2022年の年明けは、カザフスタンで起こった騒乱のニュースから始まった。1月9日時点で169人が死亡し、2,000人以上が負傷、5,000人が逮捕されている。デモ参加者たちは、最大都市アルマトイの政府機関の建物を占拠し、多くの商店を略奪し、数十の建物と30台以上の交通機関に火をつけた。爆発と銃撃は数日間止むことは無かった。デモ参加者たちは空港を占拠し、多くのフライトが欠航となった。当局はデモ参加者たちに占拠された空港を解放した。また、デモ参加者らは一部の都市でナザルバエフ前大統領の銅像を引き倒した。

液化天然ガスの価格を2倍に引き上げたことを端に発した今回の抗議デモは、瞬く間にカザフスタン全土で暴動へ発展した。トカエフ大統領は内閣総辞職を承認し、ナザルバエフ前大統領が務める安全保障会議議長の職を解任し、その役職を引き継いだ。トカエフ大統領は、このデモに対して「秘密裏に計画し、資金を提供したテロリスト、共謀者、犯罪者を厳しく取り締まる」と主張し、抵抗する者を警告なしに射殺する指示を治安部隊に発した。また、カザフスタン政府による集団安全保障条約機構(CSTO)への要請を受け、ロシア、アルメニア、ベラルーシ、キリギスの3,000人規模の平和維持部隊がカザフスタン入りした。

また、インターネットは遮断されている。トカエフ大統領は、1月19日まで全国に非常事態宣言を発令し、23:00〜07:00時までの時間を外出禁止とした。大勢が集まるイベントの開催や、様々な交通手段での移動を制限した。ナザルバエフ前大統領の親しい側近だった国家安全保障委員会の委員長であるカリム・マシモフを解任し、国家反逆罪の容疑で拘束した。さらに、ナザルバエフ前大統領の甥、国家安全保障委員会副議長を務めていたサマト・アビシュとその兄のカイラット・サトバルドゥも拘束された。そして、エルバシ(国父)と呼ばれたナザルバエフ前大統領自身は、現在、中国にいると中央アジア専門家アルカディ・ダブノフが発表した。

騒乱が起きた原因

ナザルバエフ前大統領は、同国を30年間支配してきた。その間、国の経済を発展させることができたが、独裁的で君主制の政治体制を確立させ、国内には汚職が蔓延した。君主とその家族、親類の財産が無尽蔵に増えるにつれて、一般国民が貧困に追い込まれてきた。2021年にフォーブス誌が発表したカザフスタンの富裕実業家番付にナザルバエフ前大統領の娘ディナラ・クリバエフと娘婿のティムール・クリバエフがそれぞれ29億ドルの資産で2位と3位に入った。保有資産41億ドルで1位となったウラジミール・キムは、ナザルバエフ家の「金庫番」と呼ばれ、エルバシのためにロンドンで最も高価な住宅を購入したと報じられたチャタムハウスの報告書によると、カザフスタン当局は、ロンドンだけでも5億2,000万ポンドの不動産を所有しており、そのうち3億3,000万ポンドの不動産をナザルバエフ家が所有しているとのことだ。

国土面積において世界第9位の国であるカザフスタンは、人口約2,000万人、ウラン生産において世界1位、ビットコインのマイニングでは世界2位、石油埋蔵量では世界11位ではあるが、天然資源の分配はあまりにも不公平に行われてきた。国民一人当たりのGDPは、8,500ドルに達しているものの、一般市民とエリートの生活水準には依然として雲泥の差がある。

社会的不平等が拡大し、インフレ、失業、特にカザフスタン南部地域の若者の失業率と社会的不平等は深刻である。そのなかでも特に教育、医療サービスにおける格差がより拡大しており、パンデミックが一層の拍車をかけ、国民の長年の我慢がついに限界に達した。政府を批判し、ナザルバエフ家と衝突した大勢(アルティンベク・サルセンバエフ、ザマンベク・ヌルカディロフなど)が殺害された。イスラム教の影響が強まり、政府は宗教と深く絡んでいる。

