ナサン・オトゴンバヤル氏は、会計士であり経済学者です。彼はキャピタル銀行で会計士、モンゴル郵便銀行でローンエコノミスト、シニアエコノミスト、公共調達所及びモンゴル教育文化科学スポーツ省の投資・生産部部長を歴任しました。N.オトゴンバヤル氏は2019年6月からウランバートル市開発政策・計画部長を務めています。
J(ジャルガルサイハン): こんにちは。ウランバートル市はアジア開発銀行と連携し、地域開発基金に関する事業に取り組んでいます。具体的にどういう内容なのですか?
N.オトゴンバヤル: はい、ウランバートル市、県、村、区の地域開発基金が、その年の予算、計画に地域住民の意見を反映させるという試みは2013年から始まりました。当時は用紙に要望を記入する方式でしたが、2018年からUBアプリを使って、オンラインで調査することが可能になりました。その違いは、用紙に記入する方式だった時は一世帯一つの提案しかできませんでした。それに対し、今はUBアプリを使うことで、家族全員がそれぞれ提案することができるようになりました。
J: 地域開発基金はどのようにして成り立っていますか?
N.オトゴンバヤル: 税金で成り立ってます。具体的には、付加価値税の5%、鉱物資源利用料の5%、石油資源利用料の30%、鉱物資源の探査ライセンスからの収益100%、鉱物の使用ライセンスからの収益50%、その他寄付などです。
J: 最初は付加価値税の25%を地域開発基金に取り入れる予定でしたが、なぜそれが5%になったのですか?
N.オトゴンバヤル: 予算法第11条1項22号に基づき、2013年に財務大臣の省令及び2018年9月の第228号改正省令によるものです。
J: 地域開発基金、とりわけ地方の発展は非常に重要な課題となってきています。地方の発展度合も良くなく、国民は首都に集中しています。地方を首都のレベルにとまでは言いませんが、地域開発基金に十分な予算は確保されるべきだと思います。付加価値税の25%が地域開発基金に充てられていたら、ウランバートルへの人口集中を少しでもやわらげられたのではないかと考えています。もちろんこれはあなたが任命される前の話になりますが、あなたは今の仕事を担当されてから6ヶ月経ちますね。
N.オトゴンバヤル: 7ヶ月です。
J: 今現在、例えばウランバートルに関して、市が担当しますか、それともそれぞれの区が担当しますか?
N.オトゴンバヤル: ウランバートル市、区と、それぞれの行政単位で行われます。地域開発基金の収入を定められた形式で、4つの基準要素を用いて市及び地方に配分しています。
J: 配分の前に、例えば2018年、2019年など、年単位でどれくらいの金額について今話しているかを明らかにしましょう。
N.オトゴンバヤル: ウランバートル市に関して言えば、2020年は27.2億トゥグルグが配分され、その70%がウランバートル市、30%が区に分けられました。全国では188億トゥグルグです。
J: 地域開発基金の配分比率は人口比例ではないということですね。もし、人口比例でしたら188億トゥグルグの半分はウランバートル市に配分されるべきですからね。人口比例ではないことで、どのような効果が得られますか?
N.オトゴンバヤル: 2018年には1万3千人を対象にオンライン調査を行いました。2019年には、ウランバートル市の6つ の区の調査に、7万6300人が参加しました。その結果を住宅に住む住民とゲル地区に住む住民で分けて見ると、とても面白い統計が出ました。2019年の調査結果が2020年の予算に反映されていくわけですが、例えば、ゲル地区の開発に必要なものとして、全住民の20.56%が防犯カメラの設置、14.45%がゲル地区の再開発だと回答しています。ゲル地区に住む住民の3万5909人が、土地と住宅を交換し、住宅に住みたいと考えていることが分かりました。
J: 2020年は188億トゥグルグの27.2億トゥグルグがウランバートル市に配分されるわけですね。2019年はどうでしたか?
