チンバト・オンドラム氏は日本の名古屋大学経済学研究科で経済学博士号、アメリカやロンドンの国際大学で経営管理修士号をそれぞれ取得しました。彼女は名古屋大学経済学研究科の客員研究者、MCSインターナショナル社(光熱・エネルギープロジェクト)のマーケティングマネージャー、モンゴル国立大学の教授、学部長、人材管理内部協力活動担当副学長を務めてきました。オンドラム氏は、戦略マネジメント、鉱業経済、経営マネジメント、シミュレーションモデル最適化、競争経済、教育政策の研究、教育機関のマネジメントといった分野で研究を行っています。彼女の経済研究科の博士論文は、ドイツのVDM Publishing House Ltd社から書籍として出版されました。

J(ジャルガルサイハン): こんにちは。モンゴル国立大学は組織改革を行いました。あなたは同大学で何を担当していますか?

オンドラム: 現在、私はモンゴル国立大学で財務・企画部を担当しています。

J: 大学とは大きな組織です。仕事はどうですか?

オンドラム: とても忙しくしています。そのため、仕事の優先順位として細かな作業より、政策・体制の改善に繋がることに取り組み、努力しています。

J: モンゴルの高等教育機関の資金調達はどうですか?私立大学が数多く設立され競合が増えたと思いますが、モンゴル国立大学は国から受ける資金規模はどうですか?大学自体の予算はどのように回っていますか?

オンドラム: 2019年からモンゴルのすべての国立大学は、国から資金を受けなくなりました。それまでの2018年までは、水道光熱費などの固定費も国からの資金で賄っていました。今は大学の資金調達は、すべて授業料や研究収入で構成されています。

J: あなたはアメリカ、イギリス、日本などの大学で修士号、博士号を取得しました。その経験から、モンゴル国立大学自体の競争力向上には何が必要だと思いますか?

オンドラム: 私はモンゴルに帰国してから約10間、モンゴル国立大学に勤めています。この間、モンゴル国立大学は組織構造を改変しました。現在、モンゴル国立大学には約1,000人の優秀な教授がいます。大学は競争力を向上させるために、彼らの頭脳を活かし研究収入を増やす必要があります。例えば、政府の研究活動に協力するなどです。モンゴル国立大学の教授たちは、欧州連合(EU)、日本の国際協力機構(JICA)、韓国国際協力団(KOICA)などの国際機関から価値ある研究依頼を受けています。モンゴル政府は、大規模なコンサルティングサービスや研究などを外国の企業に発注し、そのための多額な費用を外国に流している傾向が見られます。私たちは政府に無償で資金を出してくださいと言っているのではありません。一部の研究で、国内のモンゴル人研究者ができるものに関しては、政府は国立大学に発注すれば、大学の研究収入が増えると考えています。

J: 大学の研究活動はビジネスとどのように繋がっていますか?

オンドラム: 民間企業から研究依頼を受け、企業と協力して製品開発をしています。また、モンゴル国立大学は、スタートアップ・ビジネスにも取り組んでいます。大学の教授2〜3人が積極的に取り組んでいます。実際に製品を開発し、市場に出しています。

J: モンゴルにある大学の大半は私立大学です。しかし、大学卒業者の失業率が増えているという話もあります。また、彼らは必ずしも大卒じゃなくてもできる仕事に就いていると言われています。これについてあなたはどう思いますか?

オンドラム: まず、政策的な調整をしなければならないと思います。モンゴルに大学・大学院合わせて約100校あります。私立大学では、主にビジネス、法律、外国語などの文系学科を開いています。しかし、この分野の職場が、現在のモンゴル社会においてどのくらい必要とされているのかという問題があります。他方、地方出身の学生は、ウランバートルに来てさえいれば、どの大学でも良いという気持ちで自分の将来や専門を深く考えずに大学に入学しています。

J: あなたは露天掘り鉱山および鉄鉱石精鉱工場のプロジェクトマネジメント、シミュレーション分析方法というテーマで論文を書き、博士号を取得しています。なぜ鉱山についての論文を書いたのですか?

オンドラム: 博士号を取得するために、モンゴルに関係するテーマを決めてデータを収集することは簡単ではありません。しかし当時、モンゴルでは鉱山分野が成長していて、それが重要な分野とも言われ、データも比較的に入手が可能でした。ですから自分の得意な研究方法やデータ収集の容易さを考えて、博士論文を鉱山に関するものにしました。

J: 高等教育が国の発展において果たしている役割について話したいと思います。今日、世界中で第4次産業革命が起こっています。第4次産業革命はさまざまな変化をもたらしています。これに関連してモンゴルの大学、つまり高等教育はどのように発展しなければいけないと思いますか?

