ユーラシア大陸中央アジアは、古くはトルキスタンと言われ、テュルク系民族が住んでいた。トルキスタンは東トルキスタンと西トルキスタンに分かれる。東トルキスタンは現在の中国新疆ウィグル自治区を指し、西トルキスタンは論説に出てくる中央アジア5カ国:カザフスタン、ウズベキスタン、トルクメニスタン、キルギス、タジキスタンを指す。中央アジアの国々の名前の最後につく「スタン」とは「〇〇人の国」という意味で、イスラム教を信仰する民族の国である。
地政学の父といわれるハルフォード・マッキンダーは1904年にハートランド論を発表した。その中では、ユーラシア大陸を世界の中心と捉え、日本から南アジア、ヨーロッパまでの外縁部を内側三日月地帯、アメリカ大陸、アフリカ大陸、オーストラリアなどをさらに外側の三日月地帯とした。当時、世界の覇権はこのハートランドと呼ばれるユーラシア大陸中央部を制することと考えられた。そこにはこの中央アジア5カ国も中心として位置づけられていた。内陸国は土地への執着があり、領土拡大のために攻撃的な傾向にあるランドパワーと言われた。その反対にイギリスやスペイン、ポルトガルのような海洋国家はシーパワーと言われ、主に交易による権益を守る傾向にあり、ランドパワーに比べ攻撃的ではなかった。そのため、ハートランド理論ではシーパワー国が連携してランドパワーを抑え込む戦略が提案された。
その後、アメリカの地政学者ニコラス・スパイクマンは、中央アジアを含むハートランドの外縁をリムランドとし、ランドパワーの拡大を抑え込むためにアメリカはリムランド諸国と同盟関係を結ぶべきとの理論を発表した。地政学が発展すると海は全ての土地をつなぐ道とされ、「海を制するものが世界を制する」と考えられた。そのため中央アジア5カ国を含むハートランドの内陸国は海を目指し領土拡大を試みてきた。歴史的に見てもハートランド外縁部では紛争が絶えない。
島国である日本にはあまりピンとこないが、内陸国の外への拡大志向は相当強く、それは21世紀になった現代でもあらゆる分野で見られる。また現在もアメリカの安全保障戦略はスパイクマンの理論を基本としている。
参考文献「戦略の地政学ランドパワーVSシーパワー:秋元千明著」
中山拓