フェルナンド・カザル・ベルトア氏は、ノッティンガム大学の准教授です。イタリアのフィレンツェにある欧州大学院で政治学の博士号を取得し、スペインのサラマンカ大学で政治学の修士号を取得、さらにナバーラ大学で法学の修士号を取得しました。彼は英国のノッティンガム大学の国際関係・政治学の准教授、研究員であり、オランダのライデン大学の研究員としても勤めています。

J(ジャルガルサイハン): こんにちは。あなたは今回を含めてモンゴルに何回来られましたか。

フェルナンド・カザル・ベルトア: こんにちは。私がモンゴルに来るのは、今回で3回目となります。

J: モンゴルに来られた目的は何ですか。

フェルナンド・カザル・ベルトア: 基本的には、モンゴルの政党をより良く機能させるために、その法整備や資金調達を改善することが目的です。

J: なるほど。それではモンゴルであなたはどのような人たちと一緒に仕事しているのですか。

フェルナンド・カザル・ベルトア: 経済協力開発機構(OECD)の政党の専門家や、政党の資金調達を専門にしている研究者などと共に仕事をしています。

J: あなたは今まで旧ソ連の国々についての研究もされてきました。せっかくの機会ですのでテーマをモンゴルだけに縛るのではなく、もう少し範囲を広げてお話ししましょう。あなたはこの国に一番必要な政党の制度化についていくつかの本や論文を執筆しています。旧ソ連の国々における政党の制度化の質についてどういうお考えですか。

フェルナンド・カザル・ベルトア: 政党の制度化の問題については、オックスフォード大学出版局からの依頼で、ハンガリーのブダペスト市にある中央ヨーロッパ大学の同僚と共同執筆した書籍が近々出版されます。この本の執筆にあたって、旧ソ連の国々の政党の制度化のレベルは、西欧の国々と比べて非常に低いことが分かりました。しかし、西欧の国々では伝統的に安定している政党の制度化が、徐々にその質を落としつつあることも分かりました。

J: はじめに民主主義に政党がなぜ必要なのかを話しましょう。政党のない民主主義はありうるのでしょうか。

フェルナンド・カザル・ベルトア: 政党の本質や必要性については、私だけではなく多くの学者たちが主張してきました。選挙により代表者を決め政治を委託する間接民主主義に関して言えば、政党の存在しない間接民主主義はあり得ないということになります。私が何年か前に執筆した論文で、民主主義の実現にとって政党の制度化がどれほど重要な意味を持つかについて書きました。この論文で、私はヨーロッパの民主主義国の歴史を研究しました。そして、どうして政党内の制度化が、国全体の政党の制度化に必要なのかを説明しました。

J: 政党の存在しない間接民主主義はあり得ないということですが、その質も大事なのではないかと思います。

ェルナンド・カザル・ベルトア: もちろんその通りです。障害のある政党は障害のある民主主義を生むだけですから。

J: では、モンゴルについて話しましょう。私たちは1990年代に民主主義へ移行しました。その際、従来からの共産党を解体せずに来たわけですが、旧ソ連の国々の中で同じような国はいくつありますか。これは私たちにとってメリットですか、それともデメリットですか。

フェルナンド・カザル・ベルトア: 旧ソ連の国々の中で、モンゴルと同じく共産党を解体しなかった国はいくつかあります。例えば、チェコ共和国です。また、モルドバのように共産党を一旦解体して、再び共産党を結党した国もあります。つまり、多くの東側諸国に存在していた共産党が、民主化により社会民主党へと変遷していったということです。

J: 大半の国がそういう状況ですか。

フェルナンド・カザル・ベルトア: だいたいはそうです。特に、民主主義への移行と同時にその変遷をうまく成し遂げています。

J: モンゴルでは、7度の国政選挙に渡って、その共産党の流れをくむ政党と30年前に誕生した民主党の2大政党がお互いに譲り合って、もしくは協力してモンゴルの政治の主導権を握ってきました。しかし、現在では国民はこの二つの政党の違いがよく分からなくなっています。両政党とも「社会民主党」のように見ることができます。旧ソ連の国で、モンゴルと似たような状況の国はありますか。

フェルナンド・カザル・ベルトア: つまり、モンゴルでは旧ソ連の他国と同じように、共産党の社会民主党への変遷がなされているわけです。他方、今あなたが言った状況は西欧の国にもあった現象です。これを私の師であるピーター・メイヤーが「政党制度のカルテル化」と呼びました。ピーター・メイヤーは、1995年にリチャード・カッツと共同で執筆した論文で、これについて触れています。政党のカルテル化という状況は、政治の中で空白のスペースを作り、どの政党を選んでも同じことになるので、国民の政治への信頼を低下させます。

J: まさにその通りです。またモンゴルの政党は、選挙が自分たちの有利に働くよう、選挙の一年前や半年前に選挙法を改正するということを行ってきました。時には相反する両党が協力してそれを実現してきました。

フェルナンド・カザル・ベルトア: これはピーター・メイヤーとリチャード・カッツの言葉を借りれば、まさに「政党制度のカルテル化」ですね。選挙法を改正させる目的は、政党の資金調達や、新興政党など外部からの挑戦から逃れるために法を改正するということです。

