鉱業分野はモンゴル経済の4分の1、輸出の85%を占めている。しかし、私たちはこの重要な分野を活かせなくなりそうだ。地元住民は鉱山の操業に反発し、鉱床探査や資源採掘がますます困難になっている。地方自治体も政府の決定を無視し、連邦制の中の国家であるかのような行動を取るようになった。なぜこのような事態を招いたのか。その原因を突き止める為に、事実を詳細に調べ、賢明に問題を解決していかなければならない状態となっている。

「ポピュリズム」化した揺すり

  • ドルノド県で金の採掘を行っているステップゴールド社(Steppe gold)に対し、一部の地元住民やウランバートルの自然保護団体が反対運動を起こし、鉱床探査ボーリングの設備を川に投げ捨てるということがあった。
  • アメリカのジニー・オイル・シェール・モンゴル社(Genie Oil Shale mongolia)は、トゥブ県エルデネサント郡で頁岩(けつがん:シェール)の採掘プロジェクトを計画していたが、地元住民や政治家の圧力を受け撤退した。
  • ドルノゴビ県でウラン鉱床の探査を行っているフランスのアレヴァ社(Areva:現在はオラノ社)は、長年に渡る反対運動を乗り越え、今では社名を変更してモンゴル政府と共同で「バドラフエネルギー社」として操業している。
  • ノヨン山周辺ではカナダのセンテラ・ゴールド社(Centerra Gold)が金採掘を行っていたが、地元住民、自然保護団体、ニンジャ(金鉱山で許可なく勝手に採掘する無法者たち)などから強力な圧力を受け、同社は現地法人を売却してカナダへ帰っていった。
  • スフバートル県エルデネツァガーン郡に国内大手企業マックスグループ(Max Group)は、石油探査のために数多くの中傷を受けた。
  • 政府と2010年に石油製品取引契約を結んだ国内企業マグナイ・トレード社は、ドルノド県チョイバルサン郡の自治体や地元選出の国会議員からの強い反対を受け、石油探査のためのボーリングを1本も打つことができていない。裁判に訴えても無駄だった。時間的にも経済的にも大きなリスクを抱え込んだ。モンゴルは外国への石油依存を減らすために国内初の石油精製所の建設を決めた。この石油精製所を建設し、稼働させるためには石油リソース(油田)は絶対に必要である。
  • ドルノド県ハルハゴル郡の市民代表議会は夏の間、議会も開かず企業の採掘活動を妨げていた。これにより郡で舗装道路を建設していた会社が砂利や石を輸入する羽目になった。

このように数十社が法律を守って事業を行うために、寄付を要求する地方自治体、金銭を要求する団体などと交渉する必要がある。そのために企業は膨大な時間と労力、資金を失っている。

政治家たちは表向き外国からの投資を呼びかけてはいるが、その裏では住民の反対運動を政治目的のために利用している。およそ実現不可能な公約を並べ、地元住民を扇動して選挙票を取るために動いている。モンゴルでは鉱物資源、石油の探査や採掘は常に妨害を受け、さらに選挙があると鉱山は操業停止に追い込まれることが慣例化している。こういった裏を知る地元住民は、選挙があるたびにボーリング調査の延期や操業停止を叫ぶようになっている。

根本的な原因は2つ

鉱山の探査・採掘がこのように停滞する根本的な原因は2つある。1つは、鉱山で操業する企業から徴収している鉱物資源利用税がその地域の住民に届いていないことだ。これは腐敗した政府により鉱物資源が一握りの人たちのものとなり、鉱物資源利用税が横領されるようになったことが原因だ。 2013年以降、国の鉱物資源利用税収入の中から地方開発総合基金を通じて県、郡に分配された表を見れば、地方住民、とりわけ放牧地を接収された住民がどうして鉱山に反対するかがわかる。

関連する法律に従い鉱物資源利用税収入は、主要鉱業製品の市場価格の変動に対応するために30%を価格維持基金へ、5%を地方開発総合基金へ、残り65%を未来基金へ分配しているようだ。また地方開発総合基金に石油利用税による収入の30%(予算法59条1項5号による)を分配すると定めてある。

しかし、2019年からは鉱物資源の探査ライセンス交付による収入の50%を、2020年からは100%を地方開発総合基金に分配するようになる。

カナダでは鉱物資源による収入の40%を、当該鉱山を有する地域に分配し、残りを他の地域に人口を考慮して分配している。

2つ目の原因は、政治家や公務員による賄賂である。鉱物資源利用税収入をモンゴル政府は大きな窯の中に他の税と混ぜ、各県や郡に交付している。そのため当該鉱山周辺の住民はあまり恩恵を受けていない。政治家や公務員は鉱山に関わり多くを横領してきた。これは探査もしくは採掘ライセンスをめぐる数多くの事件をみても明らかだ。

例えば、石油庁長官(2003~2012年)を務めていたD.アマルサイハンとその部下たちは、ペトロチャイナ・ダチン・タムサグ社が政府との製品取引契約に従って支払うべき取引額の24%のうち1%を横領していた。この事件は4,000万ドル分の石油が足りなくなり発覚した。ペトロチャイナ・ダチン・タムサグ社から香港の「Sun Wang」という会社の上海銀行口座に米ドル建てで多額の振り込みがあったことを中国政府が見つけ、逮捕に至った事件だ。

D.アマルサイハンは厳しくて有名な第461刑務所に5ヵ月間収監され、2014年5月獄中死した。

彼は偏頭痛もちで薬が欠かせなかった。しかし、「上からの指示」のため病院で診察を受けられることはなかった。また薬も与えられなかった。D.アマルサイハンを検視した監察医によれば、胸骨と肋骨5本が折られていたという。刑務所でD.アマルサイハンは差出人不明の小包を受け取り、その数分後に死亡した。彼は自身が所属する政党(人民党)への多額の寄付に関する秘密を明かそうとして毒殺されたとマスコミが騒ぎ立てた。(http://ulsturch.mn/index.php?view=article&val=16712

とにかく、盗まれた財産は再びモンゴル国民の手に取り戻さなければならない。1人、2人を刑務所に送り、腐敗に溺れた政党に付き従う裁判所のやり方をあと何年耐えなければならないのか?地方の住民だけでなく、国民全員が政府へ法律の遵守を要求するべきである。 モンゴルの鉱物資源の呪縛を解くために、政府は透明でなくてはならない。国民は政府を監視しなくてはならない。そして過度に集中する予算を分散し地方に権限を委譲していくことだ。そうしてはじめて、この広大な土地を本当の意味で所有し、国民が幸福に暮らしていけるようになるだろう。

ダムバダルジャー・ジャルガルサイハン