐々に増加し、年末には経済減少が2.4%となる見込みだ。2.4%の経済減少ということは、去年より減少率が低い。新型コロナウイルス感染症の拡大時の減少率としては、悪くはない。経済が10%減少する国もある。総選挙後、政府は2020年度の財政見通しを発表し、予算不足がGDPの12.5%と匹敵するという。
政府は、2021年のモンゴル経済は6%成長するとみている。世界銀行は5.6%とみている。予算案の詳細はどうなっているのか。歳入から将来のために貯蓄する分を引いて、2021年度の収入は2020年度より2.8兆トゥグルグ増加するとしている。政治家は得られるであろう収入をとても楽観的にみる。しかし、現実はそれを下回る。例えば、毎年4200万トンの石炭を輸出するというが、1度も達成したことはない。最大で2019年に3600万トンの輸出である。今年は、それよりも低くなるようだ。こうして、歳入が増えるからといって、歳出を増やしていく。歳出は2020年度より減少し、13兆トゥグルグになるという。
経済学では、政府歳出額をGDPに比較する。急成長国、発展国では17〜18%が普通だとされる。発展途上国はそれより高い。モンゴルは、2020年度38%となっていた。これは高い数字だ。国家の経済における役割が40%近いということだ。来年度は30%にすると計画している。しかし、モンゴルの計画と現実のギャップは常に大きいものになる。GDPの5.1%にあたる2.2兆トゥグルグの赤字になると考えられる。これをどのように補填するのか。外国から1.2兆トゥグルグの借金をする。安定化基金から1,560億トゥグルグを調達する。外国からの借款、支援で2,960億トゥグルグ、対内債券発行から5,000億トゥグルグを調達すると考えている。
内閣は借金に借金を重ね資金調達をしている。2020年9月時点で、2020年だけで9.3兆トゥグルグの借金をしている。国会では7月以降、3億5,300万ドルの借金をしたことが話されていた。モンゴルの対外債務は増加している。対外債務総額は308億ドル。政府の対外債務は70 億ドルだったが増加し続け、すぐに80億ドルになるだろう。最近、国際開発協会(IDA)から2,000万ドルを借り入れた。30年の返済期間で、1.25%の利率だ。最初の5年間は猶予期間で、元金の返済が免除される。
また、中国籍出資者の多いアジアインフラ投資銀行(AIIB)から1億ドルの融資を受ける。疫病感染時のソフトローンで、16年間の返済期間、0.25%の利率だ。最初の3年間は返済猶予期間となる。このように、金利が安かったら借金をするという風潮が政府内にあるようだ。利息が低いから、有益だという。しかし、有益な借金をしても良いが、その資金を有益に使っているかと国民は政府に問うているのだ。長期間の借金だと、返済時に今の国会議員たちは変わっている。
政府はこれに関する報告をしない。チンギス国債という債券発行について、どういう国債を誰が、何に、どのように使ったかを政府はいつ明かすのか。多くの人が起訴されていて、前の政府関係者がこれらの事件を解決し、然るべき者に責任を取らせると言っていたが、結果が伴っていない。時効を迎え、責任を取らずに済んでいるようだ。不当に得たお金を持って去るのか、現金がどこにあるのかも分からない。オフショアから取り戻すというが、実現は難しい。
このように政府は私たちの名で借金をし、それを不当に使い、外部監査を受けても報告を一切しない。モンゴルには予算独立委員会という名の組織があるが、本当に存在しているのだろうか。その委員会の報告を聞きたい。モンゴルでは、政治に対して外部監査などパブリック・ガバナンスが機能する機会が少なく、またこれを政治家は封じする。
2021年に3.5兆トゥグルグの投資をすると言う。石炭輸出からの収入を原資に投資するという。どのように投資をするのか。例えば、ソンギノハイルハン区には32万7千人が住んでおり、1人当たり20万トゥグルグの投資を配分している。バヤンズルフ区には36万千人が住んでおり、1人当たり16万トゥグルグの投資を配分している。ヘンティー県には7万6,700人が住んでおり、1人当たり160万トゥグルグの投資を配分している。バヤンホンゴル県には8万8,000人が住んでおり、1人当たり140万トゥグルグの投資を配分している。
ヘンティー県には、2021年に総額1,258億トゥグルグ、90の開発事業を実施する。例えば、ヘルレン郡に130億トゥグルグで1,500人定数の学校を建設する。その62億トゥグルグを今年の予算案に入れている。ヘルレン郡の住民は2万2,961人だ。バヤンホンゴル県には29の開発事業を実施する。1,240億トゥグルグの投資を来年度の予算案に入れている。例えば、29億トゥグルグでバヤンツァガーン郡に320人定数の学校を建設する。バヤンツァガーン郡の住民は3,590人であり、郡の中心部に587人が住んでおり、3000人が郊外に住んでいる。ボルガン県には85億トゥグルグで17の開発事業を実施する。ボルガン県には6万が住んでおり、1人当たり14万2千トゥグルグの投資を配分している。人口に比例してみるとこうだ。地域に予算を配分するのに、どういう原則、政策で配分しているのか。高い地位の国会議員の選挙区域に多く配分されているのか。どういう原則が働くべきなのか。ヘンティー県では、観光を発展させるといって建設事業を進めている。では、この原則を県の開発指数とどう関連付けるべきなのか等、様々な問題が生じる。
モンゴル国家行政・地方単位管理法改正の議論
モンゴルはいつ地域開発が統一されるのか
