ドゥルゼー・オドフー氏は、旧ソ連チュメニ工業大学(現チュメニ国立石油ガス大学)を鉱工学、地球物理学専攻で卒業し、アメリカのコロラド大学で行政学を学びました。彼はモンゴル地質鉱業省に属する「エレル」地球物理学総合遠征で研究チームエンジニア、シニアエンジニア、エルデネト鉱業、モンロスツヴェトメト社取締役のモンゴル側会長、国有財産委員会会員、国家大会議議長上級顧問、国家大会議事務局長、モンゴル国立科学技術大学理事長、エグ川水力発電所プロジェクト長などを歴任しました。またオドフー氏は、2004年から2014年の間、国家大会議員(国会議員)、国家組織常任委員会メンバー、国家大会議モンゴル・シンガポール議員団長を務めました。

ジャルガルサイハン: こんにちは。今日はコロナ禍の大変な時ではありますが、モンゴルのエネルギー情勢について話し合いたいと思います。モンゴルのエネルギー政策とは何か、それは合理的であるか、エネルギー源はなぜこれほど限られているのか。最近、第4火力発電所がロシアの支援で発電容量を89MW増加しました。あなたはエネルギー分野の政策を立案、決定する国会議員も務めていました。モンゴルのエネルギー政策についてどう思われますか?

D.オドフー: こんにちは。エネルギーについて、「社会主義に電気を足せば共産主義となる」とレーニンが言ったように、電力を含むエネルギーとは国の発展の根本を成すものです。エネルギー環境の発展は、国の発展の最低10〜15年先を進んでいくべきものです。将来のエネルギー需要を考えた場合、すでにその需要を満たすエネルギー源が建設されていなければなりません。

ジャルガルサイハン: 発電容量も実際の使用量より10%〜20%多くなければなりませんよね。

D.オドフー: そうです。今のモンゴルの状況は、電力需要が供給量を超えており、足りない分の電力200MW以上をロシアから輸入しています。最近、政府が電気料金を無料にしたことで、需給バランスが崩れ深刻な問題が起こりました。使用量が50〜60MW増加しただけで、ロシアから電気を流す送電線が足りなくなり、送電制限をせざるを得なくなりました。

ジャルガルサイハン: エネルギー源と送電網も良くないですね。

D.オドフー: そうです。発電調整が重要です。どの国もエネルギーに関して3つの基本的戦略を持っています。1つ目に、異なる複数のエネルギー源が相互に補完し合うようにバランスを図ります。しかし、今のモンゴルでは石炭を使用する火力発電所が90%を占めます。それ以外では再生可能エネルギーも使っておらず、バランスが崩れています。2つ目に、国内需要を満たせるだけのエネルギー源を持っていなければなりません。エネルギーの独立性と確実性です。3つ目に、再生可能エネルギーの割合です。モンゴルはこの3つの戦略を実施できていません。これに関して、エネルギー安全保障という面で言うと、ベースロード発電所と負荷追従発電所という二つの目的の違う発電所を持っておくべきです。人の電力消費は、その生活リズムによって変化します。仕事が終わり、帰宅したら電気とテレビを付け、料理をします。使用量が急増するわけです。この急増する時間帯にベースロード電源の上に足さないと電気を届けられなくなります。しかし、電気の使用量が増加するのは6時、7時に始まって10時半、11時頃まで続き、その後一気に減少します。つまり、夜中の0時から朝の6時までは多くの人が電気を使わないため、電力が余るわけです。こういった電力消費量の変化を調整するために負荷追従発電所があります。これには水力発電や原子力発電などが当てられます。今日のモンゴルにある火力発電所は全てベースロード発電所です。この火力発電所のボイラーを1つでも止めた場合、再起動するために最低8時間〜12時間、通常2日〜3日間かかります。ですから、消費の変化を調整するには負荷追従発電所が絶対に必要なわけです。今日のエネルギー調整は、ロシアと接続する240MWを限度とする送電線で電力を融通し合っている状況です。

ジャルガルサイハン: そのことについて詳しく話をする前に、一つ聞きたいことがあります。先進国では家庭用電気料金が業務用電気料金よりも高い多い場合があります。消費者のほとんどが一般家庭であるため、家庭用電気料金の方が業務用よりも高く設定されています。モンゴルではこれとは逆です。政府が電気料金を低価格に抑えることに反対する人たちもいます。どうしたら電気料金を自由化できるのでしょうか?

