レンツェン・バトメンド氏は、経済政策・戦略、ビジネス、行政の独立した研究者、トレーナー、コンサルタントであり、「振動空気圧セパレーターによる穀粒からの分離が困難な混合物の分離」というタイトルの論文をハンガリー語で執筆し、ブダペスト工科大で博士号を取得、モスクワ国立食品生産大学をエンジニア専攻で、モンゴル国立大学外国語学部を英語学専攻でそれぞれ卒業しました。その後ウブルハンガイ県ハラホリン郡の小麦粉・飼料工場で保全整備士、ウランバートル市の製粉所で整備士、国立食品工場リサーチで研究者として、他にも国家開発副大臣、副首相顧問、内閣事務局監視評価部長、モビコム社長を務めてきました。

J(ジャルガルサイハン): あなたはちょうど、第二次世界大戦が終結した1945年に生まれました。学問に励み、英語を学んだ数少ない人物の一人です。ハンガリーで食糧生産の博士号を取得し、モンゴルに戻り、食糧生産分野で研究所を設立するまでになりました。その後、多くの国家機関、民間企業にも勤めました。地政学研究所での経済安全保障に関するあなたの講演を聞きました。あなたを長年知っている者として、あの講演を国民に聞かせたいと思い、こうして招待しました。番組に出演していただき、ありがとうございます。

R.バトメンド:  こちらこそ、ご招待いただき、ありがとうございます。

J: まず、経済安全保障とは何かということから始めようと思います。

R.バトメンド: 経済安全保障について話す際、まずは国家安全保障について触れなければなりません。国家安全保障制度とは、ある国の根本的な利益や地政学的リスクを研究し、その研究結果に基づき、国内外の政策を決定する制度です。これがモンゴルでは、国家安全保障法、国家安全保障戦略によって決められています。その中で、経済安全保障は重要な位置付けとなります。なぜなら、国の独立、安全性は経済力によって決まるからです。国家安全保障戦略には、経済安全保障は経済的独立、持続可能な発展の基礎を成すと定められています。まず、独立するということは、国内の需要を自ら喚起し、それを供給が満たし、使用するという制度を作るということです。それを政府が実現するために努めます。次に、持続可能な発展とは、確立された科学の概念です。あらゆることにおいて、科学に基づいた話をし、それに基づき行動しなければなりません。持続可能な発展の基礎は、社会、環境、経済の整合性です。経済と社会の関係とは、経済の生産物を社会において公平に分配しなければなりません。社会が環境と調和し、環境破壊を防がなくてはなりません。経済は環境に優しく、社会の需要に限り、資源を使うべきです。この三つが相互にうまく重なることを持続可能な発展といいます。

J: あなたは今、経済は独立していなければならないと言いました。国内の食料品の需要を満たさなければならないと。例えば、ある国が完全に閉鎖されたと考えましょう。その際に国内の食料品の需要を満たせるかどうかですね。この点で、モンゴルの経済安全保障はどういうレベルにあると見ていますか?

R.バトメンド: 経済が独立していなければならないと法律で定められていますが、それを測定する方法は色々あります。食料自給率、食品安全、金融機関の安全、国家予算の安全、外国投資の安全などです。その中で、食品安全は最も重要なポジションに位置します。食品安全とは、一年中、人々が必要な食品を入手できる状態を指します。国家安全保障法、国家安全保障戦略には「安全を確保する」という言葉が頻繁に使われています。これは一度確保して終わるのではなく、いつでも確保していなければならないということです。

J: あなたはこの国家安全保障法、国家安全保障戦略の制定に関わっていましたね。

R.バトメンド: 初期の段階で加わりました。現行の戦略は2010年に制定されましたが、そこには関わっていません。

J: 食品安全のレベルが1から5であると考えた場合に、どのレベルに当たりますか?

R.バトメンド: 食品安全はそこまで困難な状況にはありません。国内の食料品の需要を満たす生産はしています。モンゴルが市場経済に移行する際、多くの産業が廃止されたり、劣化したりしました。しかし、食品産業はそうならず、民営化され、適切なマネジメントができる人の手元に置かれ、今でも生産を続け国民に届けています。ただし、食品安全に関しては、健康な身体を維持するために必要な食料を入手できているか、食品成分に変化があるかという問題があります。モンゴルはすべての食品を国内で生産できていません。多くの食品を輸入に頼っています。その中に、国内でも生産可能な食品が含まれています。例えば、牛乳、乳製品、食肉製品などです。

J: 一方で歴史的に見れば、ロシア改革の後、飢餓に陥りました。中国は文化大革命の後、飢餓に陥りました。韓国と北朝鮮、日本も飢餓に陥ったことがあります。これと比べて、モンゴルはそれほど飢餓に陥ったことがありません。それが私たちの生産性に関係してはいないのでしょうか?

