モンゴル外務大臣のロシア公式訪問

ユーラシア経済連合と自由貿易協定を結ぶ問題を検討する。

2019年にプーチン大統領がモンゴルを訪問した際、モンゴル‐ロシア両国の包括的戦略パートナーシップ協定を見直し、更新した。この包括的戦略パートナーシップ協定は20年間の期限付きで締結されたもので、2019年にその期限を迎えた。更新するにあたって期限条項を見直し、無期限とした。

この協定を国会で承認されたと両国の外務大臣が発表し、署名式が行われた。こうして新たな包括的戦略パートナーシップ協定が結ばれた。それを踏まえて両国の外務大臣が話し合った主な議題は1.ユーラシア経済連合と自由貿易協定を結ぶことについて。2.ウランバートル鉄道の運営改善についてである。

2021年は、ロシアとモンゴルの国交樹立100周年となる。これは歴史的に重要な行事である。この節目の年を迎え、両国首脳の公式訪問が行われる。訪問の詳細はまだ発表されていない。また、2021年を両国の貿易経済協力活動を拡大させる年にするということで合意済みである。

モンゴルとロシアの経済協力活動を鉄道から始めるべきである。まずここでは貿易と鉄道について中心に話したい。

ロシアとの貿易高は18億ドルであり、20億ドルに達していない。またロシアとの貿易はモンゴルにとって赤字である。ロシアとモンゴルの貿易総額では、モンゴルは輸入の99%、輸出の1%を占めている。2018年の金額ベースでは、輸出が6,800万ドル、輸入が17億米ドルとなっている。輸入製品の大半をガソリン、燃料が占めている。

完成した製品の輸入に関して、モンゴルの関税率は5%である。しかし、ロシアの平均関税率は20%である。モンゴルの完成した製品とは、カシミアやウール製品のみであり、その他は原料である。このカシミアやウール製品にとって20%の関税率は大きな障壁となっている。

鉄道に関しては、常に赤字経営である。ウランバートル鉄道はロシアとモンゴル双方が出資する国有の合弁会社である。そのため鉄道利用料金やサービス料に自由裁量が認められない。2019年第4四半期の時点で140億トゥグルグの赤字を出している。

鉱山から発電所までの国内の石炭輸送費を引き上げると電気料金の引き上げにつながるため、輸送費引き上げは容易ではなく赤字運営となっている。その背景には、モンゴル政府が電気料金を安価に維持する政策をとってきたためだ。

他方、ウランバートル鉄道は世界でも歴史のある(老朽化した)鉄道の1つである。そのため、ウランバートル鉄道は電化されておらず、ディーゼル機関車で稼働している。ディーゼル燃料の輸入に関して特別税、付加価値税が免除されているものの、この鉄道はいつも赤字である。

モンゴルでは、インフラとしての鉄道とそこで使われる列車などの機械設備を、独占を防ぐ目的で法律や規定が立てられているが、それはしっかりと施行されていない。そのため、ウランバートル鉄道会社だけ独占的にモンゴルの鉄道を仕切っている。もっと民間鉄道会社の参入を促し、既存のウランバートル鉄道の独占を解体しなければならない。

2019年にプーチン大統領がモンゴルを訪問した際、モンゴルはロシアから1,000億ルーブルの融資を受け、その資金で鉄道の運営改善を行うと決めた。しかし、この改善のための取り組みは新型コロナウイルス感染症の影響で止まっている。鉄道に関してはこれだけではなく、他にも解決すべき問題が山積みとなっていることを強調したい。

鉄道の貨物輸送量は増加傾向にある。貨物輸送量は2018年に2,500万トン、2017年に2,200万トン、2019年に2,800万トンと増え続けている。

自由貿易協定に関しては、「ユーラシア経済連合」という組織があり、そこにモンゴルを招待している。ユーラシア経済連合にはアルメニア、ベラルーシ、カザフスタン、キルギス、ロシアなどの旧ソ連5ヵ国が加盟している。今回のモンゴル外務大臣のロシア訪問時には、モンゴルのユーラシア経済連合への加盟を検討するワーキングチーム立ち上げについて合意した。モンゴルの他にインドネシアもユーラシア経済連合への加盟を検討しているという。

