この数日、国会は来年の予算案について閣僚報告書を審議している。政府はこの1年間に何を成し遂げたかを振り返り、次の1年間に何をするかを計画するため、生産と消費、歳入と歳出、公約の実現状況を評価する。こういったことはどの国でも見られることである。そのため、国会議員、大臣のほか、彼らを自分たちの代表として選んだすべての有権者が意見を示す時である。

極端なイデオロギー社会・経済の明確な欠陥を批判し、方向転換することは比較的に容易である。だがその後、どのようにして進めていくかがいかに困難であるかを示す出来事が続いており、結果、私たちは8年間でいくつもの政権を見ることとなった。

民主主義社会における政治改革の目的は、経済をより効率的にし、人々の生活をより豊かにすることにある。この目的はどのように達成されるのか?これに関して私たちが選んだ国会は何をしているのか?この質問に対して国家予算とその管理が、数値で最も現実的な回答を提供してくれる。これは誰もが耳を疑うような“噂”ではない。これは、国会および政府の活動の指標であり、いわば「モンゴル株式会社」という大企業の年次業務報告書である。

「モンゴル株式会社」の年次業務報告書

昨年、「モンゴル」という株式会社の予算を可決する際に、株主全員を代表する取締役会は、さまざまな理由をつけ、1億ドル(1998年の予算赤字850億トゥグルグ、最も現実的に今日のドルの為替レートである850トゥグルグとして計算しましょう)の赤字予算を承認した。

しかし、1年後に会社の幹部は、「申し訳ない、赤字は1億ではなく、1億5800万ドルだった。輸出商品2つ、3つの価格が下落したのが原因だ。これからは身の丈に合うようにすればどうなのか?」と言って来ている。この話では、身の丈に合わせなければならなくなっているのか?

もともと身の丈に合わせた計画が間違っていたのか?それとも身の丈に合わせたのが間違ったのか?いずれにせよ、多くの議論の末、彼らは「また赤字でもそれは仕方がない、海外から1億900万の融資を受けて、補填しよう」と言うだろう。もっともそう聞いて、彼らの子どもたちが「社長」なので、他にどうすることができよう。

本来、1トゥグルグが何に使われたかを各分野で検討し、支出が当該分野の目標の達成にどのように活かされたかを評価したいものだ。例えば、教育分野に投入された予算の約半分が光熱費に費やされており、僅か5分の1が教職員の給与として費やされている。これが教育のためだと言えるだろうか?教育分野の目的は、建物を暖めることではない。将来のための最大の投資として教育分野に予算が投入されるべきである。

教育分野と同様に医療分野も「発展途上」にある。この歪んだ予算配分と制度の結果として、この世界で最も価値のある人の命を守るために治療する人々の給与が低く設定され、その結果、医療機関とは到底言い難い病院と治療が生み出されている。これに対処するために健康保険制度が導入され始めたが、それもまた歪んでおり、人々は病院と健康保険の両方を信用しなくなっている。

このようにモンゴル株式会社の秩序と規律を促すためにやるべきことはたくさんあるにも関わらず、海外から有利子融資、無利子融資を受けている者が称賛されている。融資は、遅かれ早かれ、いつかは返済しなければならない。それとも「返済する義務はない」とでも思っているのだろうか?融資と援助を区別できない、区別しようともしない制度ができている。残念ながら、外国投資も融資と見る認識が広まっている。

融資や援助を活用し、社会に必要な投資をしていると言うが、牛乳のない乳製品工場、穀物がない製粉工場、または鉄のない製鉄工場は、誰に必要だろうか?入札を勝ち取った外国企業なのか?この用途のない資産と化した融資の返済に誰が責任を負うのか?

政府監査委員会は、「1990年以降、海外から入って来た10億ドルの融資や援助の約5分の1はどこにあるのか、誰が担当しているのかが不透明である」と報告していた。

モンゴル株式会社の事業のほんの一部を見てもこの有様である。1年間に提供している生産とサービスはわずか10億ドル、海外から受けた融資額は6億ドル、国内で1億5800万ドルの赤字を出しているこの「株式会社」は、これからどうなるのだろうか?責任を果たす真の社長は存在せず、そのフリをする者がいるのみである。そして国会の会議は続いていく。

私たちはどこへ向かっているのか?

重要なのは、正しく行うことではなく、正しいことを行うことである。=スティーブン・コヴィー=

過去数年、経済を市場原理経済に移行させるための多くの取り組みが行われてきた。しかし、モンゴルのGDPの3分1を農業、5分の1を産業分野が占め、外国への輸出品目は3種類だけであり、そこから獲得したハードカレンシーの3分の1を燃料に変える経済のままである。このような小さく異常な構造をどのように変えるのか? 私たちは20〜30年後にどうなっていると想像できるだろうか?

2020年までのモンゴル社会の目標が不明確であるため、国民の要望は選挙の期間だけ汲み上げられ、その後は自分の利益を中心に据えているように見える。目標を明確に設定し、国民から普遍的に支持されている国々は、将来を見据え、より一層グローバル化する経済における自分たちの地位を認識し、生産的に取り組んでいる。

例えば、シンガポールは2020年までに多国籍企業の中心センター、アジア地域の金融中心都市とする「グローバル都市、最も住みやすい都市」を作るために取り組んでいる。マレーシアは、東南アジア地域の情報通信ネットワークのスーパーグリッドとなるべく取り組んでいる。国際社会は、その長所と短所を客観的に認識し、達成すべき目標をプロジェクト規模で設定している。

どんなに悪い計画でも、何もないよりかはマシである。いずれにせよ、生産と貿易がますますグローバル化している今、モンゴルの経済回復を図り、失敗と成功を客観的に評価し、将来の見通しを具体的に立てなければならない。

