国家大会議は最高裁判事候補を拒否
銀行の代理となる裁判所
モンゴル最高裁は、最高裁判所判事24人と長官1人の合計25人で構成される。最高裁判所判事は、モンゴル裁判所評議会が指名し、国家大会議の承認を得て、大統領が任命する。モンゴル裁判所評議会は先週、ツォグトとバトフレグの2名を最高裁判所判事候補と指名した。国家大会議はツォグトを承認し、バトフレグを承認しなかった。バトフレグを最高裁判事に任命しない理由は、法律に違反すること、また倫理要件を満たさないことの2つだ。最高裁判所判事になる者は、控訴裁判所で5年以上の実務又は弁護士、裁判官、検察官を10年以上務めた、又はモンゴル法曹協会の認定を受けた法律学校で10年以上講師を務めた者でなければならない。バトフレグはNGO等で講師、研究者を務め、10年間弁護士を務めたという。裁判所評議会が、バトフレグを最高裁判所判事に指名しているのは今回で2度目だ。裁判所評議会の議長バトバヤルは、2020年5月にもバトフレグを指名したが、国家大会議は結論を先送りにし今日に至っている。必要な審査を経て、裁判所評議会の過半数の賛成でバトフレグを指名していると述べた。
国家大会議がバトフレグを承認しなかった理由を考察してみる。最高裁判所は、正義を実現するための司法権を担い、判例を作る終審裁判所だ。しかし、法務大臣ニャムバータルはこう発言した。「ゴロムト銀行のバヤスガランという人物はその貪欲さを抑えるべきだ。社員を国会議員に立候補させ、タワントルゴイの鉄道事業を入札無しに手に入れた。今度はその顧問弁護士を最高裁判所判事に任命させようとしている。」
法務大臣がこのような発言をするということは大きな問題であり、言われているようなことが実際にあった可能性が高い。実際、バトフレグの社会保険料が2006〜2015年の間、ゴロムト銀行から支払われている。なぜ、ゴロムト銀行が身内を最高裁判所の判事にさせたがっているのかを聞く国会議員もいた。エンフバヤル国会議員はこう発言した。「バトフレグと裁判所評議会会長バトバヤルは、共にロシアへ留学していた友人である。そのため利益相反がある。バトフレグはトスト・トソンボムバ保護区域で操業する鉱山企業の株主だ。トスト・トソンボムバ保護区域では、労働災害等の問題も生じている。」
他の国会議員も、バトフレグは銀行の人間であり、まだ公判中のトスト・トソンボムバ事件との関係もあるため、最高裁判所判事に任命することは適切ではないと言っている。また、裁判所評議会議長のバトバヤルは、2019年の2月に裁判所評議会のメンバーになり、大統領の命を受けて、同年11月に議長に就任した。銀行や裁判所の繋がりが腐敗との戦いの妨げになっていることについては「エルデネビレギズム」という記事に書いてある。腐敗問題が拡大し、あらゆる分野において権力闘争が続いている。政府をエンジンとするビジネスが誕生している。国家大会議、政府、裁判所に自らの代理を送るために競っている。
司法の独立、正義の実現は民主主義の保障だ。権限が誰にあるかに関係なく、公正な裁判が行われるようになるのはいつか。ユナイテッド・エナジー社の社長ミシグの息子で行政裁判所の裁判官バトソーリは、政府の提訴を3回却下した。この件で裁判所が贈収賄事件を揉み消そうとしているとして、国家安全保障評議会が裁判所、検察庁、賄賂対策庁の責任者を解任できる法律を制定している。
憲法改正に伴う裁判所法がいつ制定されるか待たれている状況だ。これに関しては大統領府と与党がそれぞれ法案を提出している。ただ、国家大会議議長は、これらの法案を議論する時間を取らないという。最高裁判所長官とは、最も強い役職なわけだが、その職に就いていたバトスレンは11ヶ月で辞職している。理由は不明だ。そして以前拒否されたガンゾリグが就任した。国民は司法のこれらの動きの理由、そこではどういった問題が起きているのかを知るべきだろう。
モンゴルの三審裁判所は全部で117カ所あり、523人の裁判官がいる。一年間に一人の裁判官に割り当てられる訴訟件数は、2018年に125件だったが2019年には195件に増えた。裁判官一人が担当する件数があまりにも多いため、事件解決に要する時間が長くなる。この傾向は、政府とビジネスが混同し、腐敗問題が深刻化した状態のままでは改善されないだろう。
Discover Mongolia 2020フォーラム
主要セクターの発展は妨げられているのか?
