世界の各国政府は上がり続ける社会保障費を賄うため、国民消費の一部となる酒類、タバコ、賭博、自動車、ディーゼル燃料など、特定の商品やサービスを生産及び供給する者に特別税を課すことがある。この特別税は消費者からではなく供給者から徴税するため、この間接税について消費者はそれほど詳しくない。だが、特別税は国の予算において大きな税収の柱であり、何にも活用できるので非常に特別な税である。
モンゴルでは特別課税法とその課税範囲を定める法律がある。しかし、徴税した収入を何に使うか、どのように分配するかについての法律はない。
モンゴル政府はガソリン及びディーゼル燃料にかかる特別税を価格制限のツールにしている。しかし本来、この税金は大気汚染削減、健康に及ぼす悪影響の減少、道路舗装、生産効率を上げるためのものであり、価格を制限するための政府の道具ではない。
では、酒類やタバコに対する特別税はどこで何に使われているのか。この税金が社会保障、保健改善においてどのように影響しているのかを国民はそんなに意識していないし、問題を見ようとしていない。
免税商品の「税」
外国から土産品として持ち込まれる商品の一つにウィスキーがある。ウィスキーを一般の店で購入する価格は、免税店で購入するより2〜3倍高い。ではウィスキー1リットルの購入価格の内訳をみてみよう。モンゴルでは生産されていないこのウィスキーの価格は、商品価格15ドル、つまり36,750トゥグルグとしよう。輸送費は2,000トゥグルグ、関税(その他の商品と同じ5%ではなく15〜40%)を支払った価格は44,560トゥグルグとなる。さらに特別税19,400トゥグルグ、付加価値税10%、市税1%を加えると、ウィスキー1本(1リットル)の価格は70,000トゥグルグとなる。
しかし、免税店での価格は38,750トゥグルグ(商品価格+輸送費)で2分の1。これは違法な商売人にとって旨味のあるビジネスである。税率が高ければ高いほど違法な商売が進み、規模も拡大し、犯罪が増加することを多くの国の事例からわかる。違法な商売が拡大するにつれナイトクラブ、レストラン、小売店、個人は正式な販売元ではなく、違法な商売人から商品を仕入れるケースが多くなる。
コンプライアンスが十分徹底されていないモンゴルのような国では、特別税率が上がるほど法律を守って営業している企業がビジネスにおいて損をし、利益が下がる。しかし、「市場」のビジネスは繁栄し、予算となる特別税収が減少する。品質の劣悪な偽造商品が溢れると共に、消費者が健康被害を受けることが発生する。正しくビジネス活動を行っている企業、消費者、政府が損害を受けているのを横目に違法な商売人たち、彼らを裏で支援し賄賂を受けている者は商品の「税」を横領している。
特別税率を高くすることによって違法な商売が繁栄していることを、今日のヨーロッパ諸国間で個人売買の酒やタバコの取引量増加からみてわかる。モンゴルではネット上やマンションの入り口に貼られる免税店で購入した物を安く売る広告が多く見られるようになった。
酒やタバコの特別税と国内生産
毎年の特別税引き上げは、商品の輸入量や税収を減少させるほか、国内のアルコール生産量を増やす傾向がある。
世界保健機関(WHO)の2014年の調査では、15歳以上の一人当たりの飲酒量でモンゴルは世界191ヵ国のうち83位となっている。アルコールを純スピリッツに変換して出しているこの報告書によれば、1年間における一人当たりの飲酒量は6.8リットルに達しており、消費全体の70%が蒸留酒とウォッカが占めている。
今日、モンゴル国内でウォッカ及びその他のアルコール製品を生産している会社は48社ある。過去2年間でモンゴル国内におけるビールの生産量は8%、輸出が2倍に増加し、輸入は60%、消費が4%それぞれ減少した。
ワインの生産は28%、輸入は30%、消費が33%それぞれ上がっている。酒類の生産は3%、輸入は36%、消費が4%と上がっているが、輸出が2分の1に下がっている。税収について見てみると、酒類の特別税は2017年に1,800億トゥグルグとなり、前年度比で5%増加し、税収の3%を構成している。モンゴル人のビール消費量が減少し、酒類の消費が増加している。特にワインの消費は8倍と急増している。
モンゴルでは飲酒量が増えた影響で、社会のルールを守れない、つまり重大な犯罪や交通事故が増加し、健康を損なうことが多くなっている。これは適切な飲酒について科学的な根拠、研究などに基づいた広報活動、意識改革の対策を必要としていることを意味している。
違法な商品の販売停止、飲酒量を減らすために国際消費文化の紹介を通して未成年者のアルコールに対する理解を向上させ、商品の紹介、生産過程などの情報を公表し、アルコールを適切に摂取するような活動に取り組んでも良いかもしれない。
上述したように特別税の使い道を規定した法律がモンゴルにはない。しかし、飲酒対策法9条1項に「飲酒対策、その悪影響を公表し、公共の理解を向上させるために政府中央機関及び地方行政機関、保健、マスコミ、文化教育機関があらゆる周知活動を実施する義務がある」と定めている。
これらの機関に対して、酒類及びその他のアルコール製品から入る特別税の何割かを交付し、その使途を明確にして報告書を公表するようなルールを定め従事させるべきだ。
ダムバダルジャー・ジャルガルサイハン