トーマス・ガレット氏は、政治と自由保障の分野で30年以上に渡り活動してきました。2000年には共和党国際研究所の駐ウランバートル顧問、北アメリカ、東アジアの地域ディレクターを務めていました。ガレット氏は外交と国際関係の修士号、政治学の学士号を取得しています。2017年にモンゴル政府は、モンゴルの民主主義のために貢献したとその功績を評価し、「友好勲章」を授与しました。

J(ジャルガルサイハン): あなたの今回のモンゴル訪問の理由について聞かせてください。また、あなたはこれまで何度モンゴルを訪問していますか?

ガレット: 私は1999年を最後にモンゴルに来ていませんでした。今回、古い友人たちに会うことの他に、新しい友人ができたことをとても嬉しく思っています。今回、私は民主主義共同体、アジア開発ネットワーク、アジア開発同盟(ADA)などの組織が主催しているカンファレンスに参加するためにウランバートルに来ました。

 アジア諸国は、国際連合総会で採択された持続可能な開発のための2030アジェンダを協議するため、このカンファレンスに参加しています。アジア諸国以外の国からも、持続可能な開発目標を実施するために、どのような取り組みが可能のなのかを話し合うために来蒙しています。

J: 持続可能な開発目標は、その分野と活動範囲がとても広い。今回のカンファレンスではどういった分野が協議されますか?

ガレット: 持続可能な開発のための目標第16、とりわけ平和と公正をすべての人にという分野を話し合います。民主主義共同体の目標は、持続可能な開発のためのアジェンダに民主主義を具体的に明示することです。平和なくして発展を遂げることはできません。また、発展なくして平和が訪れることはありません。私たちはこの分野が持続可能な開発の目標第16、そして民主主義の一部だと見ています。

J: そのとおりだと思います。これには組織を強化するという意味合いもあると思います。民主政治において、政党は重要な組織の1つだと思います。あなたはインドネシアに赴任する前に駐モンゴル共和党国際研究所に所属していました。あれから約20年が経ち、あなたはこの20年間でモンゴルは組織的にどう変わったと感じますか?

ガレット: 私が1999年に初めてモンゴルに来た当時は、仕事で政党と関わっていました。すべての組織は発展するまでに長い時間を要すると、モンゴル人も外からモンゴルを見る人も、当時は気付いていませんでした。誰もが希望を抱いた前向きな気持を、民主主義改革で見ることができました。現在、時間がかかっていますが、モンゴルの組織は発展していると思います。世界が変化するにつれ、組織も発展していきます。私たちが思っていたより少し遅いですが、モンゴルは正しい方向に進んでいると思います。

J: あなたの話で、民主主義、平和、発展は有機的に結びついていると理解しました。しかし、民主主義と並んで腐敗というものが出て来るようになりました。腐敗という問題は世界中にあります。モンゴルは社会主義体制の下で、私有財産が認められない時代がありました。そして1990年代から民主主義に移行しました。あなたは移行間もない民主主義の組織的能力をどうみていますか?腐敗指数を見ると、あまり改善されていないように思います。

ガレット: あなたが言うように、世界各国は腐敗という大きな問題を抱えています。しかしながら一部の国では、腐敗に対してしっかりと責任追及ができています。アメリカでは、政治家が汚職事件を犯し刑務所に収監されることもあります。腐敗は、懲役刑から脱がれられないので、人々も受け入れなくなる傾向にあります。

 腐敗は人々の人生、家族に非常に悪い影響を与えていると、国民が声を上げるようになると、権力者が国民の金を奪い取る行為はなくなります。権力者によって、学校教育、医療サービス、インフラなど人々の人生に直接影響する資産が奪われることが常態化している場合、国民や市民社会は「腐敗はもうたくさんだ」という意識を強く持たなければなりません。

J: 国民が「腐敗はもうたくさんだ」と言う時はいつ訪れますか?どうすれば早く訴えれるようになりますか?

ガレット: まず、政治に対する意欲と勇気がなければならないと思います。今日まで続いて来た腐敗問題に対峙できる人を選ばなければならないと思います。アメリカにもモンゴルにも、過去にこのような問題に立ち向かう勇気をもった人が現れました。腐敗に立ち向かうには、人々の政治に対する意欲と勇気が非常に重要です。政治に対する意欲と勇気がなければ、如何なる組織も腐敗問題を解決することはできません。

J: モンゴルの腐敗の根源は、政党の不透明な財源にあると思います。これをどうすれば正常にすることができますか?

ガレット: 政治家たちが、公共の利益のために腐敗を撲滅させるという意志と勇気を持たなければなりません。今は技術も発展してきているので、誰もが政党のホームページを閲覧できる機会を私たちに与えています。そこで腐敗に立ち向かえる人物かどうかを知る手がかりになります。

J: あなたは多くの国で、選挙監視員を務めた経験があります。また、民主主義共同体の活動で色々な国を見てこられました。技術による反腐敗活動の具体的な例があれば教えて頂きますか?