10月30日、今回で18回目となるDiscover Mongolia 2020フォーラムが、シャングリラホテルにて開催された。プライムインフォ株式会社が主催し、モンゴル国立鉱業協会とエルデネス・モンゴル公社が共催に名を連ねた。アメリカ商工会議所副会長N.ムンフナサンが投資環境をテーマに基調講演をした。講演内容は、モンゴルの法規定に矛盾があり、人材育成が不十分だということだった。パネルディスカッションは、投資環境の改善、法改正と透明性というテーマで行われた。鉱業・重工業大臣G.ヨンドンは、秋期国会で鉱物資源法、石油法、その他の関連法の改正案を提出すると述べた。ちなみに、鉱物資源法は、ほぼ毎年改定されている。
そもそも国家大会議は、立法に関する法律の規定を守っていない。国会議員G.ダミダンニャムが重要な問題に触れた。彼は探査ライセンスの発行を再開すべきであると主張した。それから、採掘及び生産からの収益の平等な分配、鉱業はモンゴル経済の主要セクターであることを認めるべきだということにも触れた。
またエルデネス・モンゴル公社のCEO:D.ハヤンヒャルワーが報告をした。政府は6つの金採掘プロジェクトをエルデネス・モンゴル公社に譲渡している。予測埋蔵量34トンのフレン・ツァブ金鉱、予測埋蔵量53トンのオボート・ヒャル金鉱などだ。エルデネス・モンゴル公社管理の鉱山が増えているということだが、透明性は今まで不十分だった。これからどうなるか注視する必要がある。今日のモンゴルの鉱業が直面している問題は何かについて、世界銀行のエコノミストJean-Pascal Nganouが「マインズとマインド:両天秤策」というテーマで報告をした。この報告は世界銀行がモンゴルの鉱業について出したレポートだ。そこでは、今日のモンゴルを支えるのはマインズ(鉱業)だが、将来モンゴルを支えるのはマインドであるべきであり、鉱業からの収益を人材育成に活用すべきだということが述べられた。モンゴルは人的資本を十分に活かしきれていない。組織開発が未熟だ。資本の多様化は経済の多様化へと繋がるが、投資を多様化していないから輸出及び生産の多様化が貧弱であるとのことだ。
モンゴルの鉱業が直面している問題はいくつか考えられる。まず、安定性がないこと。景気循環に振り回されるのではなく、これを安定させるマクロ経済政策を実施する必要がある。
次に、労働生産性の向上を支援すべきだ。生産性を上げ、雇用創出を増やし、競争力を付けさせるべきだ。さらに、組織開発及びその透明性にも注意しなければならない。特に鉱山採掘における契約関係、ライセンス取得状態、担当弁護士に関する情報などを公開すべきだ。また、予算投資管理を改善すべきだ。得意とする産業部門と製品を支援する必要がある。
Discover Mongolia 2020フォーラムのモットーは、経済回復のキーは鉱業だというものだった。世界中で海外への直接投資は減少している。国連貿易開発会議(UNCTAD)によると、例年に比べて2020年に40%、2021年には5〜10%減少する見込みだ。モンゴルにとってこれは致命的な問題だ。鉱業はモンゴル経済を回復させるための重要な手段であり、外国からの直接投資が強く影響する。しかし、法規定に矛盾や瑕疵があることがフォーラムで話し合われた。まとめると、外国投資家に対して信頼を確立する必要があり、どちらか一方に有利ではなく、両方に有益な協力関係を築くべきだ。また注意しておきたいことは、モンゴルは探査ライセンスの新規交付を止めている。今は、この膨大な国土の10%くらいを探査しているにすぎない。探査を中止するということは、どこに何が埋まっているか分からないということだ。どこにどれくらいの投資をすべきか、その区域を拠点とする都市開発計画もできない。フォーラムの参加者たちは、探査ライセンス交付を再開すべきだと主張した。また、精製工場を建設し、付加価値を付け、世界中に輸出できる製品製造を鉱業分野が担う必要がある。そしてそこからの収益を人材開発に活用するという趣旨のもとで今回のフォーラムは開催されたのだ。