モンゴル国家行政・地方単位管理法改正について議論されている。これは非常に重要な法律であり、多くの問題を抱えている。開発というものは全国統一されるのか。この法律は民主化後の新憲法に合わせて1992年に制定された。これは地域の行政管理関係を定める主要な法律だ。2006年に改正し、その後20回に渡り修正されてきた。2006年には、それまで垂直だった地方管理制度を廃止した。2012年にはこれを元に戻した。1994年に3つの都市を県にした。ダルハン、エルデネト、チョイルの3都市だ。様々な原因はあるが、主に選挙が近づくとこういう選挙区の変更等をする。これが間違っていたことを20年以上経ってから気づき、憲法改正の際に都市に戻すという。都市に戻すのだったら、そもそもなぜ県にしたのか。誰の責任なのか。このように無計画に変更することによって、人々の生活を無駄に乱すことを止めるよう政府に要求すべきだ。この法律の改正に市民は積極的に参加すべきだ。私たちの住所も変わるのだから。
モンゴルの国家行政・地方単位はソ連時代のまま続いてきた。1923〜1929年に十家、バグ、群、ホショー、県という単位だった。1929〜1932年にこれを改め、十家、二十家という十家制度に移った。1932年以降、新しく県を作った。地方に、バグ、群、県という単位を作ったのが今まで続いている。地方の人々への行政サービスを身近にするために、バグを再び採用することにしたのである。首都では、新しくホローという単位を作った。こういう変化を経て、今日は事実上、地方では21県、330郡、1,613バグがあり、首都では9区、152ホローあるが、今、規則上変わろうとしている。
2007年には1,539のバグがあった。1つのバグに平均376世帯、1,544人が居住する。モンゴルの最も小さなバグは44世帯のフブスグル県トゥネル郡バヤンエルヘットバグだ。最も大きなバグは1981世帯のオルホン県バヤンウンドゥル郡シャンドバグだ。ここで様々な問題が生じる。郡の土地ははっきり分かるが、バグには明確な土地の境界線がない。2017年には新たに74バグを追加し、1,613バグとなった。バグの区域、境界線を明確にしない。法的決定もない。憲法の趣旨に照らしてみると、地方自治の中心は郡だ。そのため、最低限の公共サービスを郡において提供すべきだ。しかし、今ある郡の半分以上で人口が3,000人以下となっている。郡の土地はヨーロッパの国よりも広いことがある。憲法の規定により、郡の土地を国会が決定する。距離が近く、経済的に独立できない郡を統合する。
昔はどうだったのか。1640〜1923年まで、モンゴルには5つの県があった。トゥシェートハン県、ツェツェンハン県、ザサグトハン県、サインノヨンハン県、ジェブツンダンパ・ホトクトの5つのシャビからなるホショーがあった。このホショーは、宗教のための資金を調達していたため、免税の対象とするホショーだった。清朝統治時代に出来た5つの県、ホショー等の土地と地名を1931年に変更し始めた。そうしてできた13県を1952年〜1990年の間に18県とし、1994年にダルハン・オール、オルホン、ゴビスムベルの3つを県にし、21県となった。このように県を作ったのは、国会に席を置くためだと言われている。
国家行政・地方単位管理法改正は、前国会が4月に議論し始め、国家組織常任委員会に送られた。新国会は7月3日、法案の準備、意見やコメントをもらう作業をスフバートル議員の指揮の元で進めている。これに関し、国民を広く参加させた議論やディベートを開催すべきだ。法案改正に関わる主要な国会議員やバグの代表者等を参加させるべきだ。なぜなら、市民の一番身近で機能する行政機関はバグ、ホローだ。総選挙後に、バグ、ホローの長を任命する際にも政治取引をしようとする。
今回の改正法案にはこういう趣旨がある。郡、区では政党から立候補しない。もし、無責任な行動をすれば、市民代表議会を解散する。地方に予算、徴税の一部の権限を与える。市民代表議会が合理的な理由なしに仕事をしない場合、義務を履行せず、市民の信頼を失った場合、政治的になっている場合、これを止める制度を作っている。県、首都の知事の提案に基づき、内閣が市民代表議会を解散する。モンゴルは中央集権国家だ。今の法制度のもとでは、市民代表議会から当該自治体の知事に立候補する。改正法案によれば、内閣総理大臣や上級知事が下級知事に候補者を立てることができるようになる。これはどういうことかというと、内閣総理大臣が自分側の人物を各階級の知事に任命できるようになってしまう恐れがあるということだ。政党から指名されていない首都知事、県知事、郡知事、区知事が国の政策を実施しなかった場合どうするのか。この場合、上級の知事もしくは内閣総理大臣が責任を負う。
地方が経済的にどのように独立できるのか。これについて、予算法に修正を加えている。そこには、新しく家畜の頭数に応じて課税することに関する法律を制定するという。税収から地方開発基金に割り当てる形だ。1頭の家畜に2000トゥグルグまでの税金を課すことができ、その税額は当該地方が自ら決める。ここで、遊牧などで移動し続ける者に対する税金はどうするかが問題となる。経済的に独立させるためには、首都の問題も出てくる。予算は首都ではなく、行政地区単位に配分される。首都があり、市がある。公共サービスは首都の行政機関とウランバートル市の行政機関のどちらを通して市民に届くべきなのか。首都とは一体どの区域を指すのかなど様々な課題がある。法改正は調査に調査を重ね、慎重に行わなければならない。
ダムバダルジャー・ジャルガルサイハン