オンドラム: 今日、到来している第4次産業革命にどのように向き合っていくか、何をする必要があるかを世界中の大学、企業、政府レベルで話されています。モンゴル国立大学は、その社会的義務として、まず質の高い教育を通して高等専門家を育成することが重要だと思います。次に具体的な問題を解決するための研究を行うこと。最後に、社会一般の教養レベルを高めることを目指すことです。

モンゴル国立大学は、第4次産業革命に関して、将来どのような専門性、専門家が必要になるのかについて数多くの協議を重ねています。例えば、会計士はコンピューターの他にどのようなスキル、能力を習得しなければならないか、もしくはその専門が将来どのように変化していく可能性があるかについて議論しています。

また、モンゴル国立大学の特徴の1つとして、教育プログラム委員会という組織があります。この委員会は企業などと協議し、将来必要な専門、能力、スキルについて調査を行い、それに基づいて教育プログラムを改善しています。

J: あなたは企業の経営戦略策定に携わっていました。企業にとって戦略はなぜ必要なのですか?

オンドラム: そもそもビジネスの目的は、ある特定の顧客を獲得し、市場における自分たちのシュアを広げることです。その過程でどのような活動を、どのようなルールで行うかを決めることが大切です。また、企業とは人の集まりです。この人たちがなぜそこにいるのか、その目的や存在意義を自覚させることが重要です。経営者は社員全員に対して、自分たちがどのようなルールで、どのようにプレイするのか。誰と競争し、誰と協力するのか。その中で社員一人一人の役割と責任は何かを明確にし、共有することが重要です。そうすることによって、その企業のビジネスは上手く行きます。

J: あなたは松下幸之助の「人を活かす経営」という書籍をモンゴル語に翻訳しました。なぜ、この書籍を翻訳しようと思ったのですか?

オンドラム: 私が尊敬する人物の一人に松下幸之助が挙げられます。彼は「如何なる製品の製造・販売も、人によって作られている。どの様な製品・サービスも、その在り方は人に左右される。その人の態度や見方が正しければ、良い製品とサービスが生まれる。」と言われました。また、彼は製品やサービスだけを見るのではなく、人を重視し、育てることを強調しています。この本は、それについて簡単で分かり易く、実生活における事例を挙げながら書かれた本です。日本では、松下幸之助はビジネスの哲学者と言われています。その意味で、この本は人々に良い影響を与えるのではないかと思い、モンゴル語に翻訳しました。

J: 私は日本とイギリスは似ているところがあると思います。例えば、両国とも島国です。また、生活に対する態度が似ているように感じます。例えば、イギリスはオーク(ナラ)をシンボルとしています。日本と言えば桜です。あなたはイギリスにも日本にも住んでいました。あなたはこのように感じたことがありますか?

オンドラム: 私が一番に感じたことは文化の違いです。イギリス人はものごとをダイレクトに伝えます。嫌なことでも適切な言葉を選び、ダイレクトに言います。日本人は少し曖昧な言い方します。物事を相手に伝えるために遠回しに言います。また、イギリスと日本は、ビジネスにおいて長年の歴史があり、自国の文化や歴史を残してきました。そして両国とも王室があります。

J: 大学の話に戻りますが、モンゴル国立大学は2018年に賄賂対策庁の依頼で「公務員の道徳研修のモジュールと手引きの作成、講師養成プロジェクト」を実施しました。あなたはこのプロジェクトを指導していました。このプロジェクトで何を行いましたか?

オンドラム: プロジェクトチームは3人で構成された小規模なプロジェクトでした。私たちはいくつかの研究を行い、何をすれば不道徳的になるのかを実例に基づいて理解してもらうため、研修モジュールと手引きを作成しました。これに併せて公務員700人を対象とした研修も実施しました。

J:  公務員の不道徳的な行為とは何を指しますか?

オンドラム: 私たちは何をもって不道徳的というのかについて研究しました。モンゴルでよく見られる問題として、例えば、ある人が仕事を辞めたとします。仕事を辞める時に、後任と仕事の引継ぎをしませんでした。仕事で使っていたコンピューターやファイルの引継ぎをしないのです。しかし、この問題をほとんどの人が「不道徳的な行為」だとは理解していません。これはモンゴルでよく見られる問題の一例です。

J:  これは人間の内面に関係してきますね。このような問題を全国でどうすれば改善できますか?

オンドラム: 道徳心を高めるということは、非常に複雑で難しいことです。その人に不道徳な行為であることを理解させ、認めてもらうことが必要であり、そのためには何度も同じことを繰り返し言わなければなりません。また、法律に具体的に反映させる必要もあります。しかし、道徳とはその人の人格、取り巻く環境に影響を受けるものですから、幼児期から育てていくことが最も重要です。

J:  今日はご出演いただき有難うございました。

オンドラム: こちらこそ有難うございました。

オンドラム * ジャルガルサイハン