この記事を書いている今日は2020年6月24日水曜日、モンゴル国第8回総選挙の投票日であり、全国の休日となっている。今回の総選挙では、国会で65議席を占める与党人民党が国政選挙法の改正を2019年12月20日に行い、29の選挙区(そのうちの9選挙区がウランバートル)に分け、各選挙区に2~3議席を割り当てるという形で実施される。最終的に606人が選挙管理委員会から立候補者証を受け取った。そのうち無所属での立候補者は121人、残りは17の政党や連立からの立候補となる。

選挙運動は21日間行われた。この間、6人の立候補者が裁判所の発行した令状により逮捕された。逮捕された人物は、人民党から立候補した元首相J.エルデネバト、民主党から立候補した元財務大臣S.バヤルツォグト、同じく元副首相Da.ガンボルド、エルデネスモンゴル社の前社長B.ビャンバサイハン、元国会議員N.ノムトイバヤル、そして一般人のKh.バト-ヤラルトの6人である。彼らは裁判所の審理が行われるまで拘留された。

これら逮捕された立候補者は、以前に汚職や刑事事件に関与しているとして拘留され捜査対象となっていたが、裁判所は事件について最終的な判決を出していなかった。そのため選挙管理委員会は、彼らを立候補者として登録しないという法律の規定が無い以上、立候補申請を受理し登録せざるを得なかった。

しかし、彼らの事件が裁判所で最終的に審理された上で有罪判決を受ける可能性があったことを政党は知っていた。それなのに政党が彼らの立候補を認めた目的は何だったのか?彼ら自身もこのような状況になる恐れがあることを知っていたにも関わらず、何のために立候補し、何百万もの選挙費用を浪費しているのか?

これら一連の動きをよくみると、全ての裁判官の任命に最も影響力を持つようになったモンゴルの大統領ハルトマー・バトトルガはなぜ沈黙しているのか?もしくはこの動きを大統領自身が指示しているのか?もしそうであれば、大統領の最終的な目的は何なのか?総選挙期間中であることも踏まえると、このような疑問が生まれてくる。

民主主義の後退

これらの疑問に対する回答は様々あると思う。それがどのような回答であろうと一つ言えることは、モンゴル国の司法機関は独立していないということだ。つまり、司法が行政権(大統領は行政制度の一部である)の指示で動くようになったことである。民主主義社会の機関(特定の機関の組み合わせ)が弱体化し、瓦解することを政治学者は「民主主義の後退(Democratic Backsliding)」と表現する。モンゴルの司法機関がいかに後退しているかを次の3つの行動から見ることができる。

1. 選挙法には、「違法行為が進行中、もしくは犯行現場で証拠と共に逮捕する以外の場合、立候補者を逮捕、拘留には選挙管理委員会の許可を必要とする。」とある。この規定および国会議員の特権に反し、国会議員J.エルデネバトは拘留された。本来、検事総長はこの問題を国会に上程し、逮捕、勾留を保留させるべきであった。

拘留された6人の事件に関して「捜査中である」と数ヶ月間も放置しておいて、選挙が始まったら突然逮捕、拘留したことは偶然ではない。彼らが関与している事件をそれぞれ別の裁判官が担当しており、公判はいつも延期されてきた。その延期されてきた裁判が突然同時に動き始め、誰も支払うことができない100億トゥグルグの釈放金を設定し逮捕している。そのため、この逮捕は事前に計画されていたことが伺える。

2. Kh.バトスレン氏は1年前に最高裁判所長官に任命された。しかし、1ヵ月前に辞職した。彼は辞職の理由として「時機が来たら全てを話す」と言っている。彼は誰からどのような圧力を受けて辞職に追い込まれたのか?彼は今回の一連の逮捕を行う命令を拒んだのか?彼の後任となったのはD.ガンゾリグ氏である。彼が以前、最高裁判所長官に推薦された時、大統領はそれを認めなかった。それなのに今回、大統領はなぜガンゾリグ氏を認めたのか?この疑問に国民は説明を求める権利が十分にある。

3. 2020年5月13日、憲法裁判所は非公開審議を開き、国会が2014年に出した「鉄道輸送についての政府政策の実施に関する措置」第64決議が憲法に違反していると認めた。中国へ繋がる鉄道を狭軌で建設することが間違いだとし、今は広軌で建設している。憲法裁判所のこの決定は、重大かつ明らかに憲法を歪曲したものであると法律家O.ムンフサイハン氏、A.ビャンバジャルガル氏が指摘している。そもそも憲法で鉄道の狭軌や広軌を規定するものではない。

これら3つの動きは、モンゴルの司法が(法律上ではなく)事実上の行政権の手足になり、行政府の言いなりで動き、法律を明らかに踏みにじっていることの証左である。本来、独立した正義のための司法は、憲法の民主化を強化し、民間および政治の権利を保障するという重要な義務を負う。独立した裁判所はどちらか一方の味方になってはならない。政治の影響を受けない。何ものも恐れることなく判決を出すはずのものである。しかし、モンゴルでは司法の独立が完全に失われてしまっている。

アメリカのヘリテージ財団が発表している2017年の経済自由度指数によると、モンゴルの司法は政治的影響を受けているという結果が出ている。また、世界正義プロジェクト法の支配指数2018年では、モンゴルの民事裁判は0.52ポイント、刑事裁判は0.39ポイントとなっており、政府機関による裁判への影響がある(影響していない場合は1ポイント)という調査結果が出た。

後退を食い止める

以前、どれほど市民社会の声が小さくなっているかを「後退する民主主義」で詳細を書いた。そして今日、権力から依頼された裁判所による判決は、民主主義のもう1つの崩壊を指し示している。研究者たちは、世界各国が民主主義から後退していることを次の4つに分類している(Nancy Bermeo. Oxford University)。

  1. 軍事クーデター。
  2. 組織的な選挙詐欺。
  3. 政党が政権を取った途端に法律を通じて民主主義組織を弱体化させる。
  4. 行政権が立法権および司法権を独占する。

モンゴルで立候補者を法律に反して拘留していることは、上記の2に該当する。また、国家安全保障委員会の勧告を通じて裁判官や検察官を解任していることは上記の3に該当する。さらに裁判所に自分たちに都合の良い判決を出させることは上記の4に該当する。

政治権力者たちのこの横暴について、国民である私たちはどのように対抗できるのか?民主主義をどのように救うのかを議論しなければならない。1990年に私たちが選択した自由民主主義とは、選挙を行うことだけではない。(訳注:社会主義国だったモンゴルは1990年に民主化した。)

民主主義を強化するための最も重要な取り組みは、政府から独立した機関の設立、その中で正義に基づいた裁判で国民の参政権を保障することである。

今日2020年6月24日は、私たちモンゴル国民が歴史的な選択をする日である。私たちは共通の価値観としての民主主義、自由に対する敵を選挙によって排除する日である。今回の選挙で、私たちは道徳があり専門的、かつ新しく若い議会を選ばなくてはならない。司法の独立を法的に守るために、民主主義を強化する必要がある。そのために不可欠な“変化”をモンゴル社会にもたらさなければならない。

モンゴルの民主主義と国民の自由と権利に栄光あれ!

ダムバダルジャー・ジャルガルサイハン