8,000万の人命が奪われた第二次世界大戦が終わり、その悲惨な戦争を引き起こしたドイツの全ての都市は戦火に包まれ、経済は完全に崩壊した。戦争で疲弊したヨーロッパの復興を図るため、アメリカは大規模なマーシャル・プランという計画を作成し、120億ドル(2018年の価値で言えば1千億ドルに相当する)を供与した。この資金は人口に比例して配分されることになり、イギリスに27%、フランスに18%、西ドイツに11%とそれぞれ供与された。ソビエト連邦の占領下にあった東ドイツ、ポーランド、ハンガリーはこの資金を受けていない。

1948年にルードヴィヒ・エアハルト(後にドイツ経済の奇跡的な成長を遂げた「エアハルトの奇跡」の立役者)は、西ドイツの経済相となり、価格と生産量の制限を廃止し、新しい紙幣を発行した。戦争で人口の9%を失ったドイツは、1950年代トルコからの労働者を受け入れた。西ドイツの産業は復活し、経済も急成長し、国民の生活水準は劇的に向上した。西ドイツの発展は、東ドイツのそれを遥かに凌いでいた。

西ドイツの経済復興、その成長スピードの要因は何か。それは全ての経済政策、計画、実行が常に詳細な調査研究と多面的な分析に基づいていたことにある。

ドイツの研究分析

ドイツは科学研究の良質なインフラ、広範な研究領域、整備された施設設備、高度な人材において世界で抜きん出ている。今日、ドイツには大学、応用科学大学、企業、連邦および州に研究機関がある。これらの研究機関は組織形態では基礎研究所と応用研究所に、資金形態では公共と民間に区別されている。

ドイツ連邦教育・研究省の発表によれば、全大学400校にドイツの研究者40万人の4分の1が勤めている。ドイツの高等教育機関は、2016年に研究・開発(R&D)に166億ユーロを費やした。その資金のうち、国家予算が81%、当該分野の業界が14%、外国投資が5%となっている。

応用研究において、フラウンホーファー研究機構はヨーロッパ最大の応用研究機関であり、72の研究所・研究ユニットで構成され、これらの研究所は健康・環境、安全・セキュリティ、コミュニケーション・知識、モビリティ・交通、生産・サービス、エネルギー・資源といった6つの分野で研究を行っている。

他にも政府・社会について長期的に研究を行い、18の研究センターから構成されるヘルムホルツ協会がある。また、人文科学・社会科学をはじめ、自然科学から工学までの90の研究施設で幅広い研究を統括するライプニッツ協会がある。さらに、自然科学、社会科学、人文科学の基礎研究を海外の研究機関と共同で行うマックス・プランク研究所は84の研究機関を運営している。ドイツでは科学研究を行う800の研究機関が活動している。

ドイツの調査・研究・分析費用の3分の2は当該分野の民間企業から、3分の1が連邦および州政府の予算から調達されている。この国のいかなる政府および民間企業の施策は事実、調査、研究、分析に基づいてきたからこそ失敗することが少なく、成果が大きい。これが長期的に持続可能な開発に繋がっている。2016年には、ドイツで国内総生産の2.94%が研究開発に費やされた。

モンゴルの研究分析

モンゴルを見ると、1990年には科学技術分野に国内総生産の1%を費やし、研究者の数は6,000人だった。しかし、2018年に研究者の数が3分の1に減少し、研究費は国内総生産のわずか0.12%にまで下がった。2018年は国家予算から346億トゥグルグの資金が拠出され、そのうちの150億トゥグルグは科学研究所、残りが科学技術基金を通じて各国立大学に分配されている。

教育文化科学スポーツ省の発表によれば、科学技術分野には59の調査研究機関がある。そのうちの32機関は国立(10機関が科学研究所にある)、6機関が民間研究所であり、10機関が国立大学、11機関が私立大学に設置されている。研究機関には42のスタートアップ企業が付属し、イノベーションとなりうる製品の試行・開発を行っている。

モンゴルは科学、技術、イノベーションについて多くの法律、規定、政策を立案し可決しているが、これらは完全に実行されていない。そのため、経済の多様化、競争力強化を図る活動や創造的なイニシアチブが欠けており、研究成果がビジネスに繋がり国民が恩恵を受けるまでの取り組みは十分とは言えない状況だ。

国会が法律を立案し可決成立させる過程では、全ての法案に調査研究が行われ、社会的影響を分析評価し、成果を検証されなくてはならないと法律で定められているが、これも十分に実施されていない状況だ。法案の作成にかかる研究資金が国会議員の予算に含まれていることに欠点がある。

国会議員の裁量によるところが大きいので、モンゴルの市民社会、民間企業に新しく設立された研究機関、政策研究者はこの調査活動に参加できない。

調査研究力が弱いから持続不可能な法案が可決され、その改正を繰り返すことが常態化している。過去10年において、国会は鉱物資源法、教育法、付加価値税法など、それぞれの200から300の条項を改正している。

モンゴルは調査研究活動を新たな産業革命に適応させ、多柱分散型で発展させる必要がある。そのために政策の変更、ビジネスの連携、国立および民間の各分野研究機関への予算配分、人材開発、会計上の優遇措置を見直す時が来たと思う。 調査研究に基づいた政策は、この国に持続可能な開発をもたらす。

ダムバダルジャー・ジャルガルサイハン