J(ジャルガルサイハン): こんにちは。今日は素敵なシャトー(城)にお招き頂き、ありがとうございます。

アン・ローレ・レイン・ヘルフリッヒ: こんにちは。我が美しきブドウ園にお越しいただき、ありがとうございます。

J: とても美しい城ですね。非常に歴史のある印象を受けますが、この城はいつごろ建てられましたか。

アン・ローレ・レイン・ヘルフリッヒ: このシャトーは17世紀に建てられました。もとは古い修道院だったのです。当時は僧侶たちが農園用として建て、ブドウを栽培しました。

J: このシャトーは僧侶たちによって建てられたと言われました。当時の社会背景を少し教えて頂けますか。なぜ僧侶たちがここでワインを醸造していたのですか?

アン・ローレ・レイン・ヘルフリッヒ: フランス文化において、ワインは長い歴史を有しています。またワインの起源は宗教に関連しています。ワインの醸造、ブドウ園の知識を持っていたのは殆どの場合、聖職者でした。フランスのどこへ行っても古い修道院が多いのはそのためです。

J: そうすると、社会の中で最も高い教育を受けていたのが僧侶だったということですか。彼らは発酵、醸造の仕方、ワインの作り方を知っており、それが急速にヨーロッパ中に広がっていったということですね。その要因として、当時は水を浄化することが出来なかったからだと聞きました。

アン・ローレ・レイン・ヘルフリッヒ: そうです。中世の時代は、宗教に関係のある人々のみが教育を受けており、啓発活動をしていました。殆どの人々は学校に通っておらず、読み書きができませんでした。そのため、教育を受けるには、教会に行き、僧侶から教わる必要がありました。ワインもそのようにして教えられていきました。

J: ワインは発酵され、アルコールも含まれているため、バクテリアを殺菌します。ですから、ワインは安全な飲み物で、どの年齢でも飲まれていたのですね。

アン・ローレ・レイン・ヘルフリッヒ: そうです。中世では誰もがワインを飲んでいました。飲む必要がありました。清浄水がなかったからです。水を浄化する方法を知りませんでした。ですから、水の代わりにワインを飲んでいました。これはワインが私たちの文化にとってどれほど大切なものだったかを示す一例です。ワインは我々の歴史と密接に繋がっており、誰もがワインを飲みながら育ちました。しかし、今はワインを飲む必要は特にありません。ワインが好きだから飲んでいますね。

J: 何百年にわたるその変化はこの地域にワイン産業という新しい産業を生み出しました。あなたの家族はワイン産業の大手醸造家の一つです。あなたの家族はフランスでどれくらいのシャトーを持っていますか。

アン・ローレ・レイン・ヘルフリッヒ: 私たちはフランスにある7つのワイン産地に農地を持っています。一つはボルドーですが、それ以外にロワール渓谷、南フランス、コート、プロヴァンス、ブルゴーニュ、アルザス、ジュラなどです。地域ごとに異なる味のワインが製造できます。ワインは各産地でそれぞれ違う性格、アイデンティティを持っています。

J: 7つのワイン産地において農地を持っているということは、それぞれにシャトーを持っているということですか?

アン・ローレ・レイン・ヘルフリッヒ: そうです。ここと同じくらいの大きさやここより小さいシャトーもあります。ある産地ではシャトーが無く、ブドウ園だけを持っている場合もあります。

J: 7つのワイン産地にブドウ園を持っているということですね。

アン・ローレ・レイン・ヘルフリッヒ: フランスの7つのワイン産地に全部で70の不動産を持っています。合わせて3500ヘクタールの広さになります。

J: 製品の半分くらいはあなたが所有する農園のブドウで製造されますか。それともそれ以下ですか?

アン・ローレ・レイン・ヘルフリッヒ: 場合によります。すべての農地でブドウを栽培し、収穫した全てのブドウは私たちが製造するカンタン城のワイン等に使われます。

J: では、今私たちがいるカンタン城について聞かせてください。カンタン城ワインはなぜ特別なのですか?

アン・ローレ・レイン・ヘルフリッヒ: カンタン城は特別です。理由はテロワールとの関係です。サン・テミリオンであるということもありますが、ここのブドウ園は平地ではなく斜面のため、日光が程よく注ぎ、土壌も豊かで、粘土質や石灰岩もあります。これらがワインの味を豊かにしてくれるのです。

J: 確かにここに来るまでの道は殆ど登り坂でした。丘陵地であることで、ブドウが浴びる日光が違うわけですね。

アン・ローレ・レイン・ヘルフリッヒ: そうです。それに気候にも影響を受けます。朝、丘の底は霧が出て湿度が高くなります。湿度が高いということは、ワイン製造の期間が長くなるということです。日光が強いところのワインは強いのですが、ここのワインは強いだけでなく、爽やかな味です。

J: 先ほども見たように、9月の中旬は、白ブドウの収穫時のようですね。赤ブドウはいつ収穫するのですか?