N.オトゴンバヤル: 2019年は総額で143.8億トゥグルグでした。そのうち26.5億トゥグルグがウランバートル市に配分されました。
J: 2020年とあまり変わらないですね。
N.オトゴンバヤル: 税金から成り立っているわけですから、その年その年によって異なるからです。鉱山開発などの影響によって、例えば2017年は一番低く、11.8億トゥグルグでした。
J: 地域開発基金には、石油資源利用料の30%、その他の鉱物資源利用料の5%となっています。この5%というのは、国が鉱山へ課税している5%から9%までの税率の5%なのか、それとも徴収した税額の5%を言っていますか?
N.オトゴンバヤル: 鉱物資源利用料への税額の5%となります。
J: 地域開発基金は政府の国家予算とは違うのですか?
N.オトゴンバヤル: はい、そうです。なぜなら、先ほど挙げた6つの税金が原資となるからです。その使い方も省令で決められます。
J: 国の予算配分とは違うのですね。では、どのような目的で使われていますか?
N.オトゴンバヤル: 例えば、ウランバートル市に関して言うと、17万6人がオンラインで調査に回答しました。この調査は複数選択可能となっており、全住民の5.79%を占める1万3394人が街灯、緑化、交通機関、配水所、水害からの防災、公衆浴場などの整備を望むと答えています。
J: では、例えば私が「自分の住む区にはこれが必要だ」と考えた場合、UBアプリを使って発言できるということですね。
N.オトゴンバヤル: はい、UBアプリから地域開発基金を選択し、電話番号、住所と氏名をを入力し、地域に必要なものを書き込みます。
J: あなたの仕事は、以前は1世帯に1つの投票だったものを、個人それぞれが投票できるようにしたのですね。以前は調査の際、告知の手紙などを出したりしていたのですか?
N.オトゴンバヤル: 請求書みたいなもので、とても手間がかかっていました。今はスイスの開発機関の予算で、アジア基金が実施しています。
J: これらの機関と協力して具体的に何をしているのですか?
N.オトゴンバヤル: スマートUBアプリを開発しています。ウランバートル市の176のホローに住む、調査に参加するできる110万人の住民を対象に、3月1日から4月1日の期間で調査を行います。それから2021年の計画のために5月1日まで情報収集を行います。それらの調査に基づいて、この区の住民の何割が街灯を必要としているか、地域開発基金の何%を街灯に回すかというように決めていきます。国の計画は誰かが勝手に決めていると多くの国民が考えているかもしれませんが、私たちには国際連合加盟国としての義務があります。具体的には、17の目標、169のターゲット、244の指標があり、それらと関連して2016年から2020年の政府の政策計画が制定されました。さらに、政府の計画と関連し、ウランバートル市の政策計画も出されています。
J: 2030年までモンゴル国を含む世界各国の発展の道筋を示す持続可能な開発目標が採択され、これにモンゴル政府も署名しました。この中でウランバートル市として何を成し遂げるかを決め、実現に向かっています。そして、その決定に市民の意思を反映させる仕組みを整えたということですね。では、アジア基金との協力事業の目的は何ですか?
N.オトゴンバヤル: 予算配分に市民参加を増やすことです。これは1年ごとに作られる単年度計画です。ウランバートル市や政府の政策計画は、多くの場合四カ年計画です。持続可能な開発目標の計画は、その多くが8〜10年という長いスパンでの計画で、国の持続可能な開発目標として15カ年計画が2016年に制定されました。これらの計画を実行するにあたって、今私たちが行なっている市民への調査はデータとして有意義なものになると思います。
J: 2030年までの全国の開発目標と合わせて、ウランバートル市も開発目標を出していますね。
N.オトゴンバヤル: はい。それは全国の開発目標と関連付けたものです。モンゴル国の開発目標も世界各国の開発目標と関連しています。
J: ウランバートル市が直面している一番の問題は、住宅化ですね。開発目標では住宅化に関する問題を、いつまでにどのように解決しようとしていますか?