R.バトメンド: これは長年の歴史に根拠を成します。元朝秘史を見ても、お互いに力で奪い合う戦いばかりでしたが、チンギス・ハンの時代にモンゴル国が国としてどのようにして生存するかを決めています。そこから一つ挙げると、モンゴルは家畜と共に遊牧する民族であり、環境に合わせて家畜から取れるもので生活していたことを挙げることができます。そのため、モンゴル人は飢餓を味わったことがありません。戦争中でもそうです。馬があるので、飢えてきたら馬の血を少し採り飲んでいました。

J: では、経済安全保障について聞かせてください。あなたは講演の中で、国は紙幣を発行し、または他国に借金をすることができます。しかし、国債には限りがあり、それを無視すると国家安全保障に影響すると言っていました。これについて説明して頂けますか?

R.バトメンド:  経済安全保障に影響する3つのことがあります。まず、財政政策に失敗しています。つまり、赤字予算を承認しています。30年間、黒字予算を承認したことがありません。これはどういうことかというと、不足した予算を金融機関あるいは外国から借金する、国債を作るということです。そして、その国債を減少させる方針を打ち出していません。例えば現在、公務員の数は20万人となっています。私が公務員だった頃、この数は14万人くらいでした。つまり6万人増えたということです。仕事の量が増えたことにより、人数が増えることはありえます。しかし、資金調達の目的が明確化していない場合が多いのです。例えば、一人の大学教授に対して5人の補助スタッフがいたりします。また、収入を得るものではなく、費用がかかるものに絶対的規模の資金を出します。必要のない文化宮殿や学校、幼稚園を建設し、地方の電化では200軒の家のために非常に高額な費用を出しています。このように、予算支出は合理的ではありません。

J: 多めに考えて、国の歳出は経済の何パーセントであるべきですか。何パーセントが通常ですか。モンゴルの場合30%近くになっていますが。

R.バトメンド: これは相対的な問題です。例えば、アメリカは世界のリーダー国であると決めているので、軍事費などへの予算支出が高いです。モンゴルはこれと比べられません。中国とロシアもそうです。ヨーロッパ諸国も社会福祉などのために予算支出は経済の40%になります。モンゴルの場合、私の計算では40%くらいです。国家予算が7兆トゥグルグとなっており、130億ドルのモンゴル経済では、50%以上となります。

J: 40兆トゥグルグですね。国が経済規模に見合った支出をしなければ、いずれその国の経済よりも大きな支出を背負えなくなるということですね。もう一つ、あなたの講演にエネルギー負荷、供給、価格の話が強調されていました。例えば、電気料金は全ての世帯に届くという理由で安価に設定した結果、発電所、炭鉱が赤字に陥っています。第5発電所を建設するという議論を20年間続け、10回も起工式を開き、未だに建設されません。それから、何日か前に政府が電気料金を7月まで無料にすると発表しました。これについてはどうお考えですか。いつまでこういう状態が続くのでしょうか?

R.バトメンド: まず、新型コロナウイルス感染症拡大時は、収入を失った国民に対して何らかの援助をしなければならない特殊な状況です。電気料金を国が負担することによって、多くの人々の生活が助けられていると思います。ただし、一方で国民はものを大事に使うという意識が薄く、使いすぎると電力需給に問題が生じるため、エネルギー大臣は必要以上に電気を使わないことを国民に訴えていました。

J: 問題はもう既に起きていませんか?

R.バトメンド: 起きているのかもしれません。国民も無料だからとめどなく使っても良いという考えを改めなくてはなりません。それからもう一つ、経済を1%成長させるためにはエネルギー源を4〜5%新たに開発しなければなりませんが、モンゴルではこれができていません。まず、モンゴルのエネルギー生産は国内需要を全部満たしておらず、毎年ロシアから250MW、中国から150MWの電力を輸入しています。そして電力使用量が減る夜間に合わせて発電調整ができず、余剰電力70MWをかなりの低価格でロシアに輸出します。そのため、新たなエネルギー源を作ることを決めました。第5発電所の建設に加え、風力発電、太陽光発電、水力発電です。これらはモンゴルのエネルギー産業にとって助けとなっていますが、ただ今の余剰電力を止めて、水力発電に流すなどの仕組みを作らなければなりません。

J: 今はその電気を止めることができないのですね?

