ダグワドルジ・ボロルマー氏は、モンゴル国立医療科学大学で博士号を取得し、その後台湾大学で不妊治療について、エジプトで病院経営を専攻し、専門能力を向上している。彼女は、フブスグル県総合病院で一般医として勤め、2005年以降、国立母子保健センターで婦人科医、生殖医の職に就いている。

J(ジャルガルサイハン): こんにちは。本日、あなたをここへ招待した理由は、モンゴルにおける不妊症・不妊治療についてお話しをお聞きしたいと思ったからです。では、まずモンゴルにおける不妊についての現状と、その原因について話して頂けますか。

D.ボロルマー: わかりました。最初に「不妊」とは、どのような状態を指すのかについて話すべきかと思います。世界保健機関(WHO)の定義によると、カップルが1年以上にわたって避妊をせずに性交しても妊娠に至れない場合を不妊としています。モンゴルの場合、2019年2月の時点での統計データから、不妊症率は12%から15%の間であることが分かりました。つまり、100組のカップルの中で10組から12組は不妊について問題を抱えているということです。

J: モンゴルの過去の不妊症率はどの程度でしたか。

D.ボロルマー: 8%ほどと言われてきました。しかし、WHOの調査では発展途上国の不妊症率は平均20%とされており、モンゴルではもうすぐこの平均を上回る恐れがあるとみています。実際、延べ人数ですが、年間男女3〜4千人の人が相談に来ていた5年前と比べて、今では6千人以上が不妊について相談に来るようになっています。不妊率の上昇は、国の人口増加政策に悪影響を及ぼします。特に、モンゴルの内閣、保健省が重視する政策の一つが「人口増加」となっています。では、なぜ近年不妊症率が高くなっているのか。まず、入り口として学校での性教育の水準を向上させることが重要です。つまり、不特定多数の相手と性交渉をしたり、無防備な性交渉を行ったりしてはならないことを正しく理解できる教育を受けなければなりません。性教育が遅れている国では、既に問題が起き、手遅れになっていることが往々にしてあります。

J: 相談に来る方たちの不妊症の原因について、比率で分かるような統計とかあるのでしょうか。

D.ボロルマー: はい、もちろんあります。大まかな数字で申しますと、6000人程の不妊症患者のうち、3割を男性、7割を女性が占めています。しかし、不妊症の原因が男女両方にある場合、もしくは原因が男性にあるのか女性にあるのか明確に判断できないケースももちろんあります。しかしながら女性が不妊症にかかる多くの原因は、性病や外陰炎によるものです。これらの要因が50%以上となっています。この性病や外陰炎が広まる例としては、男性が初めての性行為で性病に感染し、それを隠したまま他の女性と性交を持ち感染させてしまうというケースです。

J: 不妊の原因の多くが性病によるものであることは分かりました。では、どのようにして予防すればいいのでしょうか。また、中学校などの初等教育機関で性交渉や性病についての情報が教育システムに取り入れられているのかを教えてください。

D.ボロルマー: 以前は、学校等の教育機関での性教育について、幅広い内容がカリキュラムに取り入れられていましたが、最近の事情は詳しく分かりません。ただ、効果がないとして、カリキュラムから削られているという話を聞いています。以前の性教育では、中学校や高校の女子学生を対象に健康診断を行い、それに基づいて個人個人にアドバイスをし、総合的な結果に基づいた授業を行っていたことがありました。しかし最近では、自己責任という社会的風潮や、あらゆる情報をインターネットから入手できることを踏まえて、あまり幅広い内容の授業は行われていない状況かと思います。しかし、いくらインターネットから情報を得られる時代と言っても、情報収集能力には個人差があります。ですから、ほとんどの学生はまだ性教育を充分に身につけていないと言えるでしょう。子供たちには性教育を幼少期からしっかり、正しく教えるべきです。

J: あなたは台湾大学に留学した経験やエジプトといった外国で就職した経験を持っています。そこで、それらの国々でこの性教育問題に関してどのような措置を講じていますか。

D.ボロルマー: 台湾大学では短期トレーニング・プログラムに参加する機会を得られました。そこでは、不妊症の原因は性病にかかったことによるものは少なく、遺伝子やホルモン異常が原因であることが多いと知りました。ただ、ここで不妊症の原因が性病からくることが少ないというのは、病気にかかったとしても医師や病院が自分を守ってくれるべきだと考えるのではありません。基本的に、自分の健康を守れるのは自分だけだということを自覚している点にあります。一方、モンゴルでは性病患者が比較的、多い国です。ですから、無防備な性交渉は常に性病にかかる危険性をはらんでいます。

J: つまり、モンゴルでは無防備な性交渉を行う場合が多く、そしてコンドームなどの避妊具の使用に関する教育が子どもの時からしっかりなされていないということですね。そもそも、モンゴルでは、家庭内で親が性交渉について教育しない、また情報を隠すことによって、子供に「性行為はやってはいけない悪質な行為である」という意識を与えてしまっているのではないかと思います。これをどう変えていくべきなのでしょうか。つまり、性交渉は人の生活に欠かせない自然なことであり、いつかは体験するものだということを子供にいつ、どのように教えるべきなのでしょうか。

