金とはいつの時代でも、世界中どこでもその価値を失わない貴金属の1つである。モンゴル国初代大統領P.オチルバトは1990年代「この経済危機を乗り越える方法はただ1つ。それは金だ。」と言い、“金プログラム”を打ち出した。以降、モンゴル政府は2000年から“金‐2000プログラム”を、2017年から“金‐2プログラム”をそれぞれ実施してきた。モンゴルでは2017年には200トン、28億ドルの金が採掘されている。
モンゴル経済は10年毎に金という“点滴”を受けてきた。たしかに金の“点滴”は経済を活性化させるが、自然環境や社会生活においてそれがどの様な影響を及ぼしているか国民全体でオープンに話し合い、考えて行かなければならない時が来ている。
金と税金
モンゴルの輸出額の4分の3を石炭、銅、金の鉱物資源が占めている。モンゴル銀行(モンゴルの中央銀行)は2005年に15トンの金を購入していたが、2010年にはその購入量は2トンにまで減った。その後、購入量は徐々に増え続け、2017年に初めて20トンに達した。金の購入量の急激な減少と増加というこの現象は、政府が打ち出した税制によって“作られた”ものだ。
モンゴルでの金の採掘は、個人や企業によって行われる。2006年、モンゴル政府は“急速な利益増加に課す税”というものを打ち出し、68%という高い税金を徴収するようになった。この政策によって金の採掘事業は隠れて行われるようになった。また、企業の年間売上が30億トゥグルグを超えた分の税率が25%へと引き上げられた。この税を回避するため、企業は採掘した金を個人名義で中央銀行に売却するようになった。これには鉱物資源利用税が5%だったことも影響した。これらの税制によって人々は金を違法に海外に持ち出すようになった。そしてモンゴル銀行の金の保有量は減少し、通貨トゥグルグは下落した。
これを受け政府は税制を変え、2010年から“急速な利益増加に課す税”を廃止した。そして金に関しては鉱物資源利用税を2.5%へ引き下げ、売上30億トゥグルグ以上に対して課されていた税金を向こう5年間廃止することにした。こうした取り組みによりモンゴル銀行に金を売る企業数は年々増加し、モンゴル銀行の2017年の金購入量が過去最高の20トンに達したということだ。今では、個人で金を採掘する人たちはモンゴルの労働人口の大きな割合を占めるまでとなった。
“現在、採掘者として正規に登録されている8,000人と、登録されていない30,000人の‘ニンジャ(無許可で金を採掘する人たち)’が全国にいる。彼らは、金が採れる場所ならどこにでも行き、寝食を忘れて、家に帰ることなく金の採掘に嵌り込んでいる。”
モンゴルの“金への熱狂”の始まりをザーマル郡、スンベル郡、マンダル郡、ビゲル郡、オルガマル郡などに広く点在する採掘跡の大きな穴、その穴に転落死した家畜の骨の多さが物語っている。
ニンジャたちは日中金を掘り、夜になると採った金を売り、翌日はより多くの金を採掘することを夢みて寝床に就く。ニンジャたちが採掘した金を買い取る“隠れたバイヤー”がいる。そのバイヤーたちは個人名義を使い、買い取った金を国際相場価格でモンゴル銀行に売っている。それもたった2.5%の鉱物資源利用税を支払ってだ。
地方自治体の役人は自然環境保護、自然環境復元についてニンジャたちと全く話をしない。なぜなら、殆どの場合、地方自治体の役人自身が金の採掘に熱狂しているからだ。
“モンゴル政府は、誰がどこで金を採掘しているかの確認を怠っている。そして税金を徴収せず金を購入し、モンゴル銀行の金保有量を増やす政策をとっている。政府自身が法律や規定を守るということができていない。金を失わないためだけに、特別に税金を免除するようになった。人だけではなく国をも巻き込む、これがモンゴルの“金への熱狂”の特徴である。”
公開された経済と地下経済
採掘した金にかかる税が高いと、企業は採掘した金をモンゴル銀行には売らない。密かに海外に持ち出し現金に変える。そしてこれが個人による金の売買を加速させている。採掘された金が銀行を通らないことで経済のキャッシュフローが低迷し、地下経済が活性化する。個人売買を行う人たちは税金を払わないので、地下経済がより成長してきている。
しかし、公開された経済、つまり法人登録を受ける企業は従業員の社会保険、健康保険、個人所得税などで給与の3分の1を国に納めている。個人売買をしている人たちは税金を全く納めていないが、他の納税者と同じく健康保険サービスを受けている。その結果、この国の医療サービスは国民に十分に行き届いていない。
金のバイヤーたちは日増しに肥え太り、今では政党の闇のスポンサーとなっている。彼らは、モンゴル全土における鉱物資源の採掘ライセンス交付に関して、政府中央機関か地方行政機関のどちらが交付するかをコントロールし始めている。そしてどの法案を採択するか、もしくは見送るかも彼らの意向が反映されているようだ。
“政府は小規模鉱山の採掘規定を明確にし、ニンジャが金を採掘するライセンスの交付権を郡区長に与えた。このライセンス交付権を得たことで、一部の郡区長が賄賂を受け取るようになった。また、郡区長自身が金の採掘を行うようになった。”
地方の県議会が独立した国のような動きを取るようになっている。例えば、ウムヌゴビ県の県知事は「県内で発見された如何なる資源も、同県の県民に帰属する財産だ」と言っている。また、同県の県議会は、鉱山採掘に必要な水の使用禁止令まで出していた。
国民の財産という名の下にニンジャたちを扇動する人たちもいる。フブスグル県、スフバートル県、バヤンホンゴル県では、ニンジャたちが鉱山会社が所有する鉱山に勝手に入り金を掘っている。ニンジャたちは、金の埋蔵量が確定された鉱床がどこにあるかを把握していて、そこにいち早く移動している。採掘を始めてもいなかったステップ・ゴールド社が所有する鉱山にニンジャたちが乗り込んできて、ステップ・ゴールド社の従業員を追い出したことにより、トロント取引所での同社の株価は急落した。
また、ノヨン山の金の採掘が停止したことに関して、D.スミヤバザル鉱業・重工業大臣が「司法機関や警察が関与している」と含みをもたせた発言をしている。要するに、警察機関は金のバイヤーたちのために動いているということだ。
今日のモンゴルでは、国民も政府も誰もが“金に熱狂”する。政府は法的環境を整備し、国民に遵法精神を根付かせる必要がある。政府という権力を盾に政治家がビジネスをすることを止めなければならない。そうすれば、ビジネス環境が改善され、民間企業が自由に競争するようになる。経済が活性化し、雇用率も増加する。ニンジャたちは家路に就き、普通の仕事をするようになる。
ダムバダルジャー・ジャルガルサイハン