R.バトメンド: 火力発電所を急に止めることはできません。起動にも時間がかかります。そのため、調整が必要なのです。

J: 水力発電所建設に関して、ロシアはこの建設に反対の意を表しています。これはどうしたら良いのでしょうか?

R.バトメンド: 水問題は環境問題であり、モンゴルを流れる水は全て北極海に流れ込み、セレング川はバイカル湖に注いでいます。ですからロシアはモンゴルで水力発電所を建設することによって、バイカル湖の生態系に影響を及ぼすという懸念でそう言っています。

J: ロシアの研究者たち自身が環境には影響しないと言っていますが?

R.バトメンド:  影響すると言う研究者もいます。

J: では、第5発電所はなぜ未だに建設できないのですか。建設予算が承認され、外国の企業が実行可能性調査までしました。それにも関わらず、建設しない理由は何ですか。政治的な原因ですか?

R.バトメンド:  まず、ビジネスにおいて利害があるのでしょう。それから、政治的利害もあると思います。そのため、建設する土地がないなどという理由をつけ、ようやく立地が決まった後に再び入札手続きを開始しました。

J: 意思決定をする人たちが自らそのプロジェクトに参加するために奪い合っているだけの話ではないでしょうか。

R.バトメンド: 基本的にはそのとおりです。

J: 最後に、外国投資の話を聞かせてください。どれくらいの投資まで許されるのか、そもそも外国投資を受ける必要があるのかどうか、その安全性の問題についてです。私自身、20年前にこれに関する仕事を担当していました。外国投資をしたところは、技術の面や人材の面で新しいことを導入していますが、これをあらゆる分野において取り入れることは適切なのですか。今日、新たな方針を決めようとする上で、どうすべきだと思いますか?

R.バトメンド: 外国投資が重要であることは無論です。特に、モンゴルのような国には外国の直接投資が重要です。しかし、それだけにこだわる必要はありません。なぜなら、外国投資は、状況が悪くなると直ぐに撤退します。中国でもそういうことがありました。モンゴルの場合は法律が度々改正されるため、投資家が安定して投資ができないという状況があります。政府が投資を受けた後に、法律を改正し、それまでと違うことを言い出した事例は枚挙に暇がありません。こうして自分の発言を撤回したり、変えたりすることはあってはならないことです。

J: 中国は、外国投資家から車の生産技術を学び、自分たちで生産できるようになってから投資家を返しましたね。

R.バトメンド: そうです。モンゴルもそうすべきです。しかし、今の教育制度方針は流動的な人材を育てようというものです。そして、その流動的な人材は外国に出ていきます。そうではなく、外国投資家を受け入れ、そこから学び、それを継続していく人材を育成すべきです。

J: ここで、モンゴルは優秀な人材を育成し、それを外国に送り出してしまうことを止めるべきだということですね。最後の質問です。地政学的政策に関して、中国、ロシア両方の隣国はモンゴルに対して上海協力機構に加盟することを要請しています。加盟した方が良いのですか?

R.バトメンド: 加盟した方が良いかどうかは、上海協力機構への加盟の話を始めた政府機関が話し合い、決めるべきです。ただ、この話は非常に広い範囲で話し始めました。非政府組織が集まって上海協力機構に加盟すべきかどうかという議論もしました。それを決める程の能力、経験を有する人は、中には一人、二人いるでしょうけれども、私などはそれを良い悪いと言える程の人間ではありません。関連政府機関、研究所が話し合うことだろうと思います。

J: 1ヶ月前、モンゴル大統領が上海協力機構の会議に出席した際に、上海協力機構に加盟するかどうかは状況が明確になってからになるというようなことを言っていました。

R.バトメンド: 良い面としては、この話が話題になってから当該分野の研究者同士が集まり、活発な議論をしたことです。彼らの一研究者としての見解ではありますが、まとめていうと、私たちは政治意思を決める軍事連帯の機能を果たす機構には加盟しないというものだろうと思います。

バトメンド * ジャルガルサイハン