D.オドフー: まず、経済学的に考えて電気料金を自由化するほかありません。市場経済において、あらゆる事業は利益を得なければなりません。しかし、モンゴルは税率が高く、電力は決まった価格で売られています。価格を自由に設定できるようにしなければなりません。他方、モンゴル人の購買能力に合わせて一定の価格に抑えなければならないと考えられます。今すぐに電気料金を自由化すると、多くの市民が支払えなくなるでしょう。ですが、価格自体を世界平均と比較してみれば、モンゴルの電気料金は非常に低いことがわかります。ですから、段階的に自由にしていくべきです。そのためには、まず、全体的にモンゴル人の所得を増やさなければなりません。一部の貧困層は援助をすべきとして、全体的には電気料金の価格を自由にすべきです。

ジャルガルサイハン: 発電事業者の競争力を上げ、エネルギー源を建設するためのライセンスを新たに交付するという話があります。そうした場合、電力の引き込み線は一家に一つですよね。それはどう調整するのですか?

D.オドフー: 価格を自由にすると、そこに投資が入ってきて競争を生み出していくでしょう。世界ではそれぞれの家庭が電気の消費者であり、また生産者でもありうる時代が到来しました。太陽光パネルを設置して発電して消費し、余剰分は電力会社に販売するという往復電線ができています。しかし、モンゴルでは未だに一方ルートの電線です。しかもそれが安定していません。

ジャルガルサイハン: 国民のほとんどがゲル地区の木造住宅に住んでいます。住宅の屋根を太陽光パネルにしたケースが出てきました。

D.オドフー: 屋根、壁、窓もそうです。道路まで太陽パネル式になっています。

ジャルガルサイハン: そのように各所で発電することに重点を置けばどうですか。そうすれば安くなるのでは?

D.オドフー: そうするためには、発電のための投資を援助することが必要です。そして余剰電力を適切な価格で買い取る仕組みを作らなければなりません。必ずお金で買うのではなく、使用の変化に応じて電力を供給することも可能でしょう。

ジャルガルサイハン: では、あなたが長年勤めたエグ川水力発電所プロジェクトについて話したいと思います。いつ始まり、今どうなっているのかを教えてください。

D.オドフー: モンゴルの水力発電所建設計画は、旧ソ連の指導の下、1964年〜1965年にかけてレニングラードの研究所によって全体調査が行われました。調査結果によると、モンゴル国内28カ所で水力発電所の建設が可能とありました。そのうちの一つがエグ川から2キロ離れた場所です。この計画を今、実現しようとしているわけです。1975年には、旧ソ連からモンゴルに対し、セレンゲ、ホブド、エグ川流域で水力発電所の建設を進めるよう指導がありました。これを受け、1975年にツェデンバル氏が率いる委員会で水力発電所の建設が決定しました。それがなぜ中止になったかというと、当時、旧ソ連とモンゴルとを繋ぐ送電線の建設が1976年に完成したからです。これにより、もしモンゴル国内の電力が不足した場合は旧ソ連が提供するとなり、水力発電所の建設が中止されました。その後、旧ソ連が崩壊し、市場経済に移行しました。モンゴルは1991年にアジア開発銀行からの380万ドルのソフトローンと140万ドルの無償資金援助、合計520万ドルの資金を得ました。この資金でエグ川水力発電所建設のフィジビリティスタディを、スイスのエレクトロワットエンジニアリング株式会社に発注しました。これがファーストトライでした。当時の状況に合わせて、100MWの2段階の水力発電所を建設しようとしました。

ジャルガルサイハン: 100MWプラス100MWですね。

D.オドフー: そうです。当時の人々の電力の使用変化が100MW以内だったため、合理的なものでした。こうして計画が立てられ、M.エンフサイハン政権で実行に移されようとしました。これについて詳細は話しませんが、マレーシアの会社が施工しようとした際に、チェコの会社が横やりを入れ混乱を引き起こし失敗に終わったという、全く関係のない様々な利益相反の問題があったとみられます。セカンドトライは、M. エンフボルド政権が2006年に開始し、2007年に中国からの300万ドルのソフトローンでこれを建設しようとしました。入札手続きを終え、中国の会社が落札していましたが、突然中止ということになりました。当時の内閣が総辞職し、 つづくS.バヤル政権が発足して最初に行ったことが、水力発電所建設の正式な中止でした。理由は、経済的に利益が上がらないこと、また多くの歴史ある墳墓であるヘレクスル(モンゴルの遺跡モニュメント)などを壊すことになるからでした。

ジャルガルサイハン: 発電所建設の中止が理由でM. エンフボルド内閣が総辞職したのではないですか?

