モンゴル全土で地方選挙が10月15日に行われた。人口の半数が居住している首都ウランバートルの市民代表議会では、人民党が全45議席のうち34議席を獲得した。選挙前に人民党政府は住宅ソフトローン金利を8%から6%に引き下げた。これは偶然なのだろうか?大統領選挙の前に再度引き下げ、4%にするという話がでてくれば、皆さんは驚くだろうか?

そこで一つ問いたい。政府が選挙前の公約で金利を引き下げられるものなら、住宅ローン金利を先進国並みの2~3%にすることは可能なのだろうか?住宅ローン金利はどのように調整されているのか?そもそも、政府はいつ、どのように、モンゴルのすべての家庭に住宅を提供できるようになるのか?

住宅ローンの成り立ち

人は生活して行く上で必要最低限の衣・食・住の3つを確保しなければならない。先進国では、どれほど貧しい人の家にも温水と冷水、トイレとシャワーがある。しかし、モンゴルの人口の半数以上が敷地の地面に穴を掘っただけのトイレと、ゲルやレンガで造った一戸建ての家に住んでいる。しかし、数千戸にもなる新しく建てられた集合住宅が売れ残っている状態だ。

モンゴルは20年前から鉱山開発で資源を売り始めた。それで多少の外貨を得るようになり、国民の住宅需要を満たすために、ほぼ全ての人が建築会社を設立したと言っても過言ではない。

権力者は、鉱山開発のライセンスの交付だけでなく、ウランバートルの土地を不正に売り私腹を肥やすようになった。都市計画は完全に崩壊し、住宅価格は高騰した。高所得世帯だけが住宅を購入できるようになった。モンゴル銀行(中央銀行)は2013年に低所得世帯向けの住宅ソフトローンプログラムを打ち出した。その結果、10万人が年利8%、総額4兆9,000億トゥグルグの住宅ソフトローンを受けた。

2020年10月から、住宅ソフトローン金利は6%になり、3,000億トゥグルグのローンを新規に交付することになった。月収が150万トゥグルグ以下で、初めて住宅を購入する人が対象となる。また、ローンの4分の1を地方に、全体の15%までを公務員に交付する。このローンで1,500世帯が住宅に入居することになる。だがウランバートルだけを見ても、20万世帯が住宅に入居する必要がある。

誰が住宅ローンのスキームを提案したか?

住宅化の推進は、国の財務の仕事である。そのため、ほとんどの国では、これを中央銀行ではなく、政府が担当する。なぜなら、マネーマーケットは短期資金の調達を仲介するが、住宅ローンは長期であり、債券市場から資金が調達される。そのため、長期ローンの担保(住宅)を統合して、資金で保証された証券(Asset Backed Securities)として、利息(クーポン)を提供する債券にすることでローンと資金を繋ぐ。その架け橋は住宅資金調達公社(MIK)である。

モンゴルでは、これを政府ではなくモンゴル銀行が始めた。モンゴル銀行は2013年から紙幣を刷り、商業銀行経由で4兆9,000億トゥグルグの住宅“ソフト”ローンを国民に交付した。また、価格維持というプログラムを打ち出し、建築資材を扱う業者に2兆トゥグルグのソフトローンを交付した。その結果、マネーサプライが急増し、価格維持どころか住宅価格は2倍に上昇し、通貨トゥグルグの価値は2分の1にまで下落した。通常の金利と住宅ソフトローンの金利の差額をすべての国民が税金で支払っているため、これは国民全員にとって“割引”ではなく“負担”となっている。

今日、モンゴルの住宅ローンのポートフォリオは約5兆トゥグルグに上っており、そのうちの2兆8,000億トゥグルグがモンゴル銀行、2兆1,000億トゥグルグが各商業銀行、3,000億トゥグルグが政府から拠出されている。商業銀行のローンを担保にして証券取引所で債券を販売することをMIKが担当している。MIKの債券の期限は30年で、商業銀行に11%、モンゴル銀行に4%の利息で販売したが、商業銀行はほとんどの債券をモンゴル銀行に売っている。

