2019年6月2日、モンゴルで最も視聴率の高いモンゴル国営放送の週間経済番組で、「オユトルゴイ鉱山プロジェクトはモンゴルにとって失敗だった。モンゴルと投資家に大きな損失をもたらし、私たちに残されたものは失敗から得た経験と教訓だった。」と語られた。この巨大プロジェクトに国会議員12名で構成されたワーキングチームによる2ヵ月に及ぶ監査を実施した。このワーキングチームによる監査報告書が国会経済常任委員会で審議されたことを報じ評価した。

失敗したにしろ成功したにしろ、今日のモンゴル経済を支えるこの巨大プロジェクトについてこのような評価が下され、社会にはオユトルゴイ鉱山プロジェクトについて否定的な意見が拡大している。しかし、プロジェクトの肯定と否定の差は2015年と2019年のデータを比較すれば、この差が縮小してきたということをQ-scoreという調査を見ればわかる。しかし、モンゴル政府と投資家の間に実際どの様な問題が起き、論点となっているのかを国民が客観的に見極める必要がある。

モンゴル国民はオユトルゴイについての考えを整理し正しい立場で団結しなければ、来年予定されている国政選挙の影響でこのプロジェクトが停止に追い込まれ、投資家がモンゴルから撤退する可能性が高くなる。リオ・ティントは1年前、これと同じような状況で銅の埋蔵量世界2位を誇り、株式の40%を保有していたインドネシアのグラスベルグ銅鉱山プロジェクトから撤退した。

オユトルゴイの現状

モンゴル政府と外国投資家が、銅の採掘埋蔵量3,200万トンで世界3位となるオユトルゴイ銅鉱山の開発契約書に署名してから10年になる。オユトルゴイ鉱山株式の34%をモンゴル政府が、66%をアメリカとカナダの証券取引所に上場しているターコイズ・ヒル・リソーシズ社が保有している。そのターコイズ・ヒル・リソーシズ社の株式51%を鉱山開発世界最大手のリオ・ティントが取得してからオユトルゴイ鉱山の採掘が可能となった。オユトルゴイ鉱山の20%が露天掘り、80%が地下700〜1,300mで坑内掘りで採掘される。

オユトルゴイで露天掘り採掘が開始し、2013年から精鉱された銅の輸出が始まった。坑内掘りの採掘に向けて2016年から準備が行われ、2021〜2022年に採掘が開始される予定である。現在、オユトルゴイ鉱山には総額約120億ドルの資金が調達されている。国会議員で構成されるワーキングチームの監査報告書によると、この120億ドルには発行済み株式と自己資本の3億ドル、外国の大手銀行15行から受けた融資6億ドル、プロジェクトが調達した資金4億ドルが含まれているという。

オユトルゴイで鉱山の採掘が始まって以来、2014年に18億ドル、2015年16億ドル、2017年9億4千万ドル、2018年12億ドルと総額56億ドルを売り上げてきた。これは現在まで同社に集まった額が180億ドル以上ということである。

モンゴルの国内総生産よりも大きいこの金額の半分、約91億ドルはすくなくともモンゴル経済に浸透している。オユトルゴイの発表によれば、この91億ドルのうち6%が正規および契約社員の給与、19%がモンゴルへの税金、手数料、鉱山利用料などに費やされ、75%が800社にのぼるモンゴルのサプライヤーの製品、サービスの調達代金として支払われている。もう半分の90億ドルは機械設備などの固定費、流動資産の購入、維持管理費、その他の費用となっている。

オユトルゴイへの投資は2029年まで回収できない。回収後10年の間は、モンゴル政府が融資で作った自己資本(10億7千万ドル)の金額に利息を上乗せした借金(2019年の時点では、5億4100万ドル)を返済し、配当金を受けとるのは2040年からとエルデネス・オユトルゴイ社が発表している。

現在、オユトルゴイでは坑内掘りの準備が行われている。16,000人の労働者のうち93%がモンゴル人である。2023年に坑内掘りの採掘が始まり、採掘が軌道に乗ればオユトルゴイ鉱山に6,000人の雇用が確保される。今日、サプライヤーの社員を含めて45,000人のモンゴル人がこのプロジェクトに携わっている。

オユトルゴイ鉱山があるウムヌゴビ県では整備が進み、総額4億ドルの投資が行われ、ハンボグド郡には現代的な都市となる基盤が形成されている。モンゴルでは数千人もの若者が国際基準の専門性を学び、知識や技術の向上を図っている。

