日本では少子高齢化による労働力不足が深刻な社会問題となり、多くの分野で外国人労働者をよく見かけるようになった。日本に来る外国人労働者にとって、日本での給与水準が自国よりも良いことが主な来日理由だ。雇い入れる側の日本企業にとっては、一定期間は働いてくれる(日本人の若年労働者と違い、すぐに辞めない)ことがメリットだ。近年、モンゴルからは留学生だけではなく、就労を目的として来日する人も多くなっている。ではモンゴルでの労働環境はどうだろうか。
国の人口は全世代を合わせたものだが、その中で労働する能力と意思をもつ人の数を労働力人口という。モンゴルの労働力人口は120万人で、90%が就業しており、10%が失業している。公務員は18万9千人で、公務員が労働力人口の15.8%を占める。日本の公務員の労働力人口における割合は10.7%なので、モンゴルは公務員率が高いと思われがちだが、ポスト社会主義国の中では低い。例えば、ベラルーシの78%を筆頭にウクライナ58%、ロシア47%、ルーマニア41%となっており、旧共産圏の国は公務員比率がかなり高い。
ではモンゴルで公務員ではない人たちはどの様な仕事についているかというと、最も多いのが30.4%の農牧業で、次いで15%の自動車関連業が入る。その後は教育業8.3%、製造業7.5%、軍と防衛産業6.5%、建設業6.2%となっている。意外にも主要産業である鉱業に従事する人の割合は3.3%と少ない。近年、モンゴルは石炭や銅などの鉱物資源が語られることが多いが、こうしてみると牧畜が強いことがわかる。また、世界中にある建設業者の3分の1があると言われる日本からしてみたら、建設業の6.2%という数字も小さいと感じるかもしれない。
待遇については、モンゴルの平均給与は86.2万トゥグルグ(約3万8千円)。しかし平均給与は地域での差が大きい。ウランバートルは95.3万トゥグルグ(約4万3千円)。最も平均給与が低い県はバヤン・ウルギー県の57.3万トゥグルグ(約2万6千円)、最も高い県はオルホン県の112.4万トゥグルグ(約5万円)となっていて、その差は2倍近くあることになる。オルホン県の平均給与が突出しているが、それはエルデネト鉱業というモンゴルで最も大きな鉱山会社があるからだ。
平均給与を業種別で見ると、やはり鉱業がずば抜けて高く200万トゥグルグ(約9万円)。最も就業者が多い農牧業は63.1万トゥグルグ(約2万8千円)と平均以下となっている。また、金融業(108.2万トゥグルグ)や技術系の専門職(126万トゥグルグ)も給与が高い業種となっている。
興味深いのは、経営者の平均給与が101万トゥグルグなのに対して、鉱山などで使われる重機のオペレーターの平均給与は106万トゥグルグとなっている点だ。鉱山に携わる仕事の給与の高さが伺える。
民間の企業形態別でみると、モンゴル企業の平均給与は66.2万トゥグルグ、外資とのジョイント・ベンチャーは85.7万トゥグルグだが、これがモンゴルにある外国企業となると184.2万トゥグルグで、モンゴル企業の3倍近くの差がある。
このように場所や職業、企業によって所得が大きく変わるので、モンゴルでは海外に出て働くことは珍しいことではなくなっている。
中山拓