モンゴルがユーラシア経済連合へ加盟することで貿易額は2億5,000万ドル増える可能性があると言われる。モンゴルの市場は開放的であり、関税率も5%である。モンゴルの周辺国の関税率は高く、自国の国内生産者を保護している。

今までにモンゴルが自由貿易協定を展開した国は日本だけである。日本との貿易高は2015年に2億9,400万ドルだったのが、4年後の2019年に6億ドルと2倍に増加した。だが内容を見ると、日本からの輸入量が2倍に増加したものだった。貿易赤字が膨らんだ形だ。

結論として、モンゴルは外国の基準を満たす製品を輸出できていないということである。モンゴルにはカシミア、ウール、食肉の他に輸出できる製品がない。そのため、モンゴルにとって自由貿易協定が有益なのかどうか疑わしい。従って、モンゴルは他国との自由貿易協定を結ぶ際、自分たちの輸出できる製品や品質、発展などを十分に考慮し、慎重に検討すべきである。


IMFによる拡大信用供与プログラム

このプログラムは主な目的を果たせられなかった。

モンゴルが国際通貨基金(IMF)に加盟したのは1991年のことだ。以降、モンゴルは過去20年間にIMFのプログラムを6回も受けている。モンゴルは、自分たちの予算や返済問題に行き詰まった時にはいつもIMFに救済を求めてきた。それに対してIMFは、相対的に低金利での融資を提供し、モンゴルはそれを特定期間後に返済してきた。

IMFは6回に渡り総額8億3,400万ドルのプログラムをモンゴルに対して実施した。最後のプログラムは2017年に締結した「Extended Fund Facility(EFF):拡大信用供与措置」による総額4億3,400万ドルのプログラムだった。このプログラムの実施期間は3年で、2020年5月23日に完了した。

他にも特別引出権というものがある。モンゴルはこれによって3億1,400万ドルの融資を受けるはずだったが、モンゴル政府はその半分だけを受けた。そのため、この拡大信用供与措置において実施されたこと、実施されなかったことについて話したい。

  1. 社会保険料、所得税を2018年からそれぞれ1%引き上げた。
  2. ガソリン、酒、タバコなど6〜7品目の特別税率を引き上げた。
  3. 長期的に定年年齢を引き上げた。
  4. 重複する社会福祉制度を削減すると合意した。しかし、実際には削減されなかった。モンゴル政府は削減するどころか、逆に増やしている。そのため、これは実施されていない。
  5. 児童全体の60%に給付していた子ども手当を40%まで削減し、削減された20%に食糧券を給付することになった。しかし現在、モンゴル政府は子どもの60%ではなく、全児童に子ども手当を給付している。給付額も2万トゥグルグから10万トゥグルグに引き上げ、毎月給付している。従って、この項目も実施されていない。
  6. 給与や年金を2年間引き上げないと合意した。これは実施されている。
  7. 預金金利への課税について、合意通りに預金金利収入の10%を徴税するようになった。
  8. これまで締結してきたコンセッション契約を見直すと合意した。IMFは、一部のコンセッション契約は赤字が大きい、もしくは価格が高すぎると指摘している。
  9. 住宅ソフトローンプログラムの利息を現状の年8%で継続すると合意した。しかし、モンゴル政府は2021年から年利6%に引き下げると決定した。これは国家予算において大きな負担となっている。

IMFは、モンゴル政府が実施すると合意したことを十分に履行していないことを指摘し、この拡大信用供与措置の目的は十分に果たせられていないと考えている。またIMFは、モンゴル国内の商業銀行に監査を実施し、自己資本比率を違法に引き上げていることを指摘した。これをモンゴル銀行(中央銀行)は確認したが、商業銀行側は認めなかった。さらに商業銀行は自己資本比率を引き上げた財源について未だに具体的な説明をしていない。このような状況の中で、IMFの拡大信用供与措置の実施期間が完了した。


