濱田達弥氏は、日本の東京に本社を置く電気通信事業者KDDI株式会社に20年間在籍し、ビジネス開発担当部長、マーケティング部長などを歴任しました。濱田氏は、KDDIの海外事業活動を担当し、ロンドン、デュッセルドルフ、フランクフルト、ブリュッセルなどの都市に赴任した経歴を持ちます。2016年からモビコム・コーポレーションの代表取締役社長を務めています。

J(ジャルガルサイハン): こんにちは。あなたがモンゴルに来て約3年が経ちました。仕事は順調ですか?

濱田達弥: まず、番組に招待して頂き、ありがとうございます。私は2016年3月に初めてモンゴルに来ました。あれから3年が経ちますね。当時に比べれば、モンゴルでの仕事や生活にも随分と慣れてきました。現在はすべてがとても順調です。

J: それは良かったです。初めてモビコム社に来た時はどういう感想を持ちましたか?

濱田達弥: 3年前に私が初めてモンゴルに来た当時、モンゴルは経済危機に直面していました。ご多分に漏れずモビコム社も少々厳しい状況でした。しかし、徐々に景気が回復しはじめ、外国市場の動向にも注視し、私たちはその厳しい状況を乗り越えることができました。確かに今も多少問題はありますが、これからの将来はより良い環境が待っていると信じています。

J: モンゴルの情報通信市場について伺います。あなたはモンゴルの情報通信市場における主な問題、課題は何だと思いますか?

濱田達弥: モンゴルの通信および情報技術(IT)分野は、順調に発展してきています。アメリカや日本、その他のヨーロッパ先進国に比べ、モンゴルの通信・情報技術分野はそれほど遅れていません。

J: あなたはドイツ、ベルギー、イギリスに赴任した経験があります。私からすると、それらの国に行く度に通信環境が一段と進んだように感じます。電波条件もとても良いです。モンゴルにもこのような変化は見られますか?

濱田達弥: 私が初めてモンゴルに来た当時は、全国的に通信網が3Gから4Gに移行している時期でした。3Gから4Gへの移り変わりは、通信分野において大きな変化です。3Gと4Gでは、通信速度がまったく異なります。ですから、ちょうどこの移行期にモンゴルに来られたことを私はとても幸運に思っています。

J: 3Gと4Gでは、通信速度にどれくらいの差がありますか?

濱田達弥: 利用状況やネットワーク環境にもよりますが、例えば、4Gの通信速度はおよそ20〜40Mbpsです。これに対して3Gはかなり低くなります。

J: ここでいう通信速度とは、要するに利用者が行うインターネット接続やコンテンツをダウンロードするスピードということですか?一部の国では5Gへの移行が始まっています。モンゴルの5Gへの移行について、現在はどのような状況ですか?

濱田達弥: 5Gについて聞いてくださってありがとうございます。5Gは、数年前に実行可能性調査段階にありましたが、今では既に一部の国で導入されています。そういう意味では、今直ぐにと言うことではありませんが、将来的に5Gの通信環境はモンゴルにも導入されると思います。モビコム社では、現在5Gの導入をもちろん計画しています。しかしながら、モンゴル市場に5Gを導入するための詳細な調査分析、企画立案が必要です。実際、今の4Gにおいてもやるべきことが山積しています。

J: そうすると5Gの導入には時間がかかるということですか?

濱田達弥: はい、そうです。

J: 来年には可能ですか?

濱田達弥: 私の所感では、5Gの導入は2、3年後になると思います。

J: モンゴルで営業している他の通信会社にとっても、それは同じですか?

濱田達弥: そうですね。しかし重要なのは、高性能で通信速度が速い5Gを、私たちは普段の生活においてどのように利用するかです。

J: つまり5Gの性能は、私たちが普段利用する範囲を超えたものなのですね。あなたはモンゴル市場の現状をどう見ていますか?

濱田達弥: モンゴルという国は、社会や文化ともに柔軟性があるため、新しいサービスを導入する際に問題が少ないと感じています。しかし、新しい技術を導入する際、その影響を考慮することはとても重要です。例えば、5Gを導入するには多額の資金が必要です。ビジネスという側面からみて、5Gの導入が利益を生まなければ、その必要性はなくなります。また、人々が5Gの性能を十分に活用できなかったら無駄になります。

J: そうですね。利用者自身も、新しい技術について知識を持たなければならないと思います。現在、モビコム社に働いている社員は何人ですか?

濱田達弥: 正規および契約社員を合わせて、およそ1,500人がモビコム社で働いています。

J: モビコム社は、通信の他にどのような分野でモンゴル経済に貢献していますか?

濱田達弥: とても良い質問ですね。私たちは、多くの利用者から支持していただけるおかげで、毎年高額納税企業として評価されています。また、VAT(付加価値税)レシートの発行数が最も多い企業となりました。

J: モンゴルの電話通信会社の間には、利用者の獲得以外にどのような競争がありますか?

濱田達弥: 3年前に弊社のライバル企業が先んじて4Gを導入しました。実際、彼らの市場におけるシュアは弊社よりも急速に拡大していきました。しかし、これがきっかけでモビコム社はより努力するようになりました。そのため、通信市場での競争が、モンゴル経済を成長させていると実感しています。

J: 携帯電話番号を変えずに他の電話通信会社に移るサービスについて話して頂きますか?

