私は2016年の新年を北京で迎えた。チャイナ・ デイリー(China Daily)紙2016年の新年版で「中国政府は、汚職の疑いがあり海外に逃亡した者たちを強制的に中国本土へ連れ戻した」という記事が私の注意を引いた。

同紙は、中国全土で汚職撲滅キャンペーンを主導する中国共産党中央規律検査委員会は、汚職や腐敗を取り締まる「天羅地網」という運動を全国に繰り広げていると報じた。

最高人民検察院の特別捜査によって、108人の海外逃亡者を29ヵ国から連れ戻すことに成功した。海外逃亡者が滞在する国の司法機関が同意し、送還された逃亡者70人が自らの汚職を自白した。彼らは総額1億8千万ドルの損害を国にもたらしたと言われている。彼らのうち、31人が海外に10年以上、7人が20年以上逃亡し続けていたという。

また、公安部は「キツネ狩り2015」作戦を実行し、2015年の9ヵ月間で、違法に財を成し逃亡していた556人の容疑者を59ヵ国で逮捕し、本国に連れ戻した。

中国政府は2015年の大晦日に、環境保護副大臣チャン・リージュンを刑務所に収監した。チャン・リージュンが関係する企業から不正に資金を横領した上、チャンの親族をその会社の役員につかせ、他の者から昇進のための賄賂を受けたことが理由だった。

腐敗はなぜそれほど危険なのか?

中国政府が息をつく間もなく、継続的に腐敗と闘っている背景には何があるのか?中国の江沢民元国家主席は「腐敗は政党や政府内の癌である。それを助長すれば私たちの党、政治権力、社会主義改革が崩壊する」と言った。また江沢民の引退後、胡錦濤前国家主席は「腐敗は政党を崩壊させ、さらに国家を滅亡させる危険性がある」と言った。彼らはその言葉で意志を表明したが、現国家主席の習近平は行動で意志を示した。なぜこれほどまで精力的に腐敗と闘っているのか。

その理由は、過去30年間で中国の腐敗は深刻さを増し、政治家の傲慢で贅沢な生活が目に余るほどとなり、国民の怒りを買うレベルにまで達したからだ。歴史的にみても中国の国民は、政府には最も賢明で正義感が強く、社会のために働くことができる人たち(meritocracy)が務めるべきだと考えている。政府にいる者はあらゆることを知っており、正しい決定ができると孔子の時代から信じられてきた。しかし今、政府にいる者たちが、必ずしもそうではないということを国民が分かるようになり、政治制度に対して不信感を抱き、不満をもち始めた。これが、今の共産党が国民から支持されなくなるのではないかという危機感を生んでいる。

そういう意味で、腐敗は中国の現政府の存在を脅かす問題にまでなっている。だから、中国政府は腐敗を撲滅する他に選択肢がないと考えているのだろう。習近平は腐敗を根絶するために全身全霊で取り組んでいる。全国人民代表大会で「生きるか、死ぬかは関係ない。私の名誉がどうなろうと構わない。」と習近平が述べたと「The Diplomat」が報じていた。(訳注:The Diplomatは、アジア太平洋地域の政治・経済・外交などを扱うオンラインマガジンを発行している。)

習近平中国国家主席が始めた反腐敗運動は第2段階に入っている。

第1段階:中国の警察権力を握っていた周永康、中国人民解放軍の調達を担当していた徐才厚など汚職の「虎たち」を逮捕し、法的責任を負わせた。習近平は「虎もハエもたたく」というスローガンを掲げ、汚職に手を染める虎(大物)もハエ(小物)も大量に逮捕した。中国政府は汚職をする者に厳しく責任を追及するようになり、公務員は汚職を恐れ、国民に正しい情報が提供されるようになった。公務員は贅沢な生活を改めるようになった。

第2段階:ここからが最も重要な段階、つまり汚職を防止する機関(組織)の設立を始めた。公務員は賄賂を受けたくても、その機会を未然に防ぐことを目指すことを意味する。例えば、「贈収賄を見たら写真を撮れ」というキャンペーンを実施し、公務員が贅沢にしているところを携帯電話などで写真を撮り、中央規律検査委員会のウェブサイトに投稿する。中央規律検査委員会は当該公務員たちを取り調べ、写真の状況について公式に弁明するようになっている。

