G.ボムチメグはモンゴル国立大学経済学部を卒業しました。その後マンチェスター大学で経済理論修士号を取得しました。世界銀行、アジア開発銀行のモンゴル支局で顧問を歴任しました。2014年から経済ニュースの解説者として活躍。現在は経済状況やビジネス環境について研究する「モンゴル経済分析研究センター」の代表を務めています。
J(ジャルガルサイハン): あなたはイギリスのマンチェスター大学で経済理論学修士号を取得しました。過去にはモンゴル銀行に数年間勤め、研究モデルを作りました。あなたは2017年前半のモンゴルのマクロ経済状況をどのように見ていますか?
ボムチメグ: 経済成長率は伸びています。長期間経済が低迷した後に急成長が見られました。主な要因は石炭の採掘と輸出です。しかし、鉱業分野の成長率は4%低迷したという調査があります。これはオユトルゴイ鉱山の精鉱品質が落ちたことが原因です。採掘された石炭はコークスに精鉱されます。精鉱が増加することによって製造業の指標が上がります。石炭輸送も増加するので輸送分野の指標も上がり、輸送にかかる燃料費も増加するので、貿易が活発化するなど経済に良い影響を与えます。経済成長をもたらしたもう一つの要因は、製品に対する課税で政府の予算収入が増えたことです。費用という側面で見れば投資は前年同期比で2倍増え、輸出は30%、輸入は50%増加しました。これも注目すべきことです。また、6期連続して減少していた家計消費支出は、ここにきて上昇に転じました。これは景気が回復している兆しです。
J: 価格はどうですか?
ボムチメグ: 物価上昇率は3.4%と安定しています。家計消費支出が上がり、経済活動が活性化するにつれて価格は上昇圧力を受けます。しかし現在は、為替レートが安定していることがこの上昇圧力を抑えているのかもしれません。
J: オユトルゴイの精鉱の品質低下について正式な情報はどのように出ていますか?
ボムチメグ: オユトルゴイ社は自社のウェブサイトに2017年の精鉱状況について載せています。精鉱品質が高い時と低い時があります。今年は精鉱品質が低い時期に入っているところです。そのため精鉱の量が同じでも、銅精鉱と金精鉱の急減が国内の鉱業分野低迷につながっていると見えます。
J: マクロ経済のもう一つの指標は雇用です。失業率をどう見ていますか?
ボムチメグ: 失業率は下がりました。一時期11%に達していましたが、今は8.6〜9%となっています。失業率は大幅に改善した様子が見られます。雇用も増加しています。雇用増加につれて給与も上がります。実際に基本給は10%上がり、鉱業分野における経費の大半は労働者の給与が占めています。鉱業分野における平均給与は24%上がったという数字もあります。しかし、他分野の給与はまだ上がっていません。政府は公務員の給与を上げないと発表しました。だから今後、給与の増加は進まないと思われます。
J: 他方では、国際通貨基金のプログラム実施によってモンゴル政府は税金の引き上げをしました。そのうち、労働者と雇用主の社会保険料を1%引き上げ、所得税などを引き上げました。これは新規採用においてどの様な影響を及ぼしていますか?
ボムチメグ: 社会保険料、個人所得税は労働市場において真っ先に影響を及ぼす税金です。しかし、景気も回復しているので、どちらかと言えば景気回復の影響が大きいとみています。付加価値税は消費が発生した時に生じますが、社会保険料、個人所得税は労働市場において大きな変化をもたらすため、経済構造に大きな影響を与えます。
J: 最近の為替レートはモンゴル通貨:トゥグルグにとって良くなっています。その結果、モンゴル銀行の外貨準備高は、外国からの資金流入で変わったようです。モンゴルトゥグルグ対米ドルの現在の為替レートは2300トゥグルグです。この状況はどのくらい続くと思いますか?短期及び長期的にどうなると思いますか?