濱田達弥: 今から4、5年前に、モンゴル国会はこのサービスに関する法律を可決・成立しました。これは顧客が利用している電話番号を変えずに他の電話通信会社に移るサービスです。モビコム社は、このサービスをいち早くモンゴル市場に導入しようと企画しましたが、うまくいきませんでした。本来、このサービスは電話通信会社にとってビジネス的にとても意義があります。

J: このサービスの導入がうまく行かなかった根本的な要因は何ですか?

濱田達弥: モンゴルに電話通信を手掛ける企業が4社あります。このサービスを提供するためには、4社が協力して共有システムを持つことが必要です。これをクリアリングハウス(Clearing house)と言います。すなわち、誰がどの番号を、どの通信会社で利用しているかを把握するためのものです。これには膨大な投資が必要となります。

J: このクリアリングハウスを電話通信の4社がそれぞれ導入することは可能ですか?

濱田達弥: 不可能だと思います。なぜならば、クリアリングハウスを構築するためには膨大な時間がかかります。また、利用者の個人情報をどこから、どのように、誰が保護し、責任を負うかなどの問題が全く解決されていないからです。

J: モビコム社が企画している新しいサービスは何かありますか?

濱田達弥: 利用者のほとんどが、「モビコム」と言えば電話会社だとみています。たしかに間違いありませんが、これは縦軸成長の市場です。しかし、私たちは横軸成長を重視し、モバイルプラットフォームに基づいた新しい技術の導入を目指しています。例えば、デジタル・ファイナンス・サービスです。このようなフィンテックの他にも、私たちは政府および民間企業が利用可能な新しい技術を導入したいと考えています。

J: モビコム社が実施しているCandyサービスについて簡単に説明をお願いします。

濱田達弥: Candyサービスは、当初長年モビコムを利用している顧客に向けたロイヤリティプログラムでした。顧客は獲得したCandyでモビコムの製品を購入し、サービスを受けることができます。Candyは、まるでお金のように使うことができたのです。それが昨年10月、私たちはモンゴル銀行(中央銀行)から正式な許可を得て、Candyはデジタルマネーになりました。1Candyは1トゥグルグに相当します。現在、すべての人が欲しいものをCandy Payアプリを使ってQRコードを読ませて購入できるようになっています。

J: これは安全ですか?

濱田達弥: もちろん、安全です。

J: Candyは正式な許可を受けたモンゴルのデジタルマネーになりました。5年後のCandyサービスをあなたはどうみていますか?

濱田達弥: 私たちの次の目標は中国、日本、韓国の市場に進出することです。今から10年前までは、モンゴルの人々は現金、もしくはキャッシュカードで取引することが多かったと思います。それが今後は変わっていくと思います。例えば、中国ではカードが利用されていますが、それはオンライン取引の方が多くなっています。

J: そうですね。WeChatなどがありますね。

濱田達弥: はい、そうです。WeChat、Alipayなど。これらも10年前までは今のモンゴルと同じ状況でした。最初は市場に導入されても普及していませんでした。

J: あなたはモンゴルの市場についてどう思いますか?ビジネス環境はどうですか?

濱田達弥: 私は偉そうなことを言える人間ではありませんが、モンゴルの市場において、鉱業や鉱物分野がより自由に発展する可能性があると思います。なぜならば、モンゴルには豊富な天然資源があります。そのため、第2次産業を発展させる必要があると思います。また、通信および情報技術(IT)分野にも可能性が多くあります。なぜならば、今日は世界中がスマート政府、スマートシティーなど、何かしらスマートなものについて語られています。

市場が大きく、選択肢が多いほど新しいものを普及させることは困難です。人々はモンゴルの市場は小さいと言います。確かにモンゴルの市場は他国に比べて小さいです。しかし、この市場に新しいサービスを導入する上では、他国に比べ困難が少ないのです。これが最大の長所だと思います。

J: そうですね。今日、多くのモンゴル企業が海外市場に進出することを目指すようになりました。モビコム社は今も、以前からもモンゴル最大の通信会社でした。自分の知識や経験をここで共有してくださってありがとうございます。最後の質問になりますが、あなたは5年後のモビコム社をどう見ていますか?

濱田達弥: 私は社員に、「この分野で最も優秀な人材になろうと頑張る必要はない」といつも言っています。私たちはモンゴルにおいて先導者であり、他より明るく輝くべきです。これが私たちの目標です。ビジネスだけではなく、社員一人ひとりが社会に良い影響を与え続けてほしいと願っています。

J: とても素晴らしいですね。今日は番組に出演して頂きありがとうございました。あなたの今後のご活躍を期待しています。

濱田達弥: ありがとうございました。

濱田達弥 * ジャルガルサイハン

モビコム(mobicom https://www.mobicom.mn/:モンゴル国内の携帯事業者最大手で、日本のKDDIの連結子会社である。モンゴルには他にUnitel、Skytel、G-Mobileの3社が携帯事業を手掛けている。