文化は文化宮殿からではなく、入浴から始まる。街の中心地には入浴施設はなく、未だに地面に穴を掘って作った木造のトイレがあるのみという場所も多い。それにも拘らず国家予算で宮殿などの建物を建てている政治家を、私たちはどう理解すればいいのだろうか?
日常の文化は、各家庭が上下水道に接続されているか否かから始まる。水洗式トイレを使い、入浴できてこそ清潔でいることができる。木造のトイレを水洗式トイレに切り替え、すべての人が自宅で入浴できる環境を整備しなければならない。こういったことを議論すべき時が既に来ていることを、私たちはまだ十分に理解できていないようだ。私たちが子どもの頃は、クラスの全員が公共浴場に行かされていた。
文明は水の供給から始まる。先進国では、最も小さな集落でも家庭用水は給水塔に貯水され、各家庭へ浄水された状態で配水されている。モンゴルの各県や各郡、各区に給水塔を建設し、各家庭に水を供給することは可能である。しかし、私たちは給水塔を建てるより様々な文化、スポーツ宮殿や博物館を建てている。これは一体、誰の利益を優先しているのだろうか?
モンゴルに来る外国人観光客は、水洗式トイレがない場所で何時間耐えられるだろうか?2021年は、人民革命によりモンゴルに政府及び県・郡制が敷かれて100周年の節目の年であり、この記念の年を盛大に祝うための準備が進められている。100年後の今、国民全員が自宅で入浴できる環境を整備するという目標を掲げ、予定されている大規模記念行事を“衛生記念祭”として祝うのはどうだろうか?
市街中心地の給水塔
給水塔の水は、飲料用水のための貯水だけでなく、家畜の水や農業に使用する水、火災時の消火活動に使用するなど、その用途は多岐にわたる。世界史において、人々は定住した場所に木や土、石で給水塔を作り、その水圧を利用して日常生活を潤してきた。
モンゴルは古くから遊牧文化が根付いており、一カ所の土地に長期間定住していなかったため、給水塔を建てる必要性がなかった。しかし、都市化と定住化に伴い、給水塔の必要性が生じて来ている。それにも関わらず、なぜ給水塔を建てないのか?ロシアの指導の下で1950年にウランバートル市に給水集中システムを建設し、あれから少なからずの拡張を進めてきたが、今日では人口の半数にも水道が届いていない状況である。
給水塔に貯められた水は、高さ1メートルごとに10キロパスカルの圧力がかかる。7階建ての建物に相当する20メートルの高さに設置された給水塔は200キロパスカルの圧力がかかるため、家庭用水だけではなく工業用水の需要にも応えることができる。山地などの地形を利用して建設すれば、より安価な費用で建設することができる。このように給水塔を建設する際には、その地の条件に適合しているか、その土地の象徴となる形を有しているか、水資源に汚染や中毒性がないかを注意しなければならない。また、給水塔の内側は腐食防止処理が施され、ミネラル物質が蓄積されないようにしなければならない。水道配管もこれらの条件を満たしていなければならない。
モンゴルで飲料水として浄水し供給している郡が1つある。それはウムヌゴビ県ハンボグド郡である。この郡の淡水施設は、1日あたり2600立方メートルの水を浄水し、13,000人の需要に応えている。そしてこのキャパシティを引き上げ、さらに35,000人に供給することが可能である。
国際基準で建設された完全自動式のこの浄水施設は、2015年にオユ・トルゴイ社から690万ドルの投資を受け、モンゴルザグ社によって建てられた。それまでこの郡の住民は、地下10mからミネラル分が高い水を汲み上げて使用していた。現在では、地下300mから汲み上げ、衛生条件に適した浄水された飲料水を使用している。
他にトゥブ県ブレン郡に高さ15メートル、容量9立方メートルの拡張可能な給水塔が建設された。
オーストラリアとモンゴルの専門家は、フブスグル県ムルン郡の中心地に住む全世帯を上下水道に接続するためのインフラ建設に総額2,000万ドルの資金が必要であるという調査結果を発表した。現在はアジア開発銀行の融資による1,000万ドルのプロジェクトで、下水処理施設が建設されている。
暖房の熱源を液化天然ガスにして温水を供給すると費用が安く済む。ガスコム社は、およそ1,000万ドルでこの液化天然ガスの施設を建設できると見積もっている。また、この設備により水をガスで温め、人々の入浴を可能にする。私たちは300もある郡に飲料水をいつ、どのように供給できるようになるのか?いつになったら、国民全員が家庭で入浴ができる環境が整備されるのか?
市民の参加
現在、国の投資は文化センターやスポーツ宮殿などを建設することに集中している。来年度の予算をみれば、建設・都市開発に14兆トゥグルグが盛り込まれており、そのうちのわずか0.5%にあたる760億トゥグルグがインフラ整備に充てられると計画されている。
モンゴル政府が打ち出した持続可能な開発プログラムでは、各世帯を上下水道に接続するためには、政府や地方自治体だけでなく、市民の参加が必要不可欠であると規定されている。
市民の参加を促し、彼らの意見を聞き、事業計画に反映させ、すべての条件を満たしたインフラが建設された良い事例がドゥンドゴビ県ゴゥルワンサイハン郡にある。これを他の郡の自治体も視察し、参考にすることを勧めたい。行政と市民が協力して地方をどのようにして改善できるかを、ゴゥルワンサイハン郡で見ることができる。