ウクライナ国民のアンドレイ・ミクネフ氏は、2019年4月1日から世界銀行のモンゴル常任代理人を務めています。アンドレイ・ミクネフ氏は、モンゴルの関係者らと世界銀行の政策対話及び実施プロジェクトの運営を担っています。彼は世界の経済成長のために20年以上務めてきました。中東諸国、湾岸諸国では民間部門の競争力と成長の促進を目指す世界銀行のプロジェクト・リーダーを務めました。さらに、ラテンアメリカ、サハラ以南のアフリカ、南アジア、中東、北アフリカ、ヨーロッパ、中央アジア諸国で経済改革に取り組んできました。アンドレイ・ミクネフ氏はキエフ大学で国際経済学の博士号を取得しました。英語、ウクライナ語、ロシア語を流暢に話せる上、スペイン語も分かります。

ジャルガルサイハン: こんにちは。世界銀行が作成したモンゴル経済に関する報告書を拝読し、話をさせて頂きたいと思いました。今日はお越し頂き、ありがとうございます。

アンドレイ・ミクネフ: こんにちは。番組に招待して頂き、ありがとうございます。

ジャルガルサイハン: まずは世界銀行とモンゴルの協力事業の進行状況について教えてください。

アンドレイ・ミクネフ: モンゴルと世界銀行は近年、密接な協力関係を築いてきました。具体的な例を挙げながら話すこともできますが、全体像をみると、私たちはモンゴルの経済発展の異なる段階を見てきました。経済急成長期は、2017年から始まり2年間続きました。今年はCOVID-19の感染拡大を受け、経済がさらなる困難に直面しています。もちろんこれはモンゴルに限った問題ではなく、世界的な問題であるため、世界銀行とモンゴルの協力関係はこの困難を克服する方向に進んでいます。

ジャルガルサイハン: 世界銀行が作成した報告書の話題に移る前に、世界銀行はCOVID-19感染拡大に関連し、モンゴルに何らの援助を行いましたか。COVID-19感染拡大の影響を受け、モンゴルの経済が直面している問題は何ですか?

アンドレイ・ミクネフ: モンゴル国はCOVID-19感染拡大の初期から慎重に対応してきました。その結果、隔離期間中の感染者はいましたが、国内感染者が出ていない唯一の国でした。しかし、世界各国の状況は悪化しています。世界銀行はCOVID-19感染拡大当初からモンゴルを支援してきました。世界各国の経済を悪化させないように世界銀行が取ってきたアプローチは3つのものでした。まず一つ目は、生命の救済と医療体制の確立です。これについて、緊急支援金として2,700万ドルの資金を提供しました。この資金調達は、時間がとても限られていた中で行われました。モンゴルの国家大会議は早急にこの資金調達を承認する決断を出してくれました。今年の4月に提供されたこの資金で、検査機、保護装置の購入など、急を要する支出を賄えました。この2700万ドルは国民の生命、保健に使われたということです。二つ目に、実施中のプロジェクト資金の再分配をしました。例えば、e-healthプロジェクトのための資金は、感染拡大予防措置、検査機の購入等に使われました。さらに、100万ドルの助成金を感染防止のために各地で働いている人員、例えば国境で働く人々や医療従事者の防護服を購入するために提供されました。一つ目の支援、助成金は人々の生命を救うためのものだったのに対し、二つ目は低所得者層を守るためのものでした。なぜなら、COVID-19は感染症だけではなく、低所得者、自営業者が所得を失う事態も引き起こします。私たちからの支援は、政府の感染拡大予防策、ここでは国家大会議の4月の経済回復のための措置に関する決定ですが、こういった政策でも協力しながら支援を実施しました。具体的には、世界銀行は社会保険制度に対して大きな支援をしました。社会保険料の支払いを長期間免除したことは、経済回復、雇用の維持、企業や個人の所得確保につながります。ですから、社会保険、社会福祉からの給付金、年金、失業手当などの交付が中断されてはいけません。では、このための資金はどうすれば良いのかが問題になります。ですから、私たちは社会保険料の支払いの代わりに、世界銀行から2500万ドルの資金を提供することを決定しました。

ジャルガルサイハン: それはつまりローンですか?

