日本の天皇陛下の勲章を受章した初めての外国人はエドワーズ・デミングである。彼は日本の品質管理の基礎を築いた人物だと言われている。デミングは品質管理を向上させるために、以下の4項目を必ず実践するべきだと教えた。それは、

1.計画(Plan)

2.実行(Do)

3.評価(Check)

4.改善(Action)

であり、これはデミング・サイクルと言われる。

モンゴルの政府機関や民間企業における危機の主な原因は、この4項目のうちの1つが全く実施されていないことに関係している。モンゴル政府や国営企業は、本来独立し、かつ法律で運営が定められている非政府組織(NGO)の監査制度を意図的に形骸化させ、名ばかりの監査を実施し、一握りの人たちが公共の財産を横領し、財を成すための道具にしている。その結果、非政府組織の活動は、基本となる活動目的から逸脱し、社会で中核的な機能を果たせなくなっている。これが自由競争の縮小に繋がり、経済成長の足かせとなっている。そのため組織の指揮官を変えたとしても、何も改善しなくなってしまった。

全ての組織(機関)は、目標を達成するために独自の規則、規定および関連する法律の範囲内で活動しなければならない。実行が目標に向かって効率的に行われているかのチェックを経営管理構造の中の内部監査が担当する。ガバナンスとして経営管理職をも監査する内部監査は、ある特定の期間で監査を行う。しかしガバナンスにおける内部監査は、独立して監査を行い、何らかのリスクを事前に察知して防止できているのだろうか?特定の法律や規定と適合(compliance)しているかを審査するだけでなく、外部監査、外部監督機関が継続的に監査を行わなければならない。

 

政府のリスク

2011年に予算法が改正された。同法施行に関して2014年にアルタンホヤグ内閣は政府決議第327号を発令し、専門監察庁の組織にあった金融監査部門を財務省に移管した。これは、政府監査法の「政府のすべての監査の統一」、「金融監査の独立性、外部性」といった規定に違反している。以降、政府は各省庁や特別基金、国有企業の監督ができなくなった。国および地方の予算運営も監督できなくなっている。それを証明する事件が、私企業がエルデネト鉱業の49%の株式を政府の資金で買収したこと、中小企業開発基金を担当する大臣と国会議員による横領、社会保険の資金をキャピタル銀行に移し、その資金を行方不明にしたことなどである。しかし、これらは発覚した事件にすぎない、氷山の一角だろう。

実は、政府監査法では、専門監査機関はすべての分野での法律の実施を調査し、法律の充実を図る提案書を年に1度政府に提出する義務がある。それが機能しておらず、U.フレルスフ首相は専門監査機関の関係者との会談でこの問題に触れ、「金融監査を専門監査の統一したシステムに戻す」よう副首相に指示した。

政府の内部監査を財務省ではなく、内閣事務局が担当し、財務省は内部監査を実施するべきである。

 

レジストリ(登録)分野のリスク

貨幣は物質的価値を表すものである。この価値の動きをすべて正確に登録せずに社会は正常に機能することができない。正確に登録するだけでなく、それを監視し、外部から確定し、その国の法律だけでなく、国際的に認められるレベルに適応しているか否かを常に評価し、欠点を改善して行かなければならない。

モンゴルは民主主義、自由市場経済の国である。今日では、モンゴル経済は国有および民間企業の活動で成り立っている。政府は企業活動の人や環境への配慮、法令遵守を促す責任がある。個人と企業は団結し、自分たちの利益を守るための同盟を結ぶ。これらを非政府組織(NGO)という。

モンゴルの政府機関の官僚、国会議員、閣僚は、非政府組織の運営に関与してきた。これは深刻な利益相反行為である。前期の国会議員らは、様々な基金、故郷委員会、相撲委員会、専門委員会の委員長に任命され、およそ300の非政府組織を管理する立場となった。この立場を利用し寄付金募集や資金洗浄など、犯罪行為に直接的、間接的に関与しているという調査結果がある。

モンゴル公認会計士協会という非政府組織がある。政府から独立しているはずのこの組織は、今年初めに行われた会計法改正により、政府の業務を請け負うことになった。会計の専門的顧問サービスを提供するには、必ず許可を取らなければならなくなった。その許可の交付と取り消しは、この公認会計士協会によってのみ行われるようになった。実はこの類の許可は、特別許可法には明記されていない。この機関に2015年の会計法では、公認会計士の許可と取り消し、公認会計士の育成、監査における倫理規定承認、監査における国際規格や変更等の翻訳、国家規格の作成と説明、勧告を出す義務が課されている。このように一つの非政府組織を特別扱いし、独占させたことで平等な機会、自由競争を阻害することとなった。

政府の業務負担軽減のために、業務の一部を非政府組織に委託することは間違っていない。ただ、その場合は当該機関に高い倫理的条件を求めなくてはならない。政府と契約している組織の取締役会や経営幹部職に政府高官の名前があってはいけないということだ。ただ、監査委員会、特に内部監査には入ってもいいだろう。また、政府と契約した非政府組織は、ガラス口座法(透明性法)を遵守しなければならない。

しかし、公認会計士協会の場合は、これら2つの条件を全く満たしていない。公認会計士協会の副会長および理事会のメンバーのほとんどが、財務省の課長、部長、専門家であり、さらに国家監査局の主要な監査人までが名を連ねている。そして公認会計士協会の会計報告書は、この協会のホームページに掲載されていない。

モンゴル公認会計士協会の他にも、登録、監査、税、資産評価分野にも特別な法律で権限を取得した類似の組織がある。例えば、資産評価専門機関、税専門顧問協会などがそれだ。これらも非政府組織としての条件を満たした上で、透明性をもって活動を実施する義務がある。

 

内部監査と管理リスク

すべての政府、すべての非政府組織、すべての公的企業、良いガバナンスを持つ企業は、内部管理に明確な組織構造を持っている。内部監査人は、監査の結果を取締役会に報告する義務がある。

内部監査の目的と義務について、社員の理解が不十分であったり、経営幹部の支援と協力が得られないと、監査が機能する環境は整備されない。内部監査の環境が弱体化している組織では様々なリスクが発生し、不測の事態を未然に防止することができない。内部監査は株主の目と耳になるべきである。

モンゴルでは、国有企業の内部監査と管理体制を抜本的に改革する必要がある。国有企業の取締役会に省庁の課長、部長の名が連なるようになり、特別待遇を受けるようになっている。これは一般公務員や国民の注目を引いている。すべての国有企業の株式を公的資産にし、所有する財産の管理を改善しなければならない。

例えば、法律で活動が規制されるモンゴル商工会議所、モンゴル国営放送の内部監査を改善し、適切に運営していれば、組織内部の危機が管理職辞任という事態にまで発展しなかっただろう。

モンゴル国は1996年に国際連合の最高会計検査機関国際組織(INTOSAI)という国際組織に加盟した。INTOSAIが勧告する内部監査をどのように実施するかについて、モンゴルはその勧告を真摯に受け入れる必要がある。

ダムバダルジャー・ジャルガルサイハン