D.ボロルマー: いつからと言うと、子供が5歳の時から、詳細については触れなくても、性教育の初級から教えるべきです。

J: 幼稚園、小学校、中学校、高校にわたり、しっかりと性教育を教えるべきだということですね。性教育が充分になされていないために、無防備な性交渉を行い、性病にかかり、犯罪を犯した気持ちになり、それを隠してしまうことが多いですね。その結果、治療が遅れ、不妊になってしまうということですか。

D.ボロルマー: その通りです。15、16歳で初めて性交を行うことになったとして、そのときに自分の健康を守れる知識を持っている若者を育てることが大切なことなのです。

J: 例えば、15歳以上の子供を定期的に病院で健康診断を受けさせるのはどうですか。そういうシステムなどはありますか。

D.ボロルマー: 基本的に健康診断は行われますが、性病の感染状況を知るためだけのもので、定期的なものはありません。しかし、健康診断で事実を把握し、問題が深刻化する前に歯止めをかける目的では有効ですが、その反面、個人情報の漏洩や子どもに精神的不安を与えたりする恐れもあります。

J: では、子どもの健康診断を親が自主的に行うことはどうですか。例えば、親が15歳以上の我が子に、年に一度病院で健康診断を受けさせるなどです。これは考えてみれば、親である以上、責任持ってやるべきことだともいえるように思います。

D.ボロルマー: そうですね。子どもに定期的にワクチンを注射するのと同様に、健康診断も受けさせるということです。それは十分にありうる話だと思います。

J: この5年間で、不妊治療に訪れる患者が2000人も増えたことは重大な問題であり、性感染症患者数も増えているという話もよく耳にします。これは、国の人口減少にも繋がりうる問題であるからこそ、今日こうやって話し合っているわけです。不妊症の原因については分かりました。教育機関での性教育が十分ではないこと。親が子どもに対して性交渉についての情報を隠して話さないことは、絶対にあってはならないことであり、むしろオープンに話すべきことだと分かりました。そして、性交渉する際に病気にかからない知識を持ち、自分の健康は自分で守れる若者を育てるべきだということですね。それでも不妊問題に直面した人は、モンゴルではまずどこへ行くべきですか。

D.ボロルマー: モンゴルでは子宮移植が可能な病院は4箇所あります。国立三級病院、つまり国立母子保健センターと私立病院が3箇所あります。若い人はむやみに不安になることなく、まずは病院へ足を運び、不妊症の理由を特定し、治療を受けることをおすすめします。特に、国立母子保健センターでは、一級病院、二級病院では解決できなかったレアケースを扱うことが多いです。

J: 国立母子保健センターはいつ設立されましたか。また設立の目的は何ですか。

D.ボロルマー: 2014年に保健省、国立母子保健センター長の決定により設立されました。国立母子保健センター開設の準備には2〜3年かかりました。まずセンターで働く医師を韓国や台湾で研修させました。台湾は、東アジアの中でも子宮移植の成功率が最も高いということで知られています。

J: 不妊症で悩んでいる人が来ると、その理由を特定できるということですが、治療できるのはそのうちどれくらいの割合ですか。

D.ボロルマー: 子宮移植でないと解決できないケースもあれば、単純な治療や手術で治る場合もあります。子宮移植は難易度の高い技術を使うため、治療費も高くなりますが、国立病院では個人の経済的負担は比較的少なくてすみます。

J: 男女とも治療を受けた場合、治療費は平均いくらくらいですか。

D.ボロルマー:  子宮移植の際、一番費用がかかるのは一本100万トゥグルグから200万トゥグルグの注射です。またこれには、何本の注射を打ったら効果が出るかは人によって違います。この注射は国内では生産できないため、輸入品となるので、それも高額となる理由です。

J: 外国で子宮移植の治療を受けたという人も少なくありませんが、結構費用がかかるのでしょうね。

D.ボロルマー:  そうです。国立母子保健センターの設立に関連して、そういった外国への金銭の流出を国内にとどめたという経済的調査もあります。

J: 国に限らず個人にも経済的メリットをもたらすわけですね。地方からの患者さんも多いですか。

D.ボロルマー: はい、地方からの患者もいますが、カザフスタンからも治療費が安いということでモンゴルを治療のために訪れる人たちもいます。

J: 不妊治療を受け、その結果妊娠できたケースで、一番印象に残ったケースはありますか。どんなケースでしたか。

D.ボロルマー: はい、国立母子保健センターが設立されてから、最初に子宮移植で双子の男の子と女の子を産んだケースを思い出します。2015年3月に生まれたので、今は4歳ですね。このケースの場合、女性が子どもの時に虫垂切除手術を受けていいました。しかし手術を受けるのが遅れたために、不妊症になり結婚して9年間、妊娠できずにいました。そこで、国立母子保健センターで1回目の不妊治療を受けました。センターとしても初めての治療だったので、台湾から来た医師とモンゴル医師の協同で子宮移植を行いました。夫婦として初めての不妊治療が成功し、双子を産みました。子ども達が3歳になったとき、センターを訪れ記念写真を撮ったりして話を伺いました。そこで彼女が子宮移植後、自然に妊娠できたことがわかりました。その話を聞いてとても嬉しく思いました。

J: 今日はとても興味深いお話を聞けてとても満足しています。ありがとうございました。モンゴルの人口増加に国立母子保健センターの役割がいかに大きかを知りました。ありがとうございます。

D.ボロルマー: ありがとうございました。

D.ボロルマー * ジャルガルサイハン