アンドレイ・ミクネフ: はい、譲許的融資です。

ジャルガルサイハン: 譲許的融資ですね。その条件を教えてください。

アンドレイ・ミクネフ: 融資の目的によって異なる場合がありますが、世界銀行からのローンは基本的に年率2%の利息です。元金支払いは一定期間免除され、長期間にわたって返済する仕組みです。このような条件のローンは、もし個人が受けられるのなら誰もが受けたいようなローンだと私は思っています。加えて言うと、モンゴル国が国際市場では得られないような緩い条件です。

ジャルガルサイハン: それが低所得者層のために使われているということですね。

アンドレイ・ミクネフ: はい、そうです。そして三つ目は、経済回復のためのものです。まずは、国民の生命を守り、低所得者層を守った後に経済が回復できる基盤を作らなければなりません。これに関しては、輸出を支援するプロジェクトを再構築しました。鉱山開発以外で、中小企業が手掛ける輸出可能な製品を国際市場に売り出す、その競争力を上げるための資金援助だけでなく、知識、情報が得られるようなセミナーの開催などを考えています。これらのプロジェクトにおいて、政府が中小企業に対し何らかの料金、支払金から免除するために150万ドルを提供しました。これも含め総額1,800万ドルが、鉱山開発以外で中小企業がビジネスを活性化させるために使われる予定です。

ジャルガルサイハン: 具体的にどのようなビジネスを営む中小企業を想定していますか?

アンドレイ・ミクネフ: 鉱山開発以外の輸出可能な中小企業全般です。製品を輸出する可能性のある中小企業が貿易金融のため、あるいは輸出する製品開発のために資金を提供できます。ただ、生産的なパートナーシップを構築できる企業を優先させたいと考えています。一企業ではなく、業種ごとに支援することでサプライチェーン全てに支援を行き届かせることができます。例えば、私が見学した一つのプロジェクトがあります。ここで特定の企業の宣伝をするようなことは申し上げたくはありませんが、カシミア製品を作っている中小企業はすでにこのプロジェクトから恩恵を受けています。生産に必要な設備を購入し、製品を国内で販売する上に、数カ国に輸出し始めました。大手カシミア企業ではありません、小さな企業です。

ジャルガルサイハン: 貿易金融について話がありましたので質問をしたいと思います。モンゴルでは貿易マネジメントに関する政府機関、省がありません。しかし、貿易金融は政府政策から大きな影響を受けます。これについてどのように考えますか?

アンドレイ・ミクネフ: 貿易に関する制度的取り決めは各国で異なります。ある国では貿易省を置いているのに、逆に貿易省を設置していない国もあります。モンゴルでは、貿易省がなく、主に外務省が担当しています。これは、その国の必要性によって異なりますから、経済規模が大きければ貿易省が必要かもしれませんが、小規模なら必要性が低いかもしれません。ここで重要なのは効果的かどうかです。これは、国内生産者に対して政府が良い貿易環境を作れているかどうかで判断するべきです。世界銀行もそういう面を注視して協力します。世界銀行グループに民間部門の発展のための国際金融公社(IFC)という機関があります。IFCは、バリュー・チェーンに対するグリーンファイナンス支援のプロジェクトを開始しました。これは、世界銀行が貿易を支援していることの一例です。私たち世界銀行は、IFCを通してモンゴル政府が貿易ポータルを作成することを支援しています。貿易に関する法規制や必要な情報を提供できるワンストップサービスを提供できるようにするということです。プロジェクト自体はすでに動き始めていますが、これを継続できるように努めています。IFCは、輸出に必要な費用と時間、その改善方法の調査をしています。調査結果はインターネットで公開されると思います。重要な政策問題は、モンゴルが国際貿易の枠組み、つまりWTOに参加し、その上で貿易に関する国際条約に批准することですが、ミクロレベルでは輸出企業のキャパシティ、競争力が非常に重要です。

ジャルガルサイハン: モンゴルの輸出の9割が鉱物資源です。更にその8割を一国だけに頼っています。2つの隣国と良い関係にあるにもかかわらず、関税が高いのはなぜだと思いますか。世界銀行はこの問題に対してどう考えていますか?