教育制度改革のための討論
教育分野の諸問題の解決
モンゴル国立大学に務めていた2人の国会議員と研究者の提案で、国家教育制度の改善のための全国討論会が3回にわたって行われた。教育分野に務める教職員の代表者を幅広く参加させたものとなった。1回目は9月4日に国会議事堂で行われた。2回目は9月24日に小中高校での英語教育をテーマに行われた。3回目は11月2日、義務教育の制度を世界水準に引き上げることをテーマに行われた。
3回にわたる討論では、モンゴルの教育制度における諸問題を明確にし、その解決策を探った。討論をまとめて、国会議員Ch.ウンダラムはこう述べた。「ケンブリッジ・プログラムを実施している3つの学校では、現在のプログラムを継続していく。その教育法の良い例を国家教育制度に取り入れる。」
2021年からモンゴルは教育評価システムを新たに導入する。そこで、ケンブリッジ・プログラムをめぐる議論が活発に行われている。このプログラムを導入するための費用を予算案に入れたとのことだ。これは、生徒たちがこの教育法によって教育をきちんと受けているかどうかをチェックする、国際的に共通の教育評価システムを導入するということだ。また、教員や学校を現実的に評価できる制度を導入するという。
2021年から教育の配置調査をする。モンゴルは教育の配置調査をする必要がある。なぜなら、地方では生徒数が足りず、首都では教室が足りない。一部の村では、1クラスは4、5人の生徒だけだったり、1人の教員が多科目を教えていたりする。だからこの教育の現状が地域開発とどのように関連しているかを調べるとのことだ。
国会議員G.ムンフツェツェグは教育分野の予算及び法律についてまとめ、教育基本法を改正すべきだと述べた。2002年5月3日に制定された教育法という法律がある。この20年弱の間で最も多く修正された(26回)法律の1つだ。首都への人口移動に伴い、一人の教員に割り当てられる生徒数が急激に増え、教室も足りない状態になったとのことだ。現在、教育科学大臣の命を受けた調査チームが教育法の改正案を作成している。
教育分野の予算を教員に振り分けたいという。今まで予算の多くが建物に向けられてきた。これを人材に向けるべきだ。2020年の教育資金の調査結果によると、ゴビスンベル県以外の全て県において学生寮が十分だということになっている。本当にそうだろうか。また、2021年の予算では、11県に28の学生寮を建設することになっている。これは十分なのかという疑問が挙げられていた。
教育分野における問題はいくつかある。まず、2020〜2024年の政府の計画にも含まれていることだが、学校、幼稚園、学生寮に、穴を掘っただけの簡易トイレではなく、まともなトイレを設置することだ。これについて、エルデネト鉱業も社会的責任の一環として取り組んでいるようだ。これに他の企業も追従すると良い。特に、国会議員は地元の自分が卒業した学校が簡易トイレになっているかどうかを確認し、それを改善するために出来ることをやるべきだ。また、村に公衆浴場を建設すべきだ。
もう一つの問題について、学校の教育に不満を抱える親が子供に良い教育を受けさせるために個人レッスンや塾に通わせるという。一方で、教員は給与が低いため、学校の業務よりも個人レッスンや塾の仕事に力を入れるようになっている。この問題は、全国どこでも平等に教育を受ける権利に悪影響を及ぼしているということだ。影の経済とは、税から逃れる現金授受でなされる経済を指す。研究者によると、影の経済はモンゴルの経済の15%〜20%を占めている。教育分野での影の教育による金銭取引を具体的に示すことは難しいが、事実上の問題だ。義務教育の質やマネジメントが、生徒や教員にとって望ましいものになるまでこの影の教育は無くならない。影の教育を取締り、無くすことが目的ではなく、義務教育の質を全国において向上させることが目的だ。
ダムバダルジャー・ジャルガルサイハン