モンゴルでは、国民が自由に団結する権利を1992年に民主主義憲法を制定して確立し、今日まで保障されてきた。民主主義憲法が制定されて5年後に、非政府組織(NGO)に関する法が施行され、市民社会団体が独立した法律をもつようになり、10年前から毎年1月31日を「市民社会の日」として記念してきた。現在モンゴルには、様々な分野で活動を続けている約2万のNGO団体が登録されている。

市民社会団体の主な目的は、国民が政府の政策実施に対して評価し、法案が可決成立される前に調査に基づいた意見を表明し、民主主義や人権を保護することにある。国際的な非営利組織である「CIVICUS」は、モンゴルの市民社会について調査を実施し、「不十分」という評価を下している。

今日の市民社会

モンゴルでは市民社会が弱く、発展と改善の必要性があることをNGOや政府も認めている。両者はまず、NGOを支援するために法律改正が必要であると指摘している。

法務・内務省は「非営利法人に関する法案」を立案した。この法案について議論するために、法案の立案者側(法務・内務省)および市民社会の代表を集めた討論会がいくつか開かれている。

NGOの代表は、「公共の利益に資する活動を行っているNGO団体を、自分たちの利益を守るために団結した専門および経済団体などと同じ括りにしてはならない」と指摘している。モンゴルでは、政党に所属する女性連盟や青年連盟もNGOというステータスで登録されている。これらの組織は、政府から独立した形で自発的に団結し、利潤を得ていないことはNGO団体と同じであることは事実だ。しかし、誰のために、何のために団結し、活動を行っているかが根本的に異なる。

市民社会団体は、政府を独立して監視できる仕組みであるため、民主主義の確立に欠かせない1つの構造といえる。一部の国では、政府の実施する特定の行政サービスを契約によってNGOに依頼し、協力することがある。そのため、多くの国の政府は市民社会団体を税制上で支援することがある。例えば、韓国やニュージーランド、ドイツなどの国では、NGOの活動費を国が拠出することがある。

モンゴルでは、NGOは国や地方から十分に支援を受けていない。調達される資金のわずか2%が国からの補助である。公共の利益となる活動を行っているNGO団体の職員は、社会保険料などにおける何らの免除も受けていない。

理念を持たない法案

モンゴルでは、市民社会とは何か理解もされず、多くのことが不明瞭である。市民社会団体に活動資金を交付すると言うが、実際にそれが実施されたことはなく、予算に名目すら明確に定義されていない。

これらを明確にするために、2011年にSu.バトボルド政権は、政府と市民社会の共同ワーキングチームを立ち上げ、「市民社会の発展の理念」という草案を初めて打ち出した。この草案に基づいて、各県やウランバートルでNGOの意見を集約し、政府は協議会まで行った。しかし、2012年の国政選挙と重なり、新政府が設立されてこの動きは消滅した。

今回、NGOに関する新しい法案を国会に提出する前に、市民社会の理念について改めて議論する必要がある。法案を協議する前に理念を確立できれば、市民社会の発展のための強い礎となる。

モンゴルをグレーリストに入れた金融活動作業部会(FATF)が要求している項目の1つに「テロ組織またはテロ資金供与者が、非営利組織を通じて行っている資金調達の防止」が挙げられている。この要求に従って「非営利法人に関する法案」の立案者側は、一日も早く法案を国会に提出するべく準備を進めている。

実際に資金洗浄、テロ資金供与の危険性がNGOにあるならば、別の法律で解決されるべきである。そもそもモンゴルがグレーリストに入った主な原因は、法律や規定が無いからではなく、法を遵守されることがないからである。

法案の立案者側は、モンゴルで様々な活動を行うNGO団体の数や政党の数があまりにも多くなったと指摘する。しかし、ハンガリーやポーランドなどのポスト共産主義国と比べて、モンゴルの政党やNGOの数は相対的に少ない。これについては、デファクト研究所が実施した「NGO組織に関する比較調査:モンゴル、ハンガリー、ポーランドの事例」を見れば明らかである。 政党やNGO団体の数が多いこと自体が問題なのではない。それは逆に長所である。民主主義の1つの柱である市民社会を発展させるために、国民1人1人が努力しなければならない。

ダムバダルジャー・ジャルガルサイハン