チメド・フレルバートル氏は、ロシアのサンクトペテルブルク市の金融大学で企画・経済学を専攻しました。また、オーストラリアのシドニー大学で経済学修士号を取得しました。また、フレルバートル氏は、モンゴル国家開発省で研究員、モンゴル国立大学経済学部で教授職、首相経済顧問、モンゴル金融経済省で事務次官、モンゴル国エネルギー大臣、内閣官房長官、国会議員、予算常任委員会委員長などの役職を歴任しました。フレルバートル氏は、2017年10月18日からモンゴルの財務大臣を務めています。

J(ジャルガルサイハン): こんにちは。先日、モンゴルのフレルスフ首相がロシアを公式訪問しました。首相のこのロシア訪問にあなたも同行しました。そこで、あなたは今回の首相のロシア訪問をどのようにみていますか?

Ch.フレルバートル: 今回のフレルスフ首相のロシア公式訪問は、モンゴルとして9年ぶりの公式訪問となりました。今回の公式訪問で、それまでにロシアとモンゴルの間で蓄積してきた問題の解決策を探り、さらにモンゴルの今後の発展において重要とされる課題に対して率直に話し合いが行われました。その中で、主にモンゴルを通過する天然ガスパイプライン建設について、ウランバートル鉄道やエネルギー分野における協力活動など、3つの重要課題に焦点を当てて協議しました。この3つの重要課題は、モンゴル国の経済発展および統合において、とても重要な役割を果たします。

私は、首相の今回の公式訪問は、結果としてモンゴルとロシアの間で以前から蓄積され直面している問題の解決だけでなく、新たな投資と、既存の投資を拡大させる分野を両国が明確にできたと見ています。

J: この中で特にモンゴルを通過する天然ガスパイプライン建設について、より具体的に話したいと思います。建設については基本合意がなされたと言われていますが、実際にどのレベルまで話が進んでいますか?

Ch.フレルバートル: 今回の公式訪問の際に、首相は天然ガスパイプライン建設に関して4回にわたる会談を行いました。1回目は訪問の初日に、首相は滞在先のホテルに到着して直ぐにガスプロム社のアレクセイ・ミレル社長と会談しました。この会談で天然ガスパイプラインの建設ルートや経済効果について話し合われました。すなわち、ガスプロム社と天然ガスパイプライン建設プロジェクトについてのみ話し合われたということです。その次の2回目となる会談は、ロシアのドミートリー・メドヴェージェフ首相との会談です。この会談では、天然ガスパイプライン建設がモンゴルにとってどれほど重要なのかについて話し合われました。メドヴェージェフ首相との会談後、フレルスフ首相はロシアの黒海に面した都市であるソチを訪問しました。3回目の会談は、このソチでフレルスフ首相がロシア政府とモンゴル政府が共同で計画している天然ガスパイプライン建設プロジェクトの合同委員会に出席した際の会談でした。首相はこの合同委員会の委員長であるアレクセイ・ゴルデーエフ副首相と会談し、ここでも主に天然ガスパイプライン建設プロジェクトについて話し合われました。

最後に最も重要な会談は、フレルスフ首相とウラジーミル・プーチン大統領との会談です。このロシア大統領との会談では、天然ガスパイプライン建設プロジェクトについても話し合われ、その際に政治的な要因、経済的効果を重点に話し合われました。プーチン大統領はモンゴルを通過する天然ガスパイプラインの建設を進める意向を示しました。また、このプロジェクトはロシアにとっても経済効果が期待されるため、専門家チームを派遣し、実行可能性調査を開始すると正式に発表しました。

これら4回にわたる会談の終了後、両国の覚書(MOU)にモンゴルのU.エンフトゥブシン副首相とガスプロム社のアレクセイ・ミレル社長が署名をしました。

J: 首相のロシア公式訪問の際に締結された覚書によれば、天然ガスパイプライン建設の実行可能性調査に2年、建設工事期間に3〜4年かかると理解しました。あなたは財務大臣として、仮に2026年にこの天然ガスパイプラインが稼働し始めた時に、モンゴルに及ぼす経済効果をどのようにみていますか?また、モンゴルは通過料をどのように徴収しますか?言うまでもなく、モンゴルは天然ガスを利用するようになると思います。その天然ガスの用途は暖房のためのエネルギーとなるのか、それとも電力のためのエネルギーになるのか?これについてモンゴル政府はどう考えていますか?