N.オトゴンバヤル: 住宅化は重要な課題ではありますが、その前にウランバートルに住む人々がどの様に安定した収入を得られるかを考える必要があります。例えば、ゲル地区の土地の代わりに住宅を供与するとします。ゲル地区に住んでいた時の支出が6万〜8万トゥグルグだった世帯が住宅に住み始め、収入は変わらないのに支出が15万〜20万トゥグルグになってしまうのです。ですから、まず人々が一年中働くことができる雇用環境を作らなければなりません。
J: どの様に実現しますか?
N.オトゴンバヤル: ウランバートル市に新しい職場を作る大きなプロジェクトを支援することが考えられます。例えば、鉱山開発からの収入が高い今、その収入を産業、農業へ活かすことができるでしょう。ただそれには継続的な雇用を産むプロジェクトを、市や政府と民間が協力して実行することが課題となっています。
J: ウランバートルを自由経済圏にして、減税や免税をするという話は以前からされてきましたが実現できていません。それはなぜだと思いますか?
N.オトゴンバヤル: 国会議員の任期が4年ということとも関連しているかもしれませんが、いずれは自由経済圏とするほかありません。
J: 世帯収入を上げるために雇用を創出する。雇用を創出するために政府主導が必要だと言われました。本来ならば、自由経済の雇用は政府ではなく、民間企業、市場が生み出します。しかし、モンゴルでは一定条件の下、政府と民間企業が協力するために自由経済圏を作るという話になっています。私が聞いた限りでは、この議論は15年も続けられました。しかし、いくら議論してもまだ実現の見通しが立っていません。その理由は何ですか?
N.オトゴンバヤル: 私はここ10年、開発経済や投資の分野でエコノミストとして働いてきました。私自身の考えでは、議論ではなく決定力が必要だと思います。雇用を産む民間企業を政府が政策で支援する。あくまでも個人的な意見ですが、例えば民間企業が銀行から借金をしたとします。その利息を国が支払うことも一つの手です。
J: 国が支援するといったら、誰がどういうお金で支援しますか?地域開発基金から利息分を支出するということですか?
N.オトゴンバヤル: 雇用を創出するための大きな基金を作っていくべきです。ウランバートル市の予算、あるいは国の予算から専門の基金を緊急に作るべきです。なぜなら、現在、市中銀行の金利は24%以下です。2010年は1.6%だったのですよ。しかし、今は市民や小中企業に24%から36%までの利息をつけています。これをどうにかしなければなりません。2006年、2007年以前は、市中銀行は正常に働いていました。しかし今、マイクロローンは中小企業にはとても大きな負担となっています。
J: その原因はですか?
N.オトゴンバヤル: 通貨供給量です。長年、金融市場で勤めてきた者としての私見ですが、本来市中銀行から出るべきお金が、銀行以外の金融機関を通っているからではないかと思います。物価が上昇するのもそれが要因です。
J: 面白い見解ですね。なぜそう見るのですか。中小企業に届くべきだった支援金を国会議員が何百億も受け取り、その資金を議員が保有する非銀行金融機関で貸し出しているという理解が広まっています。すると、これは政府の透明性、責任の問題になります。地域開発基金の透明性に関して、どういったことがなされていますか?
N.オトゴンバヤル: 中期計画書にきちんと定めています。これは市民中心の政策です。どうすれば市民生活を向上させ、幸せに暮らし、高等教育を平等に提供し、労働を支援し、環境汚染を減らし、市民にやさしいウランバートル市を作るかについての政策です。それから、環境中心の政策でもあります。どうすれば大気汚染・土壌汚染のない、環境にやさしい生活を手に入れられるかについての政策です。さらに、計画ありきの市です。実現可能な中・長期政策を計画し、国際方針に従い計画していくのです。それができれば、国連、国際通貨基金、世界銀行、アジア開発銀行、その他の国際機関から支援を受けることができます。また、市政府の良いガバナンスです。良いガバナンスとは、市民の参加を歓迎する、腐敗のない、効率的で責任のある、プロフェッショナルで安定したガバナンスです。
J: そうあるべきだと長年言われています。それにも関わらず、なぜそうできないのかが問題です。これらの全て問題の裏には、市の権力を持つ人物や環境省の高官がおり、例えばそういった権力のある者が、市の土地を私利私欲のために売買したということです。例を挙げると、ザイサン地区やヤールマグ地区です。誰が土地を不正に売買したかは隠されています。こういう状況で、今あなたが挙げてくれたことを実現できるという自信はありますか?
