D.ツェツェン氏はモスクワ国際関係大学を卒業しました。ロンドン大学バークベック・カレッジ経済・数学統計学部で金融経済を専攻しました。2006年にはイギリスのリヴァプール大学で金融と会計を学び、経営ビジネスの修士号を取得しました。また民間企業の開発部門で15年間顧問サービスを提供してきました。現在はヌーデルチングループの事業活動担当社長を務めています。ビジネスにおける達成度評価、経営戦略の作成、ビジネスプロセスのモデル化といった分野で高い専門性をもっています。

J(ジャルガルサイハン): まず会社組織とビジネスについて話しましょう。事業活動を担当する社長というポジションは珍しいですね。社長は基本的に事業活動を担当しています。事業活動担当社長というポジションの特徴は何ですか?

ツェツェン: 企業の事業活動が拡張した場合、特別に事業活動を担当する社長というポジションを設置します。各国の事例を見ると、会社は家族経営・大企業・多国籍企業の3つに区分されます。300万ドルまでの資産を有する企業は家族で経営していくことができます。資産規模が300万ドルを超えた場合、専門チームが必要となります。この時に事業活動を担当する社長を置くことが最適と言われます。

J: 家族経営の会社の寿命はそう長くはありません。今日の家族経営の会社で3代まで倒産せずに継続している会社は4〜5%しかありません。ビジネスにおいて組織はどうして必要ですか?

ツェツェン: 小さい会社にとって起業当初は学ぶことが多く、その能力も高いので成長も早い。会社が大きくなるにつれて解決すべき問題も多様化してきます。そこで問題を的確に解決できず倒産してしまうことがあります。ある調査では100年以上も続いている会社は日本に26,000~28,000社あります。ヨーロッパ諸国では2,000~3,000社です。小さい会社に「ビジネスとは何か?」を聞くとお金のことばかり話します。しかし、ビジネスとは基礎能力を向上させることを言います。基礎能力とは、最先端の技術、人材、ビジネス上の習慣を賢く活用する能力を言います。良い組織というのは「コア・コンピタンス」つまり能力向上のために的確な判断ができる仕組みです。

J: ヌーデルチングループはどんな活動をしていますか?あなたの仕事について話を聞かせて下さい。

ツェツェン: ヌーデルチングループは幅広い分野で活動しています。私は食糧・農業分野で展開している乳製品製造会社、小麦粉製粉会社、建築資材会社の事業を担当しています。

J: 私たちは経済の多様化を図るとよく言います。モンゴルの牛乳生産は国際市場に持っていくことができますか?

ツェツェン: 理論的にはできます。先日、私は中国に行ってきました。中国はこの30年間で急速な発展を遂げましたが、発展のために自然を破壊してきたことも見ました。1970年代の毛沢東の失策により多くの人が餓死しました。これを受け、中国政府は国民への食料提供政策を取ったと言われています。そのため多くの土地が破壊されてきたようです。中国の専門家たちは、モンゴルの発展は何百年も遅れていたから自然が破壊されていない。だから中国はモンゴルの健康にやさしいエコロジーな製品に関心をもっています。この機会を上手く利用すれば可能性はあります。しかし、品質の問題が大きく取り上げられています。

J: あなたはモンゴルのビジネス環境をどうみていますか?改善されていますか?

ツェツェン: 批判することは簡単です。私はモンゴルのビジネス環境は非常に進展してきていると思います。私からみれば、モンゴル人は発展への長い道のりを歩んでいるように思います。モンゴルは世界の発展から100年も遅れていました。しかし、世界の成長が加速し、原料価格が上昇し、はじめてモンゴルが世界から目を向けられるようになってきました。モンゴル人はまだ商慣行(ビジネスプラクティス)を身につけておらず、それが発展の足かせとなっています。1996年の民営化は今とは全く異なるものでした。本当にビジネスをできる人はいましたが、その数はほんの一握りでした。殆どの人はビジネスの意味も分かっておらず、お金を儲けるためだけになっていました。例えば、入札資料だけを作成する会社があります。これはとても悪い組織の見本です。モンゴルにビジネススキルを高める文化を普及させ、広く理解される必要があります。例えば、外国人に「ナーダムというとあなたは何を思いますか?」と聞けば、「モンゴルの伝統行事」と一般的な答えが返ってくるでしょう。しかし、モンゴル人に聞けば色々な回答があります。これと同じように、今モンゴル人にビジネスとは何か?を聞けば、外国人がナーダムについて答えたのと同じように一般的なことしか言えないということです。

J: あなたは「マネジメントについて話そう」というfacebookグループを運営しています。どうしてこの活動をやろうと思いましたか?