ボムチメグ: 1年前、モンゴル銀行総裁は外貨準備高がマイナスになったと発表しました。現在、モンゴルの公式な外貨準備高は12億ドルです。しかし、私たちは中国政府に17億ドルの通貨スワップの負債があります。言い換えれば、私たちには外貨準備高が無いに等しいということです。この状況下で、モンゴル銀行が外貨準備高の積立を始める代わりに為替レートを上げていることが良く理解できません。モンゴル政府と国際通貨基金の間で2020年までに外貨準備高を30億ドル増やすという協定書があります。現在はそのための取り組みを急ぐ必要があると思います。
J: 外貨準備高を増やしたい、トゥグルグのレートを維持したい。だから銀行の活性化を図ろうと政策金利を14%から12%に引き下げました。この政策金利が対ドルレートにどのように影響すると思いますか?
ボムチメグ: 政策金利の引き下げは経済を拡大させ、為替レート下落に影響します。景気回復のために政策金利を引き下げたと言っていました。以前、政策金利を引き上げる際には為替レートの下落を避けるためだと言っていました。ですから今回の政策金利引き下げは状況が異なるものです。為替レートの下振れ圧力が下がったので、政策金利引き下げは比較的リスクが低いことがあり得ます。
J: モンゴルの銀行預金金利は14%のままです。貸し倒れリスクによって金利を算定して貸出をしています。銀行預金金利と政策金利の間に「妙な」差が生じています。どうしてですか?預金金利をどのように引き下げますか?
ボムチメグ: 確かにモンゴルでは貸出金利や預金金利は依然高いままです。例えば、モンゴルと同じく所得が平均以下の国々を見てみると貸出金利は年平均15%ですが、モンゴルの場合は20%です。預金金利は低所得国の平均以上です。要するにモンゴルの基準金利が高いということです。カバーなし金利平価(UIP=Uncovered Interest Parity)の計算式では、トゥグルグの金利はドルの金利+為替レートの変動です。ドルの金利とは、政府の債券金利と言っても良いでしょう。ですから政府の債券金利はリスクの追加ということです。これはモンゴルのリスク状況によってトゥグルグの金利が設定されているということです。また、為替レートの変動でも設定されています。貸出金利を引き下げるためにどうすれば良いかというと、基本的にリスクを減らさなければなりません。つまり財政赤字を減らさなければならないということです。モンゴル銀行が将来に渡り透明でなければなりません。そうして貸出金利が下がります。これを省き強制的にどちらかの金利を引き下げた場合は「バブルが弾ける」のと同じ作用が生まれます。もし、私たちがトゥグルグの金利を強制的に引き下げてしまうと、多くの人がドルを買いドル建て預金が増えます。また、規制してしまうと現金を家で保管してしまいます。ですからマクロ経済では全体のバランスが重要となります。
J: 次の問題は、銀行の金利を引き下げるために外国の銀行を受け入れることについてどう思いますか?
ボムチメグ: 問題は外国の銀行がいつ参入してくるかです。外国の銀行を受け入れるために私たちはまずルールを決めなければなりません。どういった形が私たちに有意義なのかを考え、私たちに利益をもたらす選択をしなくてはなりません。外国の銀行がモンゴルに入ってきて良いか、悪いかということではないのです。次に貸出金利の引き下げが可能になるかと言えば、短期間で貸出が増えるので金利は下がります。また為替レート下落の圧力が少なくなります。しかし、外国の銀行が参入した途端に金利が下がるということではありません。シンガポールの貸出金利は2%ですがモンゴルはこれと同じ水準にはなりません。これはその国のリスク状況によるものだからです。私たちの根本的なリスクを減らしてから、貸出金利を継続して下げる可能性が出てくると思います。
J: 他方、中国銀行(Bank of China)など国有銀行についてです。このような国有銀行は本来の目的から離れた取引をした場合、どうなるかが話題になっています。このことについてあなたはどう見ていますか?
ボムチメグ: 中国の対外政策は拡大しています。積極的に国有銀行が海外に支店を開設しています。例えば、アフリカ諸国での外国銀行最大手の殆どが中国の銀行です。中国の国有銀行は比較的リスクが高いところに入って来ているかもしれません。モンゴルに支店を置きたいと言う国有ではない銀行はありますか?だから国有ではない銀行をどのように誘致するかを考える必要があると思います。
ボムチメグ * ジャルガルサイハン