(2018年12月18日にモンゴル国立大学で行った講演の概要)

国家の繁栄と国民の生活水準の向上は、民主主義と自由経済の「在り方」によるところが大きい。民主国家には良い政府、強い指導者より良いガバナンスが確立されていなければならない。

良いガバナンスとは、政府の透明性(Transparent)、説明責任(Accountable)、義務(Responsible)の3つの要素がつながり機能する状態を言う。そして自由経済とは私有財産が保護され、価格を政府ではなく市場が設定し、自由競争があることを言う。今のモンゴルでは、自由経済は単なる「表面的な話」にしか過ぎない。

モンゴル人は、企業が社会的責任を負うコーポレート・ガバナンスについてよく話すようになった。また、公共ガバナンスの透明性についても話すようになり、最近では、政府機関に「トランスペアレンシー・アカウント」を設置する法律まで成立した。

私たちの発展を妨げる大きな要因は「社会的説明責任」である。昨今、社会的説明責任とは何か?なぜ重要なのか?どのように実施すべきか?についてモンゴル人が考えるようになり、議論を始めていることは現代社会の潮流でもある。

モンゴルの未熟な民主主義

行政サービスは、公務員や政治家が公共の財産を使うことで国民に提供されるサービスだ。公共の財産を使う以上、行政サービスの内容と評価に市民が参加しなくてはいけない。そしてそのプロセスを「社会的説明責任」という。

社会的説明責任を効率的かつ正確に行うためには、政府は開放的であり、国民は政府に対して行政サービス活動を監視する市民の参加を求めるべきである。民主的選挙と市民参加は民主主義の大黒柱である。モンゴルでは、政府の開放は不十分であり、市民参加もまだまだ少ない。だから、政府と国民の間に相互信頼が確立されていない。

国民が民主主義の果実を得るには、選挙権を行使するだけでなく、常日頃から政府の活動を監視し、間違いが生じた時には改善しなくてはならない。「社会的説明責任とは、報告・議論・責任追及といった3つの基本的要素から成り立つ」(リチャード・ムルガン、2000年)。

社会的説明責任を実現するためには、政府は活動内容を報告し、国民はその報告を議論し、政府に責任を追及できるようにならなければならない。そのためには、国家は次の条件を整備しておく必要がある。

必要な条件

団結力と能力のある市民団体を結成し、特定のプロジェクトを実施できること。

モンゴルでは、市民社会が形成されているが資金が不足している。そのため、正規に登記された非政府組織(NGO)は多いが、その活動は積極的とは言い難い。民主主義が根付いた国では、自分の興味や関心のあるNGOへの寄付に対して税金が免除される。しかし、モンゴルでは免除されない。だから多くの組織は外国からの支援を受けている。他方、各NGOは活動報告や会計報告の公開が不十分だ。

いずれかの政府機関が社会的説明責任を先導して実施する、つまり法律規定や活動規範をその目的に即したものにすること。

これは、公務員が行政サービスの改善、国民の生活水準の向上、国民の権利保護に関する活動をどれほど効率的かつ現実的に行っているかを国民に報告することを意味する。

かつての内閣の中には、年に一度モンゴルの各省庁がオープン・デイという事業を行っていた事例がある。しかし今では、国民がどこかの省庁で意見を述べる場はない。

県や郡の中心となる県庁舎は「公共の場(Town hall)」であり、市民が自由に出入できることが求められる。その中には市民が利用できる図書館や会議室、食堂や無料インターネット環境などが設置されていれば、それらは社会的説明責任の目的に沿ったものとなる。

また、国や地方自治体の予算の計画、成立、実施、評価のいずれの段階でも国民が十分に参加できていない。国民の税金やその他の公共の財産で成り立つ予算の計画、実行において外部監査が行われていない。

政府が透明であり、正義や倫理、道徳観が成熟していること。

モンゴル国民には、憲法で言論の自由、団結する自由が権利として与えられている。しかし、国民はこれらの権利を活かすことには消極的である。政府高官や行政上級職員が公共の利益や財産に対する不正行為を行った場合、それを知った人が声を上げ、(おおやけ)に知らせる文化はモンゴルでは始まったばかりだ。モンゴルでは法律が全ての人に平等となっていない。司法機関は、政府高官と国民とでは、その対応が差別的とも言える状況だ。

公共社会に関する全ての情報が正確で、誰もがアクセス可能であること。

公共社会に関する全ての情報(データ)について、専門家による正確な分析と現実的な評価説明は、国民参加の上では重要な貢献となる。しかし、未だに2016年の国政選挙の寄付や費用に関する報告書は選挙管理委員会のウェブサイトに掲載されていない。

一方、政府が国民の個人情報を本人の許可なしに利用することを禁止する法律を成立させる必要がある。情報へのアクセスが可能であるということは、出典や形式が国民にとって分かりやすいものであるという意味である。

現在、発展途上にあるモンゴルにおいて、国民が政府の活動とその評価に参加することが重要であり、政治家や政府職員に対して公に責任を追求できるようにならなければならい。

ダムバダルジャー・ジャルガルサイハン