20年前、自由市場へ向かって動きだしたモンゴル経済というトラックは、大気汚染と同様に濃度を増す腐敗という霧の中に迷い込み、今では泥沼にはまり、ハンドルをいくら動かそうともそこから這い出るどころか、さらに深みへとはまっている。

ビジネス環境を覆いつくす濃霧

ビジネスをする上で賄賂が必要であることを誰もが知っている。実際にどんな賄賂が、どこで、どのくらいあるのか、どう変化しているのかを調査し、これからの予測を立てなければならない。そのような調査を民間非営利団体であるアジア財団(The Asia Foundation)が、2012年から7回に渡り国際基準となった方法に基づいて実施した。「モンゴルのガバナンス、透明性を推進する」プログラムに従って2017年10月にビジネス環境における賄賂の影響について調査を行った。この調査では出資100%国内の企業で、大手企業・中小企業330社をランダムに抽出し対象とした。2012年の調査では、調査対象の半数がモンゴルのビジネス環境における腐敗(賄賂)の状況に対し不満であると答えていた。これが年々増え続け、2017年に60%になった。

2012年の調査では、満足と回答したのは27.2%だった。この数字は2016年に12.1%となり、2分の1に減少した。この調査で注意をひいたのは、ビジネス環境への評価である。中小企業と大手企業の評価はあまり差がなく、ビジネス環境における改善が必要であることが分かった。

ビジネス環境において直面している困難、問題は何ですか?という質問に調査対象の半分以上は高い税率と答えていた。その次に特別許可やライセンスの交付に関する23%、借入に関する21%、専門分野の人材不足17%などとなっている。

しかし、ビジネス環境において妨げとなっている機関はどこかと尋ねたところ、税関27.6%、国税庁22.7%、専門監察庁18.2%と答えている。

調査結果をみるとモンゴル政府は企業に対して多種多様な税金を背負わせ、支払いを要求している姿が描かれているように思う。また、政府機関のサービスは非効率で、公務員の知識、能力が不足している。不明瞭な規定や調整から、中小企業は時間を無駄にしないため賄賂を贈ることが当然になっている。

他方、この調査の意義は過去6年間の変化を明確に見せ、比較できるようにしてくれたことである。2012〜2017年の間に政府機関の腐敗(賄賂)状況改善において何の進展もなく、より悪化している。

例えば、2012年の調査では、42.1%の企業が政府機関への賄賂が「非常に高い」と答えていた。しかし、この数字は2017年の調査で48.5%に上がっている。また2012年の調査で40%が政府機関への賄賂は「かなりある」と答えていた。この数字は2017年の調査では35.8%となり、少し下がっている。しかし、調査対象全体の80%が「非常に多い」もしくは「かなりある」と答えていることに賄賂の危険性が増大していると見て取れる。

泥沼からの脱出

政府が腐敗防止のために実施している活動は何の成果も出していないことがこの調査でわかる。2012年の調査で19.4%が「全く成果がない」と答えていた。この数字は2017年の調査では41.8%と増加した。また2012年の調査で39.1%が「少しは成果が出ている」と答えていたが、この数字は2017年の調査では29.7%となっている。これをみると全体の70%が政府の賄賂対策は十分でないと感じている。

このような結果となった主な原因は、賄賂問題に関係した職務上地位の高い人たちに何の責任追及もできていないことにある。

政府が腐敗防止活動を十分にできないのであれば、企業は自ら始めることができる。なぜならば、賄賂とは贈賄側と収賄側の両者の行為である。残念ながら、今までモンゴルの企業は賄賂を無くすために何らの取り組みもしていないことをこの調査結果が示している。

「あなたの会社は賄賂対策のために何らかの取り組みをしていますか?」という質問に対し、2012年の調査では71.5%が「いいえ」と答えていた。この数字は2017年の調査で73.0%と上がっている。 「あなたの会社に賄賂対策のための社内規定はありますか?」という質問に対しては、2012年の調査では74%が「いいえ」と答えた。この数字は2017年の調査では81.2%と上がった。「賄賂について情報を提供していましたか?」という質問には2012年の調査で81.8%が「いいえ」と答えたが、2017年の調査では90.6%となっている。

企業が賄賂を渡さない、渡してはならないという風土を醸成できれば、腐敗したこの状況を改善できるだろう。企業が賄賂対策への取り組みをしなければ、根本から変えていかなければ、これからも貴重な時間と資金を賄賂に使い問題を解決しようとし続ける。この調査によれば、企業は予算の約10%を本業以外の活動に使っているという結果が出ている。

モンゴル企業は今、このまま無駄な出費を続けていくのか、あるいは腐敗を絶つのかという大きな岐路に立っている。

「暗闇を呪うより、一本のロウソクに火を灯せ」※という格言がある。賄賂という暗闇に打ち勝つための方法は企業自身の手の中にあると思う。灯をつけることができれば、暗闇に勝つことができる。

モンゴルの賄賂の原点は政党の機密資金調達にある。交互に、時には共に政権を握ってきた人民党、民主党に対して国民は資金調達の透明性を要求し続けているが、彼らは目もくれず耳も傾けず、賄賂と言う大きな蛇に巻きつかれている。

モンゴル政府が賄賂を要求しなくなった時、その時こそモンゴル経済が「泥沼」から脱し、繁栄の道を辿り始める。その時がいつ到来するかは、私たち国民が要求するだけでなく、企業の働きかけにもかかっているだろう。

ダムバダルジャー・ジャルガルサイハン


※「暗闇を呪うより、一本のロウソクに火を灯せ」とは、できないことばかりを口にして行動しないよりも、自ら進んで変えていこうという意味の格言。