N.オトゴンバヤル: もちろんです。私は自分自身及び私たちのチーム、市役所の政策方針を紙に写し、計画にして、それを実現するために努めています。アマルサイハン市長は迅速な決定も出しています。市役所の公務員が朝から晩まで働き、重要な2つの政策文書を作成し、許可も得ました。政府の人間が変わるほど、この計画は実現すべきものです。全ての問題を含めています。
J: 計画については分かりました。なぜ私がこう聞いているかというと、以前から多くの市の運営に関わる人たちと会ってきました。誰もが計画について話します。しかし、実際には計画の実現に問題がありました。その責任を問わずに今も放置したままで、計画実行の実現可能性について国民は疑問を持っているわけです。
N.オトゴンバヤル: 私たちは市のガバナンスを20の基準をもって評価します。計画全てに透明性があるから、責任を問うことはできます。例えば、アマルサイハン市長は非常に勇気を持った決断をしています。広場の前の土地、道路、学校、幼稚園周辺の公共用地のライセンスの付与を取り消しました。
J: 銀行に渡った何箇所の公園を取り戻しましたか?
N.オトゴンバヤル: 広場の前の公園についてはライセンスを取り消しました。そして、その緑化について公共調達で民間企業による競争入札を行いました。
J: セントラルタワーという建物があります。その前の公園をセントラルタワーが担当しており、噴水も作って、若者も多く集まっています。一方で、その隣にある公園は公衆便所になっています。
N.オトゴンバヤル: 新しい青図では、同じように噴水のある公園になります。
J: つくることと異なり、維持するために一定の利害があると考えられます。それをどう調整しますか?
N.オトゴンバヤル: それについて、例えば、民間企業と契約することも可能です。モンゴルはせっかく素晴らしい建物を建てても、その建物の掃除をしません。しかし、アメリカでは建物を維持する清掃人を毎日のように見かけます。
J: 家の外見はトイレやキッチンから始まります。ウランバートル市のゴミの管理について、あなたたちの計画ではどのようになっていますか。ウランバートル市の2つの大きなゴミ処分場はいつ無くなり、いつゴミ処理工場を建てますか?
N.オトゴンバヤル: ウランバートル市の大きな課題は、ゴミ問題と渋滞問題です。一方で、これは新しいビジネスのアイディアでもあります。ですから、新しいビジネスに対するチャンスとして捉えたいと思っています。例えば、道路を政府と民間の協力で建設することも可能です。
J: そういった問題解決方法を全部その計画に入れて、それを実現すると信じているということですね?
N.オトゴンバヤル: そうです。実現するために計画を立てていますから。
J: これは非常に困難な仕事です。一方で、簡単な仕事でもあります。利益相反がなく、その実現に参加する全員が不正を働いていなかったら、ウランバートルは世界トップクラスの都市になっていたでしょう。しかし、今はそうではなく、あなたが今言った問題は未だ解決されずにいるということです。今回は違うと期待しています。アジア基金からどれくらいの予算が入ってくるのですか?
N.オトゴンバヤル: 2023年までのプロジェクトです。今まで様々なプロジェクトが、政治が原因で中止されるました。しかし世代も変わって来ていますし、実施できると思います。先進国に行ってみると、モンゴルにも取り入れたいと思うことがしばしばです。そのために頑張っています。
オトゴンバヤル * ジャルガルサイハン