マンフレッド・グルント氏はドイツのドレスデン工科大学電気工学科を卒業しました。1994年からドイツ連邦議会に当選7回の議員です。彼はドイツキリスト教民主同盟党員、議会評議会議員、連邦議会中央アジア委員会の委員長を務めています。連邦議会議員となる前はエアフルト市発電所の電気技師、ハイリゲンシュタットの市長を務めていました。
J(ジャルガルサイハン): こんにちは。あなたはドイツ連邦議会中央アジア委員会の委員長を長年務めています。今回のモンゴル訪問は何度目ですか?
グルント: そうですね、2001年に初めてモンゴルを訪問して、かれこれ12〜14回ほど来ています。モンゴルへは定期的に来ています。
J: あなたは長年に渡り何度もモンゴルを訪問しています。モンゴルの政治家を良くご存知だと思います。モンゴルの政治家でドイツへ留学経験をした人は少なくありません。外国からモンゴルへの投資を妨げるものは何だと思いますか?多くの人はモンゴルの政情不安を挙げます。あなたはどう思いますか?
グルント: この話は長くなりそうなので簡潔に答えます。私は先日モンゴルの地方を観光しました。ダルハン市の火力発電所も見学しました。旅行中はゲルキャンプで泊まりました。私は10〜12年前にモンゴルを訪問した際もこのゲルキャンプに泊まりました。当時と比較すると状況は全く変わっていませんが、料金だけは高くなっていました。ドイツもEUもモンゴルの観光分野に非常に関心があり、人々も観光したいと思っています。モンゴルには観光地も多く、観光分野が発展する可能性があると思います。問題は環境が未熟ということです。特にゲルキャンプ場でのサービスの質は非常に良くありません。例えば、モンゴルのゴビ砂漠を見たいという観光客は多くいます。しかし、機会があるのにそれを十分に活かせられていないと思いました。またもう1つ思うことは、モンゴル人のマナーです。特に地方の道を車で走っていると道路脇にゴミがたくさん落ちています。ビニール袋や紙、瓶、缶、プラスチックなど、自然に帰らないゴミをモンゴル人は平気で車の窓から投げ捨てます。ゴミを捨ててはいけないという意識がどうしてないのか。まずモンゴル人のゴミに対するモラルを変えなくては、こんなにも素敵で素晴らしい自然を駄目にしてしまいます。
あなたは外国投資について聞きました。現在の投資環境で困難なことは、ドイツからみてもヨーロッパからみてもモンゴルまであまりにも離れていることです。また、モンゴルの市場は大きくありません。モンゴルの製品をドイツの市場に出すには問題が多くあります。さらにあなたが言ったように、投資家にとってモンゴルの政治と法律が不安定であることも問題です。モンゴルは半年で首相が交代します。首相が変わると閣僚全員が変わります。閣僚が変わると省庁の受付までが変わっています。この人たちは前任者からの引き継ぎをしません。全くの未経験者が入ってきます。これらの問題が大きな妨げになっていると思います。
J: モンゴル社会はガバナンスの質が低いことが原因と見ています。モンゴル政界に腐敗が多いことを誰もが知っています。腐敗の元凶は政党の資金です。政党に多額の寄付をした者たちが内閣を解散させ、自分たちが政権を握ろうとします。政党の資金についてあなたに聞きたいことがあります。私は政党の資金問題を調査するため、昨年11月にドイツに行きました。その時にあなたに会いました。ドイツでは政党資金の3分の1は国家予算から交付されます。ドイツの政治家たちは大富豪に買収されないように何を重視していますか?
グルント: ドイツでは行政機関は止まること無く仕事をしなければなりません。各省庁は政党に関係なく継続的に業務を果たします。なぜならば行政機関は政党に左右されず、独立して業務を遂行する必要があるからです。政党の資金の3分の1が党員の寄付、3分の1はあなたが言ったように国家予算から交付されます。ただ国家予算から交付される資金の規模は選挙結果、獲得議席数によって決まります。また政党への寄付を透明にしています。資金を透明にしていない政党には高額な罰金が科されます。
J: 例えば、私はあなたの支持者とします。あなたが所属する政党に1,000万ユーロを寄付することは可能ですか?
グルント: ドイツではあなたは個人として、或いは企業経営者として政党へ寄付する金額は自由です。1つの党もしくは複数の党に寄付することもあなたの自由です。ただし、必ず報告書に記載されなければなりません。例えば、電機製造会社の社長が政党に寄付したら、これは一般に公開されます。政党はどこから、どのくらいの規模の寄付を受けたかを必ず公開し、報告しなければならないと決まっています。
J: 寄付金の最高限度はありますか?