ツェツェン: 競争力の意味は、常に学ぶこと、能力を高めること、商慣行を身につけることです。モンゴルには様々な学習センターがあります。しかし全て営利目的で開かれています。国民の大半が貧しい暮らしを強いられているこの時代に、モンゴル人に必要な知識と情報にお金を払わせることに賛成できません。この考えはあまりにも現実離れしていると思われるかもしれませんが。(笑

J: あなたはビジネスとはお金ではなく基礎能力であり、基礎能力を向上させて行くプロセスが重要だと言っています。このことを子どもや次の世代にどのように広げていきますか?

ツェツェン: 儒教文化や伝統がある国は非常に優れています。日本では武道を学ぶことを奨励されています。武道を学ぶ時に身に付けた作法がビジネスにおいて強い力となり、成功することが多いのです。なぜならば武道は忍耐力、集中力、能力を鍛えてくれるからです。これがビジネスをしている人たちの成功する礎となっているとみています。

J: モンゴル相撲はそうではありませんか?

ツェツェン: 私の個人的な考えですが、残念ながらモンゴル相撲は芸術の域まで達していないと思います。

J: あなたが先ほど言ったように、日本には100年以上続く会社が他国に比べて多くあります。これは武道や教育の質から影響を受けていると思いますか?私は以前、京セラ創業者の稲盛和夫さんにお会いしたことがあります。彼は大学で化学を専攻し、セラミックを鉄のように広めるために京セラを創業しました。彼は私たちが使う白色のセラミック包丁、ハサミなどを初めて作った人です。モンゴルで京セラの稲盛さんのような創業者を育てるために、今私たちが何をするべきですか?

ツェツェン: 先ほど少し触れたように、様々な分野の知識・情報を国民に無料で提供するべきだと思います。ヘンリー・フォードは「お金以外に何も生み出さないビジネスは、貧しいビジネスである」と言いました。ヘンリー・フォードは、アメリカの全ての一般家庭に車を提供するという大きな目標をもって自動車開発ビジネスを始めました。モンゴルのビジネスには大きな目標の他に実行できる能力も育てていく必要があると思います。残念ながら、今日では能力が無視されています。ビジネスをしている人たちは、市場の機会を追ってお金を得るだけの話をしています。市場の機会だけを見て始めたビジネスを「一瞬のビジネス」と言います。一瞬のビジネスはある短い期間にお金を生みますがすぐに消えて行くものです。

J: モンゴルの親は自分の子どもが人に負けない暮らしをすることを良しとします。しかし、日本の親は人に迷惑をかけずに暮らすことを良しとします。これには大きな違いがありますよね?

ツェツェン: ビジネスにおける第一の原則は、人に役立つものを作ることです。作っている製品、サービスは市場に支配されなければなりません。モンゴルではこの原則を無視しています。数年前、オランダ人の専門家がモンゴルのある繊維工場で講義をしていました。そこで「あなたが何をしているか、何をできるかは消費者にとっては関係ない。あなたは消費者の需要やニーズに応じたものを作らなければ絶対成功しない」と話していました。もちろん、モンゴルにもビジネスができる人たちはいます。しかし、殆どの人が少しできるようになったら直ぐ市場に売り出そうとします。そして売れなかったら市場が小さい、私の製品が真似された、競争相手が多い、購買力がない、モンゴル人は貧しいなどの不平を次から次に言い始めます。

J: あなたが人生で守っている原則はありますか?ツェツェン: 私は自分が身につけた専門の持ち主であることです。つまりプロ意識で臨むこと、努力することです。プロフェッショナルであるということは道徳的であることです。

ツェツェン * ジャルガルサイハン