モンゴルにおける児童虐待の現状

政府と社会的責任

全国で家庭内暴力の件数が増加している。2020年8月と2019年8月を比較すると、認知された家庭内暴力の件数は30%増加している。8月だけでみれば、家庭内暴力に関する認知件数は7,394件に上る。1日約240件が登録される計算だ。新型コロナウイルス感染症の影響により、世界中で家庭内暴力が増えているとマスコミで報じられている。

モンゴルでは家庭内暴力、特に児童虐待の件数が多くなっている。虐待の原因は何なのか?

心理学者によると、「家庭内暴力は意図的な行為であり、見知らぬ人に対して行っている行為ではない。家族に暴力を振っている。家庭内暴力は主に夜間の時間帯に家庭の中で目撃者がいない状況下で起きている。暴力や虐待をしている人は、自分の怒りや不満を誰にぶつけているかを認識している。彼らは自分より弱い女性や子どもにその怒りをぶつけ、暴力を振っている。暴力は貧困に関係なく、社会のどの層でも起きている。」という。

また、家庭内暴力の背景には誤った結婚があり、男女は時間をかけて付き合うことなく、一時の感情にまかせ出会ってから2〜3ヶ月で結婚していると心理学者は指摘している。心理学者は結婚する相手の性格、家族との関係、子どもに対する接し方など、あらゆることに時間を掛けて慎重に見極めるように助言している。家庭内暴力では子どもが最も被害を受けている。

モンゴルには児童保護法という法律がある。児童保護のために、社会には5つの環境が必要だと定義されている。それぞれの環境で児童を暴力や虐待から保護するべきだと定めている。その5つの環境とは、家庭、教育、医療、マスコミと電子、公共の場である。つまり、モンゴルはこれらの環境において、児童を保護する義務がある国だということだ。

例えば、公共の場での暴力から児童を守るために、政府は定年を過ぎた152人の大人を児童保護者として市内に配置している。その費用を労働・社会保障省が負担している。児童保護者は、子どもを助けるために市内を巡回している。新型コロナウイルスの影響によりその活動が停止していたが、10月から再開するという。

児童保護法ではこれら社会の5つの環境における児童虐待を明確に禁止している。モンゴルは世界で児童保護法を有する49番目の国となっている。モンゴルの児童保護法では、子どもが危険な状況にいることを目にした、もしくは疑われる、または知った場合、関連機関に必ず通報することが国民の義務であると定めている。社会における不正な行為や違法な悪事を暴露、通報することを「ホイッスルブローイング(Whistle Blowing)」という。しかし、モンゴルではこの「ホイッスルブローイング」が定着していない。それには様々な理由がある。

モンゴル政府は家庭内暴力、とりわけ児童虐待の問題に対して何をしているのか?モンゴル国憲法には家庭、母子、子どもの安全を国が保障すると定めている。また、児童保護のための緊急ダイアル108番がある。もし児童が虐待を受けていれば、本人もしくは目撃者がこの108番に通報する。また、警察の102番もある。ウランバートル市9区全てに警察署があり、そこに家庭内暴力及び児童虐待防止を担当する警察官がそれぞれ1人いる。この担当警察官の数は全国で20人だという。更に社会福祉・労働省の管轄で全国に55人の児童権利審査官がいる。警察機関に児童虐待保護のための予算は設けられていない。警察機関に対して犯罪防止活動予算として年間8,000万トゥグルグが国から充てられている。

児童虐待を防止するために、まず人々の意識を変える必要がある。暴力に対する人々の対応を変える必要がある。児童虐待に関して保護者や学校の教師は注意しなければならない。例えば、子どもの身体に両親以外の人が触ってはいけないというマナーを身につける必要がある。モンゴル人はモンゴル人特有の風習で子どもの身体に触ることがある。そのことに誰も違和感を感じていない。私たちはそのことへの意識や対応を変えなければならない。

ダムバダルジャー・ジャルガルサイハン