第3段階:すべての公務員が汚職について意識しなくなることを目指す。政治におけるこのマナーを習慣化させることは、組織を設立するよりも難しい。多大な労力と時間が必要である。それでも中国は実行するようだ。

モンゴルの反腐敗闘争の結果

モンゴル政府も「腐敗と闘う、賢明な政府を目指し、政府行政機関を透明にする」など美辞麗句を並べ立てた公約やマニフェストを打ち立てるようになったことを強調しておきたい。しかし、実際には腐敗を撲滅できていないし、撲滅する意志すらも感じられない。なぜならば、モンゴルの腐敗の元凶である政党は、公約やマニフェストに全く無関心だからだ。モンゴルの腐敗は、政党を通じて行われ、組織そのものが腐敗化して久しい。

政党という組織としての財源がどこにあるのかを、党員たちは本当に分かっていない。特に、政党の選挙費用の財源は大きな秘密とされている。その理由は、政府の要職、主だった権力を陳列する商品棚がそこにあるからだ。

腐敗撲滅を掲げる政治家たち自身が政党の出身であり、汚職に関与しているから政党改革など夢のまた夢だ。そのため、モンゴルの反腐敗闘争は徐々に忘れ去られるようになった。モンゴルでも中国のように1人、2人の大きな「虎」について腐敗を暴き、社会的な大騒動を巻き起こし、時には逮捕や裁判に至る。しかし、一夜にして「交渉」が成立し、恩赦や事件無効になり、最後には虎も野に放たれることがほとんどだ。

3年前、N.エンフバヤル元大統領が特捜部によって自宅で逮捕された事件があった。彼がモンゴルの腐敗の「ゴッドファーザー」だとあらゆる政府機関が発表していた。しかし、彼はすぐに釈放され、海外で養生し、今では副首相に返り咲く勢いだ。

S.バヤル元首相がアメリカに数軒もの住宅を所有しているとニュースになり、その写真まで新聞に掲載された。しかし、賄賂対策庁はその真相を追及もせず、何らの発表も行っていない。

各政党の党首自身が新聞やテレビ局などのメディアを所有しているため、国民を洗脳する方法が経験として蓄積され、その能力に更なる磨きがかかっている。

2015年のウンデスニー・トイム(Undesnii Toim)紙特別号に、賄賂対策庁の捜査課が起訴のために国家検察庁に捜査資料を提出したが、なぜか不起訴になったという14件の容疑者の氏名や損害規模が掲載された。その記事によると、彼らは国会議員、閣僚、政府機関の長官で、土地や財産を横領していたという。

モンゴルの政治家たちは、互いの罪で互いを脅迫し、大規模汚職事件は「ちょっとした誤解」とか「何もなかった」と片付けられることが常態化している。たまに「子虎やハエ」の事件が発覚し、中級・下級の長官レベル1人、2人を「犠牲」にして、それも大げさに取り上げる。こういったこと以外にモンゴルの反腐敗闘争は続かない。

モンゴルに本当の反腐敗闘争は始まってもいない

中国の反腐敗闘争を見れば、モンゴルでは中国の反腐敗闘争における第1段階さえも始まっていない。腐敗がモンゴル社会に巣食う癌だとすれば、モンゴル政府はそれを根絶させるのではなく、闘争しているように見せかけ、隠し続けてきた。腐敗を政府高官が持つ特権という名の盾で守り、さらに確固たる仕組みにしようとしている。

賢明なる国民は、腐敗と闘っているように見せかける政治家たちに対して様々な形で反発しているが、それもまた政治的な利害関係のために他の政治家が利用している。

モンゴル国は民主主義、自由市場経済の道を選択した。この道で国を発展させる上で、腐敗は目に見えない大きな妨げとなっている。腐敗に侵された政府は、国民の生産意欲やそれによって生活を豊かにする機会を奪っている。私たちは政府の腐敗を撲滅し、根絶しないかぎり、公務員が億万長者になり、その他の者は貧困に追い込まれる。よって社会における貧富の差が拡大し続けることとなる。そうなると社会の不満が高まり、最終的には内乱が起きることになる。内乱を機に、国中に規律を維持する名目で誰かが独裁政権を確立させようとする。

腐敗を撲滅しなければ、民主主義は独裁によって崩壊する。

ダムバダルジャー・ジャルガルサイハン