昨年10月16日、バトトルガ大統領は法務省に死刑制度の復活を公式に要望した。理由は、モンゴルの社会が不安定であること。特定の人々は自分の利益のためなら手段を選ばない現実があること。大統領の公式な要望を受け、国民の間では死刑制度の復活に関して賛否両論がある。
死刑制度についての具体的な調査を基に、昨年12月28日に我々はVTVでデファクトディベートを行った。死刑制度の復活に賛成派として前国会議員で、今は市民社会人権政策担当大統領顧問のG.ウヤンガ氏、反対派として国際人権NGOアムネスティ・インターナショナル・モンゴルの代表B.ボロルサイハン氏が参加した。
2007年の国連総会で、死刑存置国に対し「死刑の廃止」を求める決議が採択された。104ヵ国が賛成、54ヵ国が反対、29ヵ国が保留にまわった。モンゴル前大統領エルベグドルジ氏が2009年1月に死刑制度の廃止を宣言し、それ以降死刑が執行されていない。
死刑制度の復活に賛成する
賛成派のウヤンガ大統領顧問はディベートの冒頭で「死刑制度を廃止した当時は、国際社会において大統領の知名度を上げるためで、死刑制度を廃止するための事前調査を十分に行わなかった。当時私たちは、死刑廃止はモンゴルの現状にそぐわないと法務省に抗議した」と述べた。そして死刑制度復活の必要性として次の根拠をあげた。
第1.性的暴力を含む児童虐待や殺人事件が増加している。モンゴル独立行政法人、国家人権委員会(National Human Rights Commission)は2015~2016年の報告書で2~7歳の幼児・児童が性的暴力を受けた人数は298人に上ると発表した。政府は被害者となっている児童の権利と加害者の権利を同等にみなしてはいけない。このような痛ましい事件が二度と発生しないように、モンゴル政府は必要な措置を講じるべきである。まず、児童への性的暴力について事件のすべてを公表すべきだ。
私たちは加害者の生きる権利だけを話している。しかし、性的暴力を受け、命を奪われた人々の人権はどこにあるのか?
第2.法律とは犯罪者が行った行為に対して適切に処罰するためにある。それによって社会正義がもたらされる。どんな罰を与えても被害者の損害を完全に賠償することはできない。しかしそれでも犯罪に見合った罰が必要だ。ここに法律そのものの存在意義がある。
第3.なぜ凶悪犯罪が増えているのか、どのように犯罪を抑えられるかについてバトトルガ大統領が関係機関と会談し、調査報告を受けた。そして様々な側面から検討し、死刑制度を復活させる必要があると判断した。モンゴル国憲法第16条1項に「モンゴル国刑法に定められた犯罪を犯したため裁判所の判決による最高刑を言い渡された以外の殺人は禁止とする」とある。また、憲法第10条4項に「モンゴルは憲法に相反する国際条約及び契約文書には従わない」とも規定している。
死刑制度の復活に反対する
反対派の国際人権NGOアムネスティ・インターナショナル・モンゴルの代表B.ボロルサイハン氏は以下のように反ばくしている。
第1.犯罪が発生している主な理由は、国民の経済的保障が十分でないこと、貧困率の増大である。憲法にある通り、政府は法的にも経済的にも国民の安全を保障する義務がある。この義務が十分に果たされていない。
第2.モンゴルは人道的な民主主義国家を作り上げることを目標とすると憲法前文にある。そのために人権、自由保障に関する人類が作り上げてきた歴史に学び、全ての面において自国に取り入れるべきである。過去40年において死刑を廃止する傾向が世界で強くなってきた。死刑を執行することによってその国の殺人或いは性的暴力などの重犯罪が減少しているのか、その具体的な調査結果はどこにもない。
第3.犯罪を犯したならそれに見合った処罰を受けるべきだと思う。法律は全ての人に平等でなければならない。しかし、モンゴルの場合は裁判制度が平等に実行されてなく、間違った判決も出ているので、死刑は決して最も適切な処罰方法とはならない。死刑制度を認める前に政府自身の義務を果たさなければならない。
第4.国家人権委員会は死刑制度を廃止すべきとの判断を何度も公表してきた。モンゴルは国際条約に批准した以上、その義務を果たすべきである。モンゴルは国際条約に批准する前にその内容を達成できるかどうか、自国の憲法に相反していないかを政府の関係機関が調査するものだ。死刑を廃止する国際条約を批准する前にもこの調査が行われた。またこの国際条約は、モンゴル憲法と同様に法的効力を有している。
最後に
大統領の公式な要望は最終決定ではない。死刑制度を復活させるためには、国会で法案を可決し、法律が公布される。その後、新しい法律が施行される。死刑制度の復活についての問題をどのように解決するか、まず閣議決定を行った上で国会に法案を提出するべきである。
死刑制度の復活について国民も情報を集め、考え話し合うことが肝要だ。そうすれば政府が現実的で明確な決定を出す上で力強い影響を与える。
これは民主主義国家として最も一般的で、あるべき姿だと思う。
ダムバダルジャー・ジャルガルサイハン