電力のない発展はない。現在、モンゴルの人口の15%が電気の無い生活をしている。そして70%が地面に穴を掘っただけのトイレを利用している。人口の3分の1が貧困に喘いでいる。その根本的な原因の1つに、電力の供給不足が挙げられる。このモンゴル社会の電力不足について、我々は慎重かつ早急に議論し、状況を打開しなければならない。

しかしこの20年間、国民は政治家の言うことに盲目的に従い、選挙の度に政治家が打ち出す実現もしない公約に騙され、国民は分裂し争ってきた。

モンゴルには石炭、太陽、風といった豊富なエネルギー資源あるにも関わらず、国は国民に安定した電力を供給できていない。国内の電力ニーズを十分に満たせない状況にも関わらず、アジア大陸に電力を供給するという壮大な「夢」を見ている。その裏にエネルギーを失ったエネルギー分野の失策が隠れている。

電力供給と価格

エネルギー分野の弱体化は政府にとって有利であり、国民にとって不利である。これは、21世紀に入りエネルギー分野を「半開放」(unbundling)して以来、起こった様々な出来事を見れば明らかだ。モンゴルは、統括された垂直管理体制だったエネルギー分野を開放し、多くの世界の国々で見られるように、発電・送電・配電を分離し、それぞれの運営を国有企業が行うようにした。

2001年にエネルギー法が改正され、エネルギー規制庁が設立された。10年後、エネルギー規制庁が再編され、エネルギー規制委員会に生まれ変わった。エネルギー規制委員会の主な役割は、発・送電を行うエネルギー事業者への特別許可の交付、エネルギー事業者が消費者へ提供する電力価格の監督・承認、エネルギー事業者の利益を均等に保護し、公正競争の条件を整備することである。

ではなぜ、20年後の今日、モンゴルのエネルギー分野は立ち行かなくなっているのか、なぜ赤字を垂れ流しているのか、なぜ全ての政策に何の効果もなく、廃屋のように廃れてしまっているのか?

モンゴルの昨年の電力消費量は83億キロワットだった。消費電力の80%を国内で発電し、20%を海外から輸入している。モンゴルは自分たちの電力を十分に賄えていない。発電所は5ヶ所あり、それらは建設されてから既に32〜57年が経つ。送電線や配電線は30〜36年が経っている。それでも、冬季の電力消費ピーク時を何とか乗り越えている状況だ。

政府は、発電所の発電キャパを上げようと努力するが、その効率性については全く考慮していない。そのため、発電所で何らかの事故が発生すれば、モンゴルの52,166企業と633,071世帯が電気のない生活を強いられ、人々は凍死するという危険な状況に置かれている。

このような状況に至った主な要因は、非現実的な電気料金にある。モンゴルの電気料金は、発電コストより平均して22%、暖房料金はその発熱コストの3分の1から2分の1程度も安く売られている。さらに各世帯向けには、電気料金を0.32〜3.0%値引きして電力を供給している。昨年だけで627億トゥグルグが割引された。 冬季の光熱費は、2005年に世帯収入の15%を占めていたが、2018年には6.2%となった。今日、4人家族の世帯では、1人あたり1日の電力消費に302トゥグルグを支払っている。これは、1日の電話料金が820トゥグルグ、1回のバス乗車料金が500トゥグルグであるのに比べかなり安いことがわかる。企業の電気料金は、他国に比べて4分の1という安さである。

上記のグラフから見て分かるように、モンゴルの電気料金は隣国ロシアや中国の電気料金の2分の1、その他の先進国の電気料金の4分の1から5分の1という低さである。

モンゴルは長年、電気料金を実際の電力コストより低く設定してきた。そのせいで発電所と炭鉱会社は負債を抱えることになった。設備のどれもが時代遅れとなり、新たな設備に十分な投資ができなくなっている。火力発電の燃料となる石炭を採掘するバガノール炭鉱は、2017年第3四半期の時点で、負債1420億トゥグルグ、売掛残高89億トゥグルグを抱えていた。同じくシウェー・オボー炭鉱は、負債1030億トゥグルグ、売掛残高58億トゥグルグを抱えていた。 この2つの炭鉱は、安定した電力供給で冬を迎えられるようにと、国に損失補填を要請していた。エネルギー分野は利益を追求しない。そのためコストだけを増やす考えが広く浸透している。

現在、第4火力発電所には1,500人が働いている。同程度の規模を持つ西欧の発電所の従業員数はその10分の1である。なぜこれほどまでに非効率な運営がされているのか。

2012年にバガノール炭鉱の採掘ライセンスがアルタインギャント社に譲渡され、その後エルデネス・モンゴル社に譲渡された。このアルタインギャント社は、エルデネト鉱業の株式の49%を公金で買収したモンゴリアン・カッパー・コーポレーションの子会社であるモンゴル・コール社の社長Ts.プレブトゥブシンが所有する会社である。(訳注:不合理なライセンス譲渡を繰り返す度に、コネなどで必要以上の人員が雇用されていった。)

価格自由化と株式売却の必要性

モンゴルのエネルギー分野におけるリスク低減、国民の電力需要に対して安定的に電力を供給するためには、垂直管理体制だけでなく水平管理体制を整える必要がある。このためには、新しい発電企業の設立、配電企業の数を増やし、送電企業に投資を行い、発・送電能力を高め、品質向上を図らなければならない。

そのためにまず、炭鉱や発電所の運営を利益で評価し、電気料金はコストを除いて10%の利益が出るように計算し、設定しなければならない。また、発電事業を行っているすべての企業の株式の51%を証券取引所に公開することである。その際、株式取得が可能なのは1人5%までと規制すれば、コスト管理の制度ができる。

利益の見込まれる分野のみに投資家や新しいプレイヤーが参入してくる。現在、新しい発電所建設の許可が数多く交付されているが、実際にはオユトルゴイ鉱山やタバントルゴイ鉱山の発電所以外、建設されていない。

建設されない発電所の典型例は、20年間も話し合われ、起工式を10回も行ったにも関わらず、最終的に建設が中止された第5発電所である。第5発電所の建設は、投資家がいて資金があるプロジェクトだったが、そこに政治家や彼らが関与している企業が参入しようとするも、政権が代わる度に政党が利権を取り合ってきた。その結果、第5発電所の建設プロジェクトは立ち消えとなった。 私たちは苦い経験から学び、適切な電気料金設定を行い、エネルギー分野と経済を活性化させなければならない。

出典:記事内のグラフはモンゴル規制委員会の資料からの抜粋

ダムバダルジャー・ジャルガルサイハン