Ch.フレルバートル: これに関して現時点では、ロシアのガスプロム社と天然ガスパイプラインを既存の鉄道(モンゴルを経由するシベリア鉄道)に沿って建設されると話しています。鉄道沿線に建設した方がコスト的に有利です。ロシアは中国へ送られる天然ガスパイプライン「シベリアパワー」を既に完成させています。その開通式がフレルスフ首相のロシア訪問と重なりました。このパイプラインは、鉄道が通っていない場所で建設されたため、建設コストが高くなったことをガスプロム社が言っていました。

 その他にも天然ガスの取引条件や、天然ガスパイプライン建設後に発生するであろう種々の問題について話し合っています。例えば、ロシアからウクライナやヨーロッパへの天然ガスパイプラインをめぐっては様々な問題が発生しています。このような問題が発生した時にどうするかについて話し合っています。

そのため、第1にモンゴル、ロシア、中国の3ヵ国の法律に統一性をもたせ、そのためにそれぞれの国が関連する法律を改正し、ルールを共有する必要があります。さらに、取引価格や税率などを明確にする必要があります。だから、まずはこのような専門的なことを具体化させる活動が行われます。

その次に、天然ガスパイプライン建設の図面作成作業が行われます。私たちはこの図面作成に1年半、建設に2年を要すると予測しています。

この天然ガスパイプライン建設は、モンゴルにとって経済的にどれほどの利益をもたらすのかと言えば、まずはモンゴルの領土を通過しているから通過料を徴収します。その通過料を現金もしくは天然ガスで受け取ることができます。天然ガスを活用するようになると、モンゴルのエネルギー分野に大きな変化をもたらす可能性があります。例えば、既存の火力発電所は暖房を供給する機能もあるため、熱源がピークとなるまで長時間石炭を燃やし続けています。もし、石炭を天然ガスに置き換えたならば、熱源がピークになるまでの時間が短縮されるようになるでしょう。他方、ロシアからの電力輸入量を減らす可能性もあります。また、ウランバートルの大気汚染削減にも貢献できると考えています。こういった効果を考えると、将来的にモンゴルの地方全体に天然ガスが供給される可能性もあります。だから、経済的に高い効果が得られると見ています。

J: まもなく2020年を迎えます。私は財務大臣にお会いできているこの機会に、国家予算について伺いたいと思います。先日、2020年度の予算案が国会で可決成立しました。予算案が可決成立して以降、様々な財政問題が発生しています。政府はこの財政赤字に対して、どのような措置を講じますか?

Ch.フレルバートル: まず、国家予算について少し話したいと思います。2019年度の予算案が可決成立される時に、歳入が高くなっていたため、選挙の前年だから選挙のための予算になっているという批判を多く受けました。この歳入は無茶で不可能だと言っていました。国会の審議でも、皆さん私に「この歳入は実現する可能性は何パーセントなのか」と聞いていました。その時、私は「95%実現可能だと考えている」と答えていました。そして私が言ったように、現時点で2019年度の歳入は予算より少し上回るくらいを実現しています。今回も2019年度の予算案の可決成立の時と同じく多くの批判を受けています。長年モンゴルの政策に携わってきた者として、私は自分たちにできることだけを言います。

J: 2020年度の予算案に関しては、与野党政党間でも議論が噴出しており、野党からは「財務大臣は自分の選挙区(出身県)や首相の出身県に他の県より多く予算を盛り込んだ」というような批判が出ています。これについてどう思いますか?

