ガソリン価格が再び値上げされた。ウランバートルのガソリンスタンドでは、モンゴルで消費されるガソリンの80%を占めるA-92(オクタン価92のガソリン)の価格を一週間前から1リットルあたり70〜90トゥグルグ値上げして、1,855〜1,880トゥグルグで販売している。また、軽油の価格も1リットルあたり30〜40トゥグルグ値上げしている。

ガソリンン価格の値上げを受け小売商品価格、とりわけ食料品の価格も上昇している。だが近年、逆にガソリン価格が引き下げられた場合、同様に小売商品価格が引き下げられないという歪んだ現象が見られる。このようにガソリン価格という「剣」が振るわれる時、国民の実収入が減少する。

ガソリンの価格変動には3つの要因がある。これは:

  • 燃料・ガソリン輸入を100%外国に依存
  • トゥグルグの価格変動
  • 政府による価格維持政策との関係

モンゴルのガソリンの唯一の供給者とプラッツ価格

モンゴルへ石油製品を供給しているのはロスネフチ(訳注:ロシア最大の国営石油会社)ただ一社である。その理由は、ロスネフチのアンガルスクにある石油精製所は地理的にモンゴルの北部鉄道検問所に最も近く、そのため輸送コストを抑えられるからだ。他の石油会社の価格はそれに競合できない。

5年前、モンゴルのガソリン輸入各社は、ロスネフチと定期的に購入すること、供給量は事前に交渉して決定することなどの条件で長期契約を締結した。そのためガソリンは確実かつ持続的に供給されるようになった。

そしてガソリン価格は、国際市場価格(プラッツ価格:シンガポールに所在するエネルギー関連の情報を扱うプラッツ社が配信する原油価格)に連動させ、その前月平均値で決められてきた。これにより翌月のガソリン価格を予想できるようになった。

それまでガソリン価格は毎月ロシア側の言い値で決められていた。ロシア側はモンゴルのガソリン輸入各社それぞれに異なる価格を提示し、個別に契約を結んでいた。また、ガソリン価格はロシアの輸出関税の変更、ロシア国内市場でのガソリン価格の変動、鉄道料金などに左右されていた。

2019年4月の国境検問所でのガソリン価格は、А-80、А-92は前月比1トン当たり71米ドル値上がりした。また5月のガソリン価格は4月平均より47米ドル値上がりしたため、ガソリン輸入各社は今回の値上げに踏みきったようだ。もし、プラッツ価格に何らかの大きな変動がなければ、2019年6月のガソリン価格は22米ドル、軽油価格は17米ドルとそれぞれ値上がりすると予想されている。

原油価格とドルの為替レート

石油製品の価格は原油価格に左右される(下グラフ)。石油製品と原油というこの2つの価格は両方とも米ドルで表される。国際市場では、2つの大きな原油取引市場と言われるヨーロッパ(ブレント原油)とアメリカ(WTI原油)の市場価格が用いられている。

石油製品と原油という2つの価格は、様々な要因により常に変動する。大きく分ければ、アメリカとOPEC(石油輸出国機構)との関係、またサウジアラビア、ロシア、中国それぞれの関係性による。

アメリカと中国は世界でも最大の原油消費国であり、アメリカ(水圧破砕法技術を用いたシェールオイル採掘を含む)は最大の産油国となっている。アメリカと中国の貿易戦争が激化すれば、世界経済に悪影響を与え、原油需要が減少し、原油価格が下落する。しかし、最近ではアメリカと中国は相互の貿易問題を前向きに解決しようとしている。これが世界経済に良い影響を与え、需要が高まることによって原油価格が上昇するという期待が浮上している。

アメリカのシェールオイル技術による原油採掘量が増加し原油の在庫量が増えれば、原油価格は下落し生産量も減少する。つまり需要が増え、在庫量が減れば原油価格が上昇するものである。

今年はアメリカのシェールオイル生産が低迷する傾向にあり、原油価格が下落することなく上昇すると期待されている。また、アメリカ経済の回復が原油価格上昇にも影響を与えている。このことから、米ドルの価格が上昇した時に原油価格が下落しているように見える。