グルント: 100万ユーロ以上の金額で寄付することは殆どありません。あるとしたら特別な事情がある時です。殆どの寄付はごく少額です。私たちが政党の資金調達元を公開する理由は、政党が民主主義であり続けるため、国民の参政権を買収されないためです。私の個人的意見としては、ドイツの政党資金の構成は正当に決められていると思います。多額の寄付を受けた政党が選挙で敗北するケースもあります。私たちは政党の名誉を背負い、受けた寄付ではなく政党の政治活動の中身が重要だということを国民に理解してもらうため、政党の資金を透明にしています。私自身の例を話しましょう。私は選挙資金を自分で出しました。誰からも資援を受けていません。そうして私は有権者に対して何らかの賄賂を受けていないことを公開できます。次の世代が同じ選挙区から出馬する際も、この原則を守ってほしいからすべてを公開しています。選挙活動資金を自分で用意することは簡単なことではありません。それなりのまとまった資金が必要です。 ドイツでは裕福になるために政治家を目指すことはありません。もし、裕福になりたければビジネスをします。
J: 選挙活動にはどのくらい資金が必要ですか?
グルント: おおよそ20,000ユーロです。
J: とても安いですね。モンゴルでは最低100万ドルが必要です。問題はそのお金を用意できていることです。こんなにも貧しい国が国内総生産規模に相当する資金を選挙に使っています。
グルント: それはあってはならないことです。どうしてそんなことができるのか?例えば、私が出馬する選挙区では、住民の家々を回ってスピーチをしません。費用が掛かるからです。また、ポスターや看板も貼りません。私は20,000ユーロの中で選挙の宣伝活動をしています。そして同じ選挙区から7回当選しています。
J: 社会主義国だった国々ではこのような現象が見られます。裕福な人々が政治家になり、政府はその人たちのために働きます。そしてそれを民主主義と言っています。これについてあなたはどう思いますか?
グルント: 東ヨーロッパ諸国のエストニア、ラトビア、ポーランド、ハンガリー、ルーマニアなどではそのようなことは見られなかったと言いたいですね。これらの国では民主主義を確立するのは簡単ではありません。しかし、彼らは民主主義国家を作り上げるために絶えず努力しています。一部の国ではあなたが言ったように一部の富裕層が政治家になっています。言い換えれば市民社会が確立されていなく、そのため発展が遅れていると思います。
J: 市民社会が確立されない原因の1つは国民が貧しいからです。だから国民は「生活を良くする」と言うような公約を掲げた人を選んでいます。モンゴルを発展させるためには民業を発展させる必要があります。しかし、政府は国有企業の規模を大きくする一方です。あなたも見たと思います。鉱業分野だけを見ても国有企業は15社もあります。政府は航空会社や鉄道会社、銀行まで所有しています。実際は政府ではなく、政党が所有しています。政権が交代すると国有企業の役員は全員変わります。どうすればこの状況から脱出できますか?この負の連鎖をどこから断ちますか?
グルント: 私からは今すぐ適切な助言はできません。私はこの問題について長い間考えました。モンゴル人の多くの友人に聞かれます。私たちはこの状況からどうすれば抜け出せるのかと。まず1つ言えることは、地方自治体を政党から切り離すことです。特に行政機関。例えば、ドイツの様に省庁を政党から独立させ、業務の継続と質を維持できる体制を作ることが大切です。公務員法を正しく改正することです。なぜならば、公務員の職務の引き継ぎや質は維持されなければなりません。公務員は定年までの就業保障が確立されてなければなりません。特に投資やビジネスにおいて、様々な決定を下す権限を省庁に与えた方が良いと思います。
J: 実はあなたが言ったことはモンゴルの法律に定められています。しかし、遵守されていません。ドイツでは行政機関のどの役職に政党の人間を任命しますか?
グルント: 大臣、事務次官クラスは与党から任命されます。
J: 市長は与党から任命されますか?
グルント: 市長は政党によって変わりません。その都市の市民が直接選びます。市長は任期が満了した後に再選することができます。もちろん新しい市長が生まれることもあります。
J: 市長は無所属の人でもなれますか?
グルント: 政党は全く関係ありません。最近では市長選に2人くらい立候補します。1人は政党に所属する党員、もう1人は無所属の人です。無所属の候補者を市長に選ぶことが多くなっています。
グルント * ジャルガルサイハン