2008年アイルランド

米国のサブプライム住宅ローン危機の影響でリーマン・ブラザーズが破綻して2週間後となる2008年9月29日深夜、アイルランド大手銀行の頭取たちが政府と緊急の会合を持った。

2000年代初頭、アイルランドでも住宅市場が爆発的に成長し、住宅が数多く建てられた。銀行は建築会社と住宅ローンに多額の資金を投入した。米国の住宅ローン危機がアイルランドにも飛び火し、銀行は焦り始めた。アングロ・アイリッシュ銀行など、リスクを顧みず住宅ローンを供給していた銀行は困難に陥った。アングロ・アイリッシュ銀行の融資の殆どが住宅ローンだった。返済延滞が続き、銀行の1日の業務運営には10億ユーロを必要とするようになった。他の銀行も厳しい状況に陥っていたため、アングロ・アイリッシュ銀行への支援を断っていた。このような状況から大手銀行が協力してアイルランド政府に債権保証を緊急に要請するため、その夜会合を持った。

政府は朝6時まで会議を開き、欧州連合(EU)と協議した上で各銀行の債権を保証すると発表した。アイルランドは国内総生産1600億ユーロの比較的小さい国であるにも関わらず、政府は銀行に3240億ユーロの救済資金を出し、9月30日の朝、各行に500億ユーロを注入した。もともと財政黒字国だったアイルランドは、一夜にして32%の財政赤字国となり、国内総生産(GDP)比で財政赤字を3%以下とするEU財政基準を10倍も上回った。国内総生産の40%に相当していた公的債務は、一夜で2倍の80%まで膨れ上がった。

銀行があまりにも大きくなっていたので、一行でも破綻すればアイルランド経済が崩壊する恐れがあった。政府が銀行を救済したことにより、今度は政府自体に救済が必要となり、欧州連合に支援を要請することとなった。アイルランド政府救済のため、欧州連合と国際通貨基金(IMF)が協力して厳しい条件と高金利融資を押し付けた。そしてアイルランド政府は自国の内閣ではなく外国から操られる様になった。

住宅ローンの不良債権が国民にのしかかり、高い税金や財政赤字からアイルランドは完全に脱却できていない。政治的、経済的危機が今なお続いている。

小国の銀行が国の経済の身の丈を超えて大きくなることは、特に銀行の内部統制が悪く会計報告書に「手を加えて」いればなおさら、国家を破綻に導くということをこのアイルランドの事例が示している。

2018年モンゴル

2010年代前半、鉱業分野が急成長したことによりモンゴル経済は二桁成長を記録した。経済の過熱感は建築業界に直接影響し、不動産市場のバブルが始まった。ウランバートル市全域にマンションやオフィスビルが次々と建てられた。

銀行は住宅建設に対して金利20%のローンを競って供給していた。これと同時にモンゴル政府は海外の取引所で債券を発行し、30億ドルの負債を作り(開発銀行、チンギス債・サムライ債・ディムサム債など)、政府高官たちは自らの会社でその分け前に与った。

住宅価格が高騰し、住宅を販売する相手は高所得者層、平均以上の収益を上げる企業となっていった。公共財の所有権や利用を調整する法律の整備が不十分なことを利用して、土地取引や建設許可、インフラ接続などの特別許可を得る為の賄賂が高額化していき、住宅価格も上昇した。しかし間もなく販売戸数が低迷した。

銀行と建築会社のロビー活動によりモンゴル銀行と政府の間で「覚書」が交わされ、年率8%という市場の2分の1以下となる低金利の住宅ローンを供給し始めた。モンゴル銀行は大量に紙幣を刷り、3兆8千億トゥグルグを市場に流した。この年率8%の住宅ソフトローンの開始後、住宅需要は2倍に増加し、それに伴い住宅価格も2倍に上昇した。

政府がこのような住宅ソフトローン、価格調整などの政策を維持するために商業銀行の預金金利よりも高い金利17%の債券を発行した。国の財政赤字は15%に達し、財政収入の実に4分1が国内外の債権の金利支払いのみに使われている。モンゴル通貨トゥグルグの価値は2分の1まで下落した。

モンゴル経済は破綻し、再び国際通貨基金に救済を求めることとなった。国際通貨基金による低金利融資で高金利債権の支払い、償還を行うようになってから財政赤字が2分の1の8%となった。しかし経済が正常な国の基準である3%にはまだ届いていない。そして対外負債は増え続けている。

銀行のロビー活動は日増しに強くなっている。政党に資金を渡し、選挙費用を提供する特定の銀行の力が強まり、あらゆる場面で政府を意のままに動かすようになった。銀行は政府に債権保証を出させ、表から裏からと国の財産を低価格で買い上げ、資産価値のある土地を次々と手に入れていった。三権分立は崩壊し、政府は国民のためではなく、スポンサーのために働くようになっている。また裁判の判決を予想することは、より難しくなった。

出口戦略

モンゴル銀行によれば、商業銀行の透明性を図り、銀行の貸出金利を下げることを出口戦略とし、商業銀行の不良債権を無くす方向で債券を管理する国営会社を設立するとのこと。韓国では1998年の通貨危機後、不良債権を集めて国営企業を設立して管理したが、これは外国銀行の参入と金融サービス導入を同時に実施したから成功したのだ。

モンゴルは商業銀行への監査を徹底させ、制度を改善すると共に商業銀行を自身が手掛けるビジネスから切り離し、国の予算で実施している住宅のソフトローンを停止しなければならない。これにより住宅価格が下がり、地に足が着き経済が動きだす。建築会社も市場のニーズに応じた建物を建てるようになり、都市中心部への一極集中が減るだろう。

ダムバダルジャー・ジャルガルサイハン