民主革命以降、モンゴルは国の発展を経済、とりわけ国内総生産(GDP)成長率をもって測ってきた。過去30年間でモンゴルのGDPは平均して5.45%の成長を記録した。2011年にはGDP成長率は17%まで上がり、世界でもトップクラスとなっていた。では、経済がこれほど成長しているのにかかわらず、人口の3分の1はなぜ貧困のままなのか。経済発展の実感がすべての人に届かなければ、経済が成長したその中身はいったい何なのか。

アマルティア・セン、ダグラス・ノース、ジョセフ・スティグリッツ、彼らのような著名な経済学者は、国の発展を経済だけではなく、社会進歩状況を加えて測定することを長年提唱してきた。この提唱をハーバード大学のマイケル・ポーター教授が指揮するNGO「The Social Progress Imperative」が実行に移し、2014年に世界133ヵ国を対象に「社会進歩指数」をランク付けした初の報告書を発表した。

この社会進歩指数は、各国政府が国民社会および環境のニーズをいかに提供しているかを、人間の基本的欲求、幸福の基盤、そして機会といった3つの主要領域、50の指標で評価している。

幸福の基盤は、経済的要素より社会や環境面における成果で測定されている。社会進歩指数は、経済のデータを使用せず、インプットではなくアウトプットで測定する。こうすることによって、国の経済成長が社会的にどのような成果をもたらしているのかを測定する。これは、経済および社会発展政策に優先順位をつける機会を政府、企業、市民社会に提供しているということだ。

社会進歩指数を測定する際には、当該国および国際連合、世界銀行など国際的かつ専門的な機関が定期的に発表している報告書、マスメディアによる情報を使用している。

人間の基本的欲求

社会進歩指数報告書では、人間の基本的欲求をアブラハム・マズローの理論に基づいて次の4項目に区分し、評価している。

1.栄養と基本的な医療サービス(栄養失調、母体と乳児の死亡者数、子どもの発達の遅れ、伝染病による死亡者数)

2.水と衛生(安全でない水と衛生状況、それらが健康に及ぼす結果としての死亡者数、安全ではない又は未処理の水源を使用している人口、安全ではない又は未改善の衛生設備、つまり不衛生なトイレを使用している人口)

3.住居(電力への接続、家庭内の大気汚染による死亡者数、クリーンな燃料と調理技術の使用)

4.個人の安全(自殺者数、認知された犯罪、政治的殺害と拷問、交通事故)

2020年の報告書では、モンゴルは国民の基本的な欲求を77.42%満たし、180ヵ国中102位にランクしている。モンゴルの最上位と最下位だった指標は、例えば、子どもの栄養失調(132位)、安全性つまり認知された犯罪が少ないということで8位にランクしている。

幸福の基盤

1.基本的知識へのアクセス(学校教育を受けていない女性、小学校入学率、中学校就学率、中学校就学における性別比率、質のある教育へのアクセス)

2.情報通信へのアクセス(携帯電話利用者数、インターネット利用者数、電子政府へのアクセス、メディア検閲)

3.健康と幸福(60歳の平均余命、感染しない疾病による死亡者数、重要サービスへのアクセス、質のある医療へのアクセス)

4.環境(外部大気汚染による死亡者数、温室効果ガス排出量、粒子状物質、生物群系:バイオーム)

2020年の報告書によると、モンゴルは幸福の基盤の領域では基本要素を71.27%満たし、87位にランクしている。人口比での携帯電話の利用率は世界で上位(1位)、感染しない疾病による死亡者数では173位にランクしている。

機会

この領域も4つの項目で評価されている。

1.人権(参政権、言論の自由、信仰の自由、正義へのアクセス、女性の財産権)

2.個人の自由と選択(脆弱な雇用、早婚、避妊の機会、腐敗)

3.包括性(同性愛者の受容、マイノリティに対する差別と暴力、ジェンダーによる政治力の平等、社会経済的立場による政治権力の平等、社会集団による政治権力の平等)

4.高等教育機会(高等教育の予想年数、高度な教育を受けた女性、より質の高い大学、引用可能な文献数)

2020年の報告書では、モンゴルは国民が成長する機会を64.52%満たし、52位にランクしている。マイノリティに対する暴力は少ない(16位)、そして高学歴を持つ女性の割合で131位にランクしている。

国の発展を単にGDP成長率で測るのではなく、社会進歩指数で測定する時がモンゴルにも来ていることをこの報告書が示している。そのため、政府や企業、市民社会の先導者たちは、この社会進歩指数を優先目標にする必要がある。また、社会進歩指数はその国の持続可能な開発(SDGs)目標の達成度を測定する重要な要素となる。

経済成長が自動的に社会の発展をもたらすことはない。しかし、国民の所得増加は、きれいな水、衛生設備、識字力、義務教育へのアクセスの増加に繋がることは事実である。

ダムバダルジャー・ジャルガルサイハン