ケネス・ルー氏は、オーストラリアのニューサウスウェールズ大学、シンガポール国立大学をそれぞれ卒業しました。彼はシンガポールのストレーツ・コンストラクション社の取締役を26年間務めており、2015年からシンガポール建設業協会の会長も務めています。さらに、ケネス・ルー氏はシンガポールのビジネス協会の会員、シンガポール建築建設局の会員、国家犯罪防止委員会の会員でもあります。
J(ジャルガルサイハン): こんにちは。今回のモンゴル訪問について話して頂けますか?
ケネス・ルー: 今回の訪蒙の理由は、モンゴル建築業協会の創立10周年の記念行事への招聘を受けてのことです。
J: あなたはモンゴル建築業協会についてどう思いますか?この協会と連携するようになり、どのくらい経ちますか?
ケネス・ルー: モンゴル建築業協会の方々とは、昨年のアジア・西太平洋建設業協会国際連盟(IFAWPCA)の大会の時に初めてお会いしました。私にとっては今回のモンゴル訪問が初めてとなります。モンゴルのインフラをみてとても驚きました。ウランバートルはとても良いところだと思います。
J: ウランバートルは良いところではありますが、私はシンガポールのようなインフラがモンゴルにもあれば良いのにと思います。ウランバートル市内の交通渋滞は、神の救いを求めたくなるほどですよ(笑)。
ケネス・ルー: 確かに。これは少し時間的な問題ですね。例えば、シンガポールのインフラ整備が一夜でできた訳ではありません。シンガポール共和国と国民が過去50年のあいだ、コツコツと作り上げて来たものです。
J: シンガポールが国家として建国され、その都市を開発しはじめた当初は、地質学的に都市部の土地は粘土質であり、川の両岸に位置していたため、蚊が多い場所だったと聞いたことがあります。しかし、当時から今日まで、シンガポールは多くの開発をしてきました。国の発展において国民はどんな役割を果たしてきたと思いますか?
ケネス・ルー: シンガポールの初代首相はとても聡明な人でした。国民に正しい政策を示し、将来を正確に見据え、政府を監督する機能を強化し、国民の参加や協力によってシンガポールという国を発展へと導くことができました。今日のシンガポールは、国民の大変な努力と積極的な取り組みの結果だと言っても過言ではありません。
J: そのとおりですね。世界中の国々、人々はシンガポールの発展と繁栄に驚き、また尊敬しています。私がまだ20代の時、シンガポールの初代首相リー・クアンユーについての書籍を英字で読んだことをよく覚えています。当時は国を比喩的に「アジアの虎」などと呼ぶことが流行っていた時代で、私は旧ソ連に留学していました。その時に読んだものです。今では彼の書籍はモンゴル語にも翻訳されて出版されています。私の大学時代は、講義は全てロシア語で行われていて、私の英語力もよくありませんでしたが、引き込まれるように読んでいました。その当時からシンガポールについて興味深く見ています。まず、シンガポールは国民に住宅を提供することから始めました。この住宅化は具体的にどのように始まりましたか?
ケネス・ルー: シンガポール政府は、国民が国の開発に携わるためには腹を空かしてはいけない、そのためには住むところが必要だと考え、これを実現するために必要な政策を実施したと思います。これが全国民の住宅化の始まりになったと思います。今日、シンガポールの全人口の80%が公共住宅に住んでいます。公共住宅とは、政府が建設し、国民に低価格で販売する住宅のことを言います。もちろん、年月が経つにつれ、販売価格や室内設備も変わってきました。
1965年に初めて住宅化が始まった時は、住宅は「ハウス」と言われる程度のものでしたが、今日では公共住宅の建築基準は大幅に改善され、戸数も増加しました。
J: 私は30年前に初めてシンガポールに行ったことを今でも覚えています。現在のシンガポールと比べて、住宅という概念自体が大きく違っていたと感じます。今は高層マンションが増えていて、これらが各戸それぞれ独自の構造を持ち、快適に住める条件を整備しています。こういったマンションにはプールまで付いています。
ケネス・ルー: はい、そうですね。それは個人マンションの場合です。公共住宅でも建築する時は必ず柵を建てています。そして各所すべての開発を当該地域が行います。その地域の住民の快適さを最優先に考え建てられます。
J: モンゴルではそれとは正反対です。マスタープランは作られますが、誰もが好き勝手に土地を買って、思いのままに建物を建ててしまいます。さらに歩道を設けず、道路に面した建物を建ててしまいます。そこには緑化や造園という概念さえもありません。互いに密接した建物を建てています。
ケネス・ルー: 当然のことながら、マスタープランはすべての開発を始める前に作成されていなければなりません。シンガポールでは道路、鉄道などのインフラをマスタープランに反映させた後、建物を建てる土地を割り当てます。さらに言えば、政府は民間企業に土地を売却し、建築許可を交付する時に建設できるものとできないものを、マスタープランに照らし合わせて是非を決定しています。