当初、MIKは商業銀行と同等の立場で設立された。しかし、今では開発銀行14.9%、モンゴル銀行2.03%、ステート銀行2.35%で、19%が国有となっている。他にTDB銀行が9.99%、MIK Real Estate 社11.17%、MIK HFC社19.78%、MIK Asset社6.4%、TDBキャピタル社9.22%、ウランバートルシティ銀行10%、キャピトロン銀行1%で、60%をTDB銀行関連が保有している。残りはゴロムト銀行4.94%、ハス銀行1%、ハーン 銀行1%がそれぞれ保有するようになっている。

TDB銀行の株式95%を保有しているD.エルデネビレグ氏は、住宅市場も管理しているということだ。この人物は国有のものを私有にしてきた「金融のマジシャン」であり、それゆえ政府に対して強い影響力を持っている。銀行にはカネがあり、カネは強いということを証明してきたこの人物については「エルデネビレグリズムⅡ」という記事に詳しい。

例を挙げると、D.エルデネビレグ氏はウランバートル市の重要な文化財だった「子ども図書館」を取り壊し、そこへガラス張りのTDB銀行のビルを建てた。建築総額は270億トゥグルグになった。ビルの11~12階を国有の開発銀行に270億トゥグルグで、10階をMIKに150億トゥグルグで売却した。

また、エルデネト鉱業の株式49%をロシアから国の資金で取得したことが発覚し、逮捕された。しかし数日拘留されただけで釈放され、直後に海外へ逃亡した。今の政治家、マスコミもこの事件については話すどころか、考えるだけで恐れるようになっている。

住宅ローンの新しいスキーム

ウランバートル市の新しい市長D.スミヤバザル氏は、「党が公約した15万世帯へ住宅を供給する政策では、年間最低1万世帯に品質の高い住宅を提供するとしても、この先20年はかかる。そのため、既存のソフトローンプログラムを継続させる他に選択肢がない。住宅ソフトローン金利が中央銀行の政策金利を下回っているかぎり、この政策は継続する可能性がある。」と言った。

MIKは、発行された10万世帯の住宅所有証明書のうち、6万8,000世帯分を担保として持っている。MIKは債券の利息から1.63%の手数料を徴収しており、これだけで会社の収益の8%にあたる。MIKは25の特別目的会社を経由し、国内に4兆トゥグルグ、海外に3億ドルの証券を発行した。MIKは収益性が高く、その利益でリスクファンドを設立している。

今回、政府の住宅ローン政策は、昔ながらの古いスキームではなく、新しい住宅ローンの形を求めている。政府は、国有住宅コーポレーションや首都住宅コーポレーションという名前の国有企業を設立した。今、新たにモンゴル銀行と建設・都市開発省が共同で全国住宅総合コーポレーションという会社を設立している。この会社は、住宅プロジェクトに資金を供給し、入札や管理を行うという。

本来、住宅開発を入札で選抜し、その建設を外部の企業に委託し、商業銀行を通じて現金もしくはローンや賃貸で販売すれば、リスクは最小限に抑えられる。国有住宅コーポレーションの前社長は、それができなかったため刑務所に入ることとなった。

住宅ソフトローンを担保にした債券を出すにあたって、競争があるべきだ。しかし、モンゴルの商業ローンと住宅ローンの差が10%あり、これは投資家にとって住宅ローン債券は魅力的とは言えない。論理的に長期ローンは、年金、保険、投資信託、ヘッジファンドなどの長期資金で賄われる。そのようなファンドがモンゴルで設立されるまで、政府が金利差を負担する他ないだろう。

商業銀行は建築などの本業以外の事業から手を引き、提携する住宅を借手に押し付けず、自己資本を増やし、不良債権を削減する必要がある。だから国際通貨基金(IMF)は、モンゴル銀行が国の財政の代わりをやめるよう要求している。

住宅ソフトローンの新しいスキームの成功の可否は、透明性があった上でモンゴルの各家庭が快適な住宅を購入できるかどうかにかかっている。

モンゴルには自由と鉱物資源がある。欠けているものは良いガバナンスである。良いガバナンスは、国民の要求と参加により作られる。

ダムバダルジャー・ジャルガルサイハン