OPECとロシアは協力して原油増産を凍結した。これは原油供給量を制限し、供給過剰を無くし、さらには原油不足を促し、価格を下落させないための行動だと研究者たちは推測している。

また、イランやベネズエラに対してアメリカは経済制裁をかけ、原油輸出を禁止する政策を取っている。これも原油価格の上昇に影響している。また、原油輸出国となるイラク、イラン、リビア、スーダン、ベネズエラなどの国々で暴動が起きる度に原油価格が上昇している。

これから夏が到来し、各国の石油製品の消費量が増加していく。これに伴い原油価格も上昇している。 基本的に原油価格は上昇するという環境は既にできている。モンゴルの場合は、ドルのレートが上昇してトゥグルグが下落する傾向にあるから、この2つの価格はガソリン輸入業者の値上げを後押しする形となっている。

政府の非合理的な政策

モンゴル政府は多くの商品の価格を決め、国民を「お世話」している。しかし、この行動が最終的に「熊の親切(訳注:熊が老人の顔にとまったハエを叩こうとして老人を殺してしまったというロシアのことわざ:意味は余計なお世話)」となる。モンゴルのガソリン価格は、今までガソリン特別税率を調整しながら規制されてきた。ガソリン価格の4分の1、時には半分を占める特別税は、国境検問所、つまりガソリンが国内に入る時点でのドル為替レートにより、為替が上昇すると税率を引き下げ、為替が下落すると税率を引き上げてきた(下グラフ)。

しかしここでの問題は、この特別税をガソリン価格の割合(%)ではなく、ガソリン1トン当たりにトゥグルグで課税するため、トゥグルグが上昇してもガソリンの価格は値下がりしないということだ。 本来、いかなる商品の価格も市場が決めれば長期的に見て消費者にとって有利であり、消費者は前もって価格を予想しやすくなる。またこれはインフレ率を下げることができる。市場の実勢価格のみが消費者に現実的な情報を提供できる。消費者が、価格が何によって左右されているかを理解できれば、短期および長期における行動を具体的に計画することができる。ガソリン価格を政府ではなく市場が決められるようになれば、輸入業者間での競争を刺激し、輸入業者はコスト削減で無駄を減らしガソリン価格を値下げする。

価格上昇から守る盾

モンゴルのガソリン輸入業者は、もし翌月のガソリン価格上昇を見通し自分たちでリスクを負い大量にガソリンを購入しようとしても、貯蔵設備が少ない。燃料は多種の製品を種類別に保存しなければならないため、おおよそ1ヵ月分しか蓄えることができない。

例えば、軽油は備蓄しているものを完売し、タンクを空にしてから新たに軽油を仕入れる。自由競争がなく、燃油ビジネスの利益も薄く、銀行の貸付金利が高いため、輸入業者には数ヵ月単位で製品を確保する経済的な余裕はない。また、ガソリン価格が上昇するのではなく下落した場合は、高値で買って確保したガソリンを安く販売することとなり損益を出す。

あらゆるリスクから身を守るために人類が考え出した方法が保険である。商品の価格変動から守るその保険を貿易用語ではヘッジという。ヘッジというこの「盾」はどのように機能しているのか?まず特定の価格水準で交渉する。交渉で合意した期限で価格が変動しても交渉時の価格で商品を取引する(下グラフ)。この取引を支えるために、ある程度の料金(プレミアム)を最初に支払う。保険に入った側にとってみれば、価格が上昇した時に有利である。逆に価格が下落すれば損失を被る。保険に入れた側にとってはその逆である。

貿易額が大きな世界の原料トレーダーは、この盾を常に利用している。また、価格が変わっても買うかどうかを選ぶ選択肢(オプション)のある保険もある。下落した価格で買う場合は、また追加料金が発生する。しかし、下落した価格で購入するライバルと同じ価格で販売しなければシェアを失う。 一般的にヘッジ/オプションは多くの資金を必要とするため、国際貿易トレーダーを通して行う他に選択肢はない。モンゴル政府が、もし価格維持政策を継続するならば、特別税による資金ファンドを設立し、そこからこのヘッジを行うことが可能である。

ダムバダルジャー・ジャルガルサイハン