D.オドフー: M. エンフボルド内閣が総辞職した後に中止されました。

ジャルガルサイハン: では、その背後には一体どういう利害関係があったのですか?

D.オドフー: いってみれば泥棒が入ったのです。水力発電所建設の最後の試みは、2013年末頃のN.アルタンホヤグ政権の時です。2014年にはエネルギー大臣に就任したソノンピルが責任者となり、水力発電所建設のプロジェクトが始動しました。2014年内に、以前520万ドルで行われたエグ川水力発電所建設のフィジビリティスタディを94%新しく、また残された詳細部分まで含め180万ドルで成し遂げました。20年前に520万ドルかかったフィジビリティスタディを、当時できなかった分まで含めて180万ドルで行いました。世界の水工学企業上位3社を占めるフランスの企業がフィジビリティスタディを行ったのです。2015年にプロジェクトチームは中国からの10億ドルのソフトローンを受け、当時では最も良い条件で建設交渉を終えました。700万ドルをエグ川水力発電所建設プロジェクトに充てるという閣議決定も出され、国家大会議の承認も得ました。いよいよ建設が始まるという時に、プロジェクトは突然中止されました。中止の理由は、モンゴルに水力発電所を建設することでロシアの自然環境に悪影響及ぼすというものでした。ロシアはモンゴルを傍に置き中国と話し合い、中国も何らかの理由でこれを受け入れ、プロジェクトを中止しました。おかしな話ですが、中国とモンゴルの間でソフトローン契約を締結していたにも関わらず、ロシアの要請で中国が中止したのです。もっとおかしな事は、モンゴル政府が中国に対して一言も抗議しなかったことです。当時、私もプロジェクトから外されました。モンゴルは中国に対して聞くべきでした。「なぜ両国間の約束を第三者国の要請で反故にするのか」とね。

ジャルガルサイハン: 当時、外務大臣は誰が務めていましたか?

D.オドフー: Ts.ムンフオルギルです。

ジャルガルサイハン: Ts.ムンフオルギル元外務大臣が中国に事情を聞くべきだったのではないですか?

D.オドフー: そうかもしれません。当時、Ts.ムンフオルギルは頑張っていたと思いますが、結果として約束を反故にした中国は何の責任も取りませんでした。そしてモンゴル側から質問もされなかったことだけは分かります。

ジャルガルサイハン: ロシアはなぜモンゴルの水力発電所建設を中止させたのでしょうか。理由は本当に環境問題なのですか。そうだとすれば、旧ソ連時代のあの指導は何だったのですか?

D.オドフー: 二つの顔を持っているからです。まず明白なことは、世界中で水力発電所を建設できるようになりました。環境に最も優しく、ほとんど自然環境に影響を与えず建設できるようになったのです。もちろん、一切害がないとは言えません。人間のあらゆる行動は環境に何らかの影響を常に及ぼします。しかし、水力発電所を建設する国々を見てみると、ほとんど先進国です。中国も水力発電所の建設で世界一となっています。ノルウェーでも、使われるエネルギーの95%を水力発電で賄っています。最近、ロシアのアンガラ川での水力発電所を建設したフランスのコンサルティング会社は、エグ川水力発電所プロジェクトの環境への影響を0.023%だと試算しました。それにも関わらず、ロシアはバイカル湖が破壊されると言っているのです。

ジャルガルサイハン: この裏にはモンゴルに電力を継続的に売却したいというロシアの意図があるのではないですか?

D.オドフー:  経済的、政治的、2つの理由があると個人的には思っています。経済的には、ロシアのエネルギー大手民間企業の存在です。その企業はウラル山脈からモンゴルまでのエネルギー供給の40%を握っています。特にシベリア、イルクーツク、ウラン・ウデのエネルギー生産の90%を占めています。

ジャルガルサイハン: モンゴルはそのロシア企業から電力を購入しているのですね?