民間企業が開発を進めるといっても、そこには公共の場となる施設を必ず組み込むようにしています。例えば、店舗などの施設を必ず組み込み建てます。つまり、政府がすべてを監視しているということです。言い換えれば、開発を行う際には、どのくらいの規模の建設が行われるかを常に監視しています。そのため、マスタープランに主軸を置くことによって、開発過程の可視化を可能にしています。
J: 車のガレージはどのように解決されていますか?シンガポールは温暖な気候の国ですから、モンゴルのように必ずしも屋根付きで暖房のあるガレージの必要はないと思いますが。
ケネス・ルー: これには制限基準があります。開発地域内の実情に合わせて、必要なことを開発計画に反映させ、制限しています。あなたは自動車と言いました。例えば、当該開発地域の周辺に鉄道駅がない場合、自動車の保有比率というものを使います。これは当該開発地域内に建設される住宅一戸につき車1台という比率に従っています。逆に当該開発地域の周辺に鉄道駅がある場合は、この比率を適用しません。公共住宅のメリットは、住宅ごとに必要な自動車の比率を調査で出していることです。
J: 自動車の話が出ていますのでもう1つお聞きします。シンガポールでは自動車の購入費用が非常に高いと聞いたことがあります。また、自動車で他の区を走る場合はある一定の料金を支払うと聞きました。
ケネス・ルー: はい、そうです。自動車を保有することに関しても監視されています。政府は自動車の権利証明書というものを発行しています。自動車を購入し保有を希望する人は、この証明書を入札で取得しなければなりません。しかも、この証明書の期限はたった10年間です。もちろん、自動車税は非常に高く設定されています。
シンガポールは自動車を保有するのに最も費用が高い国の1つだと思います。その主な要因は、政府が交通渋滞を緩和するために自動車の保有を制限し、監視していることに関係しています。
もちろん、人間だから自動車を保有したいという願望を誰もが持っており、自動車を購入し、保有する人はいます。しかし、政府はこれとは違う見地に立っており、公共交通機関を充実させようとしています。そのため、過去数年において私たちは大量高速輸送システムを発展させてきました。
J: そうですね。このシステムはとても良いと思います。例えば、ある人が10万ドルのメルセデスを購入する場合は、車両価格以外にどのくらいの費用が必要ですか?
ケネス・ルー: 車の権利証明書の期限は最高10年です。この証明書は入札で取得します。そのため、費用はそれぞれ異なります。決まった価格はありません。
J: では、車の権利証明書というものは入札で値段が上がっていくということですね。
ケネス・ルー: はい、そうです。
J: 現在、入札の価格はいくらから始まりますか?
ケネス・ルー: 4万シンガポールドルです。現在は1.23で割ると米ドルの価格が出てきます。
J: 車の権利証明書を入手するだけために3万米ドル以上を支払うということですね。
ケネス・ルー: 加えて自動車の価格は非常に高価です。詳細な価格は分かりませんが、例えば、メルセデスEクラスを購入するには、車の権利証明書とともに27万シンガポールドルかかります。
J: とても高いですね。先ほどの住宅化の話に戻りたいと思います。シンガポールの住宅の修繕メンテナンスについてお聞きします。住民はメンテナンスにどこまで負担しますか?
ケネス・ルー: 公共住宅の修繕メンテナンスは、当該地域の委員会が担当します。政府が地域委員会を設置しています。地域委員会は掃除、外装工事など様々な修繕、メンテナンスを担当しています。もちろん、これは無料ではありません。住民は毎月修繕メンテナンス料金を払っています。
J: その料金はおよそいくらですか?
ケネス・ルー: 50〜200シンガポールドルです。
J: 建築の品質について、シンガポールの国民は生まれた時から不動産を所有します。これをどのように提供していますか?
ケネス・ルー: シンガポールはイギリスの植民地だったため、多くのイギリスの制度を継承しています。これが建築の品質やデザインにも影響しました。現在、シンガポールはイギリスの建築基準をより充実させたシンガポール建築基準が守られています。建物を建てる前に、資格を持つ専門家にデザインを作ってもらい、関係する機関に提出します。建築の品質については建築建設局が担当します。
J: シンガポールでは建築ライセンスをどんな機関が出しますか?
ケネス・ルー: 建築建設局です。シンガポールでは建築事業を行うために、まず証明書を有する建築士が登記を受けなければなりません。その証明書は建築建設局が交付します。建築事業を始める前に、必ず満たしていなければいけない条件があります。例えば、従業員数、彼らの専門、専門等級、会社の構造などが考慮されます。
J: 今日はインタビューに出演して頂き、本当にありがとうございます。シンガポールについ多くのことを話すことができ、大変有意義な時間でした。
ケネス・ルー: ありがとうございました。
ケネス・ルー * ジャルガルサイハン