現在のモンゴルは、いつ完全な暗闇に包まれ、全てが凍りついてもおかしくない危険な状況に直面している。街から全ての光が失われ、道路の信号機、エレベーターや冷蔵庫などが機能しなくなった時、国民がどれほど苦しむのかを、最近レバノンのベイルートで起きている出来事が示している。レバノンのエネルギーの80%を供給する発電所2基で燃料不足により電力を制限していたが、ついに完全に停止することとなった。電力の過度な低価格維持により、発電所は資金不足に陥り、発電能力を高めることができず、さらに腐敗化した政府の影響でレバノンでは経済が完全に停滞している。
モンゴルはまさにレバノンのようになりかけている。エネルギーを失ったエネルギー分野は破綻寸前である。私はこのことについて、ちょうど2年前に具体的に記事にした。しかし現在、状況はさらに悪化している。パンデミックはこの分野に深刻な影響を及ぼした。政府は特別法を制定し、市民や企業の光熱費を国有企業に払わせた。2020年12月以降、電力価格維持のために政府は8,260億トゥグルグを費やしている。そうしなければ、エネルギー分野は再開できなかっただろう。
エネルギー分野の破綻は、再選することだけしか考えない政治家にとっては有利であり、国民にとっては不利であるということを、西部地域における5日間の停電、ウランバートルで8月に発生した5時間の停電が物語っている。
実態
現在、モンゴルの電力供給は不安定になり、電力不足に陥っている。主な要因は、年々電力消費量が増加しているにも関わらず、国内の発電量を増やすことができず、外国から高価な電力を購入し続けていることにある。
モンゴルの電力消費量は、年々増加している。2021年には99億kWhに達し、これは前年比で12%増加となる。熱消費量は6%増加し、1,100万Gcalになる。電力消費量の80%を国内生産、20%を隣接するロシアや中国から購入し供給する。エネルギー分野は大惨事を防ぐためにあらゆる国内資源を使い果たし、老朽化したボイラーをフル稼働している。2020年に中央電力システムのピーク負荷は、1,309MWに達し、そのうち831MWはウランバートルだった。
政府はエネルギー分野に投資し、生産能力を増強している。2024年にはバガヌール区に400MWの火力発電所を建設するためのコンセッション契約が締結された。また、タバントルゴイに450MWの発電所を建設し、2025年に第一段階を稼働させる。またエレデネブレンの92MWの水力発電所の建設を来春から開始する。しかし、20年間議論を重ね、10回も起工式を行った第5発電所の建設の話は、モンゴルで大規模なプロジェクトは常に頓挫し、計画通りに進まないどころか、中止になってしまうということを物語っている。
現在、エネルギーロジスティック企業は、相互に負債を抱えており、2020年だけでもこの分野は880億トゥグルグの損失を出している。これは、石炭価格9%、輸送費20%、為替レート7%、消費者物価指数9.6%、生産者物価指数10.1%、外国生産者物価指数3.4%、工業用水、電力、暖房、社会保険料、固定資産の減価償却、貸出金利などの費用が14.5%それぞれ上昇したことに関係していると業界アナリストたちは言っている。また、ロシアから輸入した電力量は21.8%増加、価格は15.9%上昇し、輸入電力コストは41.2%上昇している。
モンゴルのエネルギー源、送電および配電網は30〜62年前のものであり、インフラ設備の40%が老朽化している。ウランバートル市の7区にゲル地区の13,681世帯が標準的な電力網に接続されていない。
冬のピーク時に電力を制限し、電力のフル稼働がシステム全体における事故や全国的な停電に繋がっている。
今、どうするか?
D.スミヤバザル市長は、ウランバートルだけの電力消費量増加に対応するための発電施設の増設・改修に3兆5,000億トゥグルグが必要であると述べた。しかし、そのような資金はこの分野から拠出するどころか、既存の負債を返済できない状況にある。国内電力の60%を生産している第4火力発電所だけでも投資銀行から借り入れた900億トゥグルグの融資を返済できない状況に陥っている。モンゴルでは、多くの他の国同様、エネルギー価格は政府によって制限および規制されている。しかし、どのように規制したら、このように電力が不足し、停電が日常となり、エネルギー分野が破綻するまでの状態になるのだろうか?
この冬は、もともと不採算の炭鉱が石炭価格を引き上げるため、エネルギーコストが256億トゥグルグ増加する。また、独占の「ウランバートル鉄道」は、石炭輸送料金を23.4%引き上げるため、さらに56億トゥグルグが追加で必要となる。加えて、電力生産、送電、配電、供給を認可された100社は、冬季の準備、修理、改修のために1,288億トゥグルグを必要としている。また、再生可能エネルギー源は、289億トゥグルグ、ロシアから購入する電力価格上昇に47億トゥグルグの財源が必要だという。したがって、炭鉱、鉄道、電力生産、送電、配電、供給会社合わせて1,596億トゥグルグが緊急に必要となっている。
この多額の資金を調達するためには、電力価格をより現実的なものにし、費用を完全に補うまでいかなくとも、電力価格を20〜30%引き上げる他に選択肢がない。価格統制機関の専門家たちは、現在1kWhの電気料金を36%、暖房料金を20%引き上げるのが妥当だと見積もっている。
モンゴルでは、世帯の1ヶ月の電気料金は、家計総費用の5.5%を占めている。国家統計局の調査によれば、4人家族の世帯の1ヶ月平均の電力消費量は220kWhであり、電力料金は36,220トゥグルグで、これは1日あたり1,200トゥグルグであり、1人あたり1日の電力消費に300トゥグルグを支払っている計算だ。これは1回のバス乗車料金500トゥグルグ、1日の電話料金820トゥグルグに比べて安いということである。また、モンゴルの1kWhの電力の価格は、6.2〜6.3米セントであり、これは隣国のロシアや中国の2分の1、先進国の3〜5分の1の安さだ。これをみれば、モンゴルでは電力は最も必要であるにも関わらず、価値のない製品になっている。
まず、電力料金を段階的に引き上げ、徐々にコストを回収できるようにならなければならない。その他に、同時に省エネ、熱損失を減らし、代替エネルギー源の利用を奨励する政策を講じることが必要だろう。
長期的視点にたてば、原子力発電所の建設、水素分解使用による二酸化炭素排出量の削減など、地球温暖化に対するモンゴル国の取り組みが求められている。
いずれにせよ、国民は政府が大惨事を防ぎ、ウランバートルをベイルートのように社会を暗闇にしないことを期待している。
ダムバダルジャー・ジャルガルサイハン