オユトルゴイが輸出している銅精鉱を純銅にすると年間16万トンであり、坑内掘りの採掘開始後の生産量は現在の3〜4倍になると予想されている。その時、オユトルゴイ鉱山は国家予算収入の大半を単独で担うと言われている。だが現在、このプロジェクトをそこまで進めて行くかどうかが議論されている。2020年の総選挙が迫り、政治家たちによる「選挙シンドローム」が始まっている。政治家たちは、オユトルゴイ鉱山プロジェクトにおけるモンゴル政府と投資家の間で締結された契約を更新するよりも、解約やプロジェクトの停止を訴えることで「英雄気取り」で選挙のための国民受けをねらっている。

言うまでもなく、オユトルゴイ鉱山はモンゴル史上最大の、そして民主主義国家としてモンゴル政府が西洋世界と手を組んだ初めてのプロジェクトである。ロシアの専門家の助言を受けずに締結した初めての契約書であるため、不十分なところはたくさんある。契約書に署名した当時の閣僚は、利害関係があり法律に違反したと刑務所に収監され、捜査は現在も進行中である。天然資源に依存する新興国によく見られる困難にモンゴルも直面している。

問題を高いところから見る

オユトルゴイ鉱山はモンゴル経済を動かしている最も巨大なプロジェクトである。プロジェクトを実施するために数多くの契約を締結し、また修正してきた。投資割合や株式の持ち分、坑内掘り(地下鉱山)、ドバイ契約書などの問題が挙げられる。契約において問題点が多いことが、国会議員のワーキングチームの監査報告書で大きく指摘されていたことは特筆すべきだろう。

当時の政府は、フィジビリティスタディー(F/S)、つまり実行可能性調査に合意していなかったにも関わらず投資契約を締結した。その結果、プロジェクト費用は当初の合意より2倍となった。投資家はその費用の3%をマネジメント料として受け取っている。費用項目にも共通した理解がないため、税金に関する問題は常に起きているなど問題が多く、厳しい試練に立たされている。

国会議員のワーキングチームの監査報告書には、オユトルゴイ鉱山プロジェクトにおいて2009〜2015年の間に3兆2千億トゥグルグの税金問題が発生しているとある。

これら一連の問題に関して、当事者であるモンゴル政府と投資家は話し合い、相互に理解を深め、契約書の期間や条件等の修正を交渉し合意する必要がある。こういったことを一つずつ積み重ねていき相互に信頼関係が生まれる。信頼関係が生まれて初めて協力活動が実を結び、利益を出すことができる。

モンゴルは、このような巨大プロジェクトにおいては株式を保有するより税金や鉱山利用料を多く取る方が良いと考えるようになった。これについては現在モンゴルが置かれている現状と比較し検討する必要がある。その上でモンゴル政府が保有する34%の株式を評価し、誰に売却するのか、融資返済に何割を充てるのか、プロジェクトから徴収する税金や利用料率をどのように改正するかを慎重に話し合う必要がある。

また、このプロジェクトに関わっている政治家たちの直接的、間接的な利害関係を明らかにするために、市民社会が積極的にオユトルゴイの理解に取り組まなければならない。さらに国民監視を向上させることによって、プロジェクトの成果をモンゴル国民一人ひとりがより実感できるようになる。これは資源の呪縛ではなく、恩恵を受ける唯一の方法である。

この大きなプロジェクトを実行管理し、多くの銀行から融資を受けているリオ・ティントは多面的な保険に入る他に選択肢がない。オユトルゴイ鉱山プロジェクトの契約を変更する、あるいは契約範囲で浮かび上がった数々の問題を明確にして対応しなくてはならない。オユトルゴイ鉱山プロジェクトにおいて、モンゴルにもたらされる恩恵を増やすことについて契約や交渉を行う投資家がいると言われている。

だからこそ、オユトルゴイ鉱山プロジェクトを再び選挙ショーのお題目にするのではなく、選挙後に落ち着いて時間を書けて話し合う必要がある。そうすることなく一部の政治家のポピュリズム的意見でオユトルゴイ鉱山プロジェクトを解約することは、モンゴルにとって「自分の足を銃で撃つ」ことと等しい行いである。このプロジェクトの買収をねらっている国は既に存在する。第三国や彼らに融資した銀行は、モンゴル政府が契約書で合意した責任をどのように果たしていくかを注意深く見守っている。

建物は建設工事が終わって始めて建物と呼ばれる。しかし、建設工事を終わらせることなく途中で投げ出してしまえば、あとに残るのは単なるゴミの山だけだ。まず、オユトルゴイ鉱山プロジェクトを建物にすることが肝要だ。単なるゴミの山にしては誰も責任を負わなくなり、モンゴルは国際仲介裁判所で多額の罰金を得るだけになってしまう。

ダムバダルジャー・ジャルガルサイハン