J: 選挙法などの法改正以外で、政党制度のカルテル化が起こっていることをどうやって知ることができますか。

フェルナンド・カザル・ベルトア: 先ほども言ったように、そういった政党は選挙法に限らず、関連する他の法律も変えます。例えば、政党の資金調達に関する法律を少数野党でなく、自分たちに有利になるように変えたりします。そうすると、政党は国民の代表でなく、政府の代表のようになるわけです。政党は国民の利益を政治に反映させるための道具ではなくなり、政府の利益を優先する企業みたいなものになってしまうわけです。本来、政党は国民と政府の真ん中に立つべきであり、複数の政党の中から国民が自由に政党を選ぶことになるべきなのです。しかしこれは、他の政党にはチャンスが与えられなければ難しくなります。結果、国民の政治への信頼が低下していきます。

J: 私はチェコの研究者ミハイル・クリマにインタビューをしたことがあるのですが、彼は「不完全な民主主義」という著書の中で、「政党は、国民と政治を繋ぐ橋ではなくなった」と書いています。クライエンテリズムが普及すると、政党は投資した者のために働くようになります。今のモンゴルはまさにそういった状況です。これをどう解決すればよいのでしょうか。クライエンテリズムは腐敗を生み出し、国は少数の大企業のために働き、自由競争がなくなり、国民は国を捨てることを余儀なくされます。実際モンゴルでは国を出て行く人たちも少なくありません。どうすれば良いのでしょうか。

フェルナンド・カザル・ベルトア: それはとても複雑な問題ではありますが、モンゴルだけに起こっている問題ではないということを理解することが大切です。イタリアやチェコ共和国も同じような問題に直面しています。しかし、政党に対する信頼が低下する、あるいは政党が大企業のためだけに働くという状況は、これらの国にも共通しています。これはもちろん一つの大きな問題ですが、これをどう解決するかというのは別の問題です。先ほども言ったように、政党の障害は民主主義の障害となります。ですから、今の政党は変わらなければなりません。しかし、政党が自ら変わる意思を持っているかというのも別の問題です。今、存在している政党を存続させるだけでなく、新たに興った政党にも平等に競争に参加できるチャンスを与えるべきです。選挙制度を特定の政党の頻繁に繋げることは、とても憂慮すべき事情であり、政党だけでなく国民もこのゲームのルールが分からなくなります。政党が長く生き残るためには、国民の前にその真の姿を曝け出さなくてはなりません。ビジネス政党、ツイッター政党などは短い期間成功しても、長期にわたって成功を維持できません。政党が国民の信頼を得なくてはならない時が必ず来ます。ですから、政党が透明性を保ち、腐敗と戦うことで、国民の信頼を得ることができる上、安定した民主主義も構築できます。

J: モンゴルの場合、政党は国民の信頼を失い始めています。国民も政党に透明性があるかどうかを判断できるようになってきています。そういう意味では、個人的に2020年の国政選挙の行方はとても興味深いものになると考えています。国会議員が中小企業のための支援基金を不正に流用しました。例えば、中小企業向けの年3%の低金利ローンを自身の会社に融資したり、その資金で金融機関を通して高金利で貸付したりすることなど、スキャンダルもありました。こういうことは旧ソ連の国にもあるのでしょうか。

フェルナンド・カザル・ベルトア: 旧ソ連の国だけでなく、私の母国であるスペインも同じ状況です。右派である人民党による贈収賄事件や、最近では左派の社会党も事件を起こしました。その結果、スペインの政党制度は変化しています。国民の政党不信が高まり、右派、左派だけでなく、第3第4の政党が誕生し、選挙では国会議員も新しい政党から選ばれています。カタルーニャ州で起こった腐敗事件も同じです。あなたが話したモンゴルでの中小企業向け3%ローンの問題は、多くの国で共通して発生しているようです。カタルーニャ州では政党制度が崩壊しつつあります。これは法の支配や民主主義が非常に危うい状態に置かれているということになります。旧ソ連のヨーロッパの国では、新しいポピュリズム政党が出てきました。中にはリベラルではない政党もあります。こういう政党は、既存の政治が腐敗に陥っているから、自分たちが国民を代表して腐敗と戦うことを表明して支持を得ています。

J: そういった政党は腐敗と戦うことができるのでしょうか。

フェルナンド・カザル・ベルトア: できない可能性が高いでしょう。例えば、ポーランドでも司法の独立、法の支配を脅かす政党が政権についたため、EUは加盟国としてのポーランドの権限を制約しています。

J: 新しい政党は腐敗と戦うことを公約にすることのみで、安易に政治の権限を取得しようとしています。政党とは、選挙によって権力を得ることができる唯一の非営利組織ですよね。

フェルナンド・カザル・ベルトア: 制度化が確立していないことが、そういう事態を引き起こすのです。往々にしてポピュリズム政党がまず初めにやることは、司法の独立を阻害することです。これには十分に気をつけなくてはなりません。なぜなら、そういう不正なことを取り締まるのべきが司法なのですから。

J: ということは、まず制度化を確立することが重要だということになりますね。特に、司法機関が独立して、公平性を保つことが必要だということです。では、憲法を守る、法の支配が確保される司法制度を、どのように確立させますか。

フェルナンド・カザル・ベルトア: まず、権力が分立されていること。司法の独立が確保されることが大切です。司法の独立を保障する法制度、特に裁判官の能力が重要になってきます。

フェルナンド・カザル・ベルトア * ジャルガルサイハン