アンドレイ・ミクネフ: それはまさに今、話をしようとしている世界銀行の報告と結びついています。つまり、現在経済の中心にある鉱山資源に依存するのではなく、そこから得られる利益で経済の多様化を図るべきだということです。

ジャルガルサイハン: 『マインズ&マインド』報告は、問題点とその解決方法を明確に提示しています。その中で、特に興味深い指摘がありました。モンゴルで2004年から始まった鉱山開発からの収益から、将来の世代のために貯蓄したのは1%だけだということです。では、鉱山開発からの収益の効率は一体何なのかという質問が出てきます。これについて詳しく教えてください。

アンドレイ・ミクネフ: 質問に答える前に、この報告について少し説明したいと思います。この報告は半年ごとに出るような定期報告ではありません。経済成長の要因、開発への道を長期間遡って分析します。特定の期間、政府の決定、行為を対象にしたものではありません。そして調査の結果、多くの努力がなされてきたにも関わらず、鉱山資源に依存した経済モデルが継続していることが分かりました。しかし、この調査報告書は鉱山開発を否定し、反対するものではありません。ただ、長期の持続可能な経済発展のためには、人的および制度的資本の基礎を確立しなければなりません。そうすることで、鉱山開発が経済成長のメインソースでなくなった場合に備えることができるということです。10年後、石炭が使われなくなったと想像しましょう。今までのように石炭の採掘にのみ投資をしていては、石炭があるとしても誰も購入しなくなります。あるいは、イエメン同様、資源が枯渇するかもしれません。ですから、この報告も鉱山開発からの収益をこれからの世代に投資する、貯蓄することが必要であることを指摘しました。そこで、鉱山開発からの収益の1%のみが将来の世代のために貯蓄されてきたという計算をしていますが、これは主に安定化基金、将来の遺産基金に集められた収益から導き出されました。この調査結果には私たちも驚きました。これは、現在の経済サイクルを、逆の経済サイクルに置換できる状況を作るべきだと示しています。つまり、好景気の時は貯蓄を増やし、鉱業が崩壊した際にその貯蓄を使うということです。それから、経済の多様化ということがよく議論されます。経済の多様化に関する良い事例もたくさんありますが、重要なのは鉱山分野からの収益を他の貧弱な分野に持ってくるだけではうまく多様化はできないということです。インフラ整備、人的資本、制度資本など経済の多様化の基盤となるものに投資しなければなりません。

ジャルガルサイハン: インフラ整備、知識、人的資本など、モンゴルに一番欠けているものは何だと思いますか。国際競争力を上げるにはどうすれば良いですか。例えば、知識の輸出について語られるようになりましたが、将来性があると思いますか。企業と科学の関連づけを妨げているものはありますか?

アンドレイ・ミクネフ: もちろん私たちはモンゴルの人々、その将来性を信じています。だからこそ、人的資産を拡大するために取り組んでいます。高い教育を受けた人は高い所得を得られる職を探します。しかし、それがモンゴルには少ないため、国の開発に貢献する代わりに外国で働き、その国の発展に貢献することになっています。しかしこれは悪いことばかりではありません。逆に、知識と能力を輸出しているとも言えます。最近、LinkedInでカナダ在住のモンゴル人から私にメッセージがありました。彼はとても良い質問をしました。「私はどのようにして自国の発展に貢献できますか?」と。おそらく、多くのモンゴル人が同じことを考えていることでしょう。ですから、高い給料を提供できる雇用機会を創出することが重要になります。もちろん言うのは簡単で、実現は難しいでしょう。先進国、発展途上国関係なく多くの国が雇用創出に悩まされています。使用者が高い給料を支払ってでも利益が出るビジネス環境を作ることが重要です。これは、投資競争力の問題です。金銭的投資だけでなく、効率を求める投資です。付加価値のある製品が国際的に競争できます。国際的に認められる製品がモンゴルで製造できるならば、いま外国にいるモンゴル人も帰国するでしょう。

ジャルガルサイハン: モンゴルの企業は様々な製品開発を試みています。例えば日本企業がIT業務をモンゴルの企業に外注委託をしていると聞きました。現実的に考えなければなりません。私たちモンゴル人が作れるものは、中国やロシアでも作れます。ですから、ITサービスがモンゴルには一番良いのではないかと思われますが、どうですか?