アン・ローレ・レイン・ヘルフリッヒ: ブドウの成熟度によります。カンタン城では、赤ブドウを来週収穫します。十分な量の果汁が取れるように、ブドウの成熟度のタイミングをはかり何日間も待つ必要があります。

J: あなたは所有する全てのブドウ園を回り、自分で味見をすると聞きました。 どれくらい頻繁に回るのですか。

アン・ローレ・レイン・ヘルフリッヒ: 味はどんどん変わっていくので、早めに味見をしていかなければなりません。例えば、ここカンタン城では38ヘクタールの農地ですが、ここには28種類のプロットによって区画分けされています。それぞれ収穫時期が異なります。プロット第3号のブドウと第4号のブドウは必ずしも同時に収穫しません。成熟度が違うからです。ですから、成熟度を確かめるために全てのブドウを週に何回か味見をします。城のワイン製造の担当者は、毎日数回ブドウ園を回り、状況を把握しなければなりません。明日、大雨が降って収穫ができなくなるかもしれませんからね。

J: 大雨や雹が降った場合はどうなりますか。保険に加入していますか?

アン・ローレ・レイン・ヘルフリッヒ: 保険に加入することはできますが、そこでもらえるのはワインを売って得るであろう収益ではありません。保険会社は今年失った分を払ってくれたとしても、雹が降ってきた場合に、私たちは1年だけでなく3年〜5年間の損失を負います。というのは、氷はブドウの根を傷つけてしまいます。回復には3年から5年の期間を要します。

J: ブドウの根は、どれくらい深くまで張っていますか?

アン・ローレ・レイン・ヘルフリッヒ: 10〜15メートルの深さです。しかしそれより深い場合もあります。ブドウ園は他の農業とは少し異なります。水やりが出来ません。オーストラリアやカリフォルニアなど他の国ではブドウ園に水をまいているところもあるようですが、ここでは出来ません。

J: 人工的なものは許されず、一切を自然に委ね育てなければならないということですか?

アン・ローレ・レイン・ヘルフリッヒ: そうです。今年の夏はとても暑く、水が足りません。しかし、私たちには何も出来ません。自然が私たちに何をくれるか、それをどう使うかです。

J: だからAOCというものがあるのですね。フランス語で何の言葉の略ですか?

アン・ローレ・レイン・ヘルフリッヒ: Appellation d’origine controleeです。

J: どういう意味ですか?

アン・ローレ・レイン・ヘルフリッヒ: 特定の地域に特定のテロワールというものがあります。そこではプレミアム品質のワインが製造できます。テロワールは土だけでなく、気候とも関係しています。

J: ワインは土壌だけではなく、気候によって作られるという事ですね。それがテロワールと称されると。

アン・ローレ・レイン・ヘルフリッヒ: そうです。

J: 次に、あなたの会社について聞かせてください。 従業員の数やマーケティングなどについて教えてください。

アン・ローレ・レイン・ヘルフリッヒ: 私たちの会社は大手企業の部類に入ります。3,200人以上の従業員がいます。ただ重要なのは、私たちの会社は設立されてたった40年しか経っていないということです。1979年、私の父がゼロから会社を立ち上げました。当初はコニャックを作っていました。その後、ワインの生産にのりだし、ブドウ園を広げていきました。

J: あなたの会社はワイン帝国と呼ばれ、売り上げも1位です。ヨーロッパでもそうですか?

アン・ローレ・レイン・ヘルフリッヒ: フランスワインについて言えば、そうです。

J: 世界何カ国でワインを販売していますか?

アン・ローレ・レイン・ヘルフリッヒ: 174カ国です。

J: 210カ国のうち、174カ国ですね。このようにビジネスを拡大できた理由は何ですか?

アン・ローレ・レイン・ヘルフリッヒ: 地理的要因があると思います。私たちはアルザスを拠点としていました。ドイツ、ルクセンブルク、スイスと国境を接しています。ですから、私たちは東方へ進出しやすかったのです。フランスの中では多くの競争相手がいました。そこで、フランスの企業があまり好まない外国の市場へどんどん進出していきました。父の目標は、フランスワインの多様性を世界中の人々に知ってもらうことでした。

J: あなたの会社がモンゴルにフランスワインを出荷してから25年が経ちます。モンゴルでもワインは人気ですが、これからは新しい時代がやってきます。ヨーロッパなどでのワイン消費は増加しましたか?

アン・ローレ・レイン・ヘルフリッヒ: ワインはトレンド商品になっています。一つの答えを出すことは難しいですが、フランス、イタリア、スペインではワインは伝統的な存在です。過去10年と比べて、人々のワイン消費量は減りました。その分、ワインに品質を求められるようになりました。教養のある、旅行が好きな人はどんどんワインに興味を持ち始めています。

J: ワイン文化のなかった国の人々もワインを飲むようになりました。ワイン消費者の年齢層はどうですか。若者は多いですか。

アン・ローレ・レイン・ヘルフリッヒ: 若者の方がよりワインを飲む国もあれば、例えばフランスでは30代以下の若者はワイン以外の飲み物、ビールなどを飲みます。ですから、若い人にもっとワインを楽しんでもらえるように、ワインとは何か、どうやって作るのかを分かりやすく伝えたいと思っています。それから、消費者が何を求めているかを分かるために努力しています。祖父の時代は、ワインを買って開ける前に10年間保存してから飲みました。しかし、今はみんな時間がありません。買ってから直ぐに飲みます。私たちも直ぐに飲むのに適したワインへと製法を変えました。