Ch.フレルバートル: これは政党による政府化だと思っています。実際に各県の予算を並べてみれば、平均予算額は同じなのです。ここで1つ考慮しなければならないものは、外国の融資や支援で実施されているプロジェクトです。財務省はこれも考慮に入れて行かなければなりません。ですから、外国の支援で実施されているプロジェクトを外してみれば、異なる数字が出てきます。

しかし、財務省は各県で実施されるプロジェクトに優先順位を付けて予算を考えて出しています。だから、私は自分の、もしくは首相の出身県の予算を意図的に高くなるよう設定したことはありません。ヘンティ県の場合は、観光分野を促進させるために道路建設が計画されており、その費用を含めると割り当てられた予算が高いように見えています。こういった理由から、これらの批判は全く根拠のないものといえるでしょう。

J: もう1つの問題は国債償還についてです。2020年の国政選挙で現政権が維持するか、もしくは変わるかどちらかになります。2021年〜2023年にかけて、モンゴル政府の国債が償還を迎えます。チンギス債券を始め、およそ60億ドルの償還があります。あなたがもし次の財務大臣となったら、これらの国債の償還をどのように見ていますか?

Ch.フレルバートル: 2021年〜2024年にかけて、4年間で総額29億ドルの国債償還が行われます。私たちは中期政府国債戦略を国会に提出し、これは可決成立しました。この戦略文書には国債の償還方法について具体的に盛り込まれています。財務省もいくつかの取り組みをしています。この償還分29億ドルは、経済や財政において負担にならずに解決されることができます。

J: 次の問題はグレーリストについてです。モンゴル政府は金融活動作業部会(FATF)のグレーリストに入りました。あなたはモンゴル銀行が経済政策にしっかり取り組んでおらず、特に各商業銀行の自己資本比率の引き上げに関して、各商業銀行に十分に働きかけていない。グレーリストから抜け出すことに至急取り組まなければならないと何度も話していました。その後、モンゴル銀行の総裁や金融規制委員会の委員長を解任しました。政府はグレーリスト入りが決まってから金融界の改善に向けて何をしてきましたか?また、しなければならないことは何ですか?

Ch.フレルバートル: グレーリスト入りの問題に関連して、首相はワーキングチームを結成する決定を出しています。首相はグレーリストから短期間で脱出できるように取り組まなければならないと言っています。私はそのワーキングチームを指揮するように首相から命じられていますが、現時点では正式にチームは編成されていません。取り組むべきことはたくさんあります。まず、FATFのオーストラリア、タイ、パリでの会議で出された勧告があります。私たちはこれらの勧告を真摯に受け止め、実行しなければなりません。短期間で実施し、その結果をFATFにその都度報告しなければなりません。

次に私たちは、マネーロンダリングおよびテロ資金対策法を強化し、厳格に施行しなければなりません。また、各商業銀行は自己資本比率を引き上げなければなりません。なぜならば、モンゴル経済は拡大しているので、それに合わせて銀行も大きくならなければなりません。経済が拡大しているのに銀行は小さければ、銀行にとってリスクが高くなります。さらに、各商業銀行に自己資本比率を引き上げた資金は、マネーロンダリングやテロ資金など、不正なものではなく、正当な資金でなければなりません。

J: モンゴルがグレーリスト入りとなった資料をみてみました。モンゴルはFATFの11項目の有効性の評価のうち、4つの項目を実施していません。その4つの項目の1つは、腐敗に対して法律に則って対処していないというものでした。また腐敗事件の再発防止措置が取られていないと記述されています。あなたも周知のように、モンゴル政府は腐敗事件に関与したとして元首相や財務大臣を逮捕してきました。しかし、逮捕したとしても何の責任追及もせず釈放しています。責任追及しないのであれば、なぜ逮捕しているのかと誰もが疑問に思っています。これについて、あなたが指揮するワーキングチームは何か対策を取りますか?

Ch.フレルバートル: 正にこれがグレーリスト入りとなった問題の本質となっています。マスコミなどで大きく報じられている腐敗事件の一部は、その真相が明らかになっています。しかし、全容解明には至っていません。これは何としても解決する必要がある問題です。

J: そうこうしている間に時効を迎えて多数の腐敗事件が無効となっています。あなたはこのことを閣僚、財務大臣としてではなく、国会議員としてどうみていますか?