アンドレイ・ミクネフ: 同感です。多くの人に世界銀行から出される世界開発報告を見てほしいのですが、そこにはグローバル・バリュー・チェーンについて記載されています。以前は、製品の生産が一カ所で完結していました。しかし、今は一つの製品を作るために様々な分野のエキスパートを雇う必要がありません。製品の一部のみを担当することができます。他の部分は他の国でなされます。

ジャルガルサイハン: モンゴルについてそのような調査はされていますか?

アンドレイ・ミクネフ: モンゴルでのバリュー・チェーンについて特別に調査はしていませんが、カシミア製品の競争力については去年調査をしました。カシミアの10%のみを国内で加工し、残りは外国へ原材料として輸出しています。

ジャルガルサイハン: 90%は中国とイタリアで製造されていますよね。

アンドレイ・ミクネフ: そうです。しかし、カシミアの製品化を国内で行い、高い価格で販売することができると思います。国内で価値を付加するということは、雇用創出、所得増加につながります。

ジャルガルサイハン: カシミア以外にIT、プログラミング、アプリ開発などの分野でも調査を行う予定はありますか。例えば最近、モンゴル語を文字に起こすアプリが開発されたと聞きました。こういうことに関する調査について世界銀行からの提案、あるいはモンゴル側からの依頼などありますか?

アンドレイ・ミクネフ: 今はまだそういったものはありません。ただ、モンゴルのデジタル化を支援するプロジェクトはあります。

ジャルガルサイハン: 研究所が実施するには難しい調査になると思いますので、世界銀行の支援が必要かと思います。最後に、貧困問題について質問させてください。人口の30%だった貧困率が28%に減少しました。しかし、これはまだまだ受け入れられない数字です。このことについてモンゴル政府の取り組みについてどう思いますか。なぜ貧困率が高いままなのでしょうか?

アンドレイ・ミクネフ: おっしゃる通りで、近年、貧困率は減少していません。ただ、地方での貧困率は減少しており、ウランバートル市の貧困率は増加しています。地方の貧困層が仕事を探してウランバートルに来ても仕事が見つかりません。また、貧困のレベルを見る必要があります。この28%というのは、モンゴル国内の貧困率を計算した結果です。国際的には、一人1日1.9ドル以下の生活を強いられている人を貧困としており、これをモンゴルに当てはめると人口の1%にも達しません。

ジャルガルサイハン: では、28%とは何を基準に、どのように計算されたものなのですか?

アンドレイ・ミクネフ:   国別貧困ライン以下の人口を差しています。1日1.9ドル以下というのは、客観的な国際基準です。各国の状況は異なるため、国ごとの貧困ラインも異なります。

ジャルガルサイハン: 一人 1日1.9ドル以下を極度の貧困とする基準では、モンゴルの貧困率は人口の1%になるのですか?

アンドレイ・ミクネフ: そうです。

ジャルガルサイハン: 国別貧困ラインの基準は何ですか?

アンドレイ・ミクネフ: ただ、アフリカの貧困国では1.9ドルでモンゴルでは買えないものが買える可能性も考慮しなければなりません。今のモンゴルの国別貧困ラインの基準は一人1日5.5ドルだと思います。これは比較的高い金額です。

ジャルガルサイハン: そうですね。モンゴルは給料が低いのに、生活費が非常に高い国となっています。

アンドレイ・ミクネフ: そうです。ここで一つ言っておきたいことは、経済成長率が高かったにも関わらず、貧困率が減少しなかったという点です。経済成長の恩恵が貧困層に届いていないということです。

アンドレイ・ミクネフ * ジャルガルサイハン