経済学者としてのいくつかのアイディア

前述のように、鉱業製品、畜産原料など少数の製品を輸出し、獲得した外貨のほぼ半分を燃料製品の輸入に充ててきたモンゴルの対外貿易とそれに付随する経済には、過去20年間で大きな構造改革が行われて来なかった。

まず、鉱業および畜産物の生産性を高め、それらの価値を高めること。石油製品の消費の効率化を図り、費用対効果の高い先端技術を導入する政策を実施する必要がある。政府は、社会、保健、教育のあらゆる分野にマネジメントを導入し、人々の労働生産性を高めるために現代の情報通信の技術を有効活用し、製品やサービスを国際市場で競争力のあるものにしなければならない。

そのためには、国内貯蓄に加えて、外国の直接投資が重要な役割を果たす。モンゴル政府は、1990年から他の発展途上国同様、外国投資を誘致する法整備を進めてきた。そのため、今年の時点で70ヵ国から、およそ投資額2億ドルが900を超える合弁事業または株式資本に投入されている。外資企業は、労働集約型の衣料産業をはじめ、最新の移動体通信サービスに至るまでさまざまな生産、サービスを展開しており、最近では鉱山や油田の探査、道路や橋梁の建設にも投資が行われている。

外国の投資を誘致する際には、技術やマネジメント、国際市場に進出するノウハウの導入が可能かどうかに重きを置くべきである。またモンゴルの鉱物資源を、環境を破壊することなく効率的に利用すること、畜産原料を新たな条件で競争できる最終製品として生産すること、これらが国際基準を満たすものにすること、そして観光産業を発展させるという目標を設定する。

国際的な生産・経済の統合を科学・技術の統合と組み合わせること、特に情報通信の進歩を利用する必要性がますます高まっている。この分野に起きている革命、その中で無線宇宙通信は、世界中のすべての国、その中でもモンゴルのような通信インフラが脆弱な国にとって社会経済を加速度的に発展させる前例のない機会を与えている。

距離に関係なく、情報を即座にどこにでも配信する衛星通信の技術は、教育分野に革命をもたらしている。この技術を利用するための環境を整備できた国が急速に発展できる可能性を得るだろう。つまり情報処理とそれを利用する環境を定義している英語の習得と活用は、コストを削減し、生産性を向上させることに繋がる。この取り組みを成功させるための基本的な条件は、キリル文字をラテン文字に置き換え、国民全員が英語を完全に習得することである。1つの予測を挙げると、コンピューターへ信号を送る「マウス」がなくなり音声制御が主流となったとき、命令は英語で行われるようになる。そしてコンピューターのサイズが小型化し、電話やファックスは腕時計に収まるようになる。もしこのような環境をキリル文字、モンゴル語で作るとなると膨大な時間がかかるだろう。だからこそ英語学習は必須と言える。

経済を発展させるために、モンゴルは短所を長所に変えて行く必要がある。例えば、240万人の小さな市場を世界最大の市場であるロシアと中国とを関連付ける必要がある。そのためにはまず、両国の国境近辺の住民の需要と供給に応じるあらゆるインフラを整備することであり、これらの街が港湾地域になるという発想が必要である。

ロシアと中国を結ぶ3つの回廊

モンゴル既存の縦貫鉄道である中央回廊に加えて、ウランバートルとザミンウードを結ぶ舗装道路を整備し、南北の国境を結ぶ道路を完成させること(アジア第3の道路)。東回廊となる北からチョイバルサンまでの鉄道を完成させ、中国の北東部の先端に接続すること(図們江プロジェクト)。西回廊は、モンゴルの西部地域をロシアのクラスノヤルスク、トゥヴァ共和国および中国の新疆、甘粛省と結ぶ縦横道路、次に鉄道を建設する。これがロシアと中国を結ぶ3つの回廊となる。

これらの鉄道と道路の各回廊に伴って、中国への農産物と食品の輸出、ロシアの大市場への鉱物と畜産物の輸出、あらゆる種類の商品の経由基地として開発する扉が開かれる。これらの回廊は、消費者に輸送コストの削減をもたらし、オンタイムの配送、サービスの向上につながる。

港湾地域にするという発想を実行することで、3つの回廊を囲んだ社会的および経済的集中が生み出され、モンゴルは中央アジアの玄関口となり、新たな発展の道を歩みだすだろう。またモンゴルは、アジアとヨーロッパを結ぶ信頼できる国際道路輸送ネットワークの確立に貢献できる。

ロシアと中国を結ぶ港となり、貿易売上高を確保するためには、近隣諸国や他の国々と競争できるレベルの信頼できる銀行、金融センターをモンゴルに作ることが最優先課題となるだろう。

そして生活面を見ても、まずウランバートル市に外国人投資家やビジネスマンのニーズに応えるための最低限の生活条件、安全、整備された道路、社会および文化サービス、国際基準を満たした中等学校、医療機関などが整備されていなければならない。すなわち、この地域で最も発展した都市になる必要があり、我々もそのように変わらなければならない。

モンゴルは、内陸国に関する国際条約による好条件を最大限に活用し、最終的にはロシアと中国の海岸にモンゴルの港を建設し、このネットワークに接続できる可能性があることを記したい。

世界がますますグローバル化する今日、モンゴルはさらに経済を解放しなければ、繁栄は難しいと思う。自分たちの周りに「壁を作った」国が発展した前例はない。国の独立を最も確実に保護するのは、高度な文化と教育、そして高い生活水準を有する国民である。

1998年11月2日 外国投資・対外貿易局局長:D.ジャルガルサイハン