Ch.フレルバートル: 本来、政府閣僚は司法機関、検事長や賄賂対策庁の活動に参入することができません。しかし、今では責任の所在が混同してしまっています。だから、これは解決しなければならない問題の1つだと認識しています。

J: もう1つ、あなたに伺いたいことは住宅ソフトローンについてです。前々回の政権が打ち出して実施したプロジェクトの1つが、住宅ソフトローンです。この住宅ソフトローンのプロジェクトは期限を設けず、8%の金利で住宅を供給できるというものでした。このプロジェクトの担当はモンゴル銀行になっていました。しかし、モンゴル銀行の資金が不足してきたので、モンゴル銀行は住宅ソフトローンのプロジェクトを政府に移転すると発表しました。政府はいつこのプロジェクトを引き継ぎますか?引き継いだ後はどうしますか?

Ch.フレルバートル: 住宅ソフトローンプログラムは、バトボルド政権時に始まり、金利の差額を政府が補助するというものでした。2012年以降、モンゴル銀行は総額7兆トゥグルグの通貨を新たに発行して実施しました。この通貨の新規発行によって、市場に多額の紙幣が追加されてしまいました。これによってトゥグルグの為替レートは2分の1に下落したのです。為替を維持するためにモンゴル銀行は外貨準備高を売り始め、最終的に外貨準備高を融資で補填するようになりました。しかし今、外貨準備高は40億ドルまで増加しています。通貨を発行して住宅ソフトローンプログラムを実施したことが、モンゴルの不動産価格を高騰させ、ドルの為替レートも上昇させてしまいました。その結果、すべての国民がそれを支払うようになりました。例えば、店でガム1つを買う人も支払っていることになります。つまり、1人が住宅を買ったことによって、その差額を国民全体が支払っているということです。

モンゴル銀行に更に通貨を発行させて、このプロジェクトを継続させることもできますが、それではまた不動産価格やドルの為替レートを上昇させてしまいます。そのため、政府は予算から拠出するようになりました。例えば、政府が1,200億トゥグルグを拠出した場合、2,200人が住宅を購入することになります。国民全体に住宅化を進めるために政府が資金を拠出することは適切な方法ではありません。そのため、私たちは他国の事例を検討しています。

J: 2020年に住宅ソフトローンのために政府が拠出する資金はいくらですか?

Ch.フレルバートル: 総額3千億トゥグルグを予定しています。

J: これは予算から拠出されますか?

Ch.フレルバートル: 予算からは600億トゥグルグを拠出します。その他はモンゴル銀行や各商業銀行から拠出される予定となっています。

J: 最後の質問はインフレについてです。西欧諸国ではインフレ率が2〜3%、貸出金利は4〜6%、住宅ソフトローンの金利は2〜3%であり、経済は正常に動いています。モンゴルの場合は、銀行の貸出金利が15〜16%です。モンゴル銀行の政策金利は10%です。そしてインフレ率を8%以内に維持するとしています。この状況の中で、財務省の立場でみて最も厳しい状況はどういったところに現れますか?

Ch.フレルバートル: マクロ経済は財政政策および金融政策によって管理されています。そのため、財務省とモンゴル銀行はそれらの政策を連携させるためにいくつかの取り組みをしています。皆さんはご存知だと思いますが、予算投資を行います。一部の人々が批判していますが、この予算投資は経済成長に重要な役割を果たしています。現在、世界中で海外需要が減ってきています。私たちは明確な政策を持って国内需要を増やさなければなりません。そのため私たちは、2020年度の予算に予算投資を最高限度まで増やして盛り込んでいます。これは、ある県に建物が1棟必要だと言って設定している金額ではありません。次に私たちは、金融政策を見直す必要があると考えています。あなたはインフレ率について聞きました。経済活動が落ち込んでいる時は、インフレ率は下がります。経済活動が活性化すると、インフレ率は上がります。現時点で見れば、2020年のインフレ率は6%まで下がると思います。だから、今日の時点ではインフレ率が「首にナイフが置かれているような状況」とは思いません。

J: 本日、私たちはフレルスフ首相のロシア公式訪問を始め、経済について幅広い話をしました。新興国、特に鉱業に依存している国の資金を監督することは簡単なことでありません。忙しい中、私たちに時間を作ってくださってありがとうございました。今後のご活躍と成功を期待しています。

フレルバートル * ジャルガルサイハン

https://www.youtube.com/watch?v=wNap7_3cj_E