D.オドフー: そうです。彼らはシベリアで発電した余剰電力を持っています。それをロシア国内だけでなく、モンゴルに売却しているのです。

ジャルガルサイハン: 極東方面だと、ロシアから電力を購入しているのはモンゴルだけですよね?

D.オドフー: 今のところはそうです。中国に売電することはまだ出来ていません。

ジャルガルサイハン: 金額的にはこの電力はいくらくらいするのですか?

D.オドフー: 2000万ドルですが、ここ10年〜20年の合計額だと1億7000万ドルくらいです。これは貧しいモンゴル国にとっては大きな金額です。一方、政治的見地に立つと、地政学的に発展途上国でもあるモンゴルとの関係は繋がっているべきだと考えられます。モンゴルが第三の隣国などといい、隣国から完全に離れて行かないようにするためには、何らかの関係が必須です。それが一時期、エルデネト鉱業だったのですが、今は鉄道、エネルギー、石炭となっています。その中でも一番重要度が高いのはエネルギーなのです。それもベースロード発電所ではなく、負荷追従発電所であり、イコール水力発電所です。ロシアはそれをモンゴル国内で建設できないようにするために、バイカル湖を世界遺産だとし、モンゴルが考えなしに加盟した世界遺産の保護に関する国際条約を利用しているのです。

これについて、まずエグ川からバイカル湖まで600キロ離れています。水流も逆ですし、バイカル湖の魚に何の影響も及ぼしません。大きなマスが年に200キロくらい泳いだという記録はありますが、どんな魚でも普段は15キロ〜20キロの範囲で生息します。次に、バイカル湖の水量が減少すると言われています。実際、セレンゲ川は約50%がバイカル湖に注ぎます。しかし、セレンゲ川流域の3分の2がロシア領内に、3分の1がモンゴル領内にあります。モンゴル国内のセレンゲ川がバイカル湖に及ぼす影響力はわずか18%です。その支流であるエグ川はさらに少ないのです。エグ川で水力発電所を建設することによって、バイカル湖の環境に害を及ぼすということは言いがかりにすぎません。ロシアの研究者の中でも、こういった事実を明かした人たちがいます。

ジャルガルサイハン: イルクーツクにもそのような研究者たちがいました。

D.オドフー: もちろんです。逆にバイカル湖が洪水になった際に雨水を保管し、雨がに降らない時は保管した水を使ってバイカル湖の生態系を守るために水力発電所が使われています。長江でも16カ所水力発電所があります。200年もの間、毎年の洪水で何千人も死んでいました。今はそのような危険は無くなりました。水力発電所によってバイカル湖が汚染されるのであれば、現にロシアが建設した水力発電所はどう説明がつくのですか。

ジャルガルサイハン: つまり、環境問題などではなく、政治経済的要因が理由であるということですか?

D.オドフー: 明白です。発展途上国の苦労ですね。

ジャルガルサイハン: では、今後どうすれば良いのですか?

D.オドフー: 私は国会議員でもあったため、民主党のレッテルを貼られ、2016年にプロジェクトから外され、そのプロジェクト自体も中止されました。ただ、例えばエジプトとエチオピアにも同じ問題がありました。エチオピアは、国民にその状態を訴え、資金を調達し水力発電所を建設しています。

ジャルガルサイハン: それはもう完成しているのですか?

D.オドフー: まだ確認できていませんが、もう完成する頃でしょう。世界中の数多くの国々が同じ問題に直面し、それぞれのやり方で解決しています。

ジャルガルサイハン: あなたはこの分野での知識と経験を持っています。水力をエネルギー源とする政策をどのように見ていますか?

D.オドフー: 確かにエネルギー問題は重要ですが、その先に来るべきなのは水問題です。なぜなら、モンゴルは急速に砂漠化が進行している国の一つです。砂漠化を止めるための2つの方法があります。地上水源を作り、気候と水質を穏やかにすることです。

ジャルガルサイハン: 木を植えることも有効ですか?

D.オドフー: そうです。地表水と地下水は異なります。地下水が十分な国でも地表水源を作っているのに対し、モンゴルはそれもできずにいます。

オドフー * ジャルガルサイハン