ガレット: 例えば、「私は贈賄をしました」という南アジアの市民社会イニシアチブがあります。このサイトは、市民が大小関係なく贈賄を求められた場合に投稿します。市民はここで贈収賄事件を暴露します。しかし、法律で認められていれば、億万長者は政党に資金を提供しても良いと思います。重要なのは、隠れた形で提供してはいけないということです。また、政党は24時間以内、あるいはブロックチェーンなどの技術を活用して、受け取った資金について公表します。これによって、政党が誰から資金を受けたかを誰もが知るようになります。例えば、アメリカの裁判所では、多額の資金を政治家に提供することは言論の自由の一部として考えられています。しかし、受けた資金については、法律に従って報告しなければなりません。法律が、資金の透明性について具体的に定められないといけません。

J: 政党に寄付金や財源の報告を義務付けた法律が必要ということですね。モンゴルの問題は、司法機関が弱く、法律が遵守されていないことに問題があります。この複雑に絡み合った問題をどこから始めるべきでしょうか?

ガレット: モンゴルの民主主義の強みは、報道の自由と言論の自由があることです。私たちは誰かを恐れることなく、自由に話し合うことができます。しかし、このような自由がない国はまだまだ多くあります。個人のソーシャルネットワークの活用、報道の自由においてモンゴルは良い事例だと思います。国民に関する問題を、国民が知る権利があるということは、先ほどの技術の話とも関係しています。

J: 報道の自由に関して、モンゴルの報道機関は努力しています。政党の財源について、モンゴルの政党法改正案に盛り込まれていますが、国会では審議されていません。この法案が政治家たちの利害関係に影響するものなので、前に進めようとしません。もちろん、こういった政治家の態度についてマスコミは取り上げますが、他に我々にできることはありますか?

ガレット: 市民が協議し、公表することができます。1990年代、アメリカでは2つの政党が選挙資金規制法を改正するためにマケイン・ファインゴールド法を可決成立させ、億万長者の政党に対する多額の資金提供を規制するようになりました。同法は数年続きましたが、言論の自由に反しているとされ、最高裁判所によって無効になりました。

J: 民主主義共同体について話をしたいと思います。いつ、そしてなぜ設立されましたか?

ガレット: 2000年にポーランド政府主催の「ワルシャワ2000年民主主義閣僚級会合」が開催され、世界106ヵ国が参加しました。この会合では、民主主義国の協力、民主主義の強化、民主主義の将来について協議しました。106ヵ国がワルシャワに集ったことによって、世界の民主化への潮流が確認されると共に、民主主義の普遍性が確認されました。また、民主主義を標榜する国には、民主主義の基本原則があるべきです。そのため、民主主義、人権などの19の原則からなる「ワルシャワ宣言」が採択されました。民主主義を掲げる国々は、これらの原則がなければなりません。モンゴルはこの会合に、設立当初から参加して来きた国の1つです。2000年のこのワルシャワ宣言にも署名しました。

J: 設立からこれまでに、共同体閣僚会合は何回開催されましたか?設立から約20年が経っています。どんな成果がありましたか?

ガレット: 民主主義共同体閣僚級会合は2年に1度開催されています。モンゴルの大統領選挙の時、つまり数年前にウランバートルでも開催されました。最後は2017年にワシントンで開催され、145ヵ国が参加しました。そして民主主義と人権について協議し、ワシントン宣言が採択されました。また、モンゴルで開催された民主主義共同体閣僚級会合では、ウランバートル宣言が採択されました。それについては、民主主義共同体の公式ホームページに掲載されています。民主主義の国々が集って話し合うことには、多くのメリットがあります。どんなときでも人権は最優先にされなければなりません。現在世界中で所有分配、不公平、環境などの問題が数多く噴出しています。これらは重要な問題ではありますが、解決するためには民主的でなければなりません。

J: これらの問題の中から所有分配と不公平について話したいと思います。

ガレット: 民主主義共同体の19年間の活動の中で学んだ1つには、民主主義が幻想となってはいけないということです。単なる哲学ではなく、人々に届けなくてはなりません。民主主義国では、国民の医療サービス、教育、女性の安全、報道の自由など、民主主義の基本的な原則が保障されなければなりません。もう一度言いますが、民主主義は終わることがなく、常に改善されて行かなければなりません。民主主義の発展には様々なレベルにあります。

J:  最後の質問になりますが、民主主義共同体はワルシャワに本部が置かれています。しかし、ポーランド、チェコ、ハンガリーなどの国では、移民に強く反対する政治的勢力が増えています。今後はどうなると思いますか?

ガレット: 民主主義を3年というスパンの現政権でみるのではなく、独立や革命後の30年という長いスパンでみれば、民主主義には柔軟性があり、辛抱強いことがわかります。あなたが先ほど言った国々だけではなく、民主主義となった他の国も見れば、報道の自由や参政権は非常に高い水準にあります。

今年、来年、再来年といった具合に選挙が行われます。その年によって政治情勢は異なります。例えば、アメリカの2017年の政治情勢は、2019年のそれとは全く違います。アメリカの下院には新しい人たちが入っています。そのため、民主主義には柔軟性があり、また辛抱強いといえるのです。民主主義自体に改善していく能力があります。だから、民主主義を1年、2年といった短期間で見るのではなく、長期で見ることが大切です。

J: 今日はとても貴重な話をすることができました。あなたは、先ほど述べた国々の20年前の状況を一番よく知っている人物の一人です。そして、今日までどう変わって来たかを見てきた人でもあります。あなたの話で民主主義についてポジティブな期待を得ることができました。ありがとうございました。

ガレット: ありがとうございました。

ガレット * ジャルガルサイハン