J: 古いワインと今のワインで何が最も違いますか。

アン・ローレ・レイン・ヘルフリッヒ: 作り方です。全てが醸造とワインの製造プロセスによります。 ボトルのラベルに書かれているように、そのワインに使われたブドウをいつ収穫したか、どの品種を使ったか、どれくらいの期間、どのような温度で醸造したか、古樽に保存したかどうか、保存した場合、どれくらいの期間保存したかなど。これらの情報が全部揃ってそのワインのレシピになるということです。

J: 10年前と比べて、今の人々はワインを長く保存していますか。短いですか。

アン・ローレ・レイン・ヘルフリッヒ: 短いです。

J: ワインを保存する期間は平均どれくらいですか?

アン・ローレ・レイン・ヘルフリッヒ: 2年間です。なぜなら、現代は家に部屋が少ないからです。みんな大都市に住むようになりました。アパートにはワインを保存するためのセラーがありません。消費者の姿も変容しています。

J: セラーを見せてもらうことは可能ですか?

アン・ローレ・レイン・ヘルフリッヒ: もちろんです。

J: 樽にたくさんの記号が書かれていますが、これは何ですか?

アン・ローレ・レイン・ヘルフリッヒ:  カンタン城のワインの醸造が終わった後に、ワインを熟成させる必要があります。そのために、熟成させる樽を選びます。様々な種類の225リットルの樽を使って、内側を焼き、ワインに異なる匂いと味をつけます。ここにある記号は、樽の詳細です。

J: この樽はどこで作られましたか?

アン・ローレ・レイン・ヘルフリッヒ: フランスです。

J: 使われた木材はどこのものですか?

アン・ローレ・レイン・ヘルフリッヒ: 殆どはフランス産です。オーク材です。毎年、もっと良い味を作るために樽の7割を新しいものに変えます。

J: 一つの樽を平均何年くらい使いますか?

アン・ローレ・レイン・ヘルフリッヒ: 毎年、7割を新しく変えないといけないのですが、残りは再利用します。

J: 先ほど樽の中を焼くと言いましたが、それはどのようにしますか?

アン・ローレ・レイン・ヘルフリッヒ: とても特殊な方法です。木そのものは凹みがありません。凹みが出来るように水を入れ、その後内側を焼きます。

J: 焼くと樽が茶色っぽくなるだけでなく、味がつくわけですね。

アン・ローレ・レイン・ヘルフリッヒ: そうです。ワインは最初、色が付いていません。味もナッツによって変わっていきます。バニラナッツやスモーキーナッツなどです。

J: どのようにしてバニラ味を付けるのですか?

アン・ローレ・レイン・ヘルフリッヒ: 樽の木材がバニラ味をつけてくれます。

J: 木材ですか。どうやってそれが出来るのですか?

アン・ローレ・レイン・ヘルフリッヒ: 樽に使われるオークは独特の香りを持っています。また、樽の中では時間とともにワインが減っていくので、その分を追加していきます。減っていく分は、天使が飲んだワインだと言われます。

J: 樽のワインはいつ開けますか?

アン・ローレ・レイン・ヘルフリッヒ: この樽は2018年のブドウから作ったワインです。これは来年の3月に製品として出荷します。

J: 樽に詰められてから2年後ということですか?

アン・ローレ・レイン・ヘルフリッヒ: ワインは樽に12ヶ月間保存されます。9月〜10月の間にブドウを収穫します。収穫後は、4〜5週間発酵させます。それから樽に入れます。

J: 目の前にある樽のワインは何年間保存されているのですか?

アン・ローレ・レイン・ヘルフリッヒ: 1年です。味見してみませんか。これは1歳のカベルネです。

J: カベルネ・ソーヴィニヨンはいつも赤なのですか?

アン・ローレ・レイン・ヘルフリッヒ: ワインの色はどういうブドウを使ったかによります。それも全てのブドウの中身は白色のジュースです。ワインを赤色にするのはブドウの外皮です。

J: 乾杯!

アン・ローレ・レイン・ヘルフリッヒ: 乾杯。このワインは3ヶ月後、ストロベリーやブラックベリーの味がつきます。

J: ストロベリーを入れるのですか?

アン・ローレ・レイン・ヘルフリッヒ: いいえ、100%ブドウだけを入れます。しかし、それがストロベリーやブラックベリーのような味や香りになっていくのです。ワインを味わう人々は、それぞれ異なる味の好みがあります。ですから、ワインの味を解説する際には、誰もが知っているフルーツの味などを使って説明します。それから、ワインを味わう際、私には祖母との記憶が甦ります。あなたの場合は、おそらくレストランかもしれません。ですから、私たちはもっと多くの人にワインに関するアドバイスをしていきたい。そしてさらにワインについて知ってもらいたいと思っています。

アン・ローレ・レイン・ヘルフリッヒ * ジャルガルサイハン