国民の知る権利には、公務員の職権濫用、腐敗、民主主義を崩壊させようとするあらゆる試みを防ぐという重要な役割がある。しかし、モンゴル国民がこの権利を行使する機会は少なく、政府機関、特に国有企業の情報は依然として不透明なままである。また今日、密事・誤報・偽情報が急増し、それが選挙結果にも影響を与えている。モンゴル政府は、国民の知る権利を保障することができていない。国民はフェイクニュースとリアルニュースの区別がつかなくなっている。
秘密情報
2011年に可決成立した「情報の透明性と知る権利法」には、「モンゴル政府と国有企業は国民に対して透明性をもって情報を提供する義務がある」と定められている。しかし、この法律を可決成立する際、関連法の改正をしていなかった。そのため、各法律には相互に反する条文があり、政府機関や公務員がそれを悪用し、透明であるべき多くの情報を機密にしている。
これについて、NGO団体「Globe International」は、「国際基準に適した法律を通じて公共の知る権利を促進するプロジェクト」を立ち上げた。このプロジェクトでは、ケース調査と知る権利を規制している規定の分析が行われた。ケース調査では、16の政府機関に対して具体的な情報の開示請求の手続きを行った。労働社会保障省および政府実施エージェンシーである家庭・児童青少年開発局は、この情報開示請求に対して何らの回答もしなかった。また、この調査結果を見ると、モンゴルでは国民の知る権利がますます規制されていることがわかった。
政府により機密指定された情報の数は1995~2004年までの期間で22件だったが、2019年時点でこの数字は595件に増加している。
モンゴルでは、情報は機密にされるだけではなく、「情報の透明性と知る権利法」が守られていることを監督、担当する機関がない。これは、国民に知る権利が十分に与えられていないということだ。以前より多くの情報が機密になった根本的な原因は、モンゴルの腐敗、不平等な競争が拡大していることにある。
誤報と偽情報
モンゴルの国民が知る権利を十分に利用できないこと、政府に関する情報の不透明さに並び、伝えられる情報に正確性がないことが多くなった。国民にとって、ソーシャルネットワークや一部メディアが報道する情報が真実の証拠に基づいているかどうか、確認する方法はない。繰り返される誤報放送は、国民がそれを信じるように仕向けられ、社会を混乱させている。
また、意図的に配信されている偽情報は、言論の自由、団結権、人権尊重といった民主主義の基本的な価値観を弱体化させ、社会を分断させている。偽情報は選挙にも影響し、国民の自由参政権を制限し、立候補者や政府に対する国民の信用を落とし、民主主義を弱めている。
一部の国では、社会に対して積極的に配信されている誤報や偽情報を防ぐために様々な対策措置が取られている。それらは短期および長期の2つに分類されている。
短期的対策措置は、誤報や偽情報が配信されると直ちに発見し、誤報および偽情報であることをソーシャルネットワークや従来の報道を通じて、公共にいち早く知らせることである。そのためにソーシャルネットワークおよび従来の報道で流されている情報を常に監視し(Social Media Monitoring)、真偽を確認する必要がある。これには市民団体が積極的に参加をする必要がある。
例えば、モンゴルではデータの事実確認(fact checking)を行う「調査報道者のためのセンター(MCIR)」がある。このセンターは、あらゆる情報の真偽を確認する他に、誤報をどのように見つけるかについて調査や研修を実施している。今年9月から、同センターはドイツのドイチェ・ヴェレ国際放送と共同で「Fact Check Mongoliaプログラム」をスタートさせ、ジャーナリストの情報ソース検証能力の向上に貢献している。また、先進国で使用されているソーシャルネットワークの監視方法やツール、関連するソフトを、モンゴルの報道分野は積極的に活用する必要性に迫られている。
長期的対策措置は、国民の情報に対する批判的な姿勢や情報の収集能力を向上させることである。これは、情報リテラシーの基礎的な教育を国民に習得させるということである。例えば、スウェーデンでは2018年から中学校で特別な授業が設けられ、情報の真偽を見分ける方法について教えている。モンゴルの中・高等学校にあらゆる情報を批判的に見る姿勢や情報の評価能力について教える必要がある。それに加えて、学校だけではなく、モンゴル国民全員がオンラインで学ぶ機会を提供する必要があるだろう。
モンゴルでは現在、NGO団体「Globe International」が、情報時代と情報リテラシー教育をテーマに講演を行っており、国民の情報教育の向上に取り組んでいる。さらにGlobe Internationalは、調査ジャーナリズムの人材育成のための特定プログラムを実施している。
国民が事実に基づく情報を得て初めて、民主政治に積極的に参加し、良いガバナンスが構築される。またモンゴル国民が知る権利を得るようになるために、「情報の透明性と知る権利法」が機能するための独立した機関が必要である。そのためには関連法、特に機密に関する法律の改正が求められる。 Globe Internationalが実施している偽情報を防ぐための取り組み、情報に対する基礎的教育の提供、ソーシャルメディアのモニタリングなどは、国民が知る権利を得るための適切な対策である。
ダムバダルジャー・ジャルガルサイハン