カザフスタンでは、ナザルバエフの許可がなければ、大きなビジネスはできないし、誰も高い地位の職に任命されない(Aidos Satykov)。元首相のアケジャン・カジェゲリディンは、軍や警察、検察や裁判所などの全ての法執行機関が国ではなく、ナザルバエフ家を守るために機能してきたと話していた。また、野党党首で元エネルギー産業貿易大臣のムフタール・アブリヤゾブは、「2019年にナザルバエフが大統領職をトカエフに引き継いだが、彼に実権を与えなかった。トカエフは“家具”であり、ナザルバエフがすべてを舞台裏で牛耳ってきた。」と言った。

一部の政治アナリストによると、81歳のナザルバエフは老いて持病を抱えているので、現状すべての権力がトカエフに移行したとのことだ。これはナザルバエフの「家族」やオリガルヒたちのビジネスや財産に大きな影響を及ぼすため、経済的動機を発端にしたデモを扇動し、事前に訓練された武装勢力をデモ参加者のなかに紛れ込ませた。その結果、大きな混乱を引き起こした反政府デモとなり、多くの警官が無残にも殺害されたと指摘している。トカエフ大統領は、一連の反政府デモは事前に計画され、組織化されたもので、クーデターを意図したものだと述べた。

いずれにせよ、2022年1月10日時点でカザフスタンのすべての政治権力は、事実上トカエフ大統領の手中にある。しかし彼は、社会が求めるように政治体制を変え、公正な選挙を実施し、社会や経済が直面している問題を解決できるだろうか?この国は議会政府と公正な司法を確立させるのか?今回の一連のデモには本当に外部の関与があったのか?私たちモンゴル人は、兄弟であるカザフスタンの国民が短期間で国を正常に戻すことを願うのみである。

モンゴルが学ぶべき教訓

カザフスタンで起きたこれらすべての出来事は、モンゴルにも多くの警鐘を鳴らしている。モンゴル人も先に言った質問を自分たちに問い、答えなければならない。モンゴルは民主主義、人権、自由に対して比較的オープンで、議院内閣制において長年の経験がある。しかし、私たちが迅速に取り組まなければ、カザフスタンのように不安定な状況が発生する可能性があり、類似した問題がいくつかあることを、政府や市民社会に再度思い出させる必要がある。

第一に、政治的安定は非常に重要である。これは政治的バランスのみによって確保されるものである。つまり、与党と野党の適切な関係を構築する体制を確立するということである。これはすべての政治的権力が一党に集中している現在の状況では、与党人民党が現実的で、実用的で、オープンで批判的であることが求められる。他方、強い野党勢力を育成すること。今では、党内が分裂しているが、全国に支部があり、歴史的に野党として機能してきた民主党の団結と復活を国民が要求し、政府もそれをサポートする必要がある。

第二に、モンゴル政府は汚職に打ち勝ち、公共財産を横領した人たちに責任を追求する必要がある。犯罪者は罰せられることはなく、時効を迎え忘れ去られることが常態化している。官僚の隠れた収入が増え続けている一方で、国民の生活が苦しくなっていることに特に注意を払わなければならない。政権中枢にいる人たちは、国家機密の名の下に多くの行動を隠し続けている。例えば、鉄道プロジェクト、エルデネト鉱業の49%を国のカネで買収した事件などがそれにあたる。政党や選挙の資金調達は依然として不透明なままである。汚職事件には時効というものが機能すべきではない。

第三に、不誠実な裁判官、検察官に責任を問い、司法制度が独立して、権力者ではなく国民のために機能するようにしなければ、社会的正義は確立されない。公務員全員に職務上の基本的な義務と責任を毎日認識させるために、Ministry of Justiceという英語名の通り、法務省を正義省と名付けることが妥当だろう。

第四に、政府および個人の責任を強化するために、人権や言論の自由、団結権を一貫して支持し、国民が政府を監視できる機会を保障することで、社会において負のエネルギーが蓄積されなくなる。内閣が明白な理由もなく総辞職することは、社会的に無責任な行為である。

第五に、天然資源の分配は、公正かつ平等でなければならない。また、労働生産性や競争力向上のための投資を行うことが重要となる。

第六に、社会福祉を拡大させないことである。また、労働を促進し、賃金を上げるための自由競争を確立することである。そして、政府は民間だけではできない事業に参入し、価格を徐々に自由化する必要がある。

これらのことを優先的に行うことによって、モンゴル国の政治的バランスが確立され、モンゴル人は団結し、全ての国民の労働生産性と生活水準を向上させることができる。